ブレードパラダイス〜女装少年奮戦記

よなぷー

045葬儀

 太陽が昇る。山のに最初の輝きを見せると、それは次第に強くなり、やがて本体が姿を現した。

「きゃっ!」

 陽光が地上を一閃し、凄惨せいさんな光景を浮かび上がらせる。アクジョは俺にしがみつき、改めて突きつけられた戦場の残骸ざんがいに恐怖した。

 勇者カレイドが、冒険者たち50余名が死力を尽くした激闘の名残なごりには、俺も息を飲まざるを得ない。槍や剣、鎧や盾で武装したおびただしい数の敵兵士たち。彼らに操られ、もしくは味方して散っていった魔物たち。その残酷ざんこくな末路が視界をあっしてくる。

 まさに屍山血河しざんけつが。勇者カレイドはその獅子奮迅ししふんじんの活躍で敵襲を粉砕し、味方を救ったのだ。

 俺に身を寄せていたアクジョが、ふとそうした自分を恥じるかのようにパッと離れた。少し頰を赤らめ、取りつくろうように立ち上がる。

「戻りましょ、ヒロ。もう眠たいわ」

 俺たちが帰還すると、そこは僧侶たちの独壇場どくだんじょうだった。負傷した者が『治癒ちゆの法術』で片っ端から治療されている。カイザ王子も左目の傷を手当てされていた。

 俺から衣服を返されたゲップ国王は、逆らうこともなくそれを着る。威厳いげんの感じられない、生気の枯渇こかつした相貌そうぼうだった。

 馬も治癒され、戦闘で落命した6人以外、皆は完全復活した。カイザ王子が完治した左目をこすりつつ、一同に演説する。

「我々の手中にはゲップ国王の身柄がある。これを盾に、王都を迂回うかいしつつ南下して、魔王の大陸への港を目指す。裏切り者の武闘家ケルは――」

 縄について神妙にしているケルを一瞥いちべつした。

「勇者エイユの子孫だ、無下むげにも出来まい。拘束したまま連行する。ここに置いておいたら確実に殺されるだろうからな」

 こうして俺たち魔王討伐隊は、再び行軍を開始した。ほりを回ってマンプク王国首都を後にする。さすがにりたのか、ゲップ国王という人質が効いているのか、連中が手を出してくることは一切なかった。



「まあ安らかに眠ってくれ、同胞どうほうたちよ」

 勇者カレイドが兜を取って頭を下げる。カイザ王子にならったものだ。俺たちも同様に一礼した。

 ここは首都から遠く離れた平地。死んだ仲間6名を残すことも出来ず、かと言って腐るまで持ち運ぶことも出来ず、とりあえずの危険が去った昼時に、大地へと埋葬まいそうしたのだ。

 おごそかな雰囲気の中、僧侶の代表ナオスが祈祷きとうして、それぞれが献花する。現状出来る範囲内での葬儀を終えると、また旅の準備に入った。

「ねえヒロ、私たち別に魔王の大陸を目指さなくてもいいんじゃない?」

 アクジョが髪をくしけずりながら俺に問う。

「魔王退治には、ずば抜けた実力のある勇者2人だけで行ってもらうのよ。で、私たちは国王ゲップを人質に北へと引き返す。それが一番安全だわ」

 カイザ王子をあきらめた途端にこれだ。俺は新しいドレス――また女装だ――を着つつ答えた。

「魔王の大陸に行くには海を渡らなきゃならないんだろ? 2人だけで操船そうせんさせるのかよ。それにここまで来て今更サヨナラだなんて、そんな薄情はくじょうな真似もしたくないし」

義理堅ぎりがたいのね」

「第一少人数だと、謀殺された勇者エイユの悲劇が繰り返されないとも限らない。寝食しんしょくを考えても、やっぱり50名弱の今の人数で進行した方が、勇者の危険が少なくて済む」

「はいはい、分かったわよ」

 アクジョの幼馴染、筋肉馬鹿のウーザイが寄ってきた。

「アクジョ! 結婚しようぜ」

「嫌よ」

 デカブツがふられるのはこれで何回目になるんだ? りない奴。

 俺は2人を置いといて、冒険者『探検家』のカパラウに話しかけた。ややせ気味の壮年の男で、神経質にまばたきをしまくっている。髪、チュニック、パンツと、全身茶色づくしだった。

『探検家』は地図の作成や魔物の研究、建造物の探索などなど、専門的知識を評価される職業だ。果たして彼は古文書を再読している途中だった。

「南の港まであとどれくらいですか?」

 カパラウはちょうどそれを調べていたらしく、即答した。

「ん、そうだね。2日もかからないと思うよ。100年以上前の地図だけど、当時の商人たちが苦労してゼイタク王国に持ち帰ったものだからね。信憑性しんぴょうせいはある」

 僕はね、と彼は続けた。

「今この手で、地図の100年振りの更新を行なっている最中なんだ。こんな名誉なことはない。最後の最後まで付き合って、出来れば魔王のダンジョンにも乗り込みたいと思ってる。僕は非力ひりきだけど、非力には非力なりの役立ち方がある。そう信じてるんだ」

 俺は苦笑した。その言葉、アクジョに聞かせてやりたい。

「頑張りましょう!」

「君も若いからかタフだね。頑張ろう」

 カイザ王子の大声が響き渡る。

「では乗り込め! 出発だ!」

 俺はいつものようにアクジョと相乗りの馬車に席を占めた。ゲップ国王は別の馬車に乗せられたらしい。先頭はやはり王子が、最後尾は勇者カレイドがそれぞれ守る。

「進め! 目指すは港町ポートだ!」

 その後はだんだん強くなる魔物たち――勇者の敵ではなかったが――を蹴散らし、食べられるものは食べて、昼に進み夜に休んで、ひたすら南下した。

 そうして到着したのは、なかなか雄壮ゆうそうな門構えの、海岸の街だった。

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