山育ちの冒険者  この都会(まち)が快適なので旅には出ません

みなかみしょう

47.祭の終わりと事件のはじまり その4

「ところでステル君。展示会場の中の警備ってどうなってるの?」
「もう魔剣以外の撤収は終わってましたから、人は少ないはずです。でも、クリスさんがいますから」
「そうね。大丈夫よね」

 展示会場内の廊下を走りながらリリカとそんな会話を交わした。
 そう、魔剣はクリスが今も護っている。だからそう簡単に持って行かれることはない。

 そうはいっても状況は悪い。外から展示場内に入れた関係者は見たところ、まだステル達だけだ。
 『探求の翼』が入念に準備して行動を起こしたことを考えると、会場側が十全な対応を始める前に撤収する計画でもおかしくない。

 速さの勝負だな……。

 ステルがそんなことを考えた時、目の前にローブを着た男が現れた。手には魔導具の杖。
 間違いなく敵だ。
 素早くそう判断したステルは、魔導具目掛けて石を投擲。

「ぐおっ」

 杖を取り落としたところにリリカが左手を向けて弱めの衝撃波を繰り出した。

「大人しくしてなさいっ!」
「ぬあああっ」

 吹き飛ばされた結社の魔法使いは壁にぶつかってうめく。気絶したわけではないが、しばらくは動けないだろう。

「急ぎましょ。あんまり相手することないわ」
「そうですね」
「それにしても石投げで魔導具をしっかり狙えるなんて、すごいわね」
「僕はリリカさんの方が凄いと思いますよ……」

 加減の難しいらしい魔導具を容赦なく人に向けるというのはステルにはできそうにない。
 そんな常識外れの二人はたまに現れる妨害者を容赦なく排除しながら目的地へと向かっていく。

 そして、魔剣の展示場の前。そこには『探求の翼』の者達が五人ほど門番のように待ち構えていた。
 見れば、通路のすみに縛られた警備の人間がいる。その中にクリスはいない。

 中で単独で戦っているんだろうか。急がないと……。

 ステルがそこまで考えたところで、隣のリリカが左手を構えた。何やら、左手から緑色の魔力が激しく散っている。

「邪魔をするなら……」
「リリカさんっ。落ちついてください、威力を加減できてませんっ」

 慌てて止めた。リリカも大分焦っている。大変な衝撃波を撃つところだった。

「ああもうっ!」

 叫びながらリリカが左手を振ると、弱めの衝撃波が打ち出された。
 ちょっとした強風程度だったが、いきなりのことに『探求の翼』側が一瞬怯んだ。
 その隙を逃すステルではない。

「今だっ!」

 一瞬で距離を詰めて次々と一撃入れて無力化していく。
 結社の面々の持つ魔導具の大半は杖。接近されると弱い。
 魔導具の扱いに長けた魔法使い集団『探求の翼』の一団は、その真価を発揮する前にあっさりと無力化された。

「よし、行きましょう」
「…………そ、そうね」

 あっという間に仕事を済ませたステルの姿に軽く驚きながらも、リリカは同意した。

○○○

 展示会場の中は閑散としたものだった。
 物もないが人もいない。

 ステル達が目にしたのは二人の男女だった。
 展示された魔剣の前で何やら話し込む金髪の男。そして、剣姫クリスティン。
 そのクリスは室内に入るなり、こちらに気づいた。

「あら……ステル君とリリカちゃんじゃない」

 今の状況がわかっているのかと疑問に思うほど、いつもの調子でクリスは声をかけてきた。
 対して金髪の男の方はあからさまに焦りを浮かべる。

「なんだとっ。外に精鋭を配置していたはずなのに……っ」

 それに対してクリスが淡泊な口調で言い放った。

「うーん。これは計画変更かな」
「えっ?」

 言うなり、目の前の金髪を鞘に入った自分の剣で殴り飛ばした。
 ステルの目でも何とか追えるくらいの見事な早業だった。 

「…………」

 悲鳴すらあげる暇も無く、吹き飛ばされた男は沈黙した。

「生きてるからよしっ」

 自分の行動の結果を確認すると、クリスはこちらを見た。
 満面の笑みだ。
 何故か、ステルの背中に戦慄が走った。

「えっと、クリスさん」
「リリカさん、僕の後ろに……」

 反射的にリリカの動きを制し前に出た。木剣を持つ手に力が籠もる。
 その様子を見て、クリスは笑みを更に深くした。

「ステル君、思った以上に優秀ね。こんなに早く来るとは思わなかった。いえ、だからラウリ君はここにいなかったのかな?」

 そう言うと、クリスは余裕一杯な態度でゆっくりと歩いて魔剣の横に立つ。

「今の人、『探求の翼』の首魁ですね。じゃあ、状況は解決したってことで……」

 油断なく身構えるステルの代わりにリリカが遠慮がちにそんなことを言った。
 どうやら、彼女もクリスの様子がどこかおかしいと気づいたようだ。

「そう、魔法結社の事件は解決。でも、別の事件が始まるわ」

 愛おしそうに魔剣に手を触れながら言うクリス。

「どういう意味ですか?」
「そうね。簡単にいうと、結社に魔剣泥棒の罪をかぶせて私がいただいちゃう計画が失敗したんで、このまま強奪しようってところかな」
「…………っ」

 その発言を聞いた瞬間、ステルは動けなかった。 
 クリスが魔剣の柄を握ったからだ。
 隙が無い。

「強奪って、そんなことしたらエルキャスト王国から追われる身になっちゃいますよ! なんでそんなことするんですか!」

 リリカの言葉に返ってきたのは質問だった。

「そうね。リリカちゃんならわかるかしら。仮に私がこの魔剣の力を引き出せれば、エルキャスト王国と交渉して不問にして貰えると思わない?」
「……そんな無茶なこと、通らないでしょう」

 ステルは即座にそう答えた。
 魔剣はとても貴重なものだ。沢山の人が関わり、沢山の人を呼べるほどの。
 それを盗んだ者が許されるとは思えない。
 しかし、リリカの答えは違うようだった。

「それは違うわ、ステル君……。この国……いえ、魔導革命後の今の世界ならそれも十分にあり得る話よ……」
「えぇっ。そんなことが……」

 リリカは「絶対とは言い切れないんだけれど……」と前置きして続ける。

「例えば、建築作業なんかで使われてるゴーレム技術。あれって、魔法文明時代の遺跡から出てきた資料を解析して急速に発展したものなの。その魔剣が注目されているのも、そういった技術の発展に貢献することを期待されているからで……」
「流石は秀才。よく知ってるわね」
「……新しい魔導技術の可能性は世界中のどの国も喉から手が出る程ほしがってる。他国に対してそれだけ優位に立てるから。だから、『非常に強力だが用途不明』なその魔剣なら、使ってみせるだけで交渉の余地が出てくると思う……」

 リリカの説明にクリスは満足気に頷いた。

「そういうこと。最悪、エルキャスト王国以外の大国に保護を求めることだってできる」
「でも、それは魔剣を使えればってことですよね」

 ステルがそう言うと、クリスは待ってましたとばかりに、口元を歪めて嗤った。

「ええ、目処は立ってるわ」

 その言葉と同意、魔剣が引き抜かれた。
 警報が鳴り響く。扉が閉まる。
 クリスの左手には魔剣。右手にはいつの間にか鞘から抜かれた彼女の魔導剣があった。

「話は終わり。もう時間も無いしね」

 笑むのをやめて、クリスが言った。

 ステルは前に出る。自分の仕事は魔剣を護ることだ。

「通しません。詳しい話を聞かせてもらいます」

 彼女がなんで魔剣を求めるか。魔剣を使える目処とはなにか。色々と気になるが。まずは自分の仕事をすべきだ。

「そう、仕事熱心ね。でも、それは無理だわっ」

 言葉と同時、剣を二本持っているとは思えない速度で、クリスが踏み出した。
 彼女は真っ直ぐステル達目掛けて突っ込んでくる。
 ただし、狙いはステルではなく、リリカだった。

「……っ!」

 いきなりの出来事にリリカは反応できていない。呆然とするばかりだ。
 そして、クリスは右手に持った自分の魔導剣を起動し、突きの姿勢。
 本気だ。
 構えからそう判断したステルの身体が、自然と動いた。

「くっ……!」
「きゃっ……」

 攻撃が到達する前に、横から抱き上げるようにして跳躍。
 本当に危うい、ギリギリのタイミングで攻撃から逃れた。
 攻撃を避けられたクリスは、見事な動きを見せたステルの方を向いて一言。

「流石ステル君。避けてくれるって信じてたよ」

 そう言い残して、閉ざされた扉を切り裂き、その向こうに消えた。
 ステルはそれを見送ることしかできなかった。

「……ごめん、ステル君」
「リリカさん、大丈夫ですか?」

 幸いだったのはリリカに怪我がなかったことだ。きっと、自分が動かなければクリスは本気で彼女を貫いていただろう。

「平気……。でも、ごめん。わたしのせいで……。ごめん、ステル君」
「……リリカさん」
 
 そのリリカは腕の中で震えていた。

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