俺の学年が勇者として召喚されたが、俺は早速腹黒王族にマークされたようです

イミティ

第38話 移動手段確保





 「さて、ルナ、今日中にここから出ていくよ」
 「───えぇ? えぇ!? ちょ、いきなりぃ!?」


 部屋に戻ってそうそう告げた俺に、ルナは困惑と狼狽でオロオロとしながら、ベッドから立ち上がる。


 「ご主人様さ、私が奴隷だからか知んないけどいつも急じゃない!? なんか全部説明なしで色々と言われてる気がするんだけど!」
 「あー、そうだね、ごめんごめん。後で説明するよ」
 「軽っ!?」


 うがーと怒りを露わにするルナにあからさまに適当テキトーな返事を返す。


 「なんて、冗談だよ。簡単に説明してあげる」
 「なっ、この、い……」


 そして、一瞬で態度を翻した俺に、ルナが言葉を詰まらせる。恐らく『いけしゃあしゃあと……』と言いたかったのだろうなと俺は理解する。


 そして俺は、昨夜のクロエちゃんとセミルの件を掻い摘んで説明する。話のスケール的に、言葉だけじゃ理解しにくいかとも思ったが、ルナは意外にもすんなり理解した。
 ……肉体はともかく、前世は19歳だったらしいのだから、俺と同じ程度の理解力はあっても不思議ではない。視覚からの情報には逆らえないからな。
 それに、昨日少し話したのもあるだろうし。


 「オタクだからでしょ」


 あぁ、それもあるのか。
 意外そうな顔をした俺にルナは目を逸らしながら言った。確かに、それは大きそうだ。
 オタクはこういうことに関しては異常な理解力を発揮するからな……女子も例外ではない、ということかな。


 「でも、それと今すぐ移動するのってあまり関係なくない?」


 しかし、理解はしても納得しなかったルナは、訝しげに聞いてくる。
 これから先、ルナやミレディとは長いこといるだろうし、そうなると、俺について多少は話しておいた方がいいのか。


 少し悩んで、俺は結局伝えることにする。


 「もし今起きたら、クロエちゃんは俺の事を気にするでしょ? 命の恩人、というわけじゃないけど、少なくとも今よりも強い好意が向けられる可能性は否定できない」
 「……ご主人様って自意識過剰?」
 「ちがう」


 失礼なことを言ったルナに断固として否定を告げる。確かに、言葉だけ聞いてるとそうかもしれないが。
 いやほんと辛いな。事実を話しているだけだが、他人からしたらそう見えても不思議ではないのだから。


 ……というか、常に相手が自分に対してどう思うかを考えつつ行動していたら、それは立派な自意識過剰では無いのか?


 「ルナも昨日のクロエちゃんの反応はおかしいなって思わなかった?」
 「それは、まぁ確かに、ご主人様のことを意識してる感じだったけど……やっぱり自意識過剰なんじゃ」
 「言うな」


 『ちがう』から『言うな』になったのは、先程の思考のせいだろう。そんな些細な変化をルナが気に留めることはない。


 「でも、それってどっちかって言うと嬉しいもんなんじゃないの?」


 そして、もちろん俺の真意に気づいてくれるはずもない。


 「まぁ本来なら嬉しいところなんだけど……」


 どう伝えたものか迷う。正直に話したところで、信じてもらえるかはわからない。よしんば信じてもらえたとして、ルナがどう思うかも予測不能だ。
 嘘を混じえる事は確定、そして最も納得しやすい理由……。


 「───俺には他に好きな人がいるからね。だから、クロエちゃんにはしばらく会わない方がいいと思うんだ。クロエちゃんの昨日の反応からして、ちょっと危なそうだからね」


 結局ありきたりな理由となった。ありふれていて、説明しやすく、理解もしやすいだろう内容。


 「……ふぅん、そうなんだ………」


 もっとも、ルナは納得こそすれ、今度は不機嫌顔になってしまったが。
 そして、それに対してどうしたのかと無遠慮に聞く、ということもしない。
 不機嫌になった理由が、決して今掘り下げたくはない内容であることを理解したからだ。


 「……とまぁ、そんな感じだからね。そうだな……昼前後に行くと思うから、そのつもりで」


 一瞬の間こそ空けるも、動揺は顔に出さない。俺の言葉に、『りょーかぁい』と間延びした、やる気のない感じで返事をしたルナは、そのままクロエちゃんとミレディが眠るベッドに腰掛けた。


 まぁ、一応納得したようだから良しとしよう。こっちはこっちで、移動手段の確保をしなきゃいけない。俺一人ならばともかく、ルナやミレディも居るのだから、魔法で飛ばすというのは厳しい。
 なにより長距離の転移は、短距離(数キロメートル)の転移と比べて圧倒的に感覚が違う。街中の転移にも酔ってしまう2人では、恐らく耐えられないだろう。
 だからといって、短距離を連続的に転移するのも、それはそれで何度も襲いかかってくる酔いはキツイはず。


 2人と併用できる移動手段を確保しなければいけないのだ。






 ◆◇◆






 そして、俺は迷うことなくこの奴隷商店に来ていた。
 まだ来たのは3度目という少なさだが、[完全記憶]によって、特に目新しさはない。


 「ようこそいらっしゃいました、トウヤ様」


 中へと入った俺を、ハルマンさん目的の人物が歓迎した。
 どうやら昨日の被害は特にない様子。ハルマンさんはここに居を構えているから、この街についても詳しく理解しているのだろう。


 「こんにちはハルマンさん、急に申し訳ありません。お時間を頂いてしまって」
 「いえいえ、滅相もございませんよ。他でもないトウヤ様ですからね」


 実は、予め『エアボイス』によってアポを取っていたのだが、如何せん急であることに変わりはない。
 謝罪を告げると、笑顔で問題ないと返してくれる。


 ちなみに、『エアボイス』でアポを取る方法が非常識であることには目を瞑った。
 そもそも、『エアボイス』は一方的にこちらの声を届ける魔法のため、本来は相手の返事を聞くためには、相手が『エアボイス』かそれに類する魔法を使えなければいけないのだが……俺の場合は双方の声を行き来させることが出来るため、問題は無い。(ハルマンさんは困惑していたが)


 結局非常識であることに変わりはないけどな。


 「さて、わざわざ事前に告げていたということは、奴隷とは無関係に、私に話があるのでしょう?」
 「はい、その通りです」


 言い当てられたことに、俺は特に動揺もしない。動揺を悟られないようにしていたのではなく、商人なのだから、洞察力、観察力は鋭いだろうなと覚悟していたからだ。


 以前も通された応接室へと案内され、紅茶に似た飲み物が出される。


 「ありがとうございます」
 「いえいえ。それで、ご用件をお伺いしましょう」


 特に談笑することも無く本題に入ったのは、恐らく俺がその方を好むから、もしくはあまり時間はかけたくないという思いを知っているからだろう。
 そのスムーズな話の進みに、確かに好ましさを感じつつ、俺も早速口を開く。


 「実は、本日をもって俺はこの国を発ち、隣国の【アールレイン王国】に行こうと思っているのです」
 「それは……随分と急ですね」
 「はい。それで突然お時間をいただくことになってしまったのですが……」


 頭の中で話を組立てるために、出された紅茶を飲んで間を置く。
 そして、俺は曖昧にするのではなく、率直に言い放った。


 「ハルマンさん、俺と一緒に【アールレイン王国】まで行きませんか?」







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