ブレードパラダイス〜女装少年奮戦記

よなぷー

040救出

 守衛たちが長槍を繰り出してきた。王子はかろやかにバックステップし、広院を肩にかつぐ。剣を抜き、一振りした。

 たちまち鋭利な衝撃波が放たれ、眼前の兵士たちがまとめてなぎ倒される。後詰ごづめが激しくうろたえた。

「何だ今のはっ!」

「ひええっ!」

「た、助けて……!」

 前列からの噴水のような血潮に打たれ、雪崩なだれをうって逃げ散っていく。パニック状態の彼らは上官――警備隊隊長エライングの必死の呼びかけにも耳を貸さず、置き去りにして去っていった。

 カイザ王子が取り残された彼に迫る。

「エライングか、また会ったな。国王ゲップの居所いどころを教えれば命だけは見逃してやるぞ」

 守備隊の長は渋い顔を引き歪めて笑った。

「じゃあ助けてもらおう。国王はこの天守閣の最上階だ」

 勇者カイザも俺も、つられたように塔を見上げた。その瞬間だった。

「今だっ!」

 エライングが口から白い糸を吐き出し、王子の剣に絡みつかせる。どうやら弾力があるらしいその糸は、急速に収縮して武器を奪い取った。警備隊隊長は飛んできたそれを片手でキャッチする。

「やったぜ! これさえこっちの手中なら、もう勇者なんて怖くもなんともないぜ!」

 カイザ王子と俺はエライングの変化に気がついた。顔が黒々として膨れ上がり、衣服が破けて8本の脚が飛び出る。頭胸部と腹部とが確認できるようになり、その姿は一匹の巨大な虫となった。

 思わず叫ぶ。

蜘蛛くも……!」

 どういう仕組みなのか、エライングだった蜘蛛は奇声を上げた。

「ヒャッハーっ! 死ねや、勇者!」

 怪物は俊敏しゅんびんに前進し、カイザ王子に襲いかかった。鎌のような鋏角きょうかくが振り下ろされる。

「うおおっ!」

 王子は広院を俺に放り、両手で鋭利な凶器を受け止めた。伝説の鎧を身にまとっていても、魔物の力にはわずかに及ばないらしい。パワー負けして両膝をついた。

 俺はカイザ王子の肩越しに、思いっ切り叫んだ。

「化け物!」

 最大出力の『音撃』は、蜘蛛の中央を難なく貫き、その巨体を吹っ飛ばして天守閣に叩きつける。エライングだった生き物は、仰向けになって脚を縮こまらせた。死んだようだ。

「助かった、ヒロ」

 カイザ王子は俺に笑いかけると、取られた剣を取り戻そうと歩き出した。だが――

「かかれ、者どもっ!」

 国境守備軍指揮官クッタが、剣を拾いながら部下たちに命じる。態勢を立て直して戻ってきた兵士たちが、一斉に穂先ほさきをこちらへ向けて突進してきた。

 やばい! 俺は王子の前に出ると、連中目がけて咆哮ほうこうしまくった。

「この! うすら! 馬鹿が!」

 三発の銀の波が立て続けに敵兵を蹴散らす。

「ヒロイの! 魂を! 返せ!」

 さらに連続してのど酷使こくしし、クッタもろとも人の群れをなぎ倒した。

「王子殿下! 今です!」

 機を見るにびんなり。彼は将棋倒しの兵士たちを踏み越えクッタに迫った。その手から伝説の剣を奪い返す。小男は月光に輝くカイザ王子の武器に、縮み上がって震えた。

「ひ、ひいいっ!」

 王子はその顔を足蹴あしげにすると、鼻血を撒き散らす彼に興味を示さず戻ってくる。兵士たちは今度こそ恐慌きょうこうおちいり、尻尾を巻いて退散していった。それこそ蜘蛛の子を散らすように。

 勇者はヒロイを肩に抱えつつ言った。

「また助けられたな。ここまで強いとは恐れ入ったよ。まさか正体は魔物で、エライングみたいに変身したりしないよな?」

 彼なりの冗談だ。俺はせいぜい苦笑した。



 俺たちは天守閣に入った。螺旋らせん階段を駆け上り、最上階に到達する。警備兵たちは逃げ出して生き延びるか、戦って命を落とすかの二択で、多くは前者を選んだ。後者の運命は言うまでもない。

「国王ゲップはどこへ行った?」

 恐怖に震え上がる番兵に剣の切っ先を突きつけると、すぐさま大扉まで案内した。王子は蹴り破ってなだれ込む。

「ゲップ! 勇者カイザがやって来たぞ!」

 勇ましく名乗ると、部屋の隅でしゃがみ込む男が奇声を発した。

「うわあっ!」

 俺はランタンの光をかざした。男はまぎれもない、ゲップ国王その人だ。老いた目を神経質にぎらつかせ、挙動不審きょどうふしんにわなないている。ちゃんと首飾りもしていた。あれにヒロイの魂が封じ込められているのだ――黒装束の話では。

 やっとここまで来た。カイザ王子は相手に戦意のないことを知ると、つかつかと近づいて首飾りを要求した。

「それをいただきましょうか。ついでにヒ……アクジョの魂を戻す方法も、うかがってよろしいか?」

 ゲップは情けなく何度もうなずいた。ネックレスを外してカイザ王子に献上する。

「娘の首にかけて光を近づけるのだ。後は揺り起こせば目が覚める……。逆に魂を取る時は首にかけず、胸に押し当てて光を接近させれば良い」

 勇者カイザは首肯しゅこうすると、言われた通りにした。仰向けに寝かせた広院の首飾りへ、ランタンの明かりを差し向ける。

 カイザは奇妙な静寂せいじゃくの中で、愛する少女の体を揺さぶった。ネックレスの宝石がまたたき、それ自身が発光しているような錯覚にとらわれる。

「起きてくれ。ヒロイ。頼むから……」

「ヒロイ?」

 ゲップ国王が首をかしげた。

「あの……。カイザ王子の婚約者はアクジョとかいう小娘で、それはその者なのでは……」

 俺は問いに答えてやった。

「あなた方はアクジョ様ではなくヒロイ様を誘拐したんです。まあヒロイ様は自分の命を守るため、自分はアクジョであると言い続けていたでしょうが……」

「な、何ということだ……」

 そのとき、カイザ王子が歓声を上げた。広院がまぶたを持ち上げたのだ。

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