あの日、最後に笑ったのは君でした。

カボチャコロッケ

第4章 夢に終わりを告げてみたが

「こちらでの手続きは以上になります。
他の事項はマイルームにてお願いします。」

受付の女の人が優しく微笑む。

お?

「えっと、マイルーム、ですか?」

こ、これはもしかして。

いやいや、何となく想像はつくけれど、
私のゲーマー知識が一致してるとも限らない。

「はい、冒険者様には一人一人にお部屋が国から提供されます。そこで皆さま生活をすることになります。」

あ、よかった、思ってた通りだ。

「マイルームへはゲートを通っていただく事で入れるようになっております。先程来た通路を戻っていただくとエントランスにゲートがございます。」

なるほど、専用の入り口があるって事ね。

「ゲートを通るには、町に入るときと同じように認証装置に手をかざしていただくだけです。ちなみにゲートはこの町にここのギルドを含めて4箇所ございます。」

お、なるほど。
ゲートが4箇所もあるって事は思っていたよりも結構大きな町なのかな。

「マイルームへ入る時はそのまま通っていただくだけて大丈夫なのですが、お部屋から出る際にどこの場所に出るのか案内が表示されますので、行きたい場所を選択して下さい。」

あー、エレベーター的な感じ?
何階ですかー?みたいな?

「ここで1つ注意して頂きたいのは、出られるのは入った事のあるゲートのみです。ですので初めに他の3箇所のゲートを通り、効率よく行動出来るようにした方がいいかと思います。」

でしょうね、そうだと思いましたよ。
大抵のRPGってそんな感じだもんね。
とりあえず全部のゲートを通ってしまえば移動が楽になるってあるあるやん。

でも詳しく説明してくれてありがと。

その後も簡単な説明を受け、職業のパンフレットの他にもこの町のマップなども頂き、お姉さんに何度もお礼をして窓口を離れ、エントランスのゲートへ向かう。

何だか思ってたよりもワクワクする。
色んなRPGはやってきたけど、初めて冒険に出る主人公たちもこんな気持ちだったりするのかな、なんて思った。

お、あれかな?

少し先にあるゲートから冒険者達が頻繁に出入りしているのが見える。

うん、きっとあれだ!

私は小走りでゲートに近づく。

さーて、いよいよマイルームか!
ドキドキしながら装置に手を置く。

暫くそのまま様子を見ていたが承認されたような音もしなければ変化もない。

…あれ?おかしいな。
ちゃんと登録されたんだよね?

ゲートの前をウロウロしていると後ろから急に肩を叩かれた。

「ひゃ!」

思わず体が強ばり変な声も出てしまった。

「あ、驚かせてごめん。このゲート手を置けば直ぐに入れるから大丈夫だよ。」

そう私に話かけ、ポニーテールの女の人が装置に手を置いてゲートへ入っていった。

あ、そんな簡単なシステムなん。

って、お礼言えてない!
つか初心者丸出し恥ずかしいー!

先程の女の人にお礼が言えなかったのは正直心残りではあったが、気を取り直して装置に手を置きゲートをくぐった。




おおおおおー!!!

部屋だ!私の部屋!

6帖ほどの部屋にベッドと棚と机が設置されてある。

初級の部屋ってこうなってるんだ。
うん、いかにも駆け出しっぽい。

先程のギルドで説明を受けたお姉さんの話によると、ランクが上がったりすると部屋もそれ相応になっていくシステムらしい。

ちなみに自分で好きな家具を買って、好きなように配置もできる素敵なマイルームだ。

こういうのはゲーマー心を揺さぶる。

そういえばやってたオンラインでも家具にめっちゃお金注ぎ込んだっけ。
水槽とか置きたくて仕方がなかったなあ。

私は持っていたパンフレットを一度机の上に置いて周りを見る。

よし、ちょっと部屋見学!

ワクワクしながら隣へと続くドアを開けてみる。

小さな洗面台と小さな鏡が真っ白い壁に取り付けられている。

お、何か思ってたよりもちゃんと生活できる空間になってる。
 
洗面台の隣に小さな棚があり、開けてみると2段になってて下が空洞になっている。

これは空洞に洗濯物を入れると内部で勝手に洗濯をしてくれるらしく、乾燥後畳まれて上の段に戻ってくるという素晴らしい物だ。

科学というか文明の進化がはんぱない。
リアルでも欲しいくらいだ。

しかもバス、トイレ別。
ちゃんとシャワーまで付いてる。

まじか、まじで普通のアパートみたい。

私の心はまるで初めて一人暮らしをする若者のように踊っていた。

そして6帖の部屋に戻る。

置かれている棚は下に大きな引き出しが1つ、上に小さな引き出しが2つある。

装備とか入るようになってるのかな?

何も入ってないと分かっていても、つい開けて調べたくなるのはRPGあるあるではないか、と一人で笑う。

机の横にゴミ箱もある。
これも実は中が空洞で、ゴミを入れると勝手に分別されて処理場に出されるらしい。

いちいち燃えるやつ、燃えないやつ…と分けてゴミを出さなくてもいいのだ。
本当に素晴らしい。

そしてこの壁。
見た目は何の変わりのない壁だけど、体に影響の出ない磁波が出ているらしく、飾りたい絵とか釘を打ったりしなくてもくっつく仕組みになってるらしい。

つまり面倒くさい作業なんて要らず、簡単にレイアウトが出来る様になっている。これも素晴らしい。

ちなみに窓はない。
きっと何かで管理されてる部屋だろうから外なんて見れないし不要とされたのか。

そして肝心のベッドなわけだが。

私は腰を下ろしてみる。

うん、思ってた通り硬い。

しょうがない、木製のフレームに薄い敷き布団が1枚だけなのだから。

そしてそのままベッドに倒れこむ。

はあ…。

なんか夢ながら結構楽しめた。

受付の女の人から色々説明聞いたけど、でも私今日で終わるんだよね。

部屋の天井をボーッと見つめる。

やりたい事とか行ってみたい所も沢山あったけど、もうこれで終わりなわけだからどうしようもないんだけどね。

私がここに来てから結構時間も経っているわけだし、早くリアルに戻らないと。

きっと今頃本体のランプが赤になっててピカピカ点滅しているに違いない。

とりあえず、素敵な夢をありがとうって事でここで終わらせよう。

私は幸せな気持ちを胸に目を閉じた。

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