ブレードパラダイス〜女装少年奮戦記

よなぷー

053ソーキン

 今度の乱戦はしかし、先程よりかはぬるかった。魔物たちに覇気は感じられず、まるで戦いたくないのにけしかけられて仕方なく、という印象を受ける。

 当然そんなおよび腰の怪物たちなど、勇者2人の敵ではない。今度は比較的あっさりと、素早く敵たちを一掃いっそうする。

みょうだな。簡単過ぎる。まるで嫌々襲撃してくるかのようだ」

 カイザ王子のつぶやきは、その後すぐ理由が判明した。青白く燃え上がる複数の火球を従え、1人の男が現れたのだ。

 魔王の大陸というまがまがしい場所に、それは不釣り合いな美麗さだった。風になびく緑色の長髪。細い眉に隠れるような、彫りの深い両目。高い鼻梁びりょう。人を妖しい気持ちにさせる濡れた唇に、シャープなあごのライン。そして精巧せいこう意匠いしょう板金はんきん鎧とマント――

 彼はうやうやしく頭を下げた。まるで小馬鹿にするように。

「お初にお目にかかります。拙者は魔王様の側近、ソーキンと申します」

 ソーキン? ゲップ国王が『魔人の中でも最強の存在で、魔王様の片腕だ』と語った、あのソーキン?

「どうも魔物たちはあなた方――勇者カイザ様、勇者カレイド様の強さに恐れをなしているようで、みっともないことこの上ありません。……ああ、そう殺気立たず」

 カイザ王子が剣を構えたまま、魔王の側近に相対する。

「ソーキンとやら、どうして我らを知っている? 怪物たちをけしかけておいて、その態度は何だ?」

 ソーキンは薄く笑った。

「マンプク王国より飛来した魔物の鳥から、情報が書かれたメモを受け取ったのですよ。……魔王様からは『ダンジョンへの侵入を許すな』『直前で叩け』と直々じきじきに命じられましてね。それで今宵こよいの一斉攻撃を敢行かんこうしたのです。まさかここまでお2人がお強いとは想定外でした」

 カレイドが剣を振った。その衝撃波がソーキンに届くや否や、鋭く重たい音がして光が砕け散る。奴は何もしていないのにもかかわらず、一撃は完全に防がれたのだ。

「なるほど、ただの魔人ではなさそうだな」

「いきなり斬殺ですか? 失礼な」

 ソーキンがお返しとばかりに手を振る。烈風れっぷうが吹きすさび、勇者をのぞく俺たちは弾き飛ばされた。

「魔王様の御意志です。あなた方はこの場で拙者、ソーキンが始末してしまいましょう。……ただ、その前に」

 彼は火の玉10個ほどをこちらへ飛ばした。身構える俺たちに、しかしそれは襲いかからず頭上をさまよう。やがて何かを発見したかのように、ある人間のもとに集結した。

「な、何?」

 武闘家ケルだ。彼女は火球に囲まれて立ち尽くす。誰もがそちらに注意を向けた、そのときだった。

「ぐあっ!」

 俺はまた前方を見た。ソーキンが跳躍ちょうやくし、カイザ王子の頭を蹴り飛ばしていた。やられた側は大きく吹っ飛び、地面をけずりながら転がっていく。

「よくも王子を!」

 カレイドが激怒して斬りかかった。魔王のしもべは驚異的な身体能力を発揮して、終わりがないような乱撃を全てかわす。

「この程度で魔王様に挑戦とは、なかなか笑えるじゃないですか」

 ソーキンの右手の平がカレイドの腹部に触れた。と思った次の瞬間にはもう、勇者は弾かれたように後方へ飛ばされていた。

「うぐぅっ!」

 信じられない。あの超人的な強さの勇者たちが、こうもあっけなく転がされるなんて。

「きゃあっ!」

 ケルの声にそちらを見れば、彼女はまさに石像の悪魔ガーゴイルに羽交い締めにされ、連れ去られるところだった。真上に飛び上がり、かつ両者が密着しているため、俺は『音撃』を撃ちようもない。ガーゴイルはそのまま夜の闇へと飛び去っていった。青く燃える人魂は再びソーキンの周囲に戻っていく。

 どうやらソーキンはケルの情報も掴んでいたようだが、なぜ彼女をさらったのか理由が分からない。勇者エイユの子孫だからだろうか?

――というより、そんなことを考えているほど事態は暇ではなかった。ソーキンは武器を持たず、体術のみで一行を攻撃してくる。まだ戦闘意欲が残っている魔物たちと共に、次々に冒険者や従者を殺さんと力を振るってきた。

「くたばれ!」

 俺はイナーズを殴り飛ばしたソーキンめがけ、銀の波――『音撃』を放つ。それはカレイドの剣風けんぷうとは異なり、防がれることもなく奴の脇腹を直撃した。

「ぐはっ」

 ソーキンが横倒しになり、負傷箇所を押さえつついつくばる。そこへ立ち直ったカイザ王子が剣で襲いかかるが、これは素早い横転によってかわされた。

 魔王の側近は宙に飛翔し、俺をにらみつける。火の出るような怒りに燃えた目だった。

「この拙者に一撃? あなたはどうやら普通の人間ではなさそうですね」

 俺は「うるさい!」と叫び、再びソーキンを狙い撃ちする。だが今度は見切られ、すんでのところでかわされた。

「あなたも興味深い素材だ。誘拐するとしよう」

 ソーキンは俺目指して飛びかかってきた。俺は「来るな!」「近づくな!」と連続で『音撃』を放ったが、彼はたくみな動きでことごとく回避する。

 気がついたときには背後に回り込まれていた。俺が振り向くより早く、鈍器のようなもの――多分拳だろう――で後頭部を殴りつけられる。

「ヒロ!」

 カイザ王子の絶叫が聞こえたのを最後に、俺は暗闇に転落していった……

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コメント

  • よなぷー

    ありがとうございます!(^◇^)

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  • AZAMI

    神作決定

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