2.5D/リアル世界の異世界リアル
第21話
21
  なるほどね。かなりビックリだ。
俺の友達が街中で可愛い女子と手を繋いで歩いていたことくらい、ビックリだ。
でもそうか。ヒロインに婚約者がいたのか。
となると―――。
「……わかった。俺がなんとかする」
「? はい?」
「これは試練なんだろ、ああそうだそうに決まってる。お前はなんて可哀想なヒロインだ。自分の意志で結婚相手を選べないなんて……腐ってやがる!」
「つ、憑々谷君?」
名前を呼ばれたのと同時に、俺はトピアの手を握り締めていた。
「なあ教えろよ。お前を苦しめているのは誰だ? お前の両親か? 許嫁の相手野郎か? それとももっとデカいなにかか? いいぞ、どんなヤツでも俺が相手になってやる。お前の幸せを俺が与えてやりたいって告白したばっかりだしなッ!」
「憑々谷君。その純粋なお気持ちはありがたいんですけど……」
困惑顔のトピアだった。
きっと俺に迷惑をかけるから申し訳なくて仕方ないのだろう。
「ああ、遠慮しないで俺の気持ちを受け取ってくれ! こんな俺じゃ長い道のりには違いないけど、絶対に婚約解消は成し遂げるから!」
「暴走しないでください憑々谷君」
「おぶっ!?」
トピアは俺の両手からするりと右手を抜くや、俺をキツく捻り上げた。
「いででで!?……い、いきなりなにするんだ!?」
「当然じゃないですか。だって婚約は―――わたしが自分の意志で交わしたんです。解消する気も全くありません。本当に彼を愛しているから」
「…………は?」
え。コイツ今なんて言ったんだ?
(本当に彼を……アイシテイル???)
「じょ、冗談だよな? え? じゃあなんでお前、こんなに長く俺と一緒にいるんだ? 他のヒロインと比較にならないぞ? お前がヒロインじゃないわけが……」
「わたしに聞かないでください。とにかくわたしには大切な婚約者がいるので、君とお付き合いできません。……いえ、これだと誤解される言い方になってしまいますね―――」
トピアは俺の右手を解放しながら、言い直した。
「わたし、婚約者がいなくても、君とお付き合いしたいとは微塵も思いません」
「! ははは……!?」
なにこれ。まさか俺は彼女をツンデレと思い込んだ挙句、ヒロインじゃない子を好きになってしまったのか?
フラれたけど彼女に対するこの思いは変わらないぞ?
じゃあこれって……バッドエンド確定じゃないか?
―――確定だねェ。お前はこの世界で誰とも結ばれなイ。
僕の罠にまんまとハマったんダ。
「っ!? ちょ、著者ッ!」
そうか、これも著者の仕業か!
俺がヒロインじゃない子を好きになってしまうように、俺をけしかけたのか!
―――そう、トピアを気に入ってくれたようで嬉しいヨ。先輩の女の子に優しくされるとくらっときちゃうよネ。ちなみにトピアの魅力的な脚は僕が脚フェチだからだったりするんだけど。お前もそうだったみたいだねェ?
「くっ、否定したいが……できないッ!」
「憑々谷君? 著者って……」
「あ、あぁ、少し黙っててくれ。対話中だ……」
これだけ著者に遊ばされて今にもキレそうなんだ。
正直トピアには退席してもらいたいところだが……。
―――いいヨ。
「すいません、図書室に本を返してきます。また戻ってきます」
「……、ああ」
著者の仕業で、トピアが保健室から去っていった。
―――とまぁこんな具合にネ?
リアルタイムでキャラを操れてしまうわけダ。
「……みたいだな」
トピアは著者のことを気にしていたはずだ。ならこのタイミングで本を返しになんていかない。この場に留まっていたはずだ。
―――ヒヒ。絶望的だねェ?
……ああそうだ。トピアのヒロイン昇格を狙い、婚約を解消しようとしても無駄。著者はこの世界からトピアを抹殺することだってできるのだから。
トピアと俺は永遠に結ばれない。著者がそれを望んでいる限り―――。
「俺がいったいなにをしたんだよ……」
―――なにをしタ? したヨ。お前のせいでこの小説はめちゃくちゃダ。お前の存在が勝手に刻まれてくんだヨ。まるで僕以外の誰かが遠隔で文章を打ち込んでるみたいにねェ?
「文句だったらアリスに言えよ。そんな怪奇現象、被害を受けてるだけの俺にはどうしようもないだろ」
―――そうだネ。だからこそお前を、この怪奇現象を、いっそ利用することに決めたんダ。でも、お前を絶望させたくてもそれは叶わないヨ。
「俺を絶望させられない……? それはなぜ」
―――ちょっと考えてみればわかル。そもそも小説は誰のためにあるっケ?
「……。読者だろ」
―――正解。読者様がいるから僕も物書きに意義を持てるわケ。小説の体裁は守らないといけないし、設定の矛盾とか言葉の誤用にも気を付けなくちゃならなイ。
でもそれ以上に……『読者様にノーと言わせない配慮』が不可欠なんダ。
「……? なにが言いたいんだ?」
―――例えば今、保健室にトピアちゃんはいるカ?
「はあ? さっきお前が追い出したんだろ」
―――そうだネ。トピアちゃんは保健室にいなイ。でも実は『トピアちゃんがいました』ってことにしたら、読者様は納得しないだロ?
「お前がトピアに言わせただけってオチには……。いや、俺がここにいるから無理か」
―――うんうん、つまりネ? 読者様によって捉え方は千差万別ではあるけど、客観的に『絶対ありえない・絶対おかしい』と断定される展開に関しては、さすがの僕も自粛するって話ダ。
「自粛……。そうか、俺も同じ立場だったら同じ考えになるかもしれない。より多くの読者を納得させたいと思うしな」
―――だから僕を出し抜くように行動してみるといイ。そこから晴れて僕を自粛させることに成功した時、お前はお前の望むものを手に入れてるはずダ。まぁ肝心の成功率は限りなくゼロだがナ!? ウヒョヒョヒョヒョ!
「……あぁ上等だ! わざわざ教えてくれてありがとうよ! お前が創造したこの世界で、俺はラノベ主人公に相応しいハッピーエンドを意地でも掴み取ってやるからな!?」
―――おぉやってみロ! 言っておくが僕はこの世界の絶対神だゾ!?
「ははっ、なーにが絶対神だ! どうせリアルじゃ人生負け確で落ちぶれてんだろ! 同族嫌悪してるところも激しくキモいな! 弱者の俺を虐めてそんなに愉しいのかよ!?」
だがその問いに著者の答えは返ってこなかった。
……やろ、図星だからって逃げ出しやがった。
「―――ただいま戻りました。著者との対話は終わりましたか?」
「ああ、バッチリな。ただ……なにがあったのかは明日でもいいか?」
「はい? 別に構いませんが……」
「サンキュ。んじゃ明日の放課後に。場所は資材倉庫だよな」
「はい。わたしの別荘で」
「わかった。アリスと2人、これからヨロシクな!」
俺はそう言い残し、保健室から廊下に出たが、
「そういえば憑々谷君、下駄箱の場所は―――」
「大丈夫だ。俺の外履き入れてあるんだったら場所くらいすぐにわかる」
「それはそうですが……」
「いいって言ったらいいんだ。トピアは世話焼きだな?」
一度も振り返らず早足でトピアから遠ざかっていく俺。
そのおかげかトピアは追って来なかった。
やがて俺は歩くスピードを落とし、抑えきれない感情に屈服した。
「うぅ……。好きになった子がヒロインじゃないとか泣きたい……」
  なるほどね。かなりビックリだ。
俺の友達が街中で可愛い女子と手を繋いで歩いていたことくらい、ビックリだ。
でもそうか。ヒロインに婚約者がいたのか。
となると―――。
「……わかった。俺がなんとかする」
「? はい?」
「これは試練なんだろ、ああそうだそうに決まってる。お前はなんて可哀想なヒロインだ。自分の意志で結婚相手を選べないなんて……腐ってやがる!」
「つ、憑々谷君?」
名前を呼ばれたのと同時に、俺はトピアの手を握り締めていた。
「なあ教えろよ。お前を苦しめているのは誰だ? お前の両親か? 許嫁の相手野郎か? それとももっとデカいなにかか? いいぞ、どんなヤツでも俺が相手になってやる。お前の幸せを俺が与えてやりたいって告白したばっかりだしなッ!」
「憑々谷君。その純粋なお気持ちはありがたいんですけど……」
困惑顔のトピアだった。
きっと俺に迷惑をかけるから申し訳なくて仕方ないのだろう。
「ああ、遠慮しないで俺の気持ちを受け取ってくれ! こんな俺じゃ長い道のりには違いないけど、絶対に婚約解消は成し遂げるから!」
「暴走しないでください憑々谷君」
「おぶっ!?」
トピアは俺の両手からするりと右手を抜くや、俺をキツく捻り上げた。
「いででで!?……い、いきなりなにするんだ!?」
「当然じゃないですか。だって婚約は―――わたしが自分の意志で交わしたんです。解消する気も全くありません。本当に彼を愛しているから」
「…………は?」
え。コイツ今なんて言ったんだ?
(本当に彼を……アイシテイル???)
「じょ、冗談だよな? え? じゃあなんでお前、こんなに長く俺と一緒にいるんだ? 他のヒロインと比較にならないぞ? お前がヒロインじゃないわけが……」
「わたしに聞かないでください。とにかくわたしには大切な婚約者がいるので、君とお付き合いできません。……いえ、これだと誤解される言い方になってしまいますね―――」
トピアは俺の右手を解放しながら、言い直した。
「わたし、婚約者がいなくても、君とお付き合いしたいとは微塵も思いません」
「! ははは……!?」
なにこれ。まさか俺は彼女をツンデレと思い込んだ挙句、ヒロインじゃない子を好きになってしまったのか?
フラれたけど彼女に対するこの思いは変わらないぞ?
じゃあこれって……バッドエンド確定じゃないか?
―――確定だねェ。お前はこの世界で誰とも結ばれなイ。
僕の罠にまんまとハマったんダ。
「っ!? ちょ、著者ッ!」
そうか、これも著者の仕業か!
俺がヒロインじゃない子を好きになってしまうように、俺をけしかけたのか!
―――そう、トピアを気に入ってくれたようで嬉しいヨ。先輩の女の子に優しくされるとくらっときちゃうよネ。ちなみにトピアの魅力的な脚は僕が脚フェチだからだったりするんだけど。お前もそうだったみたいだねェ?
「くっ、否定したいが……できないッ!」
「憑々谷君? 著者って……」
「あ、あぁ、少し黙っててくれ。対話中だ……」
これだけ著者に遊ばされて今にもキレそうなんだ。
正直トピアには退席してもらいたいところだが……。
―――いいヨ。
「すいません、図書室に本を返してきます。また戻ってきます」
「……、ああ」
著者の仕業で、トピアが保健室から去っていった。
―――とまぁこんな具合にネ?
リアルタイムでキャラを操れてしまうわけダ。
「……みたいだな」
トピアは著者のことを気にしていたはずだ。ならこのタイミングで本を返しになんていかない。この場に留まっていたはずだ。
―――ヒヒ。絶望的だねェ?
……ああそうだ。トピアのヒロイン昇格を狙い、婚約を解消しようとしても無駄。著者はこの世界からトピアを抹殺することだってできるのだから。
トピアと俺は永遠に結ばれない。著者がそれを望んでいる限り―――。
「俺がいったいなにをしたんだよ……」
―――なにをしタ? したヨ。お前のせいでこの小説はめちゃくちゃダ。お前の存在が勝手に刻まれてくんだヨ。まるで僕以外の誰かが遠隔で文章を打ち込んでるみたいにねェ?
「文句だったらアリスに言えよ。そんな怪奇現象、被害を受けてるだけの俺にはどうしようもないだろ」
―――そうだネ。だからこそお前を、この怪奇現象を、いっそ利用することに決めたんダ。でも、お前を絶望させたくてもそれは叶わないヨ。
「俺を絶望させられない……? それはなぜ」
―――ちょっと考えてみればわかル。そもそも小説は誰のためにあるっケ?
「……。読者だろ」
―――正解。読者様がいるから僕も物書きに意義を持てるわケ。小説の体裁は守らないといけないし、設定の矛盾とか言葉の誤用にも気を付けなくちゃならなイ。
でもそれ以上に……『読者様にノーと言わせない配慮』が不可欠なんダ。
「……? なにが言いたいんだ?」
―――例えば今、保健室にトピアちゃんはいるカ?
「はあ? さっきお前が追い出したんだろ」
―――そうだネ。トピアちゃんは保健室にいなイ。でも実は『トピアちゃんがいました』ってことにしたら、読者様は納得しないだロ?
「お前がトピアに言わせただけってオチには……。いや、俺がここにいるから無理か」
―――うんうん、つまりネ? 読者様によって捉え方は千差万別ではあるけど、客観的に『絶対ありえない・絶対おかしい』と断定される展開に関しては、さすがの僕も自粛するって話ダ。
「自粛……。そうか、俺も同じ立場だったら同じ考えになるかもしれない。より多くの読者を納得させたいと思うしな」
―――だから僕を出し抜くように行動してみるといイ。そこから晴れて僕を自粛させることに成功した時、お前はお前の望むものを手に入れてるはずダ。まぁ肝心の成功率は限りなくゼロだがナ!? ウヒョヒョヒョヒョ!
「……あぁ上等だ! わざわざ教えてくれてありがとうよ! お前が創造したこの世界で、俺はラノベ主人公に相応しいハッピーエンドを意地でも掴み取ってやるからな!?」
―――おぉやってみロ! 言っておくが僕はこの世界の絶対神だゾ!?
「ははっ、なーにが絶対神だ! どうせリアルじゃ人生負け確で落ちぶれてんだろ! 同族嫌悪してるところも激しくキモいな! 弱者の俺を虐めてそんなに愉しいのかよ!?」
だがその問いに著者の答えは返ってこなかった。
……やろ、図星だからって逃げ出しやがった。
「―――ただいま戻りました。著者との対話は終わりましたか?」
「ああ、バッチリな。ただ……なにがあったのかは明日でもいいか?」
「はい? 別に構いませんが……」
「サンキュ。んじゃ明日の放課後に。場所は資材倉庫だよな」
「はい。わたしの別荘で」
「わかった。アリスと2人、これからヨロシクな!」
俺はそう言い残し、保健室から廊下に出たが、
「そういえば憑々谷君、下駄箱の場所は―――」
「大丈夫だ。俺の外履き入れてあるんだったら場所くらいすぐにわかる」
「それはそうですが……」
「いいって言ったらいいんだ。トピアは世話焼きだな?」
一度も振り返らず早足でトピアから遠ざかっていく俺。
そのおかげかトピアは追って来なかった。
やがて俺は歩くスピードを落とし、抑えきれない感情に屈服した。
「うぅ……。好きになった子がヒロインじゃないとか泣きたい……」
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