ブレードパラダイス〜女装少年奮戦記

よなぷー

030誘拐

 一国の王子がたった50数名のお供で旅に出るなど、非常識もはなはだしい――当初はそんな見方もあった。

 しかし伝説の装備で身を固めた勇者、カイザ王子は、そうした周囲の反応を一瞬でくつがえしてみせた。剣を抜き放ち、街一番の大樹を真っ二つにしてみせたのである。それはちょうど、舞踏会会場を襲撃してきたドラゴンを、カレイドが剣風だけで両断したのと似通っていた。

 少なくとも2人の勇者は、寝込みを襲われたりしない限り、数百どころか数千、いや数万の人間たちが相手でも打ち勝てるだろう。それを満天下に示した、出発前の出来事だった。

 現在、カイザ王子は部隊の先頭を、カレイドは最後尾を守って進行している。魔王討伐の栄えある旅路に参加して、勇者たちを尊敬して誇りに思わぬものはいないと感じられた。



 旅はとどこおりなく進捗しんちょくする。7日目となる今夜まで、狼型やたか型の魔物が散発的に現れたものの、全て撃退された。まだゼイタク王国圏内として、魔王の影響が濃い強力な敵は姿を見せない。

「東の港まであと1日だ」

 焚き火を囲み、干し肉をお湯で戻しながら、俺たちは雑談していた。ウーザイがでかい図体を運んできたが、アクジョは彼にまるで関心を示さず、もっぱら他の冒険者の語りに耳を傾けていた。

「イナーズ様にはお世話になりました」

 冒険者『狩人かりゅうど』のシトメール、『僧侶』のナオスは、そろってアクジョの元許嫁いいなずけをほめちぎった。

「とにかく『戦士』としての彼は一流です。やたらと強いし、気配りも出来るし、パーティーを組んでて楽しいしで、最高のお方ですよ。だよな、ナオス?」

 つばなし帽をかぶって錫杖しゃくじょうを抱え込むナオスは、25歳前後の妙齢の女性だ。

「ええ。あれで冒険者になってからわずか1年余りというのだから素晴らしいです。幼い頃から剣術の研鑽けんさんに余念がなかったんでしょうね」

 俺はイナーズの気持ちを手触りできるほど実感する。彼は許嫁のアクジョにふさわしい男となるべく、婚約破棄されるその日まで、自己鍛錬に明け暮れていたのだ。愚直なまでに……

 アクジョも感心しているように見えた。

「あのイナーズが、ねぇ……」

 そこへ現れたのは広院だ。彼女の姿に、たちまちアクジョはしかめっ面になった。

「何よ、泥棒猫」

 広院は落ち着いていて、挑発されても怒らなかった。

「ちょっとヒロ。2人だけで少し話したいんだけど」

「ん」

 俺は女装のまま了承した。今さら実は男でした、とは言いづらいほど、俺は周囲に女として認知されている。魔王を倒して凱旋がいせんするまで、このまま行くしかなかった。

 ヒロイこと広院、現実世界における俺の妹は、ランタンをげてテントの群れから離れる。その後ろ姿はもういっぱしの女にも見えた。

 さほど距離を置くことなく、彼女は俺に振り返った。

「ふう……」

 何やらため息をつきつつ、ランタンを草の上に置いてしゃがみ込む。俺を見上げてきっとにらんだ。

「あのさあ、兄貴。この旅いつ終わんの?」

 俺は不平不満の塊をぶつけられ、出血するような思いだった。

「そりゃ、魔王を倒すまでだろ」

「まさかこんなに時間がかかるとは思わなかった」

 広院はヤンキー座りでうなだれる。

「アクジョに対抗するために、よく詳細を聞かないで同行を強く希望しちゃったのよね。ちゃちゃっと4、5日で終わるかと思ってたのに、もう1週間よ。お風呂入りたいしふかふかのベッドで眠りたいわ。もうやめたい……」

 俺は腰を下ろした。咲いてる花をつまむ。

「お前、プレイヤーキャラクターだろ。この際このゲームから離脱しちまえばいいんじゃねえか? できるんだろ?」

「女神のシンセさんはそう言ってたけどね。でもカイザ王子殿下が手放すには惜しいほどカッコいいんだよねえ。はぁ、悩む」

 俺は呆れて頭髪をかいた。皆んな不安や不満を押し殺して王子たちについて行ってるのに、こいつのワガママはひど過ぎないか?

「そんな話がしたかったのかよ。俺はもう戻るぞ」

 広院はぶうたれる。

「干し肉はコショウがないから不味くてしょっぱいし、飲み物も川の水ばっかり。ああ帰りたい帰りたい」

 俺はついていけないと肩をすくめ、立ち上がって花を捨てた。

 そのときだった。

「きゃあっ!」

 突然目の前から広院の姿が消えたのだ。

 いや、消失したのではない。馬に乗った人間が、真横からかっさらったのだ。俺は思考より速く大声を出した。

「待てっ!」

『音撃』である。銀色の波が俺の口から放たれ、月明かりのもと馬を直撃した。あわれな四つ足はダメージで横倒しになり、広院は曲者と共に草むらに投げ出される。

「広院っ!」

 俺はランタンをすくい上げると、2人のもとへ走り出した。もう一発、今度は狼藉者ろうぜきものの体にぶち込んでやる。だが、奴は妹を――ぐったりして気を失っているようだ――肩に抱えると、驚くべき速度で暗闇を突っ走っていった。ぐんぐん距離が引き離される。

 今『音撃』を使ったら、広院に当たってしまう可能性がある。

「ちくしょう!」

 俺は懸命に駆けたが、とうとう2人を見失ってしまった。中腰で息を整えていると、背後から馬のひづめの音が複数聴こえてきた。

「どうしたんだ、ヒロ! さっきの叫び声は?」

 戦士イナーズに狩人シトメール、僧侶ナオスの3人が、二頭の馬に分乗して追いかけてきたのだ。俺のランタンの明かりを頼りに……

「ヒ、ヒロイが何者かにさらわれました!」

「何だって?」

 驚愕きょうがくが3人の面上を貫いた。

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