取り扱い説明書

増田朋美

批判する皆様へ

最近になって、やっと自分を押し潰していた劣等感からやっと抜け出せたようなきがします。というのは、自分にできないことがだんだんに明白になってきたこと、同時にできることも明白になってきたからです。まず、私には車の運転ができません。これのせいでほんとうに、苦しみました。車に乗れれば、もう少し自立できるかもしれませんが、それがまず、できないのです。ですから、相談センターなどに行くことすらできない。これをまず把握しておくことが必要です。
なので、もう会社に勤めることや、自立することを目標にするのはやめました。環境は変えられるといいますが、それは当てはまらないこともあるのです。私には、家族と一緒に暮らす以外、いきる方法がないのですから。言い訳でもなにもありません、事実は事実です。
前回の記事で、事実はあるだけであり、甲乙つける必要はない、ということを習ったと書きました。それなら、この事実に甲乙つけることも、必要ないでしょう。自立しているということは、確かに素晴らしいことではありますが、みんなができるとは限らないということを学びました。みんな自立して幸せに生きているわけではないんですね。できることなら、自立していない悲しみや苦しみを語り合える仲間がほしいです。傷のなめあいはよくないかも知れないけれど、共感してくれる人がいないのといるのとでは、ほんとうに、ちがいますから。
まあ、親は期限つきだとか、そういう批判も確かにありますが、この他にいまの私には、できることがないのです。死んでしまえといわれたら、いつでもその通りにできる覚悟はしています。
気にしない、これも私にはできません。どういう感覚なのかわからない。どうしたら気にしないと簡単にいえるんですか?全く見当ができず、薬をのんで気持ちをおちつかせるしか、私にはできません。
周りのひとは、次々に就職して、結婚して、子供をつくって、そういうことをやっていきますけど、私にできることは、死ぬことを楽しみに待つだけです。生き甲斐もなにもありません。引きこもりは地球のごみですから。
だから、ほんとうに、今普通に暮らしている人たちは、それが一番幸せなんだと、もう少し自覚してもらいたいものです。
でも、世の中って、すべて相対的なものでできていますよね。私が愛読している本に、老子という素晴らしい本があるのですが、そのなかにこんな言葉がありました。
「汚いがあるから美しいがあるのさ。」
汚い人がいるから美しい人がいる。できない人がいるからできる人がいる。強い人がいるから弱い人がいる。こういう風にかんがえれば、お互いに片一方ではありえないということにきがつきます。これを考えていただければ、できない人のお陰でできている、ということもわかりますよね。もうちょっとこの辺りに気がついてくれれば、もう少し世の中すみやすい社会になることは間違いなしです。
生き甲斐がない、居場所がない、ということは、実はとても悲しいことであり、つらく寂しいことなのです。でも、底辺を支えている人によって初めてトップがいきるんです。できない人たちのおかげでできる人たちは生かしてもらっているんです。
でも、世の中、できるということにばかり着目し、できない人のことは、置いてきぼりという人ばかりです。
そうなれば、できない人たちは自分が価値がないと、思っても仕方ないことです。そういうことで、自殺しようとしているひとは、止められてもいい迷惑としか思わないのではないか、と私はおもいます。
だから、もし、親は期限つきだとか、自立していない人間は最低だ、と考えるかたは、どうか、引きこもりとは関わりを持たないでください。私たちも傷つくだけですし、いくら努力しても、分かち合うことはできません。
代わりに、お願いしたいことがあります。
どうか、私たちをそっとしておいてください。
言葉をかけないでください。
私たちは、社会の中で傷つき、いまは、それを癒すだけで精一杯なのです。それを癒すためには、社会から外れることがひつようなんです。
慰めも、励ましも無意味になるだけです。根拠のない説教も要らない。ただ、そっとしておいてください。
私たちは、世の中が変わるのを待つしかできないんです。
それはいつになるのかわからないけれど、そうするしかできないんです。
社会からはずれて、なんて言う贅沢をしているんだと言うかたも多いですが、社会から外れなければ、平穏が保てないからそうするのです。
それよりも、ご自身のことに、精を出していただいたほうが、私たちは安心して生きることができます。
みんなが同じように生きなければ、幸せにはなれないという法律はどこにもありません。それよりも、個人の幸せを考えてほしい。個人個人、幸せは違うのだということをもっと打ち出してほしい。それが定着してくれれば、私たちも傷つくのが、大幅に減ると思うのです。

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