山育ちの冒険者  この都会(まち)が快適なので旅には出ません

みなかみしょう

14.再会と次の依頼と

 リリカとの出会いがあってから三日がたった。
 あの出来事はなかなか刺激的だったが、ステルの日常に大きな変化は起こらない。

 その日もステルは冒険者協会に足を運んだ。
 時刻は午前十時、下宿の家主と世間話をしたり、新聞と一緒に投函されていた新しい魔導具のチラシを見ていたら、少し遅めの出勤になってしまった。
 
 とはいえ、冒険者が全員足並み揃えて開店直後の協会に来るわけではない。
 午後に貼り出される依頼目当ての者もいれば、今日は休日と決めて雑談のためだけに来る者もいる。
 冒険者は割と自由な職業なのだ。
 ステルとしても収入的に余裕があるので、次の依頼の品定めでもしようくらいの心持ちで協会の中にやってきたのである。
 いつも通り賑やかなロビーに入り見渡すと、意外な人物がいた。

「あれ、あの二人は」

 目についたのはたった今、受付の奥から出てきた二人の冒険者。
 斧を持った青年と魔導杖を持った女性。
 間違いない、アコーラ市に来る途中知り合った二人組の冒険者だ。

「あ、あのっ。お久しぶりです。憶えてますか?」

 慌てて近寄って話しかける。まさかこんなところで再会できるとは思わなかった。

「ん? お、おおっ! あれだ! 憶えてるぞ! 前に北部の方で会った冒険者志望の少女……じゃなくて少年だな!」
「ステル君でしょ。ちゃんと名前を覚えておきなさいな。久しぶりね、元気だった?」

 やはり人違いでは無かった。
 二人とも元気そうだ。良かった、とステルは安堵する。
 街の外に出かけた冒険者が二度と帰ってこないのは珍しくない。
 この二ヶ月で、ステルも何度かそういう話題を耳にしていた。

「はい。おかげさまで元気です。二人ともここの所属だったんですか?」
「元はそうだったって、とこかな。今はそこらじゅうをフラフラしてるぜ」
「それだと私達が根無し草みたいじゃない。単に街の外に出てみたくなっただけよ」
「もしかして、アコーラ市に来たのは仕事ですか?」

 アコーラ市の近辺に有名な遺跡や未知の土地は存在しない。
 そのため、街から離れた冒険者がわざわざ戻ってくるのは希だ。
 彼ら指定の緊急の依頼でもあったのだろうか。

「まぁな。別の街の協会で仕事してたら呼び出された。そんで今すぐに出発だ」
「ごめんなさいね。色々とお話したいけれど、ちょっと急ぎなの」

 相変わらずこの支部は人使いが荒いと斧使いがぼやく。
 二人とも気楽な雰囲気を漂わせているが、その目は真剣だった。

 深刻な事態でも発生してるのかな? 

 もしかしたら『見えざる刃』案件かもしれないと思ったが、この場でそれを確認する術は無い。
 とりあえず、今度支部長にでも聞いてみることに心の中で決める。

「そんなに深刻な顔をしなくても平気だぜ。依頼自体は大したもんじゃねぇ。単に外に慣れてる奴がこの支部に少なかっただけだ」
「すぐに戻ってくるわ。今度はゆっくりとお話しましょうね」

 そんな言葉を残して、二人はすぐに協会の外に出て行ってしまった。

「ステルさん、今のお二人とお知り合いだったのですか?」

 見送りを済ませて室内に戻ると、後ろからアンナに話しかけられた。

「ええ、この街に来る前に馬車で知り合いまして。あの、何か用件でも?」

 いつもは受付に座っているはずの彼女だが、ロビーにやってきている。
 好奇心だけで話しかけてくる人では無い。きっと自分に用があるのだろう。

「ステルさん。王立学院のリリカさんという方から、お礼状が来ていますよ。ご活躍されたみたいですね」

 そう言って封書を一枚手渡された。
 真っ白な上質な紙の表面には丸っこいが流麗な文字で差出人の名前が書かれていた。

「わざわざお礼状なんて。律儀な人なんだなぁ」 

 しっかりと蝋で封されたそれを開き、中の便箋に目を走らせる。
 
 書かれていたのは先日の研究泥棒のことだ。
 丁寧かつ品のある言葉の数々で、ステルの協力への感謝が綴られていた。
 
 しっかりした育ち方をした人なんだな。
 
 そんな感想を浮かべていると、アンナが目の前から動いていないことに気づいた。
 
「あの、まだなにか?」
「はい、依頼があります。こちらも王立学院。いつものベルフ教授からです」
「え、先生ですか? 薬草の採取はこの前行ったばかりですけど?」
「今度の依頼は調査だそうです。場所は学院の敷地内。古くなった学院の施設を調べて欲しいそうですけれど」

 受けます? と表情でアンナが聞いてきた。

「先生の依頼なら変なものではないでしょうし。受けさせて頂きます」

 勿論、ステルに断る理由は無い。お得意様は大事だ。

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