2.5D/リアル世界の異世界リアル
第11話
11
この世界が俺の元いた世界じゃないことは確実だった。
新築アパートに移り住んだばかりみたいな必要最低限の物品しか置かれてない部屋だ。俺の大好きなラノベが1冊も見当たらない。
もちろんベッドの下にエロ本も……。……無いな!
「! い、妹モノばかりだと!?」
俺は紙袋に包まれていた『それ』を発見。見て見ぬフリをしたつもりが、なぜか中身を確認しそのジャンルを口にせずにはいられなかった。オ、オカシイナー。
ちなみに妹モノは『好き・普通・嫌い』で言ったら普通だ。好きでもないし嫌いでもない、正常の人間の趣向。ただしこれに『どちらかというと好き・どちらかというと嫌い』が追加されると、俺はどちらかというと好きに該当する。
だから三択で良いと思うんだ(迷惑)。
「……ん? なんだこりゃ?」
『異能力者の義妹と! 壮絶ビリビリプレイ!』
下着の女性が指を立てて誘っている風情の表紙だった。彼女の人差指の先が放電している。小さくもリアルな火花だった。
電気人間と義妹―――非現実的な要素がそれぞれの魅力を邪魔し合っているのは言うまでもない。俺はそそられないなーと思いつつもページを捲ると、
『かなつ、22歳。日本異能学園を卒業した、異能力者です♪』と。大事な義妹設定があるのにもかかわらず、リアルくさい自己紹介とインタビューが載っていた。
学園での成績は?
―――中の下です(笑)。
どんな子だったの?
―――ずっと無口で男子とはろくに喋ったことないです(笑)。
ならどうしてこの業界に?
―――たぶんその反動(笑)。
異能力が使えて便利なことは?
―――ハッキリ言って無いです(笑)。大して自慢できないし(笑)。
…………それはまるで、『電気人間はガチです』と主張するかのようだった。
「ま、まさか……」
俺はエロ本を閉じる。彼女への興味は失われてしまった。
続いて目を付けたのは本棚に収まっていた辞書だった。
(あぁ、まさに最近同じのを見たな。俺の記憶力が正しければ……あの時だ)
ここが元いた世界ではなく、自分にはいないはずの妹がいて。
しかもその妹は壁を通り抜けられて。極め付けはこのエロ本の電気人間―――。
(いや、それだけじゃない。自称俺の妹が着ていた制服。あれにも見覚えが、ある)
そう。この世界はあの時と同じ―――!
『憑々谷子童』
「……………………。不幸だ」
辞書の裏表紙のところに比較的綺麗な字で。
前の前にいた世界の時の俺の名前が、一字一句違わずしっかりと刻まれていた。
そう、俺は戻ってきたのだ。癒美に告られかけてビンタをされ。奇姫にビンタをされ大会にエントリーさせられ……彼女に殺されたはずの世界に。
「いやなんでだよッ!?」
俺は辞書を床に叩きつけ咆哮する! お、おかしいだろこんなの! 戻るなら元いた現実の世界だろうが! 俺はこの世界で確かに死んだんだぞ!
―――いやぁ、僕は次の世界でも構わないんだけどサ? でも読者様が許さないだろうって言うかァ? なにはともあれお前が空気読めば良いだけの話ダ♪
「っ! 頭に文章が……!」
強制的に流れ込んでくる文章という名の痛み。あるいは片頭痛にも似た感覚に、俺は身震いと吐き気がしてならなかった。
こ、これは、前の世界の……!
自称著者の仕業だ……!
【ぐ、ぐわあああぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああ……!?】
もうヤメろ! なぁ、嘘だと言ってくれ!
そもそもこんなの俺は望んじゃいない! ラノベ世界に来たかったわけじゃないんだ! アリスが俺の願いを誤解した、ただそれだけのことだ!
いいやわかってる! 俺の言い間違いも原因だ! そりゃあ『ラノベ主人公みたいになりたい』のに『ラノベ主人公になりたい』と言ったらアリスが誤解しても仕方ない! だから彼女に全責任を押し付けることはできない!
だけど……ガチで小説の中に閉じ込められたって、あんまりだろ……?
「おい」
うわああああ! 冷静じゃいられないぞこんなの! チビるよ、チビって立てないよママン! 誰か助けて! 魔法幼女でもいいから助けてくれ! このままじゃ……このままじゃ俺は……!
「おいッ」
ん?
ウヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョ……!
「さ、さすがに俺はそんなキモい笑い方しないぞ!?」
俺の心境を自称著者が勝手に晒し間違えているだけだった。
仕方なく俺は唾を吐いて訂正する。
「俺は魔法幼女に助けを求めるほど絶望しちゃいないし、願いが叶って狂喜してもいないからな!?」
実際は嬉しさも悲しさも丁度半分半分くらいなんだよ。ラノベ主人公になれたのは嬉しくて、ラノベ世界に来てしまったのは悲しい。バランス良く保たれているのだ。
まぁ認めたくはないが自称著者の前半部分(もうヤメろ! 以下略)が俺の今の心境だったりするわけだ。後半部分(うわああああ! 以下略)は極端に違っているが。
―――そうカ。ではまた1年後だナ。
「ま、待て待て待てッ! なんで脈絡なく別れ告げてんだよ!」
―――別れとハ、突然ありキ、出会いもネ。
「は!? なぜこのタイミングで詠むんだ!?」
しかも全然上手くない。恥ずかしくないのだろうか。
「…………」
………………。
「………………………………。え?」
う、嘘だろ?
最後に意味もなく一句詠んで消えた、だと……?
「じ、自己中にも程があんぞゴラァ!?」
―――ドンドン!!
「!! す、すすすんませんッ! 壁ドンさせてホントすんませんでした……ッ!」
部屋の壁に向かって平謝りする俺。
やはりというべきか、ここは学園の男子寮だったようだ……(焦)。
「……はぁ。どうしようもないな……」
いやはや、夏休みの全宿題を3日で終わらせなくちゃならないような気分だ。経験済みだから完全に一致。焦燥感が尋常じゃない。
この世界のことも、自称著者のことも、自称妹がなぜ俺をタワシと呼んだのかも、全部気にならないかと言えば嘘になる。
(……しかしだからこそ、だ。それらモヤモヤがすぐに解消されるとは思えない。そうである以上、こんな朝っぱらから慌てふためいてもしょうがない気がする)
別に命の危険が迫っているわけでもないのだ。
「よし決めた。二度寝をしよう」
これぞ現実逃避。いやまだ俺はここが現実と認めたわけじゃないが、すでにもう疲れた。今なら好きな子にも『自分に構わないでください』と言える自信がある。
俺はベッドに戻るや毛布に包まった。毛布の中はまだ生暖かくて二度寝したくなくても眠ってしまいそうな心地よさだった。
「……んー……なにか肝心なこと……忘れてるような……。……ま……いいか……」
zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz―――。
「………………………………………………………………っ」
どれくらい寝たのだろう。俺は目を開けて天井を見た。
……違う。いつものくすんだ天井じゃない。部屋の臭いも嗅ぎ慣れたものじゃないし、屋外からは聴き慣れない男子の笑声が聞こえる。腹の痛みもまだ残っていた。
「夢じゃ……ないんだな」
溜息混じりに、俺はそう呟いた。
あぁ、いっそ全てを認めてしまおう。この世界は現実だ。アリスが本物の神様であることも事実だし、自称著者もきっとそうだ。
彼はこの世界―――ラノベ世界の創造主。
本物の著者だったのだ……!
「これだけ寝て起きてを繰り返しておいて、もはや夢オチなんてあるかよちくしょうめ……」
この世界が俺の元いた世界じゃないことは確実だった。
新築アパートに移り住んだばかりみたいな必要最低限の物品しか置かれてない部屋だ。俺の大好きなラノベが1冊も見当たらない。
もちろんベッドの下にエロ本も……。……無いな!
「! い、妹モノばかりだと!?」
俺は紙袋に包まれていた『それ』を発見。見て見ぬフリをしたつもりが、なぜか中身を確認しそのジャンルを口にせずにはいられなかった。オ、オカシイナー。
ちなみに妹モノは『好き・普通・嫌い』で言ったら普通だ。好きでもないし嫌いでもない、正常の人間の趣向。ただしこれに『どちらかというと好き・どちらかというと嫌い』が追加されると、俺はどちらかというと好きに該当する。
だから三択で良いと思うんだ(迷惑)。
「……ん? なんだこりゃ?」
『異能力者の義妹と! 壮絶ビリビリプレイ!』
下着の女性が指を立てて誘っている風情の表紙だった。彼女の人差指の先が放電している。小さくもリアルな火花だった。
電気人間と義妹―――非現実的な要素がそれぞれの魅力を邪魔し合っているのは言うまでもない。俺はそそられないなーと思いつつもページを捲ると、
『かなつ、22歳。日本異能学園を卒業した、異能力者です♪』と。大事な義妹設定があるのにもかかわらず、リアルくさい自己紹介とインタビューが載っていた。
学園での成績は?
―――中の下です(笑)。
どんな子だったの?
―――ずっと無口で男子とはろくに喋ったことないです(笑)。
ならどうしてこの業界に?
―――たぶんその反動(笑)。
異能力が使えて便利なことは?
―――ハッキリ言って無いです(笑)。大して自慢できないし(笑)。
…………それはまるで、『電気人間はガチです』と主張するかのようだった。
「ま、まさか……」
俺はエロ本を閉じる。彼女への興味は失われてしまった。
続いて目を付けたのは本棚に収まっていた辞書だった。
(あぁ、まさに最近同じのを見たな。俺の記憶力が正しければ……あの時だ)
ここが元いた世界ではなく、自分にはいないはずの妹がいて。
しかもその妹は壁を通り抜けられて。極め付けはこのエロ本の電気人間―――。
(いや、それだけじゃない。自称俺の妹が着ていた制服。あれにも見覚えが、ある)
そう。この世界はあの時と同じ―――!
『憑々谷子童』
「……………………。不幸だ」
辞書の裏表紙のところに比較的綺麗な字で。
前の前にいた世界の時の俺の名前が、一字一句違わずしっかりと刻まれていた。
そう、俺は戻ってきたのだ。癒美に告られかけてビンタをされ。奇姫にビンタをされ大会にエントリーさせられ……彼女に殺されたはずの世界に。
「いやなんでだよッ!?」
俺は辞書を床に叩きつけ咆哮する! お、おかしいだろこんなの! 戻るなら元いた現実の世界だろうが! 俺はこの世界で確かに死んだんだぞ!
―――いやぁ、僕は次の世界でも構わないんだけどサ? でも読者様が許さないだろうって言うかァ? なにはともあれお前が空気読めば良いだけの話ダ♪
「っ! 頭に文章が……!」
強制的に流れ込んでくる文章という名の痛み。あるいは片頭痛にも似た感覚に、俺は身震いと吐き気がしてならなかった。
こ、これは、前の世界の……!
自称著者の仕業だ……!
【ぐ、ぐわあああぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああ……!?】
もうヤメろ! なぁ、嘘だと言ってくれ!
そもそもこんなの俺は望んじゃいない! ラノベ世界に来たかったわけじゃないんだ! アリスが俺の願いを誤解した、ただそれだけのことだ!
いいやわかってる! 俺の言い間違いも原因だ! そりゃあ『ラノベ主人公みたいになりたい』のに『ラノベ主人公になりたい』と言ったらアリスが誤解しても仕方ない! だから彼女に全責任を押し付けることはできない!
だけど……ガチで小説の中に閉じ込められたって、あんまりだろ……?
「おい」
うわああああ! 冷静じゃいられないぞこんなの! チビるよ、チビって立てないよママン! 誰か助けて! 魔法幼女でもいいから助けてくれ! このままじゃ……このままじゃ俺は……!
「おいッ」
ん?
ウヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョ……!
「さ、さすがに俺はそんなキモい笑い方しないぞ!?」
俺の心境を自称著者が勝手に晒し間違えているだけだった。
仕方なく俺は唾を吐いて訂正する。
「俺は魔法幼女に助けを求めるほど絶望しちゃいないし、願いが叶って狂喜してもいないからな!?」
実際は嬉しさも悲しさも丁度半分半分くらいなんだよ。ラノベ主人公になれたのは嬉しくて、ラノベ世界に来てしまったのは悲しい。バランス良く保たれているのだ。
まぁ認めたくはないが自称著者の前半部分(もうヤメろ! 以下略)が俺の今の心境だったりするわけだ。後半部分(うわああああ! 以下略)は極端に違っているが。
―――そうカ。ではまた1年後だナ。
「ま、待て待て待てッ! なんで脈絡なく別れ告げてんだよ!」
―――別れとハ、突然ありキ、出会いもネ。
「は!? なぜこのタイミングで詠むんだ!?」
しかも全然上手くない。恥ずかしくないのだろうか。
「…………」
………………。
「………………………………。え?」
う、嘘だろ?
最後に意味もなく一句詠んで消えた、だと……?
「じ、自己中にも程があんぞゴラァ!?」
―――ドンドン!!
「!! す、すすすんませんッ! 壁ドンさせてホントすんませんでした……ッ!」
部屋の壁に向かって平謝りする俺。
やはりというべきか、ここは学園の男子寮だったようだ……(焦)。
「……はぁ。どうしようもないな……」
いやはや、夏休みの全宿題を3日で終わらせなくちゃならないような気分だ。経験済みだから完全に一致。焦燥感が尋常じゃない。
この世界のことも、自称著者のことも、自称妹がなぜ俺をタワシと呼んだのかも、全部気にならないかと言えば嘘になる。
(……しかしだからこそ、だ。それらモヤモヤがすぐに解消されるとは思えない。そうである以上、こんな朝っぱらから慌てふためいてもしょうがない気がする)
別に命の危険が迫っているわけでもないのだ。
「よし決めた。二度寝をしよう」
これぞ現実逃避。いやまだ俺はここが現実と認めたわけじゃないが、すでにもう疲れた。今なら好きな子にも『自分に構わないでください』と言える自信がある。
俺はベッドに戻るや毛布に包まった。毛布の中はまだ生暖かくて二度寝したくなくても眠ってしまいそうな心地よさだった。
「……んー……なにか肝心なこと……忘れてるような……。……ま……いいか……」
zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz―――。
「………………………………………………………………っ」
どれくらい寝たのだろう。俺は目を開けて天井を見た。
……違う。いつものくすんだ天井じゃない。部屋の臭いも嗅ぎ慣れたものじゃないし、屋外からは聴き慣れない男子の笑声が聞こえる。腹の痛みもまだ残っていた。
「夢じゃ……ないんだな」
溜息混じりに、俺はそう呟いた。
あぁ、いっそ全てを認めてしまおう。この世界は現実だ。アリスが本物の神様であることも事実だし、自称著者もきっとそうだ。
彼はこの世界―――ラノベ世界の創造主。
本物の著者だったのだ……!
「これだけ寝て起きてを繰り返しておいて、もはや夢オチなんてあるかよちくしょうめ……」
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
70810
-
-
24251
-
-
37
-
-
111
-
-
0
-
-
147
-
-
4
-
-
11128
-
-
267
コメント