2.5D/リアル世界の異世界リアル
第5話
5
俺が最初に受けた感覚は、後頭部になにか柔らかいモノが当たっていることだった。
「……んん?」
「つ、憑々谷くぅン!!」
近くで男の声がした。しかしどうせ幻聴なのだろう。俺の名前をそんな気持ち悪く呼ぶ男がこの世のどこにいるってんだ。
……って、あれ?
少女じゃなかったっけ……?
「あァ、よかったァ……!」
「…………な、」
俺は目を開けた途端に硬直してしまう。心底心配そうに上から俺の顔を覗き込んでいたのは、全く見覚えのない男だったからだ。
女じゃない。男だ。ただし男の声がするってだけで、ソイツの全身は真っ白けだ。なので実際の性別は判らない。しかも驚くべきことに俺は……謎のソイツに膝枕をされていたわけで。
「な、ななななな……!?」
俺は目下の状況を理解して飛び起きた。な、なんだよこれ! 俺の身に一体なにがあったらこんな展開になるんだよ!?
「だ、だいじょうブ? ひひッ……」
謎のソイツが口元を歪めて訊ねてくる。
だ、大丈夫じゃない! 全然意味がわからない!
【はい、おかげさまで。死んでしまってすみません。……著者様】
(…………………………………………。は……???)
なあ俺、なんでまた勝手に口開いてるんだよ?
それに著者様ってなんだ? なぜに様付け……?
「……いいネ。悪くなイ。ひひッ……」
下卑た笑い方をしながら謎のソイツが立ち上がる。と、俺はその時になってソイツの背景にバカデカい灰色の三日月が浮かんでいることに気づいた。
そして……この世界がどこまでも深淵のように黒く塗りつぶされていたことにも。
「お前は……誰だ!?」
俺は声を大にして訊ねずにはいられなかった。ここはさっきの世界とは明らかに違う。とにかく不気味で怪しい。それにこの俺が死んだって―――。
「あー、いちいち説明すんのメンドいから地の文に書いておくヨ」
「……はっ?」
―――俺は刹那の内に理解した。ここは小説の中でありラノベの世界なのだと。
俺は本物の神様であるアリスによってこの世界に連れてこられ、晴れてラノベ主人公になることができた。
そして俺の目の前にいるのはこのラノベの著者である人物。つまりこのラノベ世界の創造主だった。ちなみにこの場所が真っ暗なのはアイデアが特に浮かんでこなかったからだそうだ。なんという体たらく。
「……はっ???」
―――なるほど、よーくわかった! 俺が二重人格になったり死んでも生き返ったのは著者の粋な計らいだったんだ! もちろん女子にモテるようになったのもそう! 全ては著者のおかげ! 感謝してもしきれない!
「……ど、どうなってるんだ?」
「とまァそんなわけダ。とりあえずお前にはアメとムチを2対8くらいの割合で与えてやっていきたいと考えていル」
「アメ少ねえな! ってかなんだよ今のは!? 俺の頭の中に文章みたいなのが流れ込んできたぞ!?」
「そりゃあネ。僕がついさっき『そういう設定』に決めたかラ」
「わ、訳わかんねーよ……」
思わず俺は真っ黒な地面にへたり込んだ。これは……夢なのか? これも夢なんだよな? ずっと夢だから俺は未曾有の体験ばかりしているんだよな……???
「夢夢うるさいなァ。いーかげんにこれが現実だと認めてくれヨ。じゃないと読者様から『どうせ夢オチエンドだろこれ』って決めつけられちゃうじゃン。困るんだよ、そうなったらこの物語、盛り上げてく自信ないシ……」
「そ、それって結局は夢オチってことなんじゃないか!? ふ、ふざけんな、俺は今すぐ起きるぞ! 死んででも起きてやる!」
「あー無理無理。お前はこのラノベ世界―――小説の中の住人になったんダ。自殺したって元の世界には戻れないし、だいたい著者の僕がそれを許すと思うのカ?」
「なん、だと!?」
ビシッと、俺に指を突きつけてきた自称著者の人物。
「確かにお前は異世界転移によってラノベ主人公になっタ。だがお前がお前のイメージするラノベ主人公を演じられるわけじゃあなイ。なぜならこの世界は小説の中であって、このラノベの著者である僕がお前とその仲間達を描いているからダ」
「…………はっ。そんなバカな」
笑える冗談だ。ここが小説の中だって本気で言ってたのか?
だったらその証拠が……どこにある?
「証拠は用意できなイ。だが2次元の世界が3次元化されてた方がお前も幸せだロ? 2次元じゃおっぱいがハリボテだゾ? 揉めないんだゾ?」
「い、言われてみればそうだな……。って、話が逸れてるじゃねえか!」
俺は手をわきわきさせている自称著者に激昂した。そりゃまぁ、ずっと3次元で生きてきた俺がリアル2次元の世界に入ったら絶望だ。せっかく美少女ばかりいるのに彼女達のおっぱいが揉めないとか夢も希望もあったものじゃない……(恐怖)。
「ま、そもそも僕、お前に美少女のおっぱいを揉ませるつもりないけド」
「死ね! お前なんか本物の神様だったとしても死ね!」
「! し、死ね、だっテ……?」
自称著者が目を鋭く細めた。
「お、お前、これだけ言ってもまだ自分の立場がわかっていないのカ? 今のお前はね、僕の手の平の上なんだヨ。僕の手にかかればお前に生き地獄を味わわせることだって簡単ダ。……なんだったら男子校行ク? 男子校で掘ってみル? 掘られてみちゃウ?」
「ぜ、全力でお断りだッッ……!!」
コイツ最低だな! そんなやりたい放題が許されるはずがない!
というか悪趣味すぎるだろ!
「さて、そろそろ立てヨ。いつまで座り込んでいるつもりダ?」
「……、」
俺は警戒しながら立ち上がる。とそこで、右腕に装着したままだったアリスバンドが目に入った。やはりまだ外殻に覆われている。
「そうだナ。まずは神様をこちらの側に出られるようにしてやろウ―――」
「んなっ?」
自称著者がそう言った途端、外殻がぱっくりと開いて中からアリスが飛び出してきた。しかもなぜか……セーラー服を身に纏って。
「やあやあ! ひっさしっぶりぶりぶりぶりぃーッ!」
「な、なんだよその格好は? そして一応女なんだしぶりぶり連呼すんな。神様もう〇こするのか?」
「するよー!」
らしいです。ちょっぴりショックだ。
「で、なぜにセーラーなんだ?」
「さあ?」
「さあって……。知らない内に着てたとでも言うのかよ」
「うん。でも結構似合ってるからいいっしょ?」
―――満足そうにくるっと一周してみせたアリス。うん……いや、全身レインボーだから似合う以前の問題だよ。あと俺は全裸のお前のほうがよかったな。どれだけ色っぽくめかし込もうが全裸には勝てないだろ(常考)。
「! ひ、ヒドぉーい! 結局男って女のカラダしか興味ないんだぁ!?」
「お、おおお俺じゃねえよ! い、今のはそこの自称著者の仕業だッ!!」
「ふえ?」
顎で自称著者を指し示すと、アリスはきょとんとした顔つきになった。
「……ねぇ、あのヒト、とんでもなくおかしくない? うーん、存在感っていうのかなぁ、そんな感じのものがさ?」
「存在感? それならお前も充分あるんだが?」
「そう? あははー、褒めてもなにも出ないんだゾ♪」
アリスが上機嫌そうに俺の鼻をちょんちょん突いてくる。
こ、このスキンシップはなかなか……よい! 別に褒めてはいないけども!
「ウヒョヒョヒョヒョ! はいどーも、お初です本物の神様。プレゼントのセーラー服はお気に召しましたでしょーカ?」
―――そんな折、自称著者が俺とアリスのささやかな戯れを打ち砕いてきた。
俺が最初に受けた感覚は、後頭部になにか柔らかいモノが当たっていることだった。
「……んん?」
「つ、憑々谷くぅン!!」
近くで男の声がした。しかしどうせ幻聴なのだろう。俺の名前をそんな気持ち悪く呼ぶ男がこの世のどこにいるってんだ。
……って、あれ?
少女じゃなかったっけ……?
「あァ、よかったァ……!」
「…………な、」
俺は目を開けた途端に硬直してしまう。心底心配そうに上から俺の顔を覗き込んでいたのは、全く見覚えのない男だったからだ。
女じゃない。男だ。ただし男の声がするってだけで、ソイツの全身は真っ白けだ。なので実際の性別は判らない。しかも驚くべきことに俺は……謎のソイツに膝枕をされていたわけで。
「な、ななななな……!?」
俺は目下の状況を理解して飛び起きた。な、なんだよこれ! 俺の身に一体なにがあったらこんな展開になるんだよ!?
「だ、だいじょうブ? ひひッ……」
謎のソイツが口元を歪めて訊ねてくる。
だ、大丈夫じゃない! 全然意味がわからない!
【はい、おかげさまで。死んでしまってすみません。……著者様】
(…………………………………………。は……???)
なあ俺、なんでまた勝手に口開いてるんだよ?
それに著者様ってなんだ? なぜに様付け……?
「……いいネ。悪くなイ。ひひッ……」
下卑た笑い方をしながら謎のソイツが立ち上がる。と、俺はその時になってソイツの背景にバカデカい灰色の三日月が浮かんでいることに気づいた。
そして……この世界がどこまでも深淵のように黒く塗りつぶされていたことにも。
「お前は……誰だ!?」
俺は声を大にして訊ねずにはいられなかった。ここはさっきの世界とは明らかに違う。とにかく不気味で怪しい。それにこの俺が死んだって―――。
「あー、いちいち説明すんのメンドいから地の文に書いておくヨ」
「……はっ?」
―――俺は刹那の内に理解した。ここは小説の中でありラノベの世界なのだと。
俺は本物の神様であるアリスによってこの世界に連れてこられ、晴れてラノベ主人公になることができた。
そして俺の目の前にいるのはこのラノベの著者である人物。つまりこのラノベ世界の創造主だった。ちなみにこの場所が真っ暗なのはアイデアが特に浮かんでこなかったからだそうだ。なんという体たらく。
「……はっ???」
―――なるほど、よーくわかった! 俺が二重人格になったり死んでも生き返ったのは著者の粋な計らいだったんだ! もちろん女子にモテるようになったのもそう! 全ては著者のおかげ! 感謝してもしきれない!
「……ど、どうなってるんだ?」
「とまァそんなわけダ。とりあえずお前にはアメとムチを2対8くらいの割合で与えてやっていきたいと考えていル」
「アメ少ねえな! ってかなんだよ今のは!? 俺の頭の中に文章みたいなのが流れ込んできたぞ!?」
「そりゃあネ。僕がついさっき『そういう設定』に決めたかラ」
「わ、訳わかんねーよ……」
思わず俺は真っ黒な地面にへたり込んだ。これは……夢なのか? これも夢なんだよな? ずっと夢だから俺は未曾有の体験ばかりしているんだよな……???
「夢夢うるさいなァ。いーかげんにこれが現実だと認めてくれヨ。じゃないと読者様から『どうせ夢オチエンドだろこれ』って決めつけられちゃうじゃン。困るんだよ、そうなったらこの物語、盛り上げてく自信ないシ……」
「そ、それって結局は夢オチってことなんじゃないか!? ふ、ふざけんな、俺は今すぐ起きるぞ! 死んででも起きてやる!」
「あー無理無理。お前はこのラノベ世界―――小説の中の住人になったんダ。自殺したって元の世界には戻れないし、だいたい著者の僕がそれを許すと思うのカ?」
「なん、だと!?」
ビシッと、俺に指を突きつけてきた自称著者の人物。
「確かにお前は異世界転移によってラノベ主人公になっタ。だがお前がお前のイメージするラノベ主人公を演じられるわけじゃあなイ。なぜならこの世界は小説の中であって、このラノベの著者である僕がお前とその仲間達を描いているからダ」
「…………はっ。そんなバカな」
笑える冗談だ。ここが小説の中だって本気で言ってたのか?
だったらその証拠が……どこにある?
「証拠は用意できなイ。だが2次元の世界が3次元化されてた方がお前も幸せだロ? 2次元じゃおっぱいがハリボテだゾ? 揉めないんだゾ?」
「い、言われてみればそうだな……。って、話が逸れてるじゃねえか!」
俺は手をわきわきさせている自称著者に激昂した。そりゃまぁ、ずっと3次元で生きてきた俺がリアル2次元の世界に入ったら絶望だ。せっかく美少女ばかりいるのに彼女達のおっぱいが揉めないとか夢も希望もあったものじゃない……(恐怖)。
「ま、そもそも僕、お前に美少女のおっぱいを揉ませるつもりないけド」
「死ね! お前なんか本物の神様だったとしても死ね!」
「! し、死ね、だっテ……?」
自称著者が目を鋭く細めた。
「お、お前、これだけ言ってもまだ自分の立場がわかっていないのカ? 今のお前はね、僕の手の平の上なんだヨ。僕の手にかかればお前に生き地獄を味わわせることだって簡単ダ。……なんだったら男子校行ク? 男子校で掘ってみル? 掘られてみちゃウ?」
「ぜ、全力でお断りだッッ……!!」
コイツ最低だな! そんなやりたい放題が許されるはずがない!
というか悪趣味すぎるだろ!
「さて、そろそろ立てヨ。いつまで座り込んでいるつもりダ?」
「……、」
俺は警戒しながら立ち上がる。とそこで、右腕に装着したままだったアリスバンドが目に入った。やはりまだ外殻に覆われている。
「そうだナ。まずは神様をこちらの側に出られるようにしてやろウ―――」
「んなっ?」
自称著者がそう言った途端、外殻がぱっくりと開いて中からアリスが飛び出してきた。しかもなぜか……セーラー服を身に纏って。
「やあやあ! ひっさしっぶりぶりぶりぶりぃーッ!」
「な、なんだよその格好は? そして一応女なんだしぶりぶり連呼すんな。神様もう〇こするのか?」
「するよー!」
らしいです。ちょっぴりショックだ。
「で、なぜにセーラーなんだ?」
「さあ?」
「さあって……。知らない内に着てたとでも言うのかよ」
「うん。でも結構似合ってるからいいっしょ?」
―――満足そうにくるっと一周してみせたアリス。うん……いや、全身レインボーだから似合う以前の問題だよ。あと俺は全裸のお前のほうがよかったな。どれだけ色っぽくめかし込もうが全裸には勝てないだろ(常考)。
「! ひ、ヒドぉーい! 結局男って女のカラダしか興味ないんだぁ!?」
「お、おおお俺じゃねえよ! い、今のはそこの自称著者の仕業だッ!!」
「ふえ?」
顎で自称著者を指し示すと、アリスはきょとんとした顔つきになった。
「……ねぇ、あのヒト、とんでもなくおかしくない? うーん、存在感っていうのかなぁ、そんな感じのものがさ?」
「存在感? それならお前も充分あるんだが?」
「そう? あははー、褒めてもなにも出ないんだゾ♪」
アリスが上機嫌そうに俺の鼻をちょんちょん突いてくる。
こ、このスキンシップはなかなか……よい! 別に褒めてはいないけども!
「ウヒョヒョヒョヒョ! はいどーも、お初です本物の神様。プレゼントのセーラー服はお気に召しましたでしょーカ?」
―――そんな折、自称著者が俺とアリスのささやかな戯れを打ち砕いてきた。
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