ブレードパラダイス〜女装少年奮戦記

よなぷー

048カイザとカレイド

「勇者はもちろん冒険者ギルドが認める最高職だ。それゆえに単なる知識・知恵・身体能力の試験だけでは済まされない。性格や思考・信仰なども検定されるんだ」

 カレイドはんで含めるように話す。

「その中でも信仰って奴が大事でね。幼い頃からずっと教会に通い、神をたたえる文句を詠唱えいしょうして、その存在と加護かごを疑わない。これが司祭や助祭、はたまた司教や大司教様ならいざ知らず、俺みたいな普通の中流貴族にはなかなか大変なんだ」

 俺は分かるような分からんような、微妙な顔をしていたのだろう。端整な顔立ちの青年は、苦笑いしてあごをかいた。

「だってそうだろ? 神様をあがめるってのは自分自身を屈服させるってことだからな。貴族の坊っちゃん嬢ちゃんにはなかなか出来ないことさ。何せ連中といえば他人をおとしめのし上がろう、のし上がろうって奴ばかりだからな。たとえ神が相手でも、どこかふてくされて信じた振りをするのが関の山さ。そんな中で俺は、カイザ王子に忠誠を誓うことで、どうにか信仰を保持してこれたんだ。あのお方にやれと言われたことは全部やってきた。今までも、そしてこれからも、な」

 兜を脱いで緑がかった黒い短髪をあらわにした。指でかきむしる。

「ま、そういうわけで別に冒険者ギルドに認められなくても、資質があれば勇者なのさ、要はな。この伝説の武具の潜在能力は勇者のみ発揮できる。舞踏会場で勇者認定前の俺がドラゴンをぶった斬ったろ? そういうことさ」

 なるほど。……ついでにカイザ王子とカレイドの関わりについても、この際だから聞いておこう。

「王子殿下とはいつ頃お知り合いになられたんですか?」

 勇者は水平線を遠い目で見つめた。はるか昔の記憶を探るように。

「……19年前、もうすぐ20年か。つまり、あのお方がご生誕なされてからだ。俺は10かそこらで、親父から命じられたんだ。このカイザ王子に一生の忠義を尽くせ、ってな。生まれたばかりの赤ん坊を前にだぜ。笑っちまうよな」

 往時おうじを懐かしんだか、目元がほころぶ。

「それからはカイザ王子と付かず離れずの距離で接した。俺の親父は中流貴族だったが、王妃様の縁戚えんせきで信頼厚かったんだ。だから大役を任されたんだが、正直楽しかったよ。もちろん最初は大変だったさ。だがやがて王子があちこち駆け回るようになると、鬼ごっこや隠れんぼで遊びまくって、疲れるということを知らなかった。俺と王子はうまがあったんだ。充実していたね」

 肩をすくめた。

「でも、王子はやがて勉学中心にその生活を傾けていった。家庭教師がついて学問を追求し始めると、俺と遊ぶ時間は急激に失われていった。俺はいなくなって初めて、カイザ王子という存在の大きさを思い知り、切なくなったよ。それからさ。俺も猛勉強して、将来に渡っても末永くより良い臣下でいられるように、って思い極めたのは。あのお方が地方貴族――イナーズとか――の領地へ逗留とうりゅうし、より広い見識を得られている間も、俺は自己の研鑽けんさんを休まなかった」

 背をそらし、腰を伸ばす。大儀たいぎそうにうめいた。

「そうして数年後、王子がゼイタク王国首都に戻ったときには、俺は誰にも負けない――あのお方にとって一番の――忠臣の位置を得ていた。時折彼が見せる、あの子供のような笑顔を目の当たりにするたびに、俺は幸福を感じたよ。まあつまりだ」

 カレイドは俺の頭に手を載せた。

「俺の人生はカイザ王子にささげてるってわけさ。俺は魔王退治なんかホントは乗り気じゃねえけど、王子が行くなら俺も行く。王子が勇者になるなら俺もなる。地の果てまでもつかえ、彼のために尽くすつもりなんだ。あのお方が勘弁してくれ、って言うまでな」

 どこかふてくされていて、どこか憎めない雰囲気のカレイドだったが、俺は話を聞いて、彼の中に芯が一本通っていると感じた。カイザ王子はいい部下に恵まれたものだ。

 俺は斜め前方を見た。王子の船影が海上を滑っていく。

「じゃあカレイド様は、本当はあちらに乗りたかったんですか?」

 ひげの男は哄笑こうしょうした。

「まあな。でもまあ、勇者が分乗しないといざって時にやばいからな。船1隻に同乗していたら、それが沈没でもすりゃ魔王を倒せる者がいなくなっちまうしよ。まあ後少しの我慢さ」

 そのとき、王子の船が減速した。何かに引っかかったかのように急に動きが鈍くなる。カレイドが背後に叫んだ。

「減速しろ!」

 帆の一部が急いでたたまれる。俺と勇者は前方の帆船に、何か巨大な物が取り付いていることに気がついた。月明かりのもと目をらす。

「何だありゃあ……!」

 巨大なイカ。そうとしか見えなかった。それが船の胴体に何本もの触手を絡ませ、引きずり倒そうとしている。カレイドの落ち着きが吹っ飛んだ。

「カイザ王子殿下っ!」

 その大きな魔物――クラーケンは、木材の砕け折れる音を響かせながら、もう60度くらいまで獲物を引っ張りこんでいた。このままでは転覆してしまう。

「船を向こうに寄せるんだ! 早くしろ!」

 カレイドは剣を抜くと、じりじりと接近を待った。クラーケンはそのとがった頭部から8つの赤い目をのぞかせ、無造作に船体をへし折っていく。

 カイザ王子は何してるんだ? 俺はクラーケンに一向反撃しない勇者が気になって仕方なかった。眠っているのだろうか?

 カレイドが叫んだ。

「王子! 今行きますぜ!」

 寄り添う船の片一方からもう片方へ、カレイドは大跳躍して飛び移った。

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