ブレードパラダイス〜女装少年奮戦記

よなぷー

052魔物の襲来

 俺は一瞬で覚醒かくせいした。焚き火の明かりの届く範囲にまで、魔物が大挙侵入してきていることに驚愕きょうがくする。

「来るなっ!」

 俺は『音撃』で、噛みついてこようとした巨大おおかみを吹っ飛ばした。別の冒険者を攻撃している六つ目の熊に、またチート技を叩きつける。熊は大の字に倒れたが、それを乗り越えてまた新たな獣が躍りかかってきた。

 俺はあちこちから聞こえてくる悲鳴や怒号、苦痛にうめく声に、ただひたすら恐怖して、『音撃』を繰り出し続ける。焚き火を背にして自然と円陣が組まれ、外からかかってくる一つ目の巨人サイクロプス巨大な蟻キラーアントなどの魔物との死闘が続いた。

 カイザ王子や勇者カレイドが獅子奮迅ししふんじんの活躍を見せ、ここでも強大な力を発揮している。乱戦の中で的確な威力いりょく、範囲の剣撃を放ち、怪物たちからひ弱な同行者たちを守り続けた。

「ぎゃああっ!」

 それでも次々にいてくる化け物たちから、50名弱の魔王討伐隊全員を助けるのは至難の技らしい。猛牛の魔物のつのをまともに受け、宙を舞うものがいた。カブト虫のような頭部を持ったナメクジに押し潰される者もいた。勇者が討ちもらした竜に火炎放射で焼かれた者も――直後に魔物は斬殺されたが――複数名いた。

 襲撃自体は1時間弱で途絶えた。その間叫び続けた俺はのどがカラカラだ。生き残った皆んなは汗だくで血まみれで、どこまでが自分の出血でどこからが返り血なのかも分からなかった。それほどの、死力を尽くした戦いだった。彼我ひがの大量の死体を前に、ある者はうずくまり、ある者はひざまずき、ある者は大の字になって、乱れた呼吸がおさまるのを待っている。精魂せいこん尽き果てた様子なのは、勇者の2人以外皆んなそうだった。

 カイザ王子は広院に手当てを受けている。我が妹はすり傷こそ肘や膝にこしらえたものの、比較的元気そうだった。まあ王子が最優先で守っただろうから、これは当然か。

 一方アクジョは俺が見てみると、テントの中で頭を抱えて震え上がっていた。「ひとまず終わったみたいだぞ」と話しかけると、おびえと戦慄せんりつとで泣き濡らした顔を上げた。

「私、生き延びたの?」

「ああ。今んところはな」

「良かった……!」

 情けなく嗚咽おえつする。俺はため息をつくと、テントにあった皮袋の水でのど湿しめらせた。

「とりあえず居候いそうろうの義理は果たしただろ。今回はテントごと守り切ったけど、次回からは自分の手で防げよ、アクジョ」

「無理よ!」

 彼女はきつい顔になって、俺の襟首えりくびに掴みかかった。

「あなたは私の物なんだから! 責任持って主人あるじを守りなさいよ! 今までも、これから先も、ずっと!」

 俺は辟易へきえきしてアクジョの両手首をやんわり外した。

「分かった、分かったよ。そう怒るな」

 魔王の大陸で、頼れるのは勇者を初めとする仲間たちだけだ。今更アクジョ1人を帰らせるわけにもいかないし……

「約束するよ。守り切る。ただ、俺は物じゃないからな」

「じゃあ何よ」

「対等な従者だよ。ともかくもう泣くな、いいな」

 俺はテントを出た。すると仲間たちに突然剣を向けられた。何だ?

 ビックリする俺にカパラウが重々しく告げる。

「ヒロ。あの口から銀の波を放つ技、一体どういう仕組みなのかな?」

 ああ、そう言えばカイザ王子や勇者カレイド、イナーズ、ウーザイなどの少数を除き、俺の『音撃』を見るのは初めてって人も多いか。

「ひょっとして、いや、間違いない。君は魔物だね? それも魔人という奴だ、そうだろう?」

 俺は冷や汗が背中を伝うのを感じた。『ブレードパラダイス』というゲームの中に入り込んだ人間。女神シンセからチート技『音撃』をもらった村人A――。そう説明出来るわけもなく、俺は刺されたら痛そうな剣尖けんせんを見つめた。

 そこで助け船を出してくれたのはカイザ王子だ。カパラウの剣を握る手を押さえる。

「ヒロは僕らの味方だ。僕も初めて見たときは驚いたが、彼女はいつもその技を僕らのために使ってくれた。今さっきの敵襲でもそうだっただろう? 彼女は敵じゃない。立派な仲間だ。……さあ、剣を下ろしてくれ、皆んな」

 カパラウは剣を収めた。他の数名の冒険者もそれにならう。ありがたいことだった。王子に対し、俺は頭を下げる。

「助かりました。これからもよろしくお願い致します」

「何、当然のことをしたまでさ。さあ皆んな、次の敵襲までの間に、負傷者を手当てして死者を一箇所に集めよう。朝日が出るまで――『治癒ちゆの法術』が使えるようになるまで、まだまだ警戒をおこたるな」

 冒険者『戦士』イナーズは亡くなった従者をいたんでいた。まだ20歳そこそこの死者を丁重ていちょうに抱きかかえて運ぶ。

「ヨワイス……。今まで良くやってくれた。ありがとう。……ちくしょう」

 この1年負傷さえしたことがない、と豪語していたイナーズだったが、その肩や胸の鎖かたびらは破け、血が出ていた。やはり魔王の居場所に近づくにつれ、魔物は強くなっているようだ。

 彼は死者の列にヨワイスを横たえると、布で自分の目元をぬぐった。死んだ命は生き返らない。たとえ『治癒の法術』でも不可能だ。運ぶことも出来ない以上、ここに放置するしかない。

 生き長らえた者はしかし、休む暇もなかった。また魔物たちが現れたのだ。カレイドが剣を振るってなぎ倒す。

 俺は固形化した音の波で怪物に立ち向かった。

「ブレードパラダイス〜女装少年奮戦記」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く