ブレードパラダイス〜女装少年奮戦記

よなぷー

033盗賊団

「ひええっ!」

「ぎゃあっ!」

「て、敵襲だぁっ!」

 常在戦場じょうざいせんじょうの気構えがある冒険者たちは、この襲撃もあろうかと予測していたらしく、さほど取り乱してはいなかった。

 だが彼らの世話係は別だ。射たれた馬がさお立ちになっていななき、馬車やほろに鋭利な棒が突き立つと、恐慌きょうこうにおちいって悲鳴を上げた。

「ヒロ、ヒロ、どうしよう!」

 アクジョは冒険者『僧侶』のくせに、馬車の中でうずくまって俺の足にかじりつく。それが邪魔で動けず、俺は窓からそっとのぞくように外を注視するしかできなかった。

「やれっ! 女以外は皆殺しだっ!」

 蛮声ばんせいが森林に響き渡り、木々の間から弓矢の射手しゃしゅたちが現れる。毛むくじゃらで毛皮を着込んだ野卑やひな男たちが、剣を抜いて走り込んできた。

 たちまち混乱が始まる。冒険者たちと敵手たちとの戦いが、そこかしこで展開していった。

 だが――

「邪魔をするなっ!」

 紫電しでんのようなひらめきで剣を繰り出しつつ戦場を移動する。これはもちろんカイザ王子その人だ。剣圧を抑えて自部隊に損害が出ぬようにしながら、1人また1人と無頼漢ぶらいかんどもを蹴散らしていく。圧倒的な強さ、そして速さだった。

 もちろんもう1人の勇者も黙っちゃいない。カレイドはめんどくさそうに目をすがめながら、血飛沫ちしぶきを上げて強襲者たちを両断していった。こちらもものすごい速さと的確さだ。王子と比べていい加減そうに見えながら、日ごろの研鑽けんさんの成果を出している。意外に努力家なのかもしれない。

 死体の山を並べながら、カイザ王子が叫んだ。

「僧侶はケガ人の治癒ちゆを! 狩人かりゅうどは弓矢で援護しろ! 戦士は僕に続け!」

 その獅子奮迅ししふんじんの活躍と力強い叱咤激励しったげきれいの声に、魔王討伐隊は狼狽ろうばいから立ち直った。

「はっ!」

 俺とアクジョが乗る馬車の横で、武闘家の女ケルが見事な拳法を見せる。あれか、カンフーって奴か? パンチとキックを駆使して暴漢どもを殴り倒していった。

「アクジョ! ヒロ! 大丈夫か?」

 筋肉ダルマのウーザイが駆けつけて来た。手傷を負って血を流しているが、軽傷で命にかかわるものはなさそうだ。俺は無事を伝えた。

「よし、2人とも隠れてろ。アクジョに手を出そうって奴はなんぴとたりとも許さん!」

 そう告げて、ウーザイは戦いの修羅場しゅらばへ戻っていく。やる時はやるな、あいつも。

 10分ほどもすると敵の伏勢ふくぜいも尽きたと見え、戦闘は散発的となった。元より勇者2人の活躍が素晴らしかったようで、俺が窓から身を乗り出して外をのぞいている間も、恐怖にとらわれ撤退する曲者どもは後を絶たなかった。

 やがて森林に静けさが戻ってきた。カイザ王子の咆哮ほうこうとどろく。

「蛮人どもは撃退されたぞっ! 僕たちの勝利だっ!」

 この勝利宣言に多数の勇ましい声が唱和した。

「おおおっ!」

「カイザ王子殿下万歳っ! カレイド様万歳っ!」

「ゼイタク王国に栄光あれっ!」

「神よありがとう!」

 俺はまだ足にしがみついて震えている、アクジョの肩を揺さぶった。

「ほれ、終わったぞ。もう大丈夫だ」

 涙に濡れた顔が持ち上がる。

「へ? ホント?」

 俺とアクジョは馬車の外に出た。奇襲者たちは血の海に沈み、ピクリとも動かない。一方こちらは僧侶たちが傷ついた者を法術で治療している。馬も対象に、しばらく彼ら彼女らの奮闘は続いた。

 カイザ王子がイナーズと共にこちらへやって来た。

「ヒロ、それからアクジョ、無事だったか? 怪我はないか?」

「はい、おかげさまで。アクジョ、王子さまだ」

 とたんにアクジョは彼の胸に飛び込んだ。演技でもなく泣きわめく。

「こ、怖かったです! 王子様ぁ!」

 カイザ王子は彼女の背中を軽く叩き、側近に尋ねた。

「被害状況は?」

「重軽傷者は様々出ましたが、死者は1人も出ておりません。馬は1頭逃げてしまいましたが、それ以外は施術され確保されています」

「まずは良かったか」

 カイザ王子は旧友に意見を求めた。

「イナーズ、今の連中は何だったと思う?」

 アクジョを婚約破棄した男の問いに、アクジョに婚約破棄された男が答える。

「おそらくただの盗賊団かと。身なりも粗末で武器もびたものばかり。たまたま獲物にしようとしたのが我々だった、というだけのことではないでしょうか」

「そんなところだろうな」

 勇者カレイドが、アクジョにすがりつかれる王子に笑いかける。

「役得ですな」

茶化ちゃかすな。しかし貴殿も見事な戦いぶりだったぞ、カレイド」

「まあ、この程度の連中に遅れを取ってたら先もおぼつきませんからね」

 ようやく落ち着いてきたアクジョを、カイザ王子はゆっくり引きはがした。

「さあ、馬車に乗るんだ、アクジョにヒロ。出発するぞ」

 と、そこへ――

「馬の足音ですな。だんだん近づいてくる。大軍のようですね」

 カレイドが進行方向の街道に鋭利な目を向けた。カイザ王子がうなずいた。

「新手か? だが横っ腹を襲撃されるならいざ知らず、前方から来るなら剣風で一度になぎ払える。まずは出方をうかがうか」

 俺は馬車を降り、治療の終わった一行を横目にカイザ王子の後をついて行った。いざとなったら『音撃』を使って敵を倒してやる、と息巻いて。

 やがて姿を現した馬影ばえいは、立派な身なりで旗を立てた、武装兵の一団だった。先頭の、これは背の小さいハゲ頭が――鎧ではなく長い前掛けを垂らしている――下馬してカイザ王子に近づいてきた。

 倒された盗賊団の様子に顔を引きつらせて。

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