話を聞く女子高校生の話

さくっ子

話を聞く女子高校生の話

 ︎この小説には、作者の主観が多々あります。「私/僕はこう思う」という、皆様の意見を頂けると嬉しいです。



   大阪の市立の高校に通う、普通の女子高校生。名前は黒瀬御幸。黒い髪は肩で綺麗に切り揃えられていて、潤んだたれ目はちょっと可愛い。

   40分の昼休み。2人掛けのテーブル席のある中庭で、黒瀬はいつも誰かの話を聞いている。聞いている、というよりも、吸収している、の方が正しいのかもしれない。


「後輩にこんな事を相談するのは、先輩として申し訳ないんだけど…」


   その日黒瀬の前に座っていたのは、腰までの黒髪が素敵な先輩。どうやら二年生らしい。落ち着かなさそうに髪を指で梳かすと、重たい口を開く。


「別れた彼氏の事が忘れらんなくて…てか、好きってわけじゃないの。うん、もう好きじゃない」


   はぁ、と溜息を吐き、「ただの愚痴なんだけどさ」とばつが悪そうに言う。


「私は相談に乗るんじゃなくて、話を聞くんです」


   改まった口調で、黒瀬が言う。先輩相手だからか少し顔が引きつっていたが、伝えたいことははっきりとあるようだ。


「相談って、重くなると思うんです。気持ち的に。だから、『話を聞く』んです。悩みを言うんじゃなくて、お喋りですよ」


   そこまで言うと、にこっと笑った。破茶滅茶だけど、それが彼女の良いところらしい。固まりっぱなしだった気が緩んだのか、先輩も肩の力を抜いて話し出した。


「振られたんだけどさ、最悪だったの。お祭りデートだったからサプライズで浴衣着ていったのに、何も言ってくれなくて」


「ふむ」


「でさ、彼の誕生日が近かったから、誕生日プレゼント持ってったの。荷物になるから、最後に渡すって言ったんだけどね。」


「誕生日プレゼント、何にしたんですか?」


「彼が好きだっていってた、柴犬のマグカップとお菓子。甘い物も好きって言ってたから。」


「素敵な彼女さんです」


「はは、ありがとう、もう違うけど。でさ、彼ったら、その日「体調悪いんかな」とかずーっとぼかして、なんにも食べないの。屋台巡りがメインだったのに。そのくせ、公園2往復したしさ。こっち下駄だよ?」


   少し怒った様子で、目を見開く。でもやっぱり悲しいんだと感じた。話してる間遠くを見る先輩は、やはり何処か儚げだったから。


「最後、誕生日プレゼント渡して、さようなら。帰ったらメッセージがきてさ。「ほっこりしたら連絡して。」直ぐに別れ話だって察した。私も、もうその時には愛が完全に冷めてたからさ。それで、電話で振られて、はいおしまいってなっちゃった」


「先輩は、誕生日プレゼント返せよ!とか、直接言えよ!とか、最後のデートだからってケチってんじゃないよ!とか思いませんでしたか?」


   しどろもどろと黒瀬が口を動かすと、先輩は机に手をつき一気に前屈みになる。


「わかる!?」


「私は、そう思いました。最後のデートだからって、自分が得をするだけの終わり方なんて、酷いです」


   はは、と先輩は我に返って、力無く笑った。そんなことにキレてたんかー、と青空を眩しそうに見ている。


「因みに、告白はどちらから?」


「…あー、私なんだよね。中学一年で一目惚れして、卒業式間近で、別の高校で一生会えなくなるかもって思ったら、放課後の教室で勢いで…なんか彼って優しかったのかな。最初っから断るつもりだったのかも」


「…」


「電話で言ってきたのも、泣きながら私を帰らせるのが申し訳無かったのかな。今まで、私の遊びに付き合ってくれてただけだったのかな。…全部無駄だったのかな」


   先輩の目に、みるみるうちに涙が溜まる。今にも泣きそうになったとき、バッと黒瀬が両手をとった。


「そんなことないですよ!だって、だとしても、先輩は今泣くくらい愛してたんじゃないですか。人をそれだけ一途に愛せるなんて、すごいです」


   本当は黒瀬はこう思っていた。(元)彼氏さんは、別の高校の彼女、つまり遠距離恋愛という肩書きを得たいだけだったのではないか。いざとなったら新しい高校で新しい彼女をつくればいい。だからこの素敵な先輩は、キープだったんじゃないか。

   でも、こんな純粋な先輩の前で言ったら、この先輩は濁ってしまう。そんなの、本当に許せない。だから、今は一生懸命守りたい。

   短い時間話を聞いただけで、強く共感したり、完全に立ち直らせることなんてできない。それでも、できることをやりたいんだ。


「はー、後輩にそんなの言わせちゃ、先輩失格かもね。ありがと、黒瀬御幸ちゃん。暫く彼氏とかいいや!いっぱい遊んでみる」


   席を立ち、軽く会釈をして教室棟まで戻って行く先輩。後ろ姿は、最初来たころよりすっきりして見えた。

キーンコーンカーンコーン


「あ、次体育だ…」


   チャイムは響く。黒瀬は焦って立ち上がった。明日の昼休みがどうなるかわからないけれど、今日はここまで。お話ごちそうさまでした。

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