俺の学年が勇者として召喚されたが、俺は早速腹黒王族にマークされたようです

イミティ

第37話 円転滑脱





 その後俺は宿に戻り、残りの勇者達に、これから離れるからという挨拶をしていた。
 門真君はともかく、他のみんなと別れるのはそう大した事じゃない。事実、簡単な挨拶を告げるだけで済んだ。


 「黒澤君、俺がいなくてもしっかり訓練してくれよ?」
 「ハンッ! アンタが居なくなるのはスッキリしていいぜ」
 「もし訓練をさぼってるようだったら、次はこってり絞るから」
 「ハァ!? ふざけんじゃねぇよ!」


 反抗的な黒澤君には無慈悲に告げる。まぁ、こういう暴言も、笑って流すことが出来るのは、黒澤君が真に悪でないことを知っているからだろうな。


 「筋トレはかかさずね」
 「は、はい……」


 続いて、肉体が少し弱い天貝君には言葉少なに助言をした。筋トレという言葉に『うっ』とばかりに顔をゆがめた天貝君は、辛いことは苦手な模様。
 知ってたけどね。


 「また今度お相手よろしくお願いしますッス!」
 「いいよ、次は俺から一本取ってみせてよ」
 「うっす!」


 体育会系らしい野村君には、挑発的に笑う。両拳を打ち付けるポーズが様になっていて、『お前はどこの武闘家だ』とツッコミを入れたい。
 まぁ、このまま戦闘を重ねていけば武闘家と呼ぶにふさわしくなるんだろうが。


 「紫希ちゃんと雫ちゃんに、ちゃんと声かけてくださいね」
 「これからね。それじゃあ」


 世話焼きの飛鳥ちゃんには苦笑いを返す。言葉少なだったのは、あまり変に期待されても困るからだ。
 自身の性格を理解しているからこそ、何か言われた時、きっぱりと断ることが出来ないと知っている。特に、何の他意もない純粋な期待は、思わず顔をゆがめてしまいそうになる。


 「トウヤさん行っちゃうんですか!?」
 「また今度ね」
 「えぇー?」
 「お土産、なんか買っておくよ」
 「ホントですか!? いやったぁ!」


 その雰囲気を取り払うかのように現金な一言を告げると、これみよがしに喜ぶ陽乃ちゃん。
 ぶーぶーと言わんばかりのふくれっ面から一転、キャッキャとはしゃぐ姿は、本当に見ていて微笑ましい、と現実逃避気味に考えた。




 「昨日は怪我を治していただき、ありがとうございました」
 「構わないよ。俺が助けなければ危なかったし、なら俺が助けるのは当然でしょ?」
 「さて、どうでしょうか。力には責任がつきものですが、俺としてはその力はやはり当人の持つもので、権利は全て当人にあるのかなと思いますから。それが俺を助けるために振るわれたなら、感謝が当たり前です」
 「……なら、気持ちだけ受け取っておくよ」


 そして、昨日大怪我をしていた京極君に声をかけたら、頭を下げられた。
 なんだかとても深いことを言っているようで、思わず俺もなるほどなぁと頷いてしまう。
 それから、今日中にここを離れる旨を伝えると、京極君は早々に『さようなら』と俺に告げて。


 「これから修羅場ですか?」
 「違うよ。一言声かけるだけ」
 「そうですか……今までありがとうございました」
 「いいっていいって。次の機会があれば、その時は対等に戦ってみたいかな」
 「死にそうなんで辞退させてもらいます」


 同時に、見透かしたような目で不穏な一言を放った京極君にそう言うと、苦笑いで断られてしまった。




 そしてやってきた最後の2人。だが、特に変わったことをするつもりは無い。


 「あ、トウヤさん」
 「トウヤ君!」
 「こんにちは、かな。御門さん、雫さん」


 後輩勇者達が借りている部屋の1つには、丁度2人が居た。もちろん、ノックはしてからだ。
 俺の姿を見るなり2人は、驚きと喜びの交じったような顔をする。


 「あ、あの、とと、突然どうしたん、ですか?」
 「御門さん、落ち着いて」


 突然の事で言葉が詰まっている御門ちゃんを落ち着かせる。まぁ、今までこんなこと無かったのに突然部屋に入ってきたら驚くよな。


 「何か用? トウヤさん」
 「用というか、挨拶かな。実は俺、今日中にこの国から出ていくことになったから」
 「───えっ!?」


 軽く告げると、御門ちゃんが声を大にして驚く。雫ちゃんも目を見開いて、声こそ出ていないが驚いている。


 「それって、もう会えないってこと?」


 驚きから復帰し、少し寂しげな顔で聞いてくる雫ちゃんに、俺は首を横に振る。


 「君たちが自由に動けるようになれば、また会えるよ。それに、俺だってもうこの国に来ないわけじゃない」
 「そう、良かった」


 それで満足したのか、安堵の息を漏らした雫ちゃんの頭に手をおこうとして……俺はそれを意識的に止めた。
 以前御門ちゃんの頭を撫でた時の感じを思い出したのだ。無意識とはいえ、一つしか違わない相手の頭を撫でるのはおかしいだろうし、恥ずかしいだろう。


 なにより、俺の方に恥ずかしいという意識がないのが問題だな。


 「で、でも、しばらくは会えないんですよね?」
 「まぁ、どのくらいかは分からないけど、確かにしばらくは会えないかも」


 安堵した雫ちゃんとは対照的に、御門ちゃんは安堵せず、寂しさで顔を埋めつくしている。


 「……大丈夫だよ。君たちは十分に強くなってるし、あとは俺が教えると言うよりは、自主練習の域だ。俺がいなくても平気」
 「え、あ、そういう話じゃ……トウヤ君、分かって言ってるんですか?」
 「何が?」
 「………」


 御門ちゃんの言葉に白々しく返すと、御門ちゃんはジトっとした目を向けてくる。その意図も理解して、俺は破顔する。


 「冗談だから、そんな顔しないでよ」
 「ホントですか?」
 「当たり前でしょ。俺も、御門さん達と別れるのは寂しいからね」


 雫ちゃんにも顔を向けつつ、こちらも少し寂しさを混じえて言うと、雫ちゃんが恥ずかしそうに目を伏せ、先程とは違う種類のジト目が御門ちゃんより向けられる。


 「でもまぁ、別に最後って訳でもないからね。これが一生のお別れって話だったら、俺も泣いてたんだけどね」
 「トウヤさんが泣くのは想像できない」
 「そもそもトウヤ君って泣くんですか?」
 「いやいや、俺だって泣くよ」


 心外だなとばかりに、しかし特に何か裏を持たせたものではなく、単純な反論として俺は述べる。
 痛みで泣くことも、怖くて泣くこともないが、感動したり、悲しくて泣くというのはある。涙腺が普通より引き締まっているだけだ。


 「まぁ、だから、別に泣く必要は無いんだよね」
 「……そういうもんですか」
 「なに、泣いて欲しかった?」
 「泣いて欲しかったというか、少しは何か思って欲しいというか……」


 段々と尻すぼみになっていく声。イタズラでもしようかと思うが、既に散々ギルドマスターをいじっていたおかげで、とどまることが出来た。
 俺はそれに対し、気づかなかったことにした。


 「さて、それじゃあ俺はそろそろ行くとするよ。この後は荷物を用意して、移動手段あしを確保しなきゃ行けないからね」
 「……うん、わかった。トウヤさん、今日までありがとうございました」
 「え、あ、えと、私もありがとうございました」


 寂しそうな顔で、頭を下げてお礼を言ってきた2人。俺は流石に淡白過ぎたかと思い直し、少し顔を緩めて2人の頭に手を置く。


 「構わないよ。俺の方こそ、2人と会えてよかったと思う。ありがとうね」


 その状態で、感情を込めた声音で伝える。みるみると、御門ちゃんは無論、雫ちゃんも頬に赤を差し、恥ずかしげに目を伏せる。


 最後の名残惜しさ。俺もそれを感じてしまって、やっぱりもう少しこの国ここに居てもいいかなという思いが芽生えるが、既にさんざん挨拶をして回ったあとのため、今から撤回は厳しい。


 2人の頭から手を離し、俺自身がこれ以上別れづらくなる前に、ものほしげな視線から逃れるように部屋から退出した。




    


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