憎悪の英雄

hibiya

第3話 後始末

「一応聞くけどその右目、アリス…邪神の加護でも貰ってきたのか?」

状況も一時的に落ち着いてきて、気になっていたことをアリスに聞いてみることにした。ヴァイン同様アリスの右目は、元の碧色から変色して黄金色になっていた。そのため、ヴァインはアリスに対して邪神の加護を所持しているのではないかと疑いを持っていたのだ。

「正解、聞けばマスターも貰ったって言ってたし」

無い胸を強調してエッヘンと胸を張るアリス。

「あのなぁ、お前それ貰ったってことは完全に俺と同じ道を辿ることになるってことだけどいいのか?」

「この身は、マスターの為に使うって決めたの」

絶句しているヴァインに対して、頬を赤く染めているアリス。すると、先程から黙っていた元フェルナンドが話に割って入ってきた。

「ご主人様、ご提案がございます。その何と言いますか服が欲しいのです…今着ている服ではアリス様方に遣えるメイドとして相応しくないのです」

何故かもじもじしているフェルナンドに、普通であればキュンと来るかもしれないがそれはない。というかメイド?

「アリスさん?これはどういう事なんですかねぇ、確かに弄れとは言ったけど俺は戦闘要員が欲しいって言いましたよねぇ?」

「でも戦うメイドも必要かと思って、色々と潜りやすくなるだろうし」

アリスが言う、潜ると言うのは組織や国にメイドとしてなら潜入もしやすくなるだろうと言う意図なのだろう。それはわかる分かるが何故メイド?

「まぁ確かに服は大事か、アリス王都まで転移して一緒に購入してこい。アリス用の服も何着かあった方がいいだろうし」

アリスやフェルナンドが王都に行っても正体がわかるやつは恐らく誰もいないだろう。顔や声が別人にしか思えないからだ。

「マスターはどうするの?」

「俺は事情があって王都には近づけない、服のついでに生活必需品なんかも揃えておいて欲しい」

アイテムボックスから金貨500枚ほどを取り出しアリスに手渡す。そのままインベントリにしまったようだ。

「じゃ、行ってくる」
「失礼します、ご主人様」

転移魔法により2人が消えたあと、帝国軍人の死体の中央で立ちすくんでいた。

「これを放置しておくのも面倒だが、それよりも…」

気になる事は、転移魔法で避難させた街人のことだ。残存勢力が残っている可能性があるにも関わらず、既に街に戻ってきているのだ。自己判断で帰ってくるのは結構だが、危険だろうに。

「衛兵も居るみたいだし、大した問題でもないか。万が一にもうち漏らすことは無いけどさ…」

再び己の置かれている状況を見返す。着ていた服は返り血で真っ赤に染まり周りには死体の山。これを見たものの第一印象は人殺しをした化け物だと思うだろう。しかも今の体では尚更家族に迷惑をかけてしまう。

衛兵達ならまだ冷静に見ることが出来るかもしれないが、一般市民にとっては人殺しをしたと言う結果を見ただけで畏怖の対象になるのだろう。転移で逃げることも視野に入れたが、それでは後々に犯人探しを始める可能性もある。

「…最良の選択肢は1つしかない」

それは、この場から立ち去るという事だ。だがこれは一時的なものでは無い。ヴァインと言う勇敢な少年が死んだという結果を残す事だ。その為にはアリスが戻ってくるまで待つ必要がある。

「ここに誰も来ないというわけでも無いだろうし、解除リリース

ヴァインは、10代の姿から突如として20代後半の姿に変わった。

「別に隠すつもりは、無かったんだがシステムにも都合があったんだろうな」

要するに、ヴァインがシステムと契約した際に払った代償とは別に、今回アリスの代償を肩代わりした結果、辻褄合わせのために呪いとして先程までの10代の姿に変えられていたのだが、生憎とヴァインには既にその数年前のシステムとの契約時に年齢の固定化と不老不死と言う一生モノの呪いをかけられている為、効果が一時的なものとしか発動されなかったのだ。

漆黒の騎士knight

膨大な魔力がヴァインを包み込み、次の瞬間には全身完全武装した黒騎士へと姿が変化した。

「準備は整った、取り敢えずそれっぽく死体の中央の岩に座っておくか」

街中に行ったはずの人間が数人近づいてきているのが見える。遠方からヴァインがいることが見えたのであろう。

「あれは!帝国兵!?」
「なっ、こんな所に何故!」

「簡単な話だ、そいつ等がこの国に侵略行為を始めたという事だ」

驚愕する二人の男に対して、真っ当な理由を返すヴァイン。元々この国は、帝国の主義主張に対して反対した国の一つだから狙われる要因としては充分なのだ。恐らくこの奇襲も事前準備を行った上でのそれであったのだろうが。

(マスター…、私に話って何?)

(お前いつから聞いてた?てか、何で用があるって分かった?)

(始めから?魔法を掛けておいたから)

淡々と返事をする辺り、どうやら考えるだけで伝わるみたいで助かった。

(じゃあ頼みたいのだが、10代の頃の俺を意識だけ移して戦わせることって可能か?)

(幻影魔法を使えば可能、素人目には実際の人物がそこにいるようにしか見えない)

素人とアリスは言ったが、アリスの言う素人って一体どの程度何だろうか。

(了解した、条件とかあれば教えてくれ)

(簡単、私がマスターに触れて唱える)

(丁度今、街人たちがいるからコイツらに言いふらしてもらうか)

(分かった、すぐ転移する)

一瞬アリスの魔力を感知したが直ぐに消えた。恐らくヴァインの意を察してくれたのだろう。

「俺の目的は、別にある。とある男を殺すことだ。帝国兵を殺したのはそのついでだ」

「帝国兵からの侵攻を止めて下さり感謝致します、ですが一体誰を殺す気なのですか?」

帝国兵の死体の山から出てきたのは、かつてのヴァインだった。

「よう、ヴァイン。今からお前を殺す」

そう言うと、ヴァインは黒剣に魔力を溜め始めた。数秒も経たないうちに放った。

「そうだった、転生特典とやらで貰った、日に三度使える"攻撃を防ぐ無敵の見えない盾"。過去の…いやお前はそれを持っていたんだったな」

仮初とは言え、ヴァインの10代の頃の記憶を読み取り作り出したそれは、この世界においてヴァイン・クロエナイトと認識されたのであろう。

「お前誰なんだよ!いきなり攻撃しやがって、第一武器持ってないんだぞ?」

「であれば、くれてやろう」

10代のヴァインに向けて聖剣と言われるものを1つ投げ与えた。

「凄まじい力を感じる、勝てる」

そう言った矢先、先程放った魔力の塊を2回ほど放つとあっという間に盾は消費された。

「自惚れるな剣を振るうだけなら誰でも出来る、その程度か。ヴァイン・クロエナイト、聖剣を与えて、お膳立てしてやったのにも関わらずこの程度では話にならん」

「煩い!」

斬りかかってきたヴァインに対して一太刀振い。決着をつけると街人達が近づいてきた。

「何故ヴァインを殺した!」

「ヤツは俺の敵だからだ」

先程まで感謝の念を抱いていた街人達も怒りをあらわにしてきた。そうであろう、あの頃の俺は何も知らないただの小僧に過ぎなかった。それでも誰かの為に手助けとなるようなことを率先と引き受けていたから、信頼もされていたのだ。

俺がその場を立ち去ると街人はそれ以上追ってこなかった。立ち向かっても殺されるだけだと先程の戦いで理解したのだろう。

「さらばだ、親父、母さん、ミーシャ。今回は生きて幸せになってくれ」

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