Re-start 異世界生活って結構自分に合っている件

ロミにゃん

76 輝の記憶




「・・・部長?部長!大丈夫ですか?」

誰かに呼ばれ、目が覚めた。周りを見ると、会社の自分の席で寝てしまったようだ。

「スマホを忘れたんで、取りに来たらこんな時間なのに部長がいて驚きましたよ。ってか眠っちゃうほどお疲れなんですね」

寝ていた?今まで、何かしていたような・・・

「そうか、すまない、今何時?」
「20:30ですよ。これから二次会でみんなとカラオケ行くんですが!部長もどうです?」
「谷口・・・」
「なんです?」
「いや、今日は帰るよ」

今日は帰ってゆっくりするか・・・

会社を出て駅に向かい、電車に乗る。
なんら変わりのないいつもの事だ。
帰りに近所のスーパーで夕飯買って、帰宅後はシャワーを浴びて、録画を流しながら夕飯を食べて、寝る。
毎日同じ変わりのないこと。
少し前に俺は部長に昇進した。それ以来忙しい日々を送っている。




近所のスーパーに立ち寄って、夕飯に何を食べるか見ていると、聞き覚えのある声が聞こえた。

「あー、うん、なんか用事できたみたいで、今日は無しになったから、さっき帰ってきて、今はいつものスーパーでお買い物中ですよー。桜子さんは二次会ですか?そっかー楽しんできてねぇ。いや、私はいいです。何か買って帰って食べながらゲームします。あはは」

振り返ると、水色のジャージを着た女性が電話をしているが、後ろを向いていて顔は見えない。

「じゃーねー、楽しんできてねー」

俺はカップ麺と安くなった焼き鳥を手に取り、飲み物を取りに向かった時、声をかけられた。

「あ、もしかして部長ですか!?」

振り返ると、先ほどの水色ジャージの女性が立っていた。
メガネをかけていて、一瞬誰か分からなかったけど、直ぐに橘さんだとわかった。

「しまった!つい、声かけちゃった!ジャージだった!みないでください、声かけといて、すみません」

目の前で、コロコロかわる表情を見せてくれる橘さんが可愛くて、笑ってしまった。

「くすくす、橘さん、普段メガネなんですね」
「あー、はい、あんまりみないで下さい・・・」

橘さんは、カートのカゴの中にお肉や野菜が入っているから自炊するんだと分かる。

「カップ麺と焼き鳥ですか?」
「いつもこれくらいの時間だから、作る気にはなれなくてね」

時間があれば自炊でもするんだけど、疲れていると中々作る気になれない。

「あー・・・よかったら、どうせまとめて作って冷凍するだけなんで、一緒にどうですか?上手くないですけど、」

驚いた。
まさか橘さんから誘ってくれるなんて。

「あぁ!!!・・・やっぱなしでお願いします。会社の人達に何言われるかわかんないしなぁ」
「家、直ぐそこだから僕の家で良いですか」
「え、あ、はい!」


なんか、流れで、橘さんが俺の家に料理を作りにきてくれるとか・・・橘さんは俺の部下だ。
ここに、やましい気持ちは一切ない。
大丈夫。たまたまお互い夕飯がまだだっただけのこと、利害が一致しただけの事。



「なっ、ココですか!?タワーマンション・・・」
「はは、どうぞ」

ものすごーく橘さんが驚いている。
家の中に入るまで流石に気まずすぎて会話がなかった。

「橘さん、僕も手伝うので、何でも言ってください」
「じゃー・・・」

手際よく食材を切りフライパンに入れ炒めていると、橘さんがソワソワしているのに気がついた。

「どうしました?」
「い、いや、私よりも全然料理うまいなぁと・・・結局、上城部長がほとんど作っちゃったし」
「料理は割と好きな方だから。最近は疲れてあまりする気になれなかったけど、こうして誰かと一緒になら全然苦にならないね」
「・・・ここまで上手だとなんか、負けた気分になるじゃないですかっ」
「え?」
「何でも無いでーす!あはは、ご飯どれくらい食べれます?これくらいですかね?」
「そんな漫画みたいな大盛り、食べれないから!」



誰かと楽しく会話をしながら食事をしたのって久しぶりだな・・・
会社の飲み会と違って、家なら堅苦しいスーツ着なくていいしな、やっぱ家は落ち着く。

「橘さん、もしよかったら、時々でいいからまたこうして、夕飯一緒に食べません?」
「え?」
「いや、変な気持ちは一切なくて、飲み会とかは疲れるし、外食ばかりもアレだし、かと言って一人だとインスタントで済ませてしまうし、また橘さんがいてくれたら、料理も楽しく一緒にできるから、どうかなって」
「あー・・・」

勢いで誘っちゃったけど、嫌だよな、きっと。
男の家にあがるのとか、普通。

「いや、全然、断ってくれていいからね」
「ここって、夏になると花火見えます?」
「え?あ、うん。周りに低い建物ばかりだからね、見れるよ」
「じゃーきます」
「え?」
「花火大会の日、予約します!貢物持ってきます!お酒がいいですか!?」
「・・・ぷっはは、ははは」
「え?何か私変なこと言いました?」

橘さんってほかの女性とは違う、俺を見る目が全然違う。
こんなにも俺を男として見ていない人って初めてだ。態度や話し方でわかる。
俺に近づいてくる女性で色目を全く使わない人は初めてだ。


「まだ、だーいぶ先の話だけどね、その時は、身一つで大丈夫だから」



それから、週1のペースで橘さんがきてくれて、一緒に料理をして、作り置きを沢山作った。
これで、数日分の夕飯はここから食べられるし、冷蔵庫にこんなに食べ物が詰まってるのは久しぶりだった。

それからは仕事終わりで、何度か他の人達と交えて会って、休みの日に会うことはなかったけど、谷口、蒼野さん、三日月、橘さんの五人で飲みに行ったり、カラオケに行ったり、する事が増え、充実した日々を送っていたある日、事件は起こった。

数ヶ月が経った頃。

最近、部署内の空気が重い。次々に部下が辞めていくし、異動を申し出る人も少なくない。
飲み会もここ1ヶ月くらい誰からも誘われなくなった。

朽田係長がパワハラをしているのではないかと、噂は聞いているが、証拠がない。
次々にターゲットが変わっているのはなんとなくわかっている。

それとは関係あるか分からないけど、最近橘さんの元気も無い気がする。
谷口も最近様子がおかしい、仕事を遅刻したり休みが増えている。

蒼野さんが最近、体調不良を理由に仕事を休むようになったし、その頃から、飲み会に誘われなくなった。
橘さんも最近俺の事を避けるようになった気がする・・・誘いづらくなった。


明らかにみんなの様子がおかしい。

部署内の空気が悪い。
パワハラの事実を調査してもらわないと。

今朝は会議の資料を準備するため2時間早く出社した俺はデスクにカバンを置き、PCの電源いれてデスクトップの周りに貼られた沢山のメモをチェックした。
前日からの引き継ぎなど、毎日このメモからチェックを始める。
電源が立ち上がる前に俺はトイレに向かい、戻る途中にコーヒーを買っていると、誰かが、部署から出ていくのが見えた。

こんな早い時間に誰かと思い、何となくその人物を目で追った。

部署から出て行った人物は廊下の先に居た別の誰かと話をしている。

谷口?・・・と、蒼野さん???

蒼野さんは少し前から体調不良を訴え出社していない。谷口も今週いっぱい休むと聞いていたんだが・・・

何をしているんだ???



自販機から出てきたコーヒーを手に取り、自分のデスクに戻ると、一枚の用紙が置かれていた。
それと同じものが、部署内の全ての机の上に置かれているのに気がついた。


その用紙には、ある人物のパワハラを思わせる文章だった。
俺はこの用紙を手にパワハラを止められるかもしれない、と思い走り出した。





ーシルバーシティ リオン邸ー


「・・・♪」

ロミーさんの声で目が覚めた。
この歌・・・『Serenade Selene』の時にフィオナ様が詠唱していたものだ・・・心地いいな・・・ロミーさんの声・・・

「ロミーさん・・・」
「・・・はっ!!良かった!目が覚めたんですね!!」

目を開けると、宙に浮くロミーさんが、泣きそうな顔で俺を見ていた。

「本当にすみませんでした!私のせいで上城さんが階段から落ちちゃって!!ごめんなさい、ごめんなさいっ」

ずっと謝り続けるロミーさんの目から涙が零れ落ち、俺の頬に当たった。

「泣かないでよロミーさん・・・」

ロミーさんの頬に手を伸ばし涙をそっと指で拭った。
すると、ロミーさんの体が俺の上に突然落ちた。

「ぐはっ」
「ぎゃ!わ!す、すみません!膝がお腹に!!!ごめんなさいっごめんなさい!!!あれ!?また意識無くした!?か、上城さーーーーん!!!!」




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