ブレードパラダイス〜女装少年奮戦記

よなぷー

035方法

「ひ、1人で?」

 従者たちがあわてて翻意ほんいをうながし、騒然そうぜんとなる。イナーズが取り乱して王子の肩を掴んだ。

「む、無茶です! 相手は魔王側と繋がっているといわれるマンプク王国です。給仕きゅうじの刺客、舞踏会のドラゴン、いずれもマンプク王国の手の者と見られています。彼らはカイザ王子のすき虎視眈々こしたんたんと狙い、命を奪おうと考えているのですよ。単独で乗り込むなんて自殺行為もいいところです!」

 カイザ王子はその端整な顔をほころばせた。旧友であり忠誠ちゅうせい厚いイナーズの心配が嬉しいのだろう。だが考えは変えなかった。

「この伝説の装備があれば大丈夫だ。どんな敵にも負けはしない。それに僕が直接出向けば、連中がヒロイというカードを切ってくる可能性がある。僕はヒロイを助けたいんだ」

 まだ19歳とは思えない勇敢ゆうかんさだった。だが無謀としか言いようがない。俺は進み出た。

「お……私がついていきます。いも……親戚のヒロイを助けたいと、私も念願してますし。それに長引いて睡眠を取るとなったとき、寝込みを襲われないよう見張り役が必要でしょう?」

 俺の申し出をさえぎるようにイナーズが割り込んだ。

「それなら私が参ります。冒険者でないヒロに大役を押し付けるわけにはいきません」

 カイザ王子はしばし熟慮じゅくりょするようだった。やがて唇を動かす。

「いや、イナーズはカレイドと共にここで皆を守っていてくれ。特に日が落ちてからは何が襲ってくるか分からない。カレイドの力を発揮するには十分な補佐役が必要だからな」

「そんな……」

 カレイドはイナーズの腕を軽く叩いた。

「まあまあ、王子の命令ですよ。我々は従わんとね。……安心してください王子。皆の命は俺が守ります」

 イナーズは肩を落として引き下がった。カイザ王子が俺の頭に手を置く。

「それではヒロ、熱意は分かった。僕と共に来るんだ。あえて冒険者でない方が、相手も油断するだろう」

 アクジョが俺の耳をつまんで引っ張った。

「ちょっと! あなたは私の所有物なんだからね。王子様の身を全力で守るのよ」

「いてて……はいはい」

 マンプク王国国境守備軍は過半が森の方へと戻って行った。クッタと少数の兵が俺たちの元にやって来る。堀の外に陣を張るこちら側の様子に首を傾げた。

「何をしてらっしゃるのですか?」

「ここで野営やえいする支度したくですよ。王宮には僕とこの娘の2人だけで向かいます」

「げえっ……」

 クッタたちはさすがに驚愕きょうがくしていた。しかし、さすがにそれなりの地位にある者らしく、すぐ感情の波を押し殺す。

「し、承知しました」

 むしろ好都合とでも考え直したか、窮屈きゅうくつそうな笑みを浮かべた。

「では参りましょう。後についてきてください」

 堀にかる跳ね橋を渡る。日はとっぷり暮れて、空は紫色のグラデーションが美しい。

 カイザ王子は爆弾だ。勇者としての強さはマンプク王国も理解しているだろう。下手に手を出して失敗すれば、この城下街も、天守閣も、それどころか国王ゲップの命さえ危ういかもしれない。王子の剣にはそれだけの破壊力が秘められているのだ。

 だから彼らは人質の広院を使って、カイザ王子を無力化しようとしてくるに違いない。それは逆に、広院救出の最大のチャンスでもある。

 落とし格子こうしをくぐり抜け、街の中に入る。マンプク王国首都が眼前に広がった。

 しかし、そこで生活する人々に活気はなかった。皆んなうつむきがちで、表情にとぼしく、足早にそれぞれの目的地に向かう。痩せた猫が歩き、夕闇の深さにおびえるように、あちこちで扉が施錠せじょうされる音がする。

 だが一方、俺たち一行に対する刺すような視線が、そちらこちらの窓や扉から感じられた。見られている。それも凝視ぎょうしと言っていい、ある種狂気じみたものだ。俺はたいまつを掲げて坂を登っていくクッタたちの後に続いた。王子にささやく。

「何だか嫌な街ですね」

「ああ。空気がよどんで息が苦しい感じだ」

 勇者カイザは秀麗しゅうれいな顔を歪めた。

 俺は以降黙々と歩きながら、この強過ぎる勇者を、どうやってマンプク王国は殺そうと考えているのか思考した。ヒロイというカードを切る、以外にも、他の方法はあるのか。

 あるだろう。100年前、当時の勇者エイユは仲間たちの手で謀殺ぼうさつされているのだから。手紙を残して行方をくらました戦士ツーヨ、武闘家ナグル、僧侶ソリアの3人。彼らは何らかの手段で神にも等しい強さの勇者を殺したのだ。

 まず正面から勇者に立ち向かって、普通の冒険者が勝てるわけもない。一方的に返り討ちにあうだけだろう。ならばどうするか。

 装備を捨てさせる。それしかない。だましたり罠にはめたりして、伝説の武器防具を外させれば、一般人にも勝機はある。それらをあつかう資格と能力があっても、しょせん勇者はただの人間なのだから。

 となると、王宮に入るなりそのときは訪れるか――

「なんだこれは」

 カイザ王子の驚きの声で現実に引き戻された。俺が彼の視線をたどると、目の前には大きな像がたたずんでいる。3人の冒険者の彫像だ。

 クッタが足を止めて、俺たちに振り返った。ニヤニヤと薄ら笑いをたたえている。

「やあ、カイザ王子の目には珍しかったようで。この像は勇者を殺害したツーヨ、ナグル、ソリアの英雄たちを記念して彫られたのです。ゼイタク王国の方には刺激が強かったですかな?」

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