ブレードパラダイス〜女装少年奮戦記

よなぷー

046帆船

 城壁の上の見張り兵たちが、こちらに弓矢を構えつつ叫んだ。

「貴殿らは何者か! 用向きと共に答えよ!」

 カイザ王子は毅然きぜんと応じる。

「僕はゼイタク王国王子カイザだ! 貴国の王の身柄を預かっている! ……カレイド」

 無精髭ぶしょうひげの勇者が、縄で胴をぐるぐる巻きにされたゲップを披露した。王子は騒然とする相手に厳しく言い放つ。

「我々はこの港の帆船はんせんせきを要求する! ゲップ国王の命が惜しくば今すぐ門を開けられよ!」

 兵士たちはひどく狼狽ろうばいしておののき、数人が「しばし待たれよ!」と城門塔に駆け込んだ。

 どうやら国王誘拐の報は、この港町ポートにはまだ届いていなかったらしい。首都から早馬はやうまは出ているのだろうが、俺たちの方が先だったというわけだ。

 城門が轟音ごうおんと共に左右に開く。途端に浜風はまかぜが俺たちをなぶった。えらそうな、口髭をたくわえた偉丈夫いじょうぶが進み出てくる。

「国王をお返しいただこう」

 カイザ王子は首を振った。

「そうはいかぬ。これより我々が海に出るまで、大事な人質として確保させてもらう。……その気になれば……」

 剣を抜いて真横へ振った。すさまじい衝撃波が大地を割り、土砂どしゃを巻き上げて亀裂を刻み込む。鼓膜こまくに厳しい爆音だった。あまりの出来事に、兵士は目を丸くする。

「も、もしや『勇者』……?」

 王子は武器を鞘に落とした。

「そのもしやだ。僕たちはその気になれば、この港町を壊滅することもできるのだ。ことを穏便おんびんに済ませたい。道を開けよ」

「くっ……!」

 渋々しぶしぶ、といった具合で、衛兵たちは左右に分かれた。偉丈夫が恐怖で震えている。

「承知しました。お通りなされい。帆船までご案内いたそう」

 俺たち50名弱の一行は、周囲に警戒しながら門をくぐっていった。アクジョが馬車の窓から異国の街を眺める。実に興味深そうだ。先日はケルの手で王都にさらわれたものの、深甚しんじんな恐怖と夜だったせいで、街並みを楽しむことはできなかったのだ。

「たくましい男が多いわね……。ウーザイみたいで気持ち悪いわ」

 ひどいことを言う。

 たるを満載した荷馬車がすれ違う。少年数名が俺たち異国人の後ろを物珍しげについてきた。大小様々な店舗が並び、パン屋のこうばしい匂いが漂って空腹に気づかされる。夕暮れ前の街道は、市場から帰る途中なのであろう、食料をカゴに入れた女性が目立った。

 それにしても……と俺はアクジョに尋ねた。

「あんまり栄えていない感じじゃないか?」

「確かにね。皆んな着ているものが安物だわ」

「いやいや、そうじゃなくて。フゴー財閥のお前なら何でも安物に見えるだろうよ。……俺が言いたいのは、活気が足りないってことさ」

 アクジョは思い当たったのか、熱心に首を縦に振った。

「そうね。やっぱり海峡かいきょうがあっても、魔王の嫌な空気がここにまでも及んでいる感じだわ」

 王都とそっくりだった。人々はどんより暗く、まるで明日がないかのように重い足取りだった。こころなしかうつむいている通行人が多い。

 15分ほど歩くと船着場ふなつきばについた。縦帆じゅうはん横帆おうはん木綿もめん製のをマストに巻きつけた、立派な船が居並んでいる。夕日に照らされて美景びけいだった。積み下ろしを終えて疲労困憊ひろうこんぱいの船員たちが、食事と宿を求めて港町ポートの盛り場へと歩いていく。

 入れ替わるように、俺たち一行は馬や馬車を停めて地面に降り立った。カイザ王子が先導した兵士に聞く。

「国王ゲップ殿を連行するんだ、それなりの船を要求させてもらおう。僕とカレイド、二手に分かれて乗るからよろしく」

「し、しばしお待ちを」

 駆け出そうとする番兵の首根っこを掴む。

「僕らをあざむけば国王の命もこの街の未来もないからな。そこのところを忘れるな。25名弱が乗り込めて、なるべく速い奴を2隻頼む。では、僕らが気長きながじゃないことをきもめいじて、行け」

 守衛は青ざめた顔でうなずき、今度こそ走り去った。

 王子は拘束こうそく中のゲップ国王に笑いかけた。

「本来なら陛下を連行する気はなかった。ヒロイさえ救えれば良かったのだからな。それを『魂移し』などするから、あなたを人質とせざるを得なくなった。しかしそれで僕らは、この旅を続けられる強力な切り札を手にしたわけだから、何がどうなるかは分からないものだ」

 枯れ木のようなゲップはやつれ、うらめしげにカイザ王子をにらむ。

「この屈辱……! 余は忘れぬぞ」

 勇者カレイドが干し肉を噛みながら苦笑した。

「せいぜい覚えておくんですな。ただしゲップ殿の生殺与奪せいさつよだつの権利は、我々の手中にあることもお忘れなく」

 マンプク王国国王は悄然しょうぜんとうなだれる。

 やがてさっきの兵士が戻ってきた。隣に身分の高そうな男が3人ついている。その内の代表らしき者が帽子を脱いだ。青年といっていい若さで、おかっぱ頭だ。

「私はマンプク王国海軍総督そうとくのジョナサンです。あなたがゼイタク王国の王子カイザ殿下ですか。お初にお目にかかります」

 この若さで海軍のトップか。俺は感心した。

「船2隻はご用意いたしました。皆さん、こちらへどうぞ」

 俺たちはジョナサンらの後に続いた。もちろんゲップ国王の首筋に刃を近づけて、見せびらかすようにする。

「これをご使用ください」

 到着したのは3本マストの幅広な帆船の前だった。

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