俺の学年が勇者として召喚されたが、俺は早速腹黒王族にマークされたようです

イミティ

第44話 水色の木の下で




 残念、今回はリーゼロッテがメインじゃないんですよ。
 先に言っちゃうスタイル。








 「………」
 
 俺が離さないと知って隣に座り直したリーゼロッテは、先程よりも更に二段階ほど機嫌が悪そうな顔をしていた。
 対する俺は、なんにせよ会話のきっかけが作れたのでニコニコとした笑みだ。多分この様子を見たら、アニメに出てくるような対比だと誰もが思うに違いない。(この世界の人はアニメを知らないとかいう話は置いておいて)

 「いやぁ、面白いものが聞けた。まさかリーゼロッテにあんな一面があるとは」
 「ち、ちが、あれはホント、違くて……」

 早速意地悪気味に呟くと、リーゼロッテは途端にわたわたと言い訳を述べてくるが、それも続かず。

 「いや、いいんだ。カップルを恨む気持ちは別に間違っちゃいない。俺も恋人を見てるとイライラしてくるしね」
 「だからホント違うの! 別に、妬んでるとか、そういうんじゃ……」

 いや、そういうのだろ。見苦しいぞ。
 男相手ならそうツッコミを入れているところだが、相手は女子。そんなことはしない。

 「大丈夫。おかしいとか別に思ってないから」
 「嘘! 絶対思ってる! 頭おかしい女だとか、絶対思ってる!」
 「いや思ってないって。面白い子だなって思ってるだけで」
 「同じよ!」

 おぉ、もしやこの子と会話する条件は、弱みを握ることなのでは?
 どうもあんな一面を見られたくないようだし。何より会話のキャッチボールが少々強引だが成立している。

 話を聞いてもらえれば、あとは割とどうとでもなるのだ。

 「いや本当に、頭おかしいとは思ってない。面白いとは思っても、おかしいなんて思うはずがない」
 「っ、馬鹿にして!」
 「違う、正直なんだよ俺は」
 「馬鹿にしてるじゃない!」

 嘘はついていない。本当におかしいとは思っていないのだ。そもそも変な人との付き合いは色々と長い。何より、相手に合わせるのは慣れているし、いつぞやの筋肉のように言葉が通じない相手でない限りは、そうそうおかしいなどとは思わない。

 それはつまり、客観的に見たらおかしくはあると認めているのだが、今大事なのは主観的な評価だ。

 「まぁ落ち着きなよ。言いふらしたりはしないからさ。まずはこれをきっかけに会話をしようじゃない」
 「……言いふらさない代わりに、何かを要求するってことでしょ」
 「君は俺をどんな目で見てるんだ。そんなこと要求しないよ」

 嘘。本当はちょっと考えた。言いはしないが。

 「それよりさ、もっと有意義な話をしようよ」
 「有意義な話って、何」
 「いや特には無いけど」

 その途端、我慢の限界に達したのだろうか。
 絶対零度の視線を携えたリーゼロッテは、弁当箱を持って立ち上がる。

 「なんなの……言いふらすつもりがないなら、私、もう行くから」
 「え、あ、ちょっと」

 席を立ったリーゼロッテは、こちらを振り返りもせずに、そのまま行ってしまった。
 先程からさっさと移動したがっていたように見えたが、一体何なのか。いや、何よりせっかくのチャンスを逃してしまったことに対する後悔が……。

 俺の予想では、『なんなの……』で呆れからの、若干俺に対する印象を植え付けようと思ったのだが。

 困ったなぁと後頭部をかきながら、だが今は後を追いかけて話しかけてもすげなくあしらわれるだけだろうと考え、また今度の機会にすることにする。

 正直一朝一夕で出来るとは思っていない。俺が言うのもなんだが、信頼関係は時間が重要だ。
 すぐにここを移動するつもりは……今のところないし、ゆっくりとやっていけばいいか。

 糸口も見えてきたような気はするし。

 それにしても、ここは水色の葉っぱに、周囲には同じように水色の虫もチラホラといる。
 芋虫とかだったら嫌だが、居るのはカマキリや蝶とかで、気にはならないものだ。水色というのも、普通に見かけたら不気味に思っていただろうが、この場で見ると統一感があってむしろ綺麗に思える。

 ここはほとんど人も来ないようだし、リーゼロッテがここに居たのも、やはり一人になるためだろうな。随分と良スポットだが、奪ってしまった形になったかな? 後で謝っておこう。



 そうやってベンチに座って何をするでもなくぼーっとしていると、スタスタと足音が近づいてくる。

 もしやリーゼロッテが帰ってきたか、と思うのもつかの間、歩幅や気配は彼女とは全く異なるものだった。

 背もたれに寄りかかり、ほぼ真上を向いていた首を戻せば、目の前には見たことも無い男がいた。

 ────いや、違う。こいつは……。

 「誰かと思えば、昨日マルコと一緒にいた人ですね。何か用ですか?」

 そこに居たのは、細目長身の、昨日拓磨よりも強いと評した男だった。
 [完全記憶]があるにも関わらず、俺が一瞬でも男のことを思い出せなかったことに若干の疑問を抱くが、直ぐにそれは隅に追いやった。

 この人物はまるで暗殺者のように気配を絶っている。思い出せなかったのは、そういう部分もあるのかもしれない。

 俺が聞くと、男はほんの僅かに眉を動かし、すぐに戻した。

 そして何も言わずに、隣に座ってくる。

 「………」
 「………」

 特に何をする訳でもなく、まるでこの場を堪能しているように、先程の俺と同じようにだらんと背もたれに寄りかかり、顔を上に向ける。
 どうやら俺に用があったわけじゃなく、この場に用があったようだ。

 別に敵意も何も感じないので、俺はそのままスルーし、だが気にもなったので、その場に座り続けた。

 お互いに喋らなかったし、ほとんど面識のない相手だったが、不思議とそこまで悪くない気分だった。
 相手の見た目は、大人と言うには違和感のある、しかし子供ではない、少し大人びた高校生という感じなのだが、その実感じる雰囲気は、十代二十代には到底思えない。
 どちらかと言うと、年寄りに近いような。敬語を使ったのは、そういう理由もある、
 だから、少し穏やかな気分になったのかもしれない。

 「………貴殿は、底が知れないな」
 「ん?」

 そんなことを考えていると、その体勢のまま、男は前触れもなく口を開いた。特徴的な言葉遣いで、俺へと少し語りかける。

 「貴殿とマルコ殿は、不仲であるように見受ける。昨日、私はマルコ殿と共に居たが、貴殿はそんな私が隣に座っても、警戒一つしなかった。私の強さは、貴殿も感じたはずであるが」

 ちらっと視線を向けると、男もまた、俺の方へ視線を流していた。
 返答を待たれているのは、聞くまでもなかった。

 「俺が力量を測るのが苦手なだけかもしれません。もしくは、考え無しなだけかもしれませんよ」
 「否。自分でそのようなことを言う者は、その実言葉とは真逆の存在だ。貴殿は明らかに、私の力量を見抜いていながら、敵意や悪意がないと悟るやいなや、警戒を完全に解いた。私より強くなければ、そのような芸当は無理であろう。獅子の隣で眠ることが出来る者など、そう居ない。それは獅子を恐れぬ強者か、無謀な愚か者のみだ」

 確かに、と俺は頷きはしなかった。代わりに、言葉を再度紡ぐ。

 「そういう貴方は、昨日俺のステータスを覗いたんじゃないですか?」
 「然り。その節は失礼した。確かに私は、[鑑定]を用いて貴殿のステータスを覗こうとはしたが、見ることが叶わなかった。今までそんなことは無かったのだがな」
 「では、ここに来た理由は、休憩以外にもあるわけだ」
 「………」

 雰囲気が、変わる。そこは『然り』とは言わないのか、なんて思いつつ、俺はベンチから動かずに、僅かに顔のみを傾けた。
 傾けた頬の真横を通って、刀のような武器がベンチの背もたれに突き刺さる。

 「………」
 「………」

 一瞬の内にベンチから立ち上がり、俺の目の前まで来て、服の中に隠していたらしい刀を抜き放った男は、動揺の欠片も浮かべない俺の目を覗き込んできた。

 俺もまた、俺が避けたことに関して驚きを含んでいない男の顔を見返す。

 ベンチに刺さった刀は、刃先が僅かに背もたれに触れていたのみで、それからも刀の扱いに長けていることが伺えた。

 数瞬の後、男は刀を露出させた鞘に納め、同時に戦意も消え去った。

 「もう、いいのですか?」
 「然り。貴殿の力は底が知れないと言ったが、訂正しよう」
 「もしかして、思ったより低かったですかね」
 「否」

 男は用は済んだとばかりに踵を返しつつ、最後に言い残した。

 「貴殿の力は、測れる枠を超えている。先程の時、貴殿は私を逆に殺めることが可能だったであろう? それも一度ではなく、何度も」
 「………すみませんが、そんなことは考えません」
 「考えはしないが、可能であったと」
 「どうでしょう」

 知るわけないし、知りたくもない。自分が相手を何度殺せるかなんて。

 俺の言葉に男は満足したのか、一度不敵に笑うと、そのまま校舎の中へと消えていった。

 「……やっぱ、あの人は普通じゃないな」

 見た目通りの年齢じゃないだろうし、さっき刀を抜いた時だって、本気じゃなかった。

 ヴァルンバの頃の俺だったら、こうも余裕ではいられなかったかもしれない。
 先程の動きは、ギルドマスターや理事長を遥かに上回るレベルだ。拓磨3人どころではない。

 それに、黒髪黒目ではなかったが、袴に似た服や、刀というものも含めると、やはり……あの人は、この世界〃〃〃〃の人じゃない。

 「……勇者の生き残り、か」

 まだ確証もない予測段階だが、俺はそれを否定はできなかった。







 「━━━成程、今の段階で既にそこまで行ってるのか……」

 その一部始終を見ながら、は呟いた。







 ちなみにリーゼロッテとイベント進行するためにはまだ好感度が足りません。興味は持たれてるでしょうがね。

 

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コメント

  • 舞京

    確かにそうですね。
    また続き楽しみにしています!

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