俺の学年が勇者として召喚されたが、俺は早速腹黒王族にマークされたようです

イミティ

第33話 一件落着

 


 ◆◇◆






 「ほれ」


 バサッとセミルの前に、俺はマグノギアンで集めてきた資料や書類を落とす。


 「………これは?」
 「マグノギアンの汚職の証拠とか、細々としたもんだ」


 資金を横着していたり、違法取引をしていたり、城に務めている大臣にしては随分と大胆なことをする。
 もしくは、王が容認しているのか。なんにせよ、わかりやすく〃〃〃〃〃〃隠しておいてくれたお陰で、ほとんど時間をかけずに証拠を見つけられた。


 「まぁそれはあくまで追い詰めるようで、本命はこっちだな」


 それと別に、俺は更にもう一枚書類を取り出す。


 「……っ!? まさか、これは………」
 「どうやら、マグノギアンが魔族と関係を持ったのは150年ほど前のようだな」


 そこには、魔族と協力〃〃関係になったらしい当時のことが書かれていた。
 ご丁寧に、魔族と協力ということで、その内容を書面にしてくれていたようだ。契約書のようなものもしっかりと保管してあり、確かにマグノギアンが魔族と関わっていた証拠になる。


 国璽こくじ……とこの世界で言うのかは知らないが、それがされているので、言い訳は出来まい。


 「かの国は二世紀ほど前までは、魔法こそ他国より秀でていたものの、今ほどじゃなかった。が、ここ一世紀で急激に進歩し、周囲の大国と同等まで成長した。そして、その裏には魔族が居たようだな」


 魔族の魔法技術は、それこそ人類側こちらよりも圧倒的に高いであろう。
 それは、魔族の記憶から読みとっている。復活魔法に、人体に直接魔法を付与することや、人工的に魔物を作り出す技術力。(最後のは魔法技術ではないかもしれないが)
 そもそも、魔族という種族自体、魔法に適性がある。恵まれた肉体とも言うべきか、何かしらの魔法を無詠唱で発動できるのは、当たり前と言うべきほどだ。


 どうやら魔族は、その技術力の一端をマグノギアンに提供しているらしい。その代わりに、魔族側はマグノギアンでの活動を黙認されている……。
 要約するとそんな感じであろう。魔法大国と呼ばれる裏では、魔族による力があったということだ。そりゃ、大躍進するだろうな。


 「不当な手段で入手したものだが、相手側がこれを無視できるはずがない。『こちらの要求を飲まなければこの情報を公開する』と脅せば、十分すぎるだろう」
 「……これほどの情報を、このわずかな時間で入手したというのか…………」


 もたらされた情報の大きさと、そレにかかった時間の短さに、セミルが唖然とする。
 書類という物を持ってきたというのと、俺が事前にマグノギアンまでの距離を聞いていたことで、俺がマグノギアンに直接出向いてきたというのは何となく理解しているはず。


 ギルドマスターのように、俺の圧倒的強さを目にしていないセミルは、その驚きが大きいようだ。ギルドマスターなら、呆れるだけで、その後すぐに次の行動に移せるだろうな。


 「ところでセミル、返事はいつでも出来るのか?」
 「う、うむ。定型文は済ませておる。あとは、交渉を呑むか否かを記すぐらいだな」


 俺の言葉に驚愕から立ち直ったセミルは、そう言って、使者へ渡すのだろう紙を出す。


 「なら、答えはわかっているな?」
 「……もちろんだとも」


 緊張を孕んだ声で答えたセミルは、最早躊躇う理由などないだろう。これだけあれば、交渉材料には十分すぎる。


 召喚魔法への細工や、マグノギアンと魔族の協力に関する情報をこちらが持っていること。
 今回の交渉は呑まないこと、そして召喚魔法の喪失という情報を公開しないという条件を呑まなければ、魔族の情報を公開すること。


 これらを紙に書き添えて、封筒らしきものに入れる。


 「これで相手が、こちらの情報を開示するような暴挙に出た時は、こちらも公開すればいい。相手はただの情報だが、こっちは国璽こくじつきの正式な文書もある。
 何より、召喚魔法を喪失したという他国の中で完結できる情報より、現在進行形で魔族と協力しているという情報の方が、インパクトも強い。他国も無視できないだろう」
 「………お主、結構政治向きなんじゃあるまいか?」
 「まさか。この程度で務まるものじゃないだろ、国政は」


 一種の畏怖めいた視線を向けてくるセミルに、俺はおどけてみせる。


 事実、俺に国政に関する知識はほとんどない。大臣の種類すら単純なものしかわからず、どんな部署があるのかも知らないし、知っていたところで役目まではわからないだろう。
 今から学べというのなら別だが、俺が国の政治に関わることはほとんどないだろう。


 どちらかと言えば、相手の弱みになるような情報を奪ってくる、暗部みたいな仕事の方が良さそうだ。それをこうやって王様に渡せばいい。
 もしくは、外交官なんかならギリギリ務まりそうだ。あくまでアドリブの範囲だが。


 「飄々と抜かしおって……だが、確かにこれなら十分すぎる情報だ」


 そう言って、セミルは座っていた椅子から立ち上がった。


 「トウヤよ。此度の件に対する助力、ヴァルンバを代表して感謝する……ありがとう」
 「おいおいやめてくれよ。確かに頼まれてやった事だが、こっちだって善意だけじゃない」


 深々と頭を下げたセミルに、俺は形だけ遠慮を示す。
 そんなことを言っても、人間は、その人物に感謝を告げないと気が済まないものだ。しかし、当然のように受け流すのもはばかられる。だからこそ、形だけなのだ。


 「そうかもしれぬ。だが、お主の助力無くして、我が国がこの最善の選択を勝ち取ることは不可能だっただろう。それほどの窮地に立たされておきながら、それを覆してみせたお主の助力には、感謝してもしきれん」
 「……まだ相手の返事は聞いてないぞ」
 「なに、これだけの情報があれば、勝ったも同然だ」


 それには、俺も確かにと頷かざるを得ない。相手は、この条件を突きつけられて、ノーと言える立場ではないだろう。
 魔族の存在自体は秘匿されているが、各国上層部は恐らく知っているはず。ならばこそ、魔族と手を組んでいるなどというマグノギアンを見過ごすはずがない。


 そして、そこに考えが及ばないほど相手側が馬鹿なはずもない。


 今回の件を無かったことにするか、他国を敵に回すか……選択肢はあれど、選べるのは実質前者のみだ。


 「……だが、これでお前は、この国は、俺個人に対して大きな借りができた訳だが、そこに関しては構わないのか?」


 ふと、感謝はして、そこには触れていないことに気づいた。敢えて言わないことで、言質を取らないようにしていたのかもしれないが、セミルはそこまでずる賢くはないだろう。
 まぁ万が一のことを考えて俺も言及した訳だが。


 「なに、お主がこちらが呑めない要求をしてくることは無いだろう。我はその程度には、お主を信頼〃〃しておるからな。心配などない」
 「………それはありがたいことで」


 現に、躊躇いもなく言いきったセミルに、俺は複雑に思わざるを得なかった。


 (信頼、信頼ねぇ……)


 聞き飽きた言葉。別にそれ自体はどうということは無い。セミルは本当に俺を信頼しているのだろう。
 それは嬉しいことだし、そこに関して思うところはない。


 だが………この世界に来てから、周囲の人間が俺を信頼するまでの時間が短い気がするのはやはり否めない。
 京極君の時も、門真君の時も感じた疑念。


 一国の王がたかが二、三度会った程度の相手を信頼するというのは、例え実績があり、こうして実力を見せたとしても、早すぎる気がする。


 嫌なわけじゃない。だが、少し疑わざるを得ない。


 だからこそ、複雑なのだ。


 それだけ、俺という人物は他者に信頼感を与えるのか。
 それとも、それ以外の要因があるのか。


 抱く疑問は、毎回ここで袋小路に入る。


 「では、我はこれを使者へ渡してくるとしよう。いつまでも他国の間者が懐にいたのでは、安心も出来ぬでな」


 セミルの言葉に、滞った思考を呼び戻し、俺は頷いた。


 確かに、ここまでやっているマグノギアンから来た使者だ。警戒はするだろう。
 痛くもない(はずの)腹を探られるのは、不愉快極まりないだけだ。


 もう帰れと言わんばかりに窓を開けたセミルは、俺の方を向く。
 確かに感謝も受けたし、貸し借りについても明白とさせた。後は俺の出る幕じゃないだろう。


 「じゃあ、吉報を待っている」
 「うむ。お膳立てはしてもらった。後は我がやる範囲よ」


 先程、一時間前にこの部屋に来た時は悄然としていたが、今は好戦的な笑みを浮かべている。
 いい事をした、と自分に言い聞かせる訳では無いが、少し荒んだ心を癒す程度には、今回やった事は善行だったのではないかと俺は思った。


 「───っと、そうだ」
 「む?」


 窓枠に足をかけた俺は、そこでふと振り返る。
 訝しげにこちらを見たセミルに、俺は待ち望んでいた情報を与えてやった。


 「クロエちゃんな、泊まり木という宿で従業員として働いてるぞ。もう彼女が家出をする必要も無くなったし……全てが終わったら出向いてやったらどうた?」
 「………要らぬ気遣いをしおって」


 セミルの照れ隠しとも取れる言葉に、俺は笑みを崩さなかった。




 

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