俺の学年が勇者として召喚されたが、俺は早速腹黒王族にマークされたようです

イミティ

第36話 着替え中の相手の身体を観察してしまうのは仕方ないことだ





 門真君に関してはどうにか上手く纏められた。勇者についてもようやく話せたし、いい感じに拘束が緩まった。
 心配なのは御門ちゃんと雫ちゃんだが、クロエちゃんの件よりは難易度は低いはずだ。


 流石に何も言わずにお別れというのは冷たすぎる気がするので、勇者には一言ずつ声をかけておくか。その時に、2人にも声をかければいい。


 ミレディとルナはいつでも時間があるし。


 となると、もうほとんど終わったも同然だな。


 そう思考をまとめると、ギルドマスターの部屋に着いた。俺はいつものように無遠慮に扉を開く。
 そろそろ移動に関することが決まったため、それを報告しに来たのだが。


 「ギルドマスター、出立に関してなんで、す……が………」
 「あっ…………」


 しかし、今回は流石に頂けなかった。いや本当に。


 ギルドマスターと目が合う。


 いや、より正確に言うなれば、室内で絶賛着替え中だったギルドマスターと、目が合う。
 先程まで深い考えにハマっていた反動で、すぐに働かない思考。俺はその場に立ちつくした。


 不幸中の不幸〃〃というか、ギルドマスターは丁度下着しか身につけていない状態だったため、そのエルフらしい、白く眩しい肌と、対照的な黒い下着が目に飛び込んでくる。
 その下着も、上に至っては今から付けようとしていたので、現在は何も無い。


 ────別に、今回のようなハプニングが過去に一度もなかった訳では無い。いや、それはそれで問題だが。
 だが、相手が歳上というのは、些か初めてだ。そのせいで、どう対応したらいいか、現在の思考では結論が出せない。


 だからこそ、俺はこの場に留まってしまっていたのだろう。


 視線が意識とは無関係に、下へと降りていき、顔から首、胸、腹、腰、脚とスレンダーで女性的な曲線を描く肢体をなぞって行く。


 豊かなという程ではないが、貧しいとも言わない、だがどちらかと言えば小さいよりの、ハリのある胸。
 その先にある、ツンとした淡いピンクの蕾に目が止まってしまうが、生憎とどれほどの時間だったかは分からない。
 腰のくびれは健康的で、それでいて色っぽく、しなやかな脚は、細くも程よい肉付き。


 色々と、それこそ本当に上に関しては見てはいけないところまで目に入れてしまってから……俺は目を瞑りながら、無言で扉を閉めて、背中をつける。
 そして、少し時間が経ち………。


 『きゃぁぁぁぁぁ!!』


 室内から響いてくる、なんともイメージに合わない女の子っぽい悲鳴を、俺は『消音領域サイレントフィールド』で遮断した。
 なんというか、この冷静な行動が悲しいというか。


 中で顔を真っ赤にして発狂しているであろうギルドマスターを想像しつつ、俺は少しの間扉の前で待機した。






 ◆◇◆






 ギルドマスター相手にこんなハプニングがあろうとも予想していなかった現在。


 間を開けて再度部屋へ入った時に放たれた魔法を、俺は反射的に無効化してしまい、事態は更に悪化した。


 頬に紅葉でも(魔法のため実際には違うが)付けた方が直ぐに済んだのかも知れないが、一度避けてしまった以上、どうしようもない。


 ギルドマスターのご機嫌取りは、当然のように俺の役目となった。


 「ギルドマスター、機嫌を直してくださいよ」
 「………」


 ムスッとした顔で椅子に腰掛けているギルドマスターは、ツーンと顔を背ける。
 俺を直視できないのだろう。頬は未だ赤く、少しだけ見える目も、動揺から揺れている。


 「ギルドマスターのを見てしまったのは謝りますから、機嫌を直してください」
 「っ、き、君という人は……」


 俺の率直な言葉に先程の出来事を思い出してしまったらしいギルドマスターが、顔を真っ赤にしてそう言ってくる。
 上目遣いで、唇をかんで羞恥に耐えながらこちらを見る姿は、歳上ということも相まって、酷くギャップ萌えという言葉を連想させるが、俺はすぐに振り払った。


 「と、トウヤ君だったら、さっきも、すぐに出ていけたよね!? 部屋の中の様子も分かったよね!?」
 「ギリギリまで思考していたものですから……それに、ギルドマスターのとても扇情的〃〃〃な姿に見蕩れて〃〃〃〃しまって、直ぐに動けなかったんです」
 「せ、扇情的っ!?」


 バッと自身の体を抱えるような仕草をするギルドマスターに、俺は敢えてクスリと笑みを零す。
 見蕩れていたというのは、本当だ。ギルドマスターの身体は(地球では当たり前だが)傷一つなく、なんというか、同年代や歳下にはない、色っぽさもあった。
 上が丸出しだったのもあるだろうが。


 なお、俺が同年代や歳下の女の子の肌を見た事があることに関しては、黙秘させてもらう。


 「ですから、完全に俺だけが悪いという訳ではありません。確かにノックも声をかけることもしなかったのは俺ですが、ここで着替えているとは思いもしませんし、何より人の目を釘付けにしてしまうような魅力的〃〃〃な身体を持つギルドマスターにも、責任の一端はあると思います」
 「~~~っ!? トウヤ君、君は変態かい!?」
 「事実を述べたまでです」


 いつも以上に丁寧に、そして大胆な言葉で、俺はギルドマスターに告げる。


 俺の責めているのか褒めているのか区別が付きにくいような言葉に、ギルドマスターは耐えかねたように目を回して、罵倒してきた。
 対する俺は、どこ吹く風だ。


 まぁ、なんというか、アニメやラノベだったら大体ビンタとか消し炭にされたりだとかしていそうだが、それを防いでしまった俺は、もうやっていけないな。
 ラッキースケベに代償が無いんじゃどうしようもない。


 「そうですね……そこまで言うのでしたら、俺も裸を見せましょうか? お相子ということで」
 「やっぱり変態じゃないか!!」
 「冗談ですから真に受けないでください」


 真面目くさった顔で告げた俺の顔に、高速でペンが投げつけられる。それをスッと右手の指で挟みとって、ギルドマスターの机に戻す。
 まるで意に介さない俺に、鋭い視線が向けられたが、取り乱してしまうようではダメなのだ。


 冷静でクールなキャラを演じているからな。それにしては些か過剰な言葉だが。


 「ギルドマスター、こう言ってはあれですが、今更恥ずかしがることは無いんじゃないですか? まさか生娘じゃあるまいし……」
 「きき、生娘って、無神経すぎるよトウヤ君!! 確かに娘じゃないけど、私はまだしょ────」
 「いや、それ以上先を言っちゃっていいんですか?」


 少しイタズラ気味に笑ってみせると、危うく自身が未経験〃〃〃であることを暴露しようとしたギルドマスターは、今度こそ沸騰した。
 最早顔の熱は限界に達している。大人の女性をからかうのはとても楽しいな、本当に。


 「ですがまぁ、ギルドマスターが清純な乙女〃〃であることは理解出来ました……意外と初心うぶなんですか?」
 「うるさいよ! 着替えどころか、は、裸を覗いておいて、なんでそんな上から目線なんだい君は!」
 「いや、そんなつもりはありませんが……ただ、エルフですし、結構長い間〃〃〃生きてますから、大人の余裕で受け流してくれるかなと」
 「トウヤ君、今すぐその口を閉じないと流石の私も怒るよ?」
 「良いんですか? そしたらこちらも応戦せざるを得ませんが」
 「そこは素直に謝ってよ! なんで応戦しちゃうのさ、この悪魔! 鬼畜! 人でなし!」


 俺の予想外の言葉に涙目で抗議するギルドマスター。もう、なんというか、いじりすぎたかなと思う。
 だが、ここまで言われたら俺も最後に(と言っても既に十分やっているが)意地悪をしてみたくなる。


 「分かりました、謝ります。ギルドマスターの清らかで綺麗かつ、艷っぽい肢体を舐めまわすように見てしまった俺が悪かっ───」
 「『大雷轟ギガボルト』!!」


 俺の聞くに耐えない言葉に、とうとうギルドマスターがキレた。
 流石に危険だと俺は思考を戦闘用に切り替え、ギルドマスターの魔法名が紡がれると同時に、彼女の手に自身の手を重ねる。
 魔法を発動するために放出される魔力を、ギルドマスターに同調させた魔力で、全て押し戻す。


 エネルギーたる魔力が供給されなかったため、魔法は発動しなかった。


 「……」
 「……」


 ギルドマスターはここを襲うはずだった雷撃が来ないことで、俺はギルドマスターの手に自身の手を重ねたままだったため、気まずい雰囲気が流れた。
 ひんやりとしている手はとても気持ちいいが、変な動きはしない。


 「………手を離してもらっていいかな?」
 「あ、すいません」


 バツが悪そうに目を逸らしながら口を開いたギルドマスターに、俺もハッとしてギルドマスターの手から自身の手を離す。


 「まぁ、これでおあいこと言うことで構いませんかね」
 「………」


 しかし、しっかりとそう言っておくことを、俺は忘れなかった。


 ギルドマスターは自身のしたことを理解しているのか、納得していない顔だったが、反論もしてこなかった。




 ◆◇◆






 「それで、えっと、何の用だったんだっけ?」
 「そろそろ移動しますからね。それに関して決まったので、報告に兼ねて挨拶なんかを」


 大きくため息を吐きながら訊いてくるギルドマスターに、俺は冷静に答えた。


 先程の件はなんだかんだ言って俺が悪いのだ。こちらもため息で返すなんていう意地の悪いことはしない。


 「……わざわざ言いに来てくれたの?」
 「ギルドマスターには世話になってますから。色々〃〃と」
 「………君って、そういう人だったんだね………はぁ……」


 『色々』の部分で先程の件を思い浮かべたらしいギルドマスターは、既に波は去ったのか、恥ずかしがることこそなかったが、代わりに冷たい視線を浴びせてきた。
 確かに、少し変態的な言動が過ぎたなと反省。弄るためとはいえ、俺も疲れていたのもかしれない。


 昨日からずっと働き詰めだしな。ストレス解消にギルドマスターを使っている可能性も否めない。


 「誤解のないように言わせてもらうと、一応先程の一幕は冗談の範囲です。とはいえ、本心であるのも事実ですが」
 「また反応に困るようなことを……素直に喜べないじゃないか」


 おや? とギルドマスターの反応に疑問を持つが、俺は聞き返したりはしなかった。
 なんだか、薮蛇な気がするのだ。


 「……まぁいいや。それで? どこに行くの?」
 「あぁはい。【アールレイン王国】に行ってみようかなと思いまして。あそこには確か、冒険者育成学校的なものがあったはずですから」
 「いやいや、君は必要ないだろう。って、もしかして勇者にでも会いに行くのかい?」
 「えぇ、それもあります」


 もちろん学校自体にも興味がある。実力を隠さなければいけないのは前提となるだろうが、それでも学校一の実力者として君臨してみたりしたい。


 「……なら、学校で便宜を図って貰えるよう、手紙をしたためてあげようか?」
 「え? そんなこと出来るんですか?」
 「うん。実はアールレイン王国にある、第一育成学校の校長は知り合いでね。口添えするぐらいはできるよ」


 ここで思ったのは、『学校って一つだけじゃないのか』ということだが、第一と言っているのだからそれは当たり前だと考える。


 「まぁ、本音を言うと、さっきのことがあるからどうしようかなと思ったんだけどね……」
 「俺はギルドマスターのこと信じてますから」
 「………そうやって言われるから、困るんだよ」


 何故か本気で照れているギルドマスターに、はてどうしたのだろうかと首を傾げる。
 確かに意外と純真なところはあるらしいが、俺の見え透いたおだてに照れるほどなのだろうか。


 「では、お願いできますか?」
 「……分かったよ。私から言い出したことだし、そんなふうに頼まれたら断れないじゃないか」


 だがそれには反応しないで、俺が白々しく頼むと、ギルドマスターは苦笑しつつ頷いてくれた。


 「で、いつ出るんだい?」
 「出来れば今日のうちにですね」
 「……随分急だね」
 「あまり長居できなくなったので。勇者に関してですが、早いですが辞退させて頂きますよ」
 「あぁそっか。まだ君に勇者を任せてから5日目なのか……ま、勇者の成長自体は君のお陰で予想以上のものだから構わないとは思うけど」
 「あの、俺は護衛という形だったはずですが」
 「いやだって、教育係の方が合ってるよね。護衛は君の使い魔だし」


 確かにそうではあるが……いや、門真君の時に認めてしまった時点で手遅れか。


 「それにしても、なんか、君とは凄い長い間一緒にいた気がするんだけどなぁ」
 「まだ一週間とちょっとですよ」
 「そうだね。だけどこう、なんて言うのかな、トウヤ君とは苦楽を共にしたみたいな……と、取り敢えず、親しみやすいってことだよ!」


 何故そこで少し照れるのか。何故そこで言い訳っぽく言うのか。今日はやたらアレだなギルドマスター。
 まぁ、さっきのことで実はまだ動揺が残ってるのかもしれない。


 「そうですね。俺もギルドマスターとはとてと親しみやすかったです」
 「え? ……そ、そう?」
 「はい。何度『面倒臭い』『またあの人から呼び出しか、はぁ』と思ったことか」
 「っ、煽ってるよね? 煽ってるよね!? もう私も許さない────」
 「そう思ってしまえるくらい、とても親しみやすいです」


 悪い笑みから一転、なんの邪気もない、これでもかと言うほどの綺麗な笑みを浮かべてみせて。
 ギルドマスターが途中で言葉を詰まらせて、怒るべきか照れるべきか悩む。


 「────そういう反応が見たいだけ」
 「トウヤ君、私になにか恨みがあるの!?」
 「ないですよ。ただ、ちょっとしたストレス解消です」
 「あのねぇ!!」


 バンッと立ち上がろうとしたギルドマスターの肩に手を置くと、ギルドマスターは座ったままの状態になる。


 「話が逸れてますよ」
 「誰のせいだと思ってるの!」
 「過剰に反応するギルドマスターではないかと────あ、反応はしない方がいいですよ」
 「っ」


 先回りして答えた俺に、また声をあげようとしてギルドマスターは口を噤む。
 いやもう、流石に終わりにしてあげよう。


 「取り敢えず、今日中には行くと思いますので、よろしくお願いします」
 「………本当に、最後だからって私でストレス解消をしないで欲しいよ、全く」


 そう憎まれ口を叩くギルドマスターに、俺は部屋を出ていく直前で声をかける。


 「これが最後だと思ってませんから、安心してください」


 割と、それこそ真面目に笑ってみせた俺に、ギルドマスターは絶句して。
 それを背に、俺は今度こそ部屋を出た。





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