俺の学年が勇者として召喚されたが、俺は早速腹黒王族にマークされたようです

イミティ

第31話 王としての判断







 『エアボイス』で予めこれからいく旨を伝えてから、俺はセミルの部屋に向かった。
 部屋の位置はセミルの魔力の場所から割れている。


 窓から部屋へと入った俺を、セミルは呆れたような視線で見ていた。


 「お主、見つかることはあるまいと思っていたが、もう少し常識的に入ってこんか」
 「悪いが急用ができてな。それで、なんだ? 話の内容は大方見当がついているが」


 俺が言うと、セミルは意外だったように目を細めた。


 「ふむ、話の内容というのは我が娘、クロエのことなのだが……」
 「婚約………いや、妾、側室の話か?」
 「……本当に知っておったとは。で、誰から聞いたのだ?」
 「アンタの娘本人から」


 今度は驚愕に目が見開かれる。まさか実の娘から情報が漏れるとは思わなかったのだろう。
 そして、それは俺が、クロエちゃんから信頼されているという証拠になる。


 「アンタが俺に言いたいのは、そうだな……そろそろ娘の居場所を吐いてくれということじゃないのか?」
 「………」


 俺の言葉に、黙り込むセミル。図星と見て正解だろう。
 話をスムーズに進めるため、俺は過程を無視してどんどんと先へ進む。それは、俺の推理力、と言えるかはわからないが、それを誇示する目的もあった。


 余計な前置きはいらないから、本題に入れという意思表示だ。


 「……取り繕っても、仕方がないようだ。その通り、我が娘の居場所を教えて欲しい。無論、礼はしよう」
 「それが、アンタの娘を不幸に、更に言えばこの国を不利に追いやることになってもか?」
 「…………」


 返事はない。理解はしているようだ。それに、感情も納得はいっていない。
 それでも、セミルはしっかりと決断をして、今行動に起こそうとしている。


 「クロエちゃんがここに来れば、アンタは【マグノギアン】へ返事を返すんだろう? そうすればもう退けない」
 「そうだ。そして、それ以外の道はない……分かっているとも。この決断が、残酷で、非道であることは。自身の娘を切り捨てるなど、あってはならぬ事だとな……」


 つまり、俺が思うように理解しているという事だ。これが、王として正しかったとしても、父親〃〃としては正しくないということが。
 いや、結果的に国の立場は弱まる。相手が要求していることは要はクロエちゃんという人質、それは属国になれと言っているようなものだ。


 それを理解していてなお、最悪の事態にならないならばと割り切っている………いや、騙してるのか。


 「相手国、マグノギアンに借りがあるのは知っている。その借りはどれほどのものなんだ? 他の方法で返済できるものでは無いのか?」
 「……この際だ、話しても構わんだろう……召喚魔法の術式の提供をしてもらったのだ。価値など計り知れんよ」
 「………」


 俺は、難しい顔で考え込む。それは厄介な問題だ。
 召喚魔法というのに価値はつけられないだろう。現にそれによって召喚される勇者の戦力だけを比較すれば、コストはかかるものの、一級品の人材を容易に確保できる。


 「金銭で返済できるなら良いが、我が国の国庫全てで足りるかどうか……そもそも、マグノギアンかの国は特に金に困っていないだろう」
 「迷宮から出たアイテムはどうだ? 中にはアンタの指輪みたいなやつもあるだろ」
 「勇者を複数呼び出す召喚魔法に釣り合う物など無い。例えあったとしても、あちらは突っぱねるだろうよ。此度の件は、そう簡単なものでは無いのだから」
 「何か、裏があるのか?」


 聞くと、ゆっくりと頷いたセミルは、話し出す。


 「簡単な話だ。元々我が国は、召喚魔法の術式を得ていたのだ。なにせ、以前勇者を召喚したのは我が国なのだから」
 「だが、何故か今代、もしくは先代の時点ではその術式が喪失していた」


 半ば先回りして答えた俺に、セミルは首肯した。


 「誰が行ったのか。それを確かめる必要は無い。問題は、情報を漏らしていないのにも関わらず、それをマグノギアンが既知としていたことだ」
 「それで、相手国が有利な状態で交渉が始まった」
 「そうだ」


 召喚魔法の術式を喪失させるなど、あってはならない事態。
 他国へ知られれば、糾弾されるのは間違いないだろう。


 恐らくは、事実の秘匿も、条件として組まれていたはずだ。


 「交渉の見返りはなんだったんだ?」
 「単純だ。早いうちに何らかの形で返済をすること。そしてその少し後にクロエに対する縁談が来たとなれば、向こうの意図は見え透いている」


 確かにそのタイミングであれば、クロエちゃんを渡せという意図が見て取れる。


 「それが、今度は側室だ……どれだけ足下を見れば気が済むのか。一国の王女だからという理由だけでなく、我が娘を………」


 拳を握り、今にでも叩きつけそうなセミルは、それでも諦めが浮かんでいる。
 屈辱的ではあるだろう。王という立場ではなく、父親という立場で見ても、自身の娘を妾という位にしてしまうのは。


 セミルの拳の握りが、スっと弱まる。


 「…………だが、もうどうしようもない事なのだ。我には、こうする以外の道が選べん……他の解決策など、精々が戦争を起こすことぐらいだ」
 「だが探索者や冒険者は基本的にはフリーだ。この国の兵力には含められない」
 「だから、戦争を起こしても、多大な犠牲が出るだろうよ。勝てるかもわからん」


 まさに八方塞がり────俺が手を出さなければ、完全な詰みだ。


 「………トウヤよ。クロエの居場所を教えて欲しい。返事が長引けば長引くほど、我が国は不利になる。最悪、更なる条件を付けられるかもしれん」
 「それが、父親として正しくなくてもか?」
 「王として、父親として。我は前者を取る事にしたのだ。王を務めるにあたり、一を捨て全を救うという思考は、必要不可欠になってしまうからな」
 「……………」


 聞けば聞くほど、無理難題だ。今の段階では、向こうの狙いがクロエちゃんであるということ以外には分からない。
 それが、身体が目当てなのか、クロエちゃんという存在が目当てなのか。だが、俺が見た限り、クロエちゃんは特別魔力が平均より多い以外は、存在自体は普通だ。


 絞れるとしたら前者になる。虫唾が走るようなやり方だが、召喚魔法の術式の見返りとしては、破格の条件だ。
 故に、悩むという過程が出てきて、その末に交渉は成立するだろうと踏める。


 向こうからしてみれば、王子の妻を探すのに絶好のチャンスだったということだけ。それも現在は正妻となる相手を見つけたらしいから、側室となることを要求してきた。


 断れば、ヴァルンバが召喚魔法の術式を喪失したこと、そしてその術式をマグノギアンが提供したこと、それに対する返済をヴァルンバが断ったこと。これらが大々的に、マグノギアンによって発表されるだろう。


 非難殺到どころではない。他の大国を全て相手に回すことにすらなる。この先交渉など出来ず、同じ席に立たせてもらうことすら出来ないだろう。


 そうなれば、マグノギアンはヴァルンバから無理やり賠償金を受け取ることも出来るはずだ。
 相手側にとって、どちらに転んでもいい状況。


 ほぼ属国と同じような状態になったとしても、国としてやっていくか、周辺諸国を敵に回して、国としてすら危うくなるか。
 残された道がそれしかない。


 最早、詰んだチェックメイトと言っても過言ではないだろう。


 
 ────だからこそ、俺が出るのだ。




 「セミル。もし俺が、クロエちゃんも助けられて、この国も完全に救えるという方法があると言ったら?」
 「そんな冗談は止せ。いたずらにいらぬ期待を────」
 「あると、言ったら?」


 言葉を遮り、強い口調で、俺はセミルに言う。
 その言葉に、セミルが『もしや?』という、それこそ先程言ったような、期待を持ったような顔をする。


 「……そう、だな。仮にそんな方法があったとするならば、勿論それを選ぶであろう」
 「例えそれがまた、大きな借りになったとしてもか?」
 「国を渡すこと、クロエを渡すこと以外なら、構わん。我にできることならばなんでもしよう」


 その眼には、やはり未だ諦めが宿っている。
 だが、同時に、俺に対する期待もあるのだろうよ。


 嘘を言っている訳では無い。だからこそ、俺はセミルへと問う。


 「俺が出れば、出来る。それを示す証拠も、確実性も、俺は現状何一つ持ち合わせていないが、そのどちらも救うことは出来るだろう」
 「……嘘では、ないのだな?」


 先のやり取りで、俺に手段があることを悟ったのだろう。セミルは、最後の希望に縋るかのように、聞く。
 それに、大きく頷く。


 「だがそれは、大きな貸しになるぞ。俺がやろうとしているのは、たった一個人で、国を相手に立ち回るっていう話だ。この国の王であるアンタが、俺という個人に対して、それに釣り合うだけの借りが出来る」
 「先も言ったであろう。国を渡せ、クロエを渡せ、それ以外で我にできることならば、なんでもしよう」
 「嘘偽り、そして後悔はないな?」
 「ああ。もし出来るというのなら、この首、差し出しても構わん」


 そう言うセミルは、本気だった。自身の首を差し出すことを、躊躇ってはいない。


 「元よりどうしようとなかった所だ。何も怖くはない。我は、お主に全てを預けよう」


 一国の王がそれを口にすれば、文字通り全て〃〃となるだろう。
 それだけセミルは、今、俺という個人を頼るしかない。


 そして、その覚悟を、俺が見誤ることは無い。


 (親子揃って、粘ったな)


 クロエちゃんの最後の笑みを思い出しつつ、俺はセミルに告げる。
 俺は、セミルの覚悟だけではなく、クロエちゃんの覚悟をも受け取っているのだ。


 「良いだろうセミル。お前の覚悟、確かに受け取った。全力を尽くして、この国も、クロエちゃんも、両方を守ってやる」


 だからこそ、その期待に応えることに、俺は躊躇いなどない。


 

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