詩集 ツキアカリ

四ノ宮雪子

海牛


私は海牛

今はただ波に仰がれ光を見るばかりである

広い広いサンゴの林に大きな岩の富士山、奥には彼方まで広がる砂浜

さて、何処に行こうか

私は海牛

海牛だって悩むときもある

私は何故藻を食べるのだろうか

あのアオウミウシの少年のように海月を食べてみたいと思っている

私は海牛

そんなに速くは、いや、速くは動けない

どんなに急いでもゆっくりゆっくりのっそのっそと動く

特別急ぐ用事はないけどコノハウミウシのように波に身を任せ旅に出るのもいい

私は海牛

見た目だけはカラフルで綺麗だ

よって人間たちは私たちを「海の宝石」と呼ぶ

また人間は「キモい」だの「危ない」だの言う

そんなことはふにゃふにゃな身体が受け流してくれる

どれだけ罵声や歓声を浴びようと受け流す

だけど鋭いと切れるのでダメだ

私は海牛

今この時を生きる

大きな生物の輪廻の一つでしかない私だけど

この世に授かった生を全うするまでは死なぬ所存でございます

だから私は今を大切に生きる

私は海牛

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