俺の学年が勇者として召喚されたが、俺は早速腹黒王族にマークされたようです

イミティ

第40話 出立





 「ルナ、準備は出来た?」
 「いや、そもそも準備するもんなんてないんだけど」


 ベッドに座って足をぶらぶらとさせていたルナは、困ったように言う。
 確かに、荷物なんてないな。俺には『無限収納インベントリ』があるし、ルナとミレディは持ち物がそもそもない。


 「じゃあミレディ……はどうするかな」
 「寝かせたままでいいんじゃない?」
 「いや、起きた時に状況を説明するのが面倒だから、今起こしちゃおう」


 「いや、面倒って……」と呟くルナを無視する形で、クロエちゃんの隣でベッドに眠るミレディを起こす。
 起こし方は簡単、魔法で肉体に介入し、脳と身体の覚醒を促す。しかし、俺は肉体の詳しい原理は知らないため、本当にイメージ依存、魔法の力だ。


 「ひゃあっ!?」


 だが、こんな反応になるとは思わなかった。


 「大丈夫、ミレディ?」


 まるで、突然冷水でもかけられたかのようにベッドから跳ね起きたミレディに、俺は白々しく問いかける。
 俺が引き起こしたであろうことは、傍から見ていたルナには一目瞭然であっただろう。冷たい視線を背中に浴びる。


 いや、本当にこんな反応するとは思わなかったのだ。少々刺激が強すぎたのだろうか。


 「え、ああああの、えっと、えと、ななな、なんですか?」
 「ミレディ?」
 「ちょっとテンパりすぎ」


 突然のことというのと、恐らく目の前の俺がいたのもあるだろう。過呼吸でも起こしそうなくらい言葉を詰まらせるミレディに、ルナが呆れたように近寄る。


 「おお、お姉ちゃん? あいたっ!?」
 「これこれ落ち着け」


 ベチンッ! とミレディの額に赤い点ができる。まぁ、デコピンでもしたのだろう。


 流石は姉妹なだけあって、ルナは手慣れている。その衝撃によって意識が収束したミレディは、痛みに若干涙目になりながらも、多少の落ち着きは取り戻した模様。


 この小心とも言うべき部分を直すのも今後の課題になりそうだが、それはともかく。


 「ミレディ、大丈夫?」
 「あ、は、はひっ!」


 うむ、流石の俺も、この緊張を取り除く方法は知らない。
 俺の方に意識を向けるなり、一気に顔を真っ赤にさせて上擦る様は、とてもではないが対応が難しい。


 過剰に意識されているようだが、どうしたものか。せめて通常の会話程度は出来ないとなぁ。


 ……まぁ、とりあえず後でいいか。


 ハルマンさんとの約束の時間が迫っているため、俺は一度問題を棚上げして、ルナに視線を合わせる。


 『ミレディは頼んだ』
 『仕方ない、分かったわよ』


 そんな目線での会話をして、ルナがミレディに状況を説明する。その間、ミレディがチラチラと俺の方に意識を向けるのをどうにか素知らぬ顔でやり過ごす。


 俺はここにはいません、気にしないでくれ、という俺の意思が伝わったかどうかはわからない。ルナから事情を聞いて『え!?』とか『うそっ!?』とか『あわわ!』とか……まぁ聞いてる側としては面白い反応が次々に行われる。
 どうやらリアクション芸人を目指しているようだ、なんて少し逃避気味に考えていると、説明をし終えたルナが立ち上がる。


 「クロエさんの件については話してないから」
 「うん、それでいいよ」


 ボソボソと小声で言われる言葉に頷き返して、ミレディの方をむく。
 ビクッ、と身体が明らかに硬直する様を見て苦笑いをこぼしそうになり、慌てて引き締める。


 「とりあえず今から、馬車を用意してくれる人のところまで行くから、着いてきてね」
 「は、はい………」
 「クロエさんは?」
 「少しアレかもしれないけど、ラウラちゃんに頼んでこのままここに寝かせておこう」


 ついでにセミルにも事の経緯を伝達しておこう。2人がいる手前、『エアボイス』では独り言を言っているように見えてしまうだろう。
 必然的に、新たな魔法を作る必要が出てきたため、俺はさして苦労することも無く、念じた内容を対象の脳内に直接送る、『テレパシー』とも言うべき魔法を作り上げる。属性的には闇だろうか。


 相変わらずの魔法作成の難易度の低さには、最早なにも思わなくなってきた。


 ま、とりあえずこれで、セミルはクロエちゃんを迎えに来るだろう。『お主、人の娘を置いていくとか悪魔か!?』とでも言われそうだが、全てが終わった現在、クロエちゃんに会うのはしばらく避けたい。


 そろそろ俺も、一度心身をリセットしたいのだ。昨日今日と、状況が状況だから、ずっと鋭い方の俺になっているのだから。
 休む間もないため、切り替える暇もない。そのため、アールレイン王国に着くまでの間に、戻しておきたい。


 クロエちゃんと話せば、必然的に鋭い方にならざるを得ない。更に言えば、長引くだろう。


 一度セミルから状況を聞いて、ゆっくりと理解し、精神を落ち着かせ、時間を置いてからまた会いに来よう。


 一階へと降りると、ラウラちゃんが涙目で待機していた。


 「うぅ、トウヤさん、いえご主人様、本当に行ってしまうんですね……」
 「ちょっと、ご主人様?」


 ルナからジト目が向けられる。いや強制してるわけじゃないですよ? ホントに。
 というか、この娘も分かっててやってるだろ。


 「悪いね、急なことだったから……またこの国に戻ってきた時は、この宿を使わせてもらうよ」
 「それはもちろん、大前提ですよ!」


 大前提なのか。


 コロコロと変わる表情を前に翻弄されつつも、俺は早々に別れを告げる。というのも、ルナ以上に、ミレディからの視線の方が怖かったのだ。
 ルナのようにジト目を向けられている訳では無い。とは言っても、鋭い視線という訳でもない。


 だが、なにかこう、重いのだ。背中に感じるミレディの視線が。表情を確認したいが、何だか背筋に悪寒が走るためやめておく。


 「部屋にクロエちゃんが寝た状態だけど、大丈夫かな?」
 「あ、はい。それは大丈夫です。クロエさんはもう正式にウチの従業員ですから!」


 この後セミルが遅かれ早かれ来るのかなと思うと少し気の毒に思えるが、なかなか良好な関係を築けているようで何より。


 「あっと……トウヤさん、ちょっと」
 「うん?」


 さて行きますか、とさよならを切り出そうとした時、ラウラちゃんが俺を手招きする。
 なんだろうかと俺は近づき、そのちょいちょいと小さな動きから、どうやら耳を貸せとのこと。
 要望に応えて、俺は少しかがみ、耳元をラウラちゃんの口元へと近付け─────。






 ───チュっ






 「え?」
 「ななっ!?」
 「~~~っ!?」


 ラウラちゃんの口は、まさかの俺の耳を通り過ぎ、その唇が軽く頬へと触れた。
 その柔らかな感触に、俺は少し困惑した声を出し、慌てて……という程慌てることも無く。むしろ後ろの2人が俺よりも困惑しているのを尻目に、ゆっくりと顔の位置を戻して、俺はラウラちゃんを見る。


 すると、『テヘッ』とでも擬音が出そうなてへぺろのポーズをラウラちゃんは取った。まるで、『ついつい』とでも言いたげな、イタズラ感が溢れている表情だ。


 ────だが、彼女に誤算があったとすれば、俺がポーカーフェイスを得意としている、という点だろう。


 俺は特に何を言うでもなく、顔を赤くすることも、目を回すことも無く、無言に真顔でラウラちゃんを見つめた。それは、一種の意趣返しのようなものだ。


 「……」


 本来そこで何かしらのアクションを欲していたはずのラウラちゃんは、俺のリアクションのなさに、段々と表情を引き攣らせていく。


 そして……。


 「……その、今のは、お得意様への接待サービス、です………」


 遂には顔を真っ赤にしてそんなことまで言ってきた。
 一体この宿はいつからそういうサービスも追加されたのかと聞きたくなるが、もちろん咄嗟の言い訳であるのは疑いようもない。


 というか、お得意様への接待サービスとか、もしあったとしたら、それは結構大人な場所ではあるまいか。
 日本基準でいえば、ラウラちゃんじゃ明らかに働けない場所だろうな。


 「ごめん、ちょっと意地悪が過ぎたね」


 湯気が出てしまったラウラちゃんの再起を図るため、俺は少し頭を下げながら、気まづくなった雰囲気を無理やり取り払う。
 流石に恥ずかしがるなんて言う可愛らしい演技はしないのだ。俺のプライドというかなんというか、普段クールキャラを気取っているだけあって、そういうのは中々厳しいものがある。


 その結果、毎回〃〃相手が恥をかいてしまうのだが………。


 「ほ、本当にです! 恥ずかしかったんですよ!」


 ならやらなければいいのでは、と俺は思うが、言うまでもないだろう。
 聞いたところで、最終的には『トウヤさんをこの店に縛り付けるため』的なこと言われるに決まっている。


 「それは本当に悪い事をした。だけど、良かったの? 純真な女の子のキスはそう安いものじゃないと思うんだけど」
 「きっ!?」


 反応したのはルナとミレディであり、ラウラちゃんはここまで大袈裟な反応はしていない。
 精々が赤い顔で苦笑い程度だ。誘惑というか、そういう面では生来の性質がありそうだ。


 「するのはトウヤさんだけですから、ね?」


 なるほど、こういう所は本当に真似出来ないだろう。いや、俺が真似してどうするんだという話なのだが、やろうとしてやれるものでは無い。
 俺の問いに対して、少し前屈みになって上目遣いに答える姿は、ポーカーフェイスの下で、俺も、少し高揚せざるを得ない。


 「そんなに好感度を稼いだ覚えはないけどなぁ」
 「いえいえ、これも接待サービスですから!」


 ただ、相変わらず最後は、ビジネス的にそう締めくくられてしまうが。


 「ご主人様?」
 「………」
 「それじゃあラウラちゃん、お見送りの品〃〃〃〃〃〃もしっかりと貰ったことだし、俺達はそろそろ行かせてもらうよ」
 「はい、是非ともまた、『泊まり木の宿』へ来てくださいね!」
 「遠くないうちに、またね」


 流石にそろそろ2人からのプレッシャーに耐えかねたので、俺は切り上げる。ラウラちゃんも、俺の背後から感じるであろう重圧に気づいているのか、特に長引かせることも無く、そうなった。


 ルナとミレディも、在り来りな挨拶を交わす。
 まぁ、ミレディは表面上はともかく、ルナは複雑なところがあるようだ。棘があるように見えて、だが昨日一緒に行動したこともあってか、寂しがっているようにも見えた。


 ラウラちゃんはラウラちゃんで、牽制するかのように威圧感があったが……俺はそれらには何も口を挟まなかった。


 一通りの挨拶を終え、歩き出した俺の横に並んだルナが、チラチラと俺を見る。正確には俺の頬だろうが。


 未だ頬には先程の感触が残っている。美少女からのキスとは、男冥利に尽きるが、それに嬉しい以上の感情を抱いていない。
 もう少し恥ずかしさでも湧いてきたらいいのにとも思うが、こればっかりは俺が頑張っても仕方ないことだ。


 どんなに思おうとしたところで、無いものは無い。極端に恥ずかしがることが少ないだけで、別に俺が羞恥を感じない訳では無いのだから、それでいいだろう。
 重要なのは、俺がどう思うかではなく、他人がどう思うかなのだから。


 「さっきのが気になる?」
 「え!? あー、えっと……」


 俺は思考を止めて、ルナに、そしてさりげなくその後ろから耳を傾けているミレディに聞いてみる。
 "さっきの"というのが何を指しているのかは言うまでもなくわかるだろう。ルナは顔を赤らめて返答に困る。


 「言っておくけど、俺とラウラちゃんは別に恋仲なわけじゃないよ。あの娘は多分、俺をからかってるんだろうな」


 ルナが何を心配してるのかはあえて聞かず、結論を話す。


 「いや、まぁそれもそうなんだけど………」


 だが、俺の答えには不満足なのか、これまた複雑な顔をするルナ。


 「ご主人様って、ちょっと冷めてるよね……」
 「………」
 「……ゴメン、無神経だったかも」


 的確な指摘に俺が言葉を返さなかったのを見て、ルナはすぐに謝った。
 俺は、自分が酷く困惑している顔の可能性を考えた。恐らく一瞬の間だけでルナが謝ったのは、俺の表情に由来するところが大きそうだ。


 だが、別にルナが謝るほど深刻なものじゃない。


 「あぁいや、別に大丈夫。冷めてるというか、こういうのには耐性があるんだ。後はポーカーフェイスも得意だからね。実際には動揺してるよ」


 問題ないというのと、ついでに安心というか、疑問を抱かせないために、そんなことも言っておく。


 「……耐性?」
 「あまり人に話すことじゃない」
 「ふぅん……まぁいいけど」


 直ぐに思考を逸らしてくれたルナは、さっき謝った姿からは想像できないような、なんというか軽蔑したような視線をあびせてくる。


 "こういうのには耐性がある"と聞けば、普段どういう生活を送ってきたのか想像することだろう。そうしてルナが軽蔑するのも。
 まぁ、ここまでは予想できる。


 別に冷たい視線を浴びせられて喜ぶような変態的趣味は、俺にはあまり無いため、予想できているからと言って、ダメージがゼロな訳では無い。


 それを表に出すようなこともまた無いが。


 俺はそんな視線には全く気づいていないかのように、道中当たり障りのない会話をルナとした。
 ミレディと会話するのは難易度が高いと思ったため、今回は、ミレディは聞き役に徹してもらった。


 退屈させないように、話題は選んだつもりだが、ミレディは会話にこそ参加しなかったものの、最後まで聞きの姿勢を保っていた。


 そして、約束の場所へとたどり着く。


 「お待たせしました」
 「いえいえ、こちらも今来たところです」


 会話の内容に、これを男同士で言うのかという一瞬の疑問が頭をよぎるが、次の瞬間には消え去っている。


 馬車を用意して待っていたハルマンさんに、俺は会釈をしながら近づいた。
 その際、ルナの身体が一瞬硬直したのを見逃さなかった。ハルマンさんが誰なのかすぐに理解したのだろう。


 少なくとも、ハルマンさんに対する敵意は感じられなかった。


 そして、ハルマンさんもそれを理解しているのだろう。今は刺激を与えないようにということでか、視線を俺に固定したままにしている。


 「それでは、アールレイン王国まで向かうのでいいですね?」
 「はい。よろしくお願いします」
 「こちらこそ、道中の護衛、任せました」


 その課題はアールレイン王国までの道程で解消していくことにして、ひとまず、俺はハルマンさんの手を握り、馬車の荷台へと乗り込んだ。


 「ルナ、ミレディ」


 すぐに声をかけて、するとハッとしたようにルナが乗り込んできて、怯えた様子でミレディもゆっくりと乗ってくる。


 ミレディはハルマンさんのことを覚えていないだろうが、この感じだと他人と言うだけで怯える感じだろうな。
 性格となると難しいが、まぁ、俺と話せる以上のことは望まない。一先ずはそれを目標にすればいいだろう。






 「それでは、出発致します」
 「了解です」


 2人の問題を効率よく解決していくための思考をしながら、俺はハルマンさんに了承を示した。





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