Re-start 異世界生活って結構自分に合っている件

ロミにゃん

79 闇に消える者と希望を求める者


真っ暗な部屋の中でフィルムのまわる音だけが響いていた。

あの子はどうなったのだろうか・・・
どこかで見たことあるような懐かしい感じのする子だったな。

「何も見えなくなったね」
「あちら側に干渉したせいでしょうか・・・」
「・・・でも、声をかけたこと後悔してないよ」
「そうですね・・・」
「次、もしも会えたらあの子を連れ出してあげたいくらいだよ」
「・・・ロミー様は本当にお優しいのですね。わたくしの産まれた街ではあの様な事は日常的でしたので・・・」

フィオナは産まれこそ貧しかったが、幼い頃に能力が開花し王都に連れてこられ、今の地位にいる。




「どれくらいの時間が経ったんでしょうか・・・」

確かに、一人の人生を早送りとはいえ約5年分は見せられてたからね。
フィルムのまわる音はいつの間にか聞こえなくなっていた。
ここから出る方法は無いのだろうか・・・

カチャン、カラカラ・・・

「また動き出した?」

今度はどこ???

「ロミー様!」

フィオナの方へ振り返ると、空間に亀裂が入っており、そこから神殿の祭壇が見えていた。
亀裂がいつ閉じるかもわからないため私達は走り出した。

「このチャンス逃したら戻れないかも!」
「はい!急ぎましょう!」

亀裂の方へ走り出すと、直ぐ後ろから声が聞こえた。

「行っちゃうの?」

私は驚き、振り返ると、そこには人影のような物が揺らめいており、目と口らしき物が白く不気味に光っていた。

「ロミー様!お急ぎください!閉じかけています!」

亀裂の向こう側に、ジャックと上城さんの姿が見える。
人影らしき物は、とても悲しげに私を見つめている。
直感的にあの女の子ではないだろうか?そう感じた。

私はどうしても、あの子の事が気になっていた。
最後まで見届けなければいけない気がして、フィオナの方へ走る事が出来なくなっていた。

「フィオナ!私の身体を探して!必ず起こして!私はここに残らなければいけない気がする!」
「いけません!お戻りください!」
「ジャックがまた荒れちゃうかなぁ?あはは」

亀裂の向こう側で、ジャックと上城さんが私を呼ぶ声が聞こえた。

「ロミー様、背後!!!」

人影らしき物の背後にある真っ黒な霧のようなもの中から、無数の黒い手が伸びて、私の腕や足を掴んだ。

「わ!?どの道、行かせてはくれないのね・・・大丈夫。ここに残るよ。まだ行けないもんね」

無数の黒い手から、様々な感情が流れ込んできた。

"寂しい" "怖い" "痛い" "死にたい" "死にたくない" "1人は嫌だ" "助けて"・・・

あぁ、これは、あの子の言葉???
他にもいろんな人の言葉が流れ込んできている。

「・・・私を助けてくれる?」

もちろんだよ。助けを求めてくれてありがとう。
絶対助けるよ。

「ロミー様!このままでは闇に取り込まれます!身を委ねてはなりません!」
「あぁ、なんて心地いいのかな。心配しないでフィオナ。私は必ず戻ってくる。だから、私の身体を頼んだよ。みんなにも伝えて。」
「ロミー様!!!!!」


アミュレットつけた左手をギュッと握りしめて、自分の意識が闇に取り込まれないようにまじないをかけた。
迷った時、必ず、みんなの所に帰ってこれるように、繋がるように、光を示すようにと。


無数の黒く染まった手が見えなくなるほど私を覆い尽くし、闇の中に引きずり込まれた所で意識は漆黒の闇の誰にも気付かれる事のない、さらに深く深く深淵に消えた。




ー上城サイドー

突然空中に現れた亀裂からロミーさんとフィオナ様の声が聞こえたと思ったら、フィオナ様だけが戻ってきてちょっとした騒ぎになっていた。

「ロミー様は、闇の中へ自ら取り込まれました・・・」
「どういう事だ!?」
「ですが、"必ず戻る"とおっしゃいました。"自分の身体を探し、起こして"と・・・」

フィオナ様を責め立てるジャックの腕をつかみ、俺は力一杯拳を握りしめ、ジャックの顔を殴った。

「っっ!何をするんだ!」
「俺もあなたと同じくらい、腹が立ってます!でも、今はフィオナを責めるよりもロミーさんが言った通り!連れ去られた身体を探すべきです!」

シーンと静まり返った空気の中、ジャックを俺を睨んだ後、大きく溜息をこぼし、乱れた髪を左手でかき上げて整えた。

「フィオナ、すまなかった。」
「い、いえ、わたくしは大丈夫ですので・・・」

ジャックがこちらへ歩いてきて突然俺の胸に強めに拳を突きつけた。

ドン!

「ゴホ、ゴホッ。」
「・・・これでもこの顔、ロミーが気に入ってくれてるんだ、よくも殴ってくれたな。お前もその顔が傷つかないように気をつけるんだな」
「・・・これでも、"上城スマイル"なんて褒められたりするんで、傷つくのは困りますね」

睨み合いっていると、三日月に俺達は背中をバシッ!!力一杯叩いた。

「痛っ!!はぁ!?」
「桜、君まで俺を殴るのか・・・」
「二人ともうるさいっっ!その喧嘩は一旦、置いといて、今はロミちゃんを取り戻す事だけを考えなさい!まぁ1人の女を取り合ってるのをじっくり見ていたい気持ちもあるけど、今は、ね?ほら!」

三日月に一喝され、深呼吸をした。

「すー、はー・・・ジャック、殴ってごめん」

とりあえずは停戦の意味を込めた右手を差し出した。

「あぁ、俺も大人気なかった。いい拳だったぞ」

握手をして、気持ちを切り替えようとした時、ジャックは俺の手を強く、握りしめた。
俺も負けてられ無い!強く握り返し、力比べが始まった。

「ぐぐ・・・」
「ん・・・」

「ダメね、男ってホント、バカね」


必ずロミーさんを取り戻す!
今はそれだけ考えよう。









ー数日後ー


谷口の目撃情報が入り、キャタルス王国から南の方角にある雪山に向かっていた。
ロミーさん救出に少しだけ希望みえた気がする。
魔神騒動でキャタルスシティは大ダメージを受けていた為、飛空艇の修理が終わるまで数日待ってやっと、今朝ロミーさんの元へ一歩進んだところだ。
元々キャタルスシティ周辺は寒い方だったけど、山の方へ近づくにつれ辺りはすっかり雪景色になっていた。




あれからバニラは、ずっと眠っている。
観測者さんもすっかり大人しくなりバニラを抱えたままずっと、フィオナ様の部屋の隅で小さくなっているようだ。

「・・・そうか、彼(谷口)と一緒にいたと言う男の情報はまだ無いのだな」
「はい、申し訳ございません。未だ掴めておりません・・・」

クラウドさんがシルバーズさんに深々と頭を下げ、情報の少なさに心を痛めているようだった。
今向かっている雪山は『霊峰クィンガラン』神聖な地の為、普段は入山規制されている場所に俺達はキャタルス王国から飛空艇に乗り向かっている。

「うぅぅ、寒っ!フィン、もう少しこの部屋暖かくならないかしら?」
「暖炉の火を強く致しますね」
 
魔法が使える世界でも暖の取り方は原始的なんだな・・・

「皆様、霊峰クィンガランまでは、明日の朝までかかるかと思われますので、それまではゆっくりとお休みくださいますよう・・・」
「ありがとうクラウドさん」

この時期は雪深く視界不良の為、飛空艇でも丸1日はかかるそうだ。まぁ陸路だとしても、馬車で数日はかかるらしいく、この雪では歩いて登る者はいない。
無駄に長い待ち時間にもこの世界に来て、だいぶ慣れたな・・・







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