俺の学年が勇者として召喚されたが、俺は早速腹黒王族にマークされたようです

イミティ

第32話 下準備









 直ぐに俺は、セミルにお願いして、召喚魔法を使用した場所に連れて行って貰った。
 本来なら許されないはずだが、セミルは、俺に全てを預けると言ったからか、直ぐに承諾してくれた。


 魔力が他の場所より多いというか、洞窟とでも言うかのような、青白く光る周囲の外壁。
 地下にあるその場所で、俺は中央に刻まれた魔法陣に目をやった。


 「召喚魔法の術式の喪失というのは、この魔法陣と、魔法陣を記した書物を失くしたという意味で捉えていいな?」
 「うむ。魔法銀によって魔法陣を描いていたらしいのだが、先代の時点でどうやら何者かによって消されてしまったようだ。書物もその時から喪失している。
 これはマグノギアンの使者が刻んだ魔法陣だが、特に変な細工もされとらんよ。現に召喚された勇者には何も無い」


 魔法陣は直接床に彫られている。その複雑さは、到底覚えていられるものでは無いだろう。
 それ故に記した書物が必要なのだろうが、それを失くしている。


 結果、交渉の末にマグノギアンの使者が刻んだようだが………。


 「いや、これにはれっきとした細工がされているぞ」
 「何!? 一体何が……」
 「どうやらこの魔法陣に、隷属の首輪と同じ魔法を付与したようだな。恐らくは、魔法使用者への勇者の隷属化、それも分かりにくいように、遅延すらかけている」
 「バカな、勇者を隷属化など……」


 吐き捨てるように、マグノギアンへ怒りを募らせるセミル。
 勇者というのは文字通り救世主であり、その存在を隷属させるというのは、普通に考えたら万死に等しい。
 しかし、捉え方は召喚を指示した者次第だ。


 「本来は後々のタイミングで勇者を自分達のものにするつもりだったんだろうが……タイミングが早くて助かった」
 「だ、だが、どうするつもりなのだ……」
 「なに、魔法なら既に解いてあるから心配するな」
 「なっ!?」


 俺のカミングアウトに驚きで目を見開く。口が開きっぱなしなのは少々ダサいのだが、俺は指摘することも無く続ける。


 「以前……は誤魔化したんだったな。俺は魔法にも心得が……いや、魔法を極めている。だからこそ分かるが、召喚魔法を発動したのはアンタの娘、クロエちゃんだな?」
 「………そうだ」
 「なるほどな。道理でクロエちゃんを向こうが手に入れようとしていたわけだ」
 「むむ、どういうことだ?」


 分からないと首を傾げる王様に、俺は少し溜息をつきつつ、解説する。


 「さっきも言ったが、この魔法陣には、魔法使用者に勇者を隷属化させる魔法が付与されている。魔道具作成の応用だろうが………つまり、現在の命令権はクロエちゃんにある」
 「………ようやく話が見えたぞ。勇者の主であるクロエが居なければ、勇者を隷属化はできない。だからこそ、クロエを欲しがっているのだな?」
 「あぁ、恐らくそうだろうな」


 魔法陣を刻んだ者への隷属化だったら手遅れだったかもしれないが(それでも解除は可能だが)、幸いにして発動者ということだから、良かった。
 婚約の話も、丁度いいと思ったからついでに付けてきたのだろう。クロエちゃんが欲しいとなれば、そういう理由にしておいた方がいい。


 「まぁ魔法は解いた。一応これは一つの交渉材料として使えるだろうが、証拠がないんじゃ弱いだろうな」
 「では、どうするのだ?」


 急かすセミルを無視して、更に魔法陣を探る。
 [魔力支配]も解放しているので、魔力から過去を探るのも容易だった。


 魔法陣には豊富な魔力が宿っている。この環境だからこそだろうが、劣化をほとんどしていない魔力は、過去数百年の記憶を秘めていた。
 その記憶を読み取る途中で、面白い(俺にとってだが)情報を得て、ニヤリと笑う。


 「ふむ……なるほど」
 「トウヤ、一体なんだというのだ」
 「なに、少し面白いことがわかっただけだ。それよりセミル、ここからマグノギアンまでの距離を教えてくれ」
 「お主、話の展開が急すぎるのだ………国境までは馬車で7日程、そこからマグノギアンの王都まではおよそ3日である」


 そんなものか。なら、行けるかな。
 まぁ、どんなに離れていようと問題は無いのだが。


 「セミル、お前はマグノギアンに返事をする準備をしておけ。どうせ使者が滞在しているんだろう?」
 「あ、あぁ。分かったが、お主はどうするのだ?」
 「今回の件に必要な情報を集めてくる。なに、そう時間はかからない」
 「そ、そうか………」


 王に命令するという非常識な行為をしながら、俺はセミルを置いて、地下から上がる。


 そして、周囲の人目がないことを確認してから、俺は早速『転移テレポート』を使用した。


 


 ◆◇◆




 今回の目的はあくまで情報を得ること。それも、ちまちまと集めるのではなく、決め手となるような弱みだ。


 マグノギアンの王都に、一度の〃〃〃転移テレポート』で移動をした俺は、『視認転移ショートジャンプ』で、他の国とは一風変わった王城へと飛ぶ。


 この国は、ヴァルンバが『迷宮国家』と言われているのに対し、『魔法大国』と呼称されている。その名の通り、他国とは一線を駕す魔法技術を誇っていからだろう。
 それは、魔道具や、魔法使いの練度の高さなどなど、魔法に関することにはずば抜けている。


 王都自体、その魔道具の発展による所なのか、何とも他国とは違う、近世代の街並みを思わせる。


 王城も、素材として使われているものが全体的に紫系統であり、不気味な感じを演出している。
 更に特筆すべきは、王城の周りには壁があり、その壁の上部から、王城を覆うようにバリアのようなものが張られていることか。俺の『次元の壁ディメンションウォール』の球体バージョンとも言うべきだな。


 空中からの奇襲に備えているのだろう。バリアは物理的攻撃や物質はもちろん、魔法も通さないようになっているようだが、俺はそれをなんら苦労なく通り抜ける。
 『視認転移ショートジャンプ』で内側に直接転移するまでもなく、魔力を同調させて無効化するだけで問題ない。


 敷地内に入って、[生体遮断]と[生体感知]のスキルを発動し、更に『光学迷彩インビジブル』で自身の姿を透過させる。


 スキルが無くとも、魔法が無くとも問題ないとは思うが、全力でやると言った以上、一切抜かりなく行うつもりだ。


 「にしても、やっぱ他と違うな」


 王城に使われている建材は、魔力を弾き、外部からの魔法による干渉を受けつけないようになっているようだ。
 魔力を纏った手で触れると、バチッと静電気のような衝撃が来て、弾かれる。


 とはいえ、その効果も完璧ではない。普通の人なら気づかない、極小規模な綻びを見つけて、そこから魔力を侵入させ、内側へと転移する。
 ここだけでも、他国より警戒度や防衛力が高そうだが、俺の前では無力であることを証明させてもらった。


 照明に照らされた城内へ入り込んだ俺は、[禁忌眼]によって瞬時にこの城の構造を把握する。


 (情報があるとしたら、禁書庫、執務室、魔法研究室のどれかか)


 後者は如何にもマグノギアンらしい部屋だ。城の地下に、こちらはほぼ100%魔力を遮断する建材を使った、研究室が作られている。("ほぼ"なのは、俺なら魔力を通せるため)


 名称は[禁忌眼]によって調べたが、一体この[禁忌眼]から得られる情報は、どっから来ているものなのか………。


 俺はその疑問を一度しまい込み、情報を集めるために、研究室から見て回った。


 [完全記憶][神読み][目利き]といったスキルによって、誰もいない研究室にある資料、その中から有益なものだけを探すのは簡単なことだった。
 もしかしたら、俺の運も久しぶりに味方してくれたのかもしれない。たった数分で役立つ情報を入手できた。


 俺は近くにあった新品の紙に[偽装]を用いて、資料の内容をコピーする。
 ただ俺が記憶するだけじゃダメだ。証拠品があった方が良いし、セミルも一度聞いただけじゃ内容を把握することは無理だろう。


 本来の用途とは違う使い方だが、資料において重要なのは文字だ。文字を全く同じ内容、同じ書き方で写すなど、造作もないことだ。
 コピーした方を置いて、本物の方を貰っていく。


 更にその後、様々な執務室、そして禁書庫を巡って、重要な情報を集める。警備の兵士等はいたが、完全に姿を消している俺に気づくはずもない。
 執務室はともかく、禁書庫には表沙汰にはできないような内容が記された書物や書類があったが、今回に必要なものだけを貰っていく。


 「拍子抜け、だな」


 自重をなくしてしまえばこんなものか、と俺は肩透かしを食らう。


 この行動がバレれば、俺はこの国から狙われてもおかしくない。いや、他国からも目をつけられるだろう。
 そのぐらいのリスクも背負っている。だからこそ、セミルには大きな貸しを作っておくことにしたのだが。
 リスクを無視できるほど、俺は今回感情的に行動していたという事だが、終わってみれば呆気ないものだった。


 予想以上の収穫を手にしたため、その情報を持って、一時間も滞在せずに、俺はこの城を後にした。










 「…………さん?」


 その直後、その廊下を通りがかった人物が、虚空に向かって首をかしげた。


 「勇者様、どう致しました?」


 その人物の背後からやってきたメイドらしき女性が、廊下で立ち止まった人物に声をかける。


 「ううん、何でもない」
 「そうですか。何か困ったことがあったらお申し付けください。貴女様は勇者と言うだけでなく、次期女王〃〃〃〃でもあるのですから」
 「………」


 優雅に一礼して去っていくメイドに、その人物は返事をすることも無く、冷めた目で見送る。
 そして、その瞳に何かしらの思いを込めて、先程刀哉が居た場所を、再度見つめた。


 その人物は、刀哉の姿も、魔力もなにも見ていない。ただ、そこに知っている〃〃〃〃〃気配のようなものを感じて、立ち止まっただけだ。


 それは数秒のこと。一度目を閉じたその人物は、無表情で部屋へと戻った。




 刀哉がこの一幕を知ることは無かった。





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