2.5D/リアル世界の異世界リアル
第6話
6
アリスが目を輝かせて自称著者に振り返った。
「ほ、本物の神様っ!? えっ、キミはあたしを本物だと認めてくれるの!? 初対面なのに!?」
「……はいもちろン。本物にはわかるんですヨ。本物と偽物の違いがネ」
「! ううう……! 姿はアレだけどキミと最初に出会いたかったなぁ! セーラー服もありがとね! 大事にするよっ!」
「はい、是非ともそうしてくださイ。神様」
……悪かったな。最初に出会ったのがこの俺で。自称著者の言葉を借りるとすれば俺は本物じゃないから本物と偽物の違いなんてわからないんだよ(適当)。
(ってか、自称著者は自分のなにを指して『本物』って言ってるんだ? まさかこの小説の著者ってことを指してか? いやいや、それだともうツッコミどころしかないだろ……)
「ところで神様は……バトルやケンカがお得意デ?」
「ふふん! 得意に決まってんじゃん! そんなのはね、朝飯前のバナナだよー!」
バナナは朝飯に含まれないのか。それはさておき自称著者が嬉しそうに口元をニヤつかせている。
「では神様。僕と本気の戦い、してみましょウ」
「いいよー!」
なぜそんな突飛な展開になるのか。俺は呆れ返ってしまった。
「あのなぁ、お前ら少し空気読めよ。今そんなくだらないこと始められる状況か?」
「ルールは特に決めませン。なんでもアリでいきましョ」
「自由かー! うっしゃ、熱い戦いになりそうじゃん!」
はぁ。もう知らね。
一般人の俺を巻き込まないでくれれば、それでいいことにしよう……。
「じゃあ先手必勝! 砂漠化!」
そう声を張り上げ、アリスが挙手した。すると次の瞬間、闇に埋め尽くされた世界が、オセロを一斉に裏返したかのごとく真昼間の砂漠と化した!
「……って、おいいいっ!? 俺の思考、読んでくれてないのかよっ!?」
燦々と照りつける太陽。風は無くどこまでも砂の地平線が続いている。
あ、暑い! とにかく暑い! 暑すぎて血液が沸騰してしまいそうだ!
「ふふん! 熱い戦いのためには、これも必要悪なのだよー!」
「おう、必要悪の用法をお前がちゃんと理解しているのかはさておき! 早くさっきの世界に戻しやがれ! 暑すぎて死ねるだろーがッ!」
「やだ。だってあたしは暑さ感じてないしぃー?」
涼しい顔で拒否するアリス。……いやなんでだよ!? 熱い戦いがしたくてこの砂漠ステージを用意したくせに、自分は暑さ無効とか無意味だろーがっ!
そんでな、暑いからって熱くなれるとは限らないだろ!
見ろよ、対戦相手をっ!
「あ、暑イ……。水、水ゥゥゥ……!」
ふらふらと体を揺らして辛うじて立っている自称著者。この暑さのせいで戦闘意欲が根こそぎ奪われてしまった風情だ。目の焦点も定まっていない。
と、アリスが眼鏡のブリッジをくいっと押し上げるような仕草をした。
「おっとぉ! またしても戦わずして勝ってしまったか。南無三!」
「やめろそのちゃちな台詞。聞いてるこっちが恥ずかしくなるだろ……」
―――あとな、『またしても』とか勝手に軽々しく口にするんじゃねえよ。読者様から伏線と断定されて『いつ回収すんだ』『忘れてんのか』『スルーのまま完結しないよな』なんて騒がれまくって、やむを得ず後付け処理しないとならなくなるだろ。
それと著者はまだ負けちゃいねーよ。つぅか負ける気してねーんじゃね?
全然してねーよw してないってのww
「……っ!?」
「ん? どったのキミ?」
「け、決着はまだ……ついてないみたいだぞ……!?」
俺は額の汗を拭いながらアリスに告げる。それに対して彼女は肩を竦めた。
「ま、だろうね。暑さ程度で負けるヘタレだったら勝負挑んでこないし」
「……、ですねェー」
自称著者が―――アリスを視た。
「いやぁー、相手は本物の神様とはいえ僕が創った世界を丸ごと変えられてしまうとはショックですヨ。やはりあなたの存在は無視できませんね、僕にとって唯一無二の脅威でス」
「そりゃどーも。……でもあんまり嬉しくないかな」
「お気づきデ?」
「まーね」
相変わらず軽口な態度とは裏腹、アリスの表情は見るからに硬かった。
……ま、まさかとは思う。
「ひひッ……神様にはなんでもお見通しなわけですカ。であればこのチカラ、出し惜しみする必要もないのでしょウ!」
自称著者が一気に攻め立てんとばかりに勢い込んで、直後―――。
「!? んなっ!?」
世界が再び変わった。俺は茫然としてしまう。なぜならそこは、ほとんどの人間が一生で一度も行けないだろう、宇宙空間だったからだ……!
星々の数えきれないほどの輝きは神秘的で感動モノだ。しかしせっかくの感動を台無しにしているのが恐怖心だった。生身のまま宇宙に放り出されている状況を恐くないはずがなかった。
(で、でも涼しいな。さっきまでの暑さが嘘みたいだ……)
それに宇宙空間にもかかわらず息ができている。居心地という点ではアリスの砂漠よりも遥かにマシだった。
「―――どうです神様? 最終決戦にピッタリな場所と思いませんカ?」
寝転んだ姿勢で宇宙空間を泳いでいる自称著者。
アリスはそんな自由気ままな彼を睨み付けると、
「はああ? さいしゅ~う、けっせぇ~ん?」
「おヤ? なにかご不満でモ?」
……そうだアリス、遠慮せず言ってやればいい。これのどこが最終決戦なんだ、って。所詮は歴史の1ページどころか1行にもならない出来事のくせに、なにクライマックス感出そうとしてんだよ、ってな!
「ふふん! 最終決戦なんて生ぬるい! これは宇宙の存亡を賭けた、神と人間の熱き死闘だッ……!!」
「は!? デカくしやがった!?」
「宇宙侵略に邁進する人類に激怒した神々は人類に神罰を与えんとし、だが人類は神の域に達した科学力で神々を撃退していく! そして今宵、それぞれの最後の生き残りが、この長き戦いに終止符を打つ……!!」
っていう設定なのか! いやそれ完全に消化試合だろうが!
(人類と神々どっちも絶滅エンドで確定しちゃってるだろ! えっ、なんでまだ戦意あるんだコイツら? 互いに味方ゼロなのに『仲間の仇じゃあ!』ってテンション上がるか? ね、ねーよ!)
俺なら人類最後の生き残りって理由だけで、余裕で自害するわ(常考)!!
「憑々谷君がイライラしてますねぇ……はッ!? もしや読者様も同じだったりしまス!? バトルはよ、って思っていたりしますよネ!? 大変申し訳ございませン!!」
し、知らねーよ……。ずっと読者を意識してるコイツも理解不能だ。これを見ている読者がいると本気で思っているのだろうか。さすがに妄想すぎてバカバカしい。
「……では全力でやらせていただきまス。人間が神様を打ち負かす貴重な一戦を、とくとご覧くださイ! ご観戦お願いいたしまス!!」
瞬間、寝そべったままだった自称著者の姿が―――消失した。
「……。消えた……?」
「ううん。それだけじゃないね」
   アリスの窄まった瞳は、なぜか警戒の色を帯びていた。
「あの人の……気配そのものがなくなってる。もうこの世界にはいないよ」
「え? それってつまり……アイツが逃げたってことか?」
「ん、そうとも言うね」
「………………………………。…………へー」
としか言いようがない。俺は別にアリスと自称著者の戦いを観たかったわけじゃないんだ。喜怒哀楽のどれも感じちゃいない。
まぁそれでも逃げたアイツに一言送りつけてやるとすれば『お前なにがしたかったの?』だ。言動の不一致選手権なんてものがあったなら強すぎて運営側から参加拒否されるレベル。
(……まぁいい。敵前逃亡を図ったアイツのことは忘れよう)
そうだ。忘れてしまって早くこの夢から脱却するのだ。とりあえず体を殴っていけば目覚められるかもしれない。
「違うよ。キミは『逃げた』の意味を誤解してる」
「……、え?」
痛めつける部位の順番を考え始めたその矢先。
アリスが低い声音でそう言った。
「あの人がこの世界から逃げたのは、宣言通り、全力で戦うつもりだからだよ」
「? いや、お前の前から消えたんだぞ? これじゃ全力もへったくれもないだろ」
俺はアリスに正論をぶつけた気でいた。
しかし彼女はすぐさま首を横に振ると、
「あたしにはわかんの。あの人の存在が消えたと同時に、もっとありえないような存在が、ここに近づいてきてるってことを!」
「な、ん――!?」
突如俺が驚きに声を詰まらせたのは、決してアリスを信用し彼女の言葉を真に受けたからではなく。
ゴゴゴ、という滝から水が落下するような轟音と共に、この宇宙空間全体が目視できるほどに激しく振動し始めたからだ……!
「―――さあくるよ。たぶん召喚者自身も同じ場所にいたら危険が及びかねないほどの……バケモノが」
アリスが目を輝かせて自称著者に振り返った。
「ほ、本物の神様っ!? えっ、キミはあたしを本物だと認めてくれるの!? 初対面なのに!?」
「……はいもちろン。本物にはわかるんですヨ。本物と偽物の違いがネ」
「! ううう……! 姿はアレだけどキミと最初に出会いたかったなぁ! セーラー服もありがとね! 大事にするよっ!」
「はい、是非ともそうしてくださイ。神様」
……悪かったな。最初に出会ったのがこの俺で。自称著者の言葉を借りるとすれば俺は本物じゃないから本物と偽物の違いなんてわからないんだよ(適当)。
(ってか、自称著者は自分のなにを指して『本物』って言ってるんだ? まさかこの小説の著者ってことを指してか? いやいや、それだともうツッコミどころしかないだろ……)
「ところで神様は……バトルやケンカがお得意デ?」
「ふふん! 得意に決まってんじゃん! そんなのはね、朝飯前のバナナだよー!」
バナナは朝飯に含まれないのか。それはさておき自称著者が嬉しそうに口元をニヤつかせている。
「では神様。僕と本気の戦い、してみましょウ」
「いいよー!」
なぜそんな突飛な展開になるのか。俺は呆れ返ってしまった。
「あのなぁ、お前ら少し空気読めよ。今そんなくだらないこと始められる状況か?」
「ルールは特に決めませン。なんでもアリでいきましョ」
「自由かー! うっしゃ、熱い戦いになりそうじゃん!」
はぁ。もう知らね。
一般人の俺を巻き込まないでくれれば、それでいいことにしよう……。
「じゃあ先手必勝! 砂漠化!」
そう声を張り上げ、アリスが挙手した。すると次の瞬間、闇に埋め尽くされた世界が、オセロを一斉に裏返したかのごとく真昼間の砂漠と化した!
「……って、おいいいっ!? 俺の思考、読んでくれてないのかよっ!?」
燦々と照りつける太陽。風は無くどこまでも砂の地平線が続いている。
あ、暑い! とにかく暑い! 暑すぎて血液が沸騰してしまいそうだ!
「ふふん! 熱い戦いのためには、これも必要悪なのだよー!」
「おう、必要悪の用法をお前がちゃんと理解しているのかはさておき! 早くさっきの世界に戻しやがれ! 暑すぎて死ねるだろーがッ!」
「やだ。だってあたしは暑さ感じてないしぃー?」
涼しい顔で拒否するアリス。……いやなんでだよ!? 熱い戦いがしたくてこの砂漠ステージを用意したくせに、自分は暑さ無効とか無意味だろーがっ!
そんでな、暑いからって熱くなれるとは限らないだろ!
見ろよ、対戦相手をっ!
「あ、暑イ……。水、水ゥゥゥ……!」
ふらふらと体を揺らして辛うじて立っている自称著者。この暑さのせいで戦闘意欲が根こそぎ奪われてしまった風情だ。目の焦点も定まっていない。
と、アリスが眼鏡のブリッジをくいっと押し上げるような仕草をした。
「おっとぉ! またしても戦わずして勝ってしまったか。南無三!」
「やめろそのちゃちな台詞。聞いてるこっちが恥ずかしくなるだろ……」
―――あとな、『またしても』とか勝手に軽々しく口にするんじゃねえよ。読者様から伏線と断定されて『いつ回収すんだ』『忘れてんのか』『スルーのまま完結しないよな』なんて騒がれまくって、やむを得ず後付け処理しないとならなくなるだろ。
それと著者はまだ負けちゃいねーよ。つぅか負ける気してねーんじゃね?
全然してねーよw してないってのww
「……っ!?」
「ん? どったのキミ?」
「け、決着はまだ……ついてないみたいだぞ……!?」
俺は額の汗を拭いながらアリスに告げる。それに対して彼女は肩を竦めた。
「ま、だろうね。暑さ程度で負けるヘタレだったら勝負挑んでこないし」
「……、ですねェー」
自称著者が―――アリスを視た。
「いやぁー、相手は本物の神様とはいえ僕が創った世界を丸ごと変えられてしまうとはショックですヨ。やはりあなたの存在は無視できませんね、僕にとって唯一無二の脅威でス」
「そりゃどーも。……でもあんまり嬉しくないかな」
「お気づきデ?」
「まーね」
相変わらず軽口な態度とは裏腹、アリスの表情は見るからに硬かった。
……ま、まさかとは思う。
「ひひッ……神様にはなんでもお見通しなわけですカ。であればこのチカラ、出し惜しみする必要もないのでしょウ!」
自称著者が一気に攻め立てんとばかりに勢い込んで、直後―――。
「!? んなっ!?」
世界が再び変わった。俺は茫然としてしまう。なぜならそこは、ほとんどの人間が一生で一度も行けないだろう、宇宙空間だったからだ……!
星々の数えきれないほどの輝きは神秘的で感動モノだ。しかしせっかくの感動を台無しにしているのが恐怖心だった。生身のまま宇宙に放り出されている状況を恐くないはずがなかった。
(で、でも涼しいな。さっきまでの暑さが嘘みたいだ……)
それに宇宙空間にもかかわらず息ができている。居心地という点ではアリスの砂漠よりも遥かにマシだった。
「―――どうです神様? 最終決戦にピッタリな場所と思いませんカ?」
寝転んだ姿勢で宇宙空間を泳いでいる自称著者。
アリスはそんな自由気ままな彼を睨み付けると、
「はああ? さいしゅ~う、けっせぇ~ん?」
「おヤ? なにかご不満でモ?」
……そうだアリス、遠慮せず言ってやればいい。これのどこが最終決戦なんだ、って。所詮は歴史の1ページどころか1行にもならない出来事のくせに、なにクライマックス感出そうとしてんだよ、ってな!
「ふふん! 最終決戦なんて生ぬるい! これは宇宙の存亡を賭けた、神と人間の熱き死闘だッ……!!」
「は!? デカくしやがった!?」
「宇宙侵略に邁進する人類に激怒した神々は人類に神罰を与えんとし、だが人類は神の域に達した科学力で神々を撃退していく! そして今宵、それぞれの最後の生き残りが、この長き戦いに終止符を打つ……!!」
っていう設定なのか! いやそれ完全に消化試合だろうが!
(人類と神々どっちも絶滅エンドで確定しちゃってるだろ! えっ、なんでまだ戦意あるんだコイツら? 互いに味方ゼロなのに『仲間の仇じゃあ!』ってテンション上がるか? ね、ねーよ!)
俺なら人類最後の生き残りって理由だけで、余裕で自害するわ(常考)!!
「憑々谷君がイライラしてますねぇ……はッ!? もしや読者様も同じだったりしまス!? バトルはよ、って思っていたりしますよネ!? 大変申し訳ございませン!!」
し、知らねーよ……。ずっと読者を意識してるコイツも理解不能だ。これを見ている読者がいると本気で思っているのだろうか。さすがに妄想すぎてバカバカしい。
「……では全力でやらせていただきまス。人間が神様を打ち負かす貴重な一戦を、とくとご覧くださイ! ご観戦お願いいたしまス!!」
瞬間、寝そべったままだった自称著者の姿が―――消失した。
「……。消えた……?」
「ううん。それだけじゃないね」
   アリスの窄まった瞳は、なぜか警戒の色を帯びていた。
「あの人の……気配そのものがなくなってる。もうこの世界にはいないよ」
「え? それってつまり……アイツが逃げたってことか?」
「ん、そうとも言うね」
「………………………………。…………へー」
としか言いようがない。俺は別にアリスと自称著者の戦いを観たかったわけじゃないんだ。喜怒哀楽のどれも感じちゃいない。
まぁそれでも逃げたアイツに一言送りつけてやるとすれば『お前なにがしたかったの?』だ。言動の不一致選手権なんてものがあったなら強すぎて運営側から参加拒否されるレベル。
(……まぁいい。敵前逃亡を図ったアイツのことは忘れよう)
そうだ。忘れてしまって早くこの夢から脱却するのだ。とりあえず体を殴っていけば目覚められるかもしれない。
「違うよ。キミは『逃げた』の意味を誤解してる」
「……、え?」
痛めつける部位の順番を考え始めたその矢先。
アリスが低い声音でそう言った。
「あの人がこの世界から逃げたのは、宣言通り、全力で戦うつもりだからだよ」
「? いや、お前の前から消えたんだぞ? これじゃ全力もへったくれもないだろ」
俺はアリスに正論をぶつけた気でいた。
しかし彼女はすぐさま首を横に振ると、
「あたしにはわかんの。あの人の存在が消えたと同時に、もっとありえないような存在が、ここに近づいてきてるってことを!」
「な、ん――!?」
突如俺が驚きに声を詰まらせたのは、決してアリスを信用し彼女の言葉を真に受けたからではなく。
ゴゴゴ、という滝から水が落下するような轟音と共に、この宇宙空間全体が目視できるほどに激しく振動し始めたからだ……!
「―――さあくるよ。たぶん召喚者自身も同じ場所にいたら危険が及びかねないほどの……バケモノが」
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