俺の学年が勇者として召喚されたが、俺は早速腹黒王族にマークされたようです

イミティ

第2話 越境


 忘れるところだったァ!!








 ヴァルンバの王都、アシュバラを出てから、2日が経った。

 既に越境しており、現在はアールレイン王国領の、北西辺りの広々としたスペースで、キャンプをしている最中だ。

 目指す王都は明日に着く予定だが、この世界に来て俺は王都以外にほとんど行ってない気がする。
 まぁ、現在は目的を持って行動している以上、仕方ないことなのかもしれないが。

 「夜は俺が見張っときましょう。ちょうど昼に寝ましたし」
 「いえ、ここは交代の方がいいのでは?」
 「俺は一日寝なくても平気なんで。それにこの中だと、万が一に対処できるのは俺だけですしね。安全面を考えても、俺がやった方が確実です」

 ハルマンさんの申し出を俺は断る。一日寝ない程度なら問題ないのは既に実証済みだ。
 
 「そういうことでしたら……」と申し訳なさそうな顔をするハルマンさんに、「気にしないでください」と返す。ちなに既にルナとミレディは夢の中へと旅立っている。

 というより、ミレディはほとんど起きなかった訳だが。この娘は一体何時間寝るつもりなんだ。俺が昼間寝たのと同じぐらいに寝たとして、既に9時間は寝てるぞ。
 このまま朝まで起きなかったら、軽く15、6時間は寝てしまいそうだが、そんなに寝れるのだろうか。

 「それでは、お願いしますね」
 「いえいえ、お構いなく」

 馬車の御者台に横になるハルマンさん。中はルナとミレディが使っているため、大変心苦しいのだが、外で寝てもらっている。
 一応、しっかりとクッションと毛布を渡しています。あとささやかながら、ハルマンさんの周りの『消音領域サイレントフィールド』で遮断し、保温効果を高めることで、屋内と同じような環境にさせてもらっている。

 まぁ、本人は気づかないだろうが。気を使ったと気づかせないために、魔力をしっかり隠蔽しているのだから。

 「ふぅ、さてと……」

 一人になり、『ライトボール』によって微かに照らされたこの場所。
 離れる訳には行かないため、何をしようかなと俺は腕を組む。

 何もしないのは時間がもったいない。とはいえ、普段は魔物を狩るか街を散策するかしていたわけで、周囲に何も無いこの場所ではそれはできない。

 「新しい魔法でも作ってようかなぁ。蘇生魔法とか」

 そんなことを考え始めた時、ガサゴソと音がし出す。
 まぁ、誰が動き出したのかはわかる訳だが。馬車から出てきたのはミレディだった。

 その足取りはフラフラとしたもので、まだ意識が覚醒し切ってないのが窺える。

 「ミレディ、どうしたの?」
 「んー?」

 声をかけると、間延びした、どこか疑問形な声が返される。どうやら、まだ微睡んでいるようだ。

 ミレディは見ているこっちが心配になる歩きでこちらまで近づくとそのまま俺の隣に座る。地面は土で、そう綺麗ではないが、座る直前に地面の土を固定したため、土が服に着くことは無いはずだ。

 そのまま、横で俺の顔をぼーっと見つめるミレディ。本当にどうしたのだろうかと思うが、特に俺も何も言わない。
 まぁ、普段緊張しているのは過剰に意識してるからで、意識がハッキリとしない今だと、特に緊張なんかはないということなのだろうか。

 ミレディの目が閉じかける。やはりまだ眠いようだ。

 「ミレディ、明日は早いから寝てきなよ」
 「んー。お兄ちゃん……」

 すると、瞼を擦ったミレディは、俺をそれで呼ぶとそのまま胡座をかいていた俺の膝の上にコテンと倒れ込んでくる。本当に、何故馬車から出てきたのだろうか。

 そういえば、ミレディは俺の事をそうやって呼んでいたなと、冷静に分析してみる。どうやら俺は、『お兄ちゃん』という単語に弱いのか、ちょっとやそっとじゃ高鳴ることの無い心臓が少し鼓動を早めている。
 だから敢えて冷静になってみたのだが、膝の上で眠るミレディを見ていると、早鐘を打つ心臓は収まる気配がない。

 実の妹がいる身としては、複雑に思わざるを得ないものだ。そういえば昔はアイツらにもしょっちゅうドキドキしていたかと、苦いような甘いような、ともかく懐かしい記憶を思い出す。
 だからこそ、余計に複雑なのだが。

 まぁ、保護欲が刺激されているから、ということにしておこう。
 でないと俺は、妹やこんな幼い(といっても中学生程度ではあるが)女の子にドキドキして、悪戯をしたくなってしまうような変態ということになってしまうからな。


 結局、ミレディを起こしちゃ悪いなと思った俺は、ろくに身動きも出来ずに、数時間その場で過ごすこととなった。
 

 ◆◇◆


 そして迎える翌日。ミレディを『転移テレポート』で馬車の中へと送った朝。
 ハルマンさんは早く起き、俺が『無限収納インベントリ』に入れて置いた、ちょっとした朝食を摂っている。
 内容は、道中買ったおにぎりのようなものに、コーヒーらしき飲み物である。ハルマンさんは言っては悪いが、見た目よりは少食であるらしい。

 それはともかく、魔法を作っていたので、夜の間退屈することはなかった。そのおかげで俺の魔法全書に新たなページが多数刻まれたが、今お披露目できる魔法はない。

 基本的な魔法は既存のもので間に合っているため、どうしても魔法の効果が特殊なものや、強力なものになってしまうのだ。

 更なる戦力増強が出来たところで、使う機会が訪れるかは不明だが。

 「トウヤ君は食べないのですか?」
 「あいにく夜の間に少し食べてしまったもので。まだお腹が減ってないんですよ」
 
 ハルマンさんとは対照的に、水を飲む俺。夜、お腹が減った時に携帯食を食べていたのだ。

 おにぎりなんかがあるのに携帯食を食べたのは、単にその味が気に入っているからだ。いつから俺は、あの味を気に入ってしまったのか。

 恐らく変な時間でお腹が空くだろうが、最近はずっと昼抜きの二食だったから、耐えられるだろう。
 
 「んー、おはよー……」
 「起きたのかルナ。なんか食べる?」
 「おにぎり、お肉入りのやつ」

 朝から中々なものを。馬車から出てきたルナに、『無限収納インベントリ』から出した、『肉』と書かれた紙に包装されたおにぎりを渡す。
 おにぎりの種類は意外と少なく、何かの肉に、梅干しのようなものに、ハルムンさんが食べている塩で味付けしただけのものぐらいだ。

 何の肉なのか、それは分からないのだが、まぁタレがいいのか、中々美味しいので詮索しないようにしている。

 具材に魚が無いのは、この世界の海は魔物が住み着いており、危険が多いからだろう。川や湖といった場所から取れるのが、主な魚である。
 そして、この近くではそんなものもなく、あまり流通していないらしいな。
 
 「ミレディは?」
 「起きてるよ。ただご主人様と商人さんが一緒に居るから出てこれないみたい」
 「おや、私はお邪魔でしたかね?」
 「よしてください。警戒されてるのは俺もですから」
 「ご主人様は警戒されてると言うより、意識されてるって感じだけどね」
 「同じ感じだよ」

 どちらも相手の挙動を過剰に気にしているという点でいえば、同義である。ルナのジトっとした目を、平然と受け流した。

 ところで、『商人さん』というのは言わずもがなハルマンさんのことであるが、ルナはハルマンさんと程々に打ち解けている。
 思うところはあるはずだが、割り切っているのだろう。元々敵意もなかったし、もしかしたら当時の状況を鮮明に覚えているのかもしれない。

 一応、ハルマンさんはルナ達を拾ったという話だからな。助けてもらったと理解していれば、敵意がないのもわかる。


 「それでは、出発致します」
 「今日もよろしくお願いしますね」
 「いえいえ、夜はトウヤ君に見張らせてしまいましたからね。朝昼は私が頑張りましょう」

 朝の諸々の準備は終わり、馬車へと乗り込んで出発。
 今日の昼には着くということで、俺は頭の中で、着いてからすることの予定を考えていく。

 「そういえばご主人様、向こうに着いたら学校に行くんでしょ?」
 「ん? まぁ、学校というか、そんな感じの場所にね。ルナも行きたいの?」
 「そりゃ、異世界で学校と来たら、イベントの予感しかないっしょ!」

 一瞬でオタクとなったルナ。しかし、直ぐにしゅんとなる。

 「だけど、どうせそこの学校は実力がなきゃダメなんでしょ? また私達はお留守番よ……」
 「まぁ、冒険者育成機関ってことだからね。ある程度の実力は必要だと思うけど」
 「ねぇねぇご主人様、どうにかして私を鍛えられない? 最悪パワーレベリングでもいいからさぁ!」

 クイッと上目遣いに見てくるルナに、別にそれに感化された訳では無いが、俺は真剣に考えてみる。
 ルナの言うパワーレベリングは、恐らく強い魔物を俺が倒し、それでルナがレベルアップする、的なことだろうが、正直レベルの概念がよく分かっていないため、出来るかもわからない。
 そもそも、経験値という具体的な数値すらないのだ。なにがレベルアップにつながって、どの程度の反映度があるのかわからない。

 ただ、有用な手であるのは間違いない。例え戦闘に慣れていなくとも、パラメータが高ければ結構なアドバンテージだ。

 しかし、それは同時に危険も伴う。万が一を考えれば、何重にも安全策をかけてから行いたいものだ。
 となると、他の手段だが……一つ気になってることもあるしな。
 
 「ワンチャンあるとすれば、やっぱ魔法かな。才能次第だけど、短期間で上達がみこめるのは魔法技能が一番だし、肉体的に疲れることもないからね」

 ルナの身体では、例えパラメータが高くとも、武器を扱うのは体格的に不利であろう。
 なにより、運動神経という部分でいえば、パラメータ云々の話ではない。ならば、魔法の方がまだ可能性がある。

 「えー、魔法使えるようになるのは嬉しいんだけどさ、私魔法使ったことないんだけど。というか才能があるかすらもわからないんだけど……」
 「まぁ、こればっかりはなんとも言えないかな。ただ、想像力は結構重要だから、ルナならいくらか有利なんじゃない?」
 「え? ホント? ま、まぁ、確かに想像力はあるけどね」

 俺はオタクという意味で言ったのだが、都合よく解釈してくれたのでよしとしよう。
 想像力があるのと無いのとでは、結構違う。オリジナル魔法を作るのは流石に難しいが、既存の魔法とて、想像が明確であればあるほど、発動がスムーズになり、効果も高くなる。
 
 「言っとくけど、全くできない可能性もあるからね? 期待のし過ぎは気をつけなよ」
 「わ、分かってるって! 流石にそんなに子供じゃないし!」

 いや、中学生は十分子供だろう、と言っても意味は無いだろうな。

 「それならいいけどね……あ、ついでにミレディもやる?」
 「えぇっ!? えっと、あの……わ、私、魔法なんて、使えないとお、おもいますぅ……」

 ルナに白けた目を送った後、一転して優しげな笑顔を浮かべつつ、俺はずっと聞きに徹していたミレディに聞く。
 ミレディは最初驚くと、言葉を詰まらせながら、段々と自信なさげになっていく。アシュバラを出た時よりは少しだけ改善したように思えるが、さてどうなのか。

 ルナがすかさず間に入ってくる。

 「いやいや、ミレディも一緒にやろうよ! 一人だけとか寂しいし」
 「お、お姉ちゃん……私、才能なんてないよぉ………」
 「やって見なきゃわからないわ!」

 随分と強引だなと思うが、実の姉だからこそできるのだろう。絶妙な援護射撃のため、俺もすかさず続ける。

 「ルナの言う通りだよ。別に出来ないからってなにかする訳でもないし、やるだけやってみたら? もし魔法が使えるようになれば、色々と便利だしね」
 「ほら、ご主人様も言ってるし、やろうよ!」
 「う、うー…………」

 葛藤してるなぁ。俺への意識と、魔法への好奇心の両方だろうか。
 しかし、それも俺が何か言うまでもなく、自己解決したようだ。

 「…………じゃ、じゃぁ、お、お願いします………」
 「うん、わかった」

 真っ赤になっている顔を伏せながら言ったミレディに、頷く。どうにか誘えたようで何よりだ。

 「────ちなみに訓練は王都についてからだよ」
 「え!?」
 
 最後に一言告げると、ルナは出鼻をくじかれたようにガックリと肩を下げた。
 


 それから数時間後、アールレイン王国の王都が見えてきた。
 
 





 明日、いつもの時間、以上!

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