新イベントはゲームの中で!

化茶ぬき

第一話 一億円

 世界的にヒットした――とは言えないMMORPG・ブラックブリード・エンパイア。十万円買い切りのネットゲームで、自由度の高さとある要素・・・・で話題になったが高過ぎる操作難易度と多過ぎる要素で対象ユーザーを絞れずにイマイチな売れ行きとなった。

 しかし、それでも続けるユーザーがいたのはある要素・・・・――換金システムのおかげだろう。ゲーム通貨が現実通貨の百分の一で換金できる。つまり、ゲーム内で百円を稼げば現実では一円に。百万円を稼げば一万円になる。これだけ聞けば魅力的に聞こえるが、このゲーム最大のユーザー離れの原因は、その稼げなさ・・・・にあった。

 序盤に出てくる一番弱いモンスターを倒しても稼げるのは一銭のみ。加えて課金要素もないから地道にプレイヤースキルを上げつつ装備を買い揃えるしかない。強いモンスターを倒すには強い武器や装備を揃える必要があるが、それらを揃えたところでプレイヤースキルが低ければ勝てずに負けてしまう。これでは現実世界で換金するほど金を貯めることが出来ない。それを悟ったプレイヤーたちは早々にコントローラーを捨てたが、稼げるかどうかなど関係なく、のめり込めるゲームを探していた者にとってはむしろ好都合だった。

 要はゲーム中毒者にこそ、このゲームは魅力的だったのだ。

 トップランカーの中には月に五千万、現実通貨で五十万を稼ぐ者もざらにいるが、そういった者たちは最低限暮らしていける分だけしか換金せずに、あとはゲームの中の装備や武器に金を注ぎ込むのが常だった。

 そんな中でもうすぐゲーム通貨を百億――つまり、現実通貨で一億を稼ぐ者がいた。

 その者の名は三嶽原みたけはら十司じゅうし。アバター名は『サンジュウシ』。

 彼が執拗に百億を目指していたのには、ある理由があった。

「あと一体。雑魚をあと一体。それで百億。それで――新イベントが始まる、って噂だ!」

 今まさにモンスターを倒してカウンターが百億に変わった瞬間、三嶽原は目を見開いて身構えた。

「……? 何も、起きない……だと?」

 変化の起きない画面に嘆息しつつ頭を垂れた三嶽原だったが、一分ほど項垂れると吹っ切れたように顔を上げた。

「まぁ……換金すりゃ金になるしな。とりあえず寝るか」

 気持ちを切り替えると、椅子に座ったまま画面の前で組んだ腕に頭を乗せた。

 百億に近付くほどに興奮が高まった三嶽原は、今に至るまで三日間も寝ずにゲームを続けてしまっていた。

 泥のように。

 死んだように。

 三嶽原十司は、静かに眠りについた。

 その直後、寝顔を照らすゲーム画面に表示された所持金表示が突然カウントダウンを始めて――ゼロになった。

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