俺の学年が勇者として召喚されたが、俺は早速腹黒王族にマークされたようです

イミティ

第30話 訪れる変化







 「ご主人様、そこに座って」
 「分かったよ」


 ルナに冷ややかな声で命令〃〃された俺は、珍しく、はぐらかすことも無くその場に正座する。
 というのも、一度空気をリフレッシュしておきたかったので、この状況イベントは好都合だったのだ。


 「アタシ、ご主人様のこと、なんだかんだ言って信じてたんだけど」
 「そうだね。あぁ、ルナは俺の事をよく信じてくれてた」
 「そうだよねぇ……だから、今回も、一応、信じてはいたんだけどっ!」


 キッと、隣にいるクロエちゃんに視線が向けられた。
 どうやらクロエちゃんも容疑者扱いらしい。


 「2人して抱き合って、『そういう話じゃない』? 明らかにそういう〃〃〃〃のじゃん!」
 「そ、それは……仕方なく………」


 頬を赤らめて、言い訳にもならない言い訳を喋るクロエちゃんは、普段とはどうも違う。
 さっきの一件は、やはり精神的にきたと見ていいだろう。


 そして、ルナもその反応に目を吊り上げる。


 「ほら、その反応! 下心があったんでしょ、クロエさん!」
 「そ、そんなこと……無い、とは言い切れないですけど………」
 「ほらやっぱり! どうせアレでしょ、ご主人様に誑かされたんでしょ?」
 「ち、違いますっ! わ、私がお願いして……」
 「お願いぃ?」


 どうしよう、ルナが何だかおかしくなっている。なんというか、修羅場という単語が脳裏を過る。
 だが、現在は俺も容疑者の一人だ。変に言い訳を重ねれば、ルナの機嫌を損ねるだけだろう。ならばこそ、言い訳ではなく、真実を如何にやんわりと伝えるかに限る。


 「ルナ、俺がクロエちゃんと話した内容は、本当にそういう話じゃないよ」
 「じゃあ、なんであんな状況になったわけよ?」


 口を挟んだ俺に、鋭い視線が向く。その顔は、何が何でも逃がさないと言っているかのようだ。
 ここで有無を言わさないとなれば、直接的な行動も起こそうかと思ったが、杞憂だったようだ。


 「詳しい内容は言えないけど、そうだな……クロエちゃんは貴族の生まれだ」
 「そんなの、見てれば何となくわかる。それが何?」


 キツい反応のルナに、しかし俺は冷静に対処していく。嘘ではない、しかしピンポイントでもない言葉で。


 「貴族と言えば、長男もしくは長女が家督を継ぐ。じゃあ、次男次女以下はどうなる?」
 「え? えっと……どこかの家と人と結婚する?」
 「そうだな」


 流石自称オタクと言うだけある。突然の教師然とした俺の言葉に、困惑しながらも答えた。
 貴族についても、勉強なんかせずとも何となく理解しているか。


 「じゃあ、その相手は? 誰が決める?」
 「え? それは……もしかして、クロエさん、それなの?」
 「そういう事だ」


 話の流れから、なんとなくの内容を理解したルナが、途端にどう反応すればいいか困惑する。
 クロエちゃんは、この話を抜け出すためと理解しているからか、何も言わない。


 ここまで言えば、親が勝手に婚約相手を決めてっていう考えに至る。それについて、クロエちゃんが悩んでいるのではとも。


 「もっと正確に言うなら、相手には既に正妻がいるらしい。しかし家の都合上、どうしてもどこかへ行かねばならず、クロエちゃんは妾として入ることになってる」
 「妾って……そんなの許されるわけないじゃん!」
 「残念だけど、この世界じゃそういうもんだ」


 言い回しが少しギリギリだったが、クロエちゃんが疑問に思った様子はない。


 ルナの日本人のとしての感性にかけたが、どうやら当たりだったようだ。日本じゃ二股というか、浮気は許されない。そうなれば、ルナならば同情なりなんなりすると読んだ。
 そして、反抗の声を上げたルナは、やはり日本の女性である。


 「だ、だけどやっぱりさっきのハグとは関係ないでしょ!」
 「いや、関係あるよ。抱きしめるという行為は、温もりを感じれるからね。それを、妾に行く前にせめて、とクロエちゃんが求めるのも必然だろ?」
 「で、でもご主人様が相手である必要は無いはずよ!」
 「そんなことないよ。近くにいる唯一の異性であり、長くいたのは俺だ。時間はあまり取れなかったけど、親しくもしてた。それに、歳下にそんな話をするのは気が引けるだろう? だから、俺に頼んだ。俺である必要があったってことだよ。それを怒るなら、それはクロエちゃんのせめてもの願いすら否定するってことだよ」
 「そ、それは………アタシ、そんなつもりじゃなくて………」
 「知ってる。だから俺が今こうして説明したんだよ」


 いつしかそこは、ルナの説教の場ではなく、ルナを諭す場となっていた。


 しかし、今の発言にクロエちゃんが顔を歪める。それは小さなものだったが、俺は視界の端に捉えてしまっていた。
 いくつか、俺の言葉に嘘が混じっていたからだろう。それがクロエちゃんの心を抉っているのかもしれない。
 とはいえ、今は耐えてもらうしかない。


 「さ、そしたらクロエちゃんになんて言うか分かるな?」
 「………はい。クロエさん、ゴメンなさい」
 「あ、い、いいえ、良いんです。私も誤解させちゃいましたから」


 素直に謝ることが出来たなと、俺は少し感心する。高校生は少なくとも、素直に謝れる人物ばかりじゃない。
 意地になって、何が何でも自分の間違いを認めない者もいる。その点、さすがは元大学生ということか。大人な精神をしているというか。


 言動や思考は、肉体に引っ張られているのか子供っぽさがあるが。


 「……じゃ、じゃあ、ご主人様もクロエさんも、本当になんにもないわけね?」


 それは、最終確認の意味合いもあるだろう。ここで変にあいまいにすれば、話は長引く。というより、誤魔化し〃〃〃〃が効かなくなる。
 危険な綱渡りだが、ここは……。


 「あぁ〃〃そうだよ〃〃〃〃
 「っ………!」


 ハッキリと肯定した俺の言葉に、クロエちゃんが顔を俯かせて部屋から飛び出した。


 「ちょ、クロエさん!?」
 「ルナ、追いかけなくていい」


 突然飛び出したクロエちゃんに驚いたルナが追いかけようとするが、俺は制止した。


 「ご、ご主人様、追いかけなくていいって……」
 「なに、ちょっと読み違えたのと、俺の嫌な癖が出ちゃっただけだから」


 詳しくは説明しないで、答えにならない言葉を俺は言う。


 正直、飛び出して行ってしまう程だとは思わなかった。思ったよりも、感情は激しかったらしい。


 冷静な時なら、先程の言葉が場を乗切るための嘘だと考えることも出来たはずだ。そして、その可能性が少しでもあったなら、あそこまで思い切って飛び出さない。
 さっきは溜まりに溜まっていた感情を吐き出させたから、平気だと踏んではいたのだが……思ったよりも危険な状態だったようだ。アフターケアがなってなかったか。


 それが、読み違えた内容。


 それに────と、俺は少し顔を歪めて、直ぐに収める。


 「一応俺が行くよ。そう遠くには行ってないからね」
 「分かるの?」
 「じゃなかったら、こうものんびりしてないな。戸締りをしっかりしておいてくれ。もしかしたら、朝まで帰らないかもしれないから」
 「え? ちょ、朝帰り宣言!?」


 変なことを抜かしているルナを無視して俺も部屋から出る。ついでに隣の部屋の鍵も受け付けに返しておいて、クロエちゃんの魔力を追う。


 意外にも、クロエちゃんはすぐ近くにいた。


 「…………と、トウヤ、さん……………」


 静かにすすり泣いていたクロエちゃんは、宿の庭にいた。
 俺が近づくと、闇夜に紛れて、黄金の双眸が俺へと向けられる。が、それは直ぐにサッと逸らされた。


 「ショックだったかな」
 「……………はい……」


 傷つけた本人がそんなことを聞くなど、普通はおかしいだろう。だが、俺は敢えてそう聞いた。
 小さく、肯定が返ってくる。


 「……なんで、でしょうか。さっきまで、こんなこと思わなかったのに………悲しくて、涙が、止まらないんです…………」


 溢れ出る涙を、何度も抑えようと目を擦る。しかし、涙は止まらず、ポロポロと零れる。
 俺は今朝からずっと、普段は抑えている方〃〃〃〃〃〃の俺だ。故に、感情の変化に敏感になっている。


 だから、クロエちゃんが俺の事で泣いているということは聞くまでもない。それどころか、クロエちゃんの複雑な心まで、だいたい理解している。


 「クロエちゃんは、なんで泣いてるの?」
 「っ……それ、は………」
 「うん、正直に答えて。そうしたら俺も、全部答える」


 それは、俺が現在どう思っているかを伝えるということ。今のクロエちゃんは、聞きたくないかもしれない。だけど、感情を一度吐き出したならば、黙っているという選択肢は取りにくい。


 クロエちゃんは、少しの間沈黙したが、泣きながら、ゆっくりと答え始めた。


 「わた、し……全部諦めてて…………この国のために、犠牲になろうって思ってて……でも、さっき、抱きしめられた時に………っ、急に、そんなの嫌だって……トウヤさんに、対する想いに、気づいちゃって…………」


 恐らく、それは違うのだろう。俺の想いに気づいたのではない。変に増幅されてしまい、それがすり変わっているだけ。
 だが、それを指摘するようなことはしない。今抱いている感情は、幸か不幸か、本物なのだろうから。
 過程が違うだけだ。


 「だけど、トウヤさんは……別に、私のこと、そんなふうに思ってなくて…………それが悲しくて、涙が、止まらなく……っ………気づいたら飛び出してて………今も、胸が痛くて…………」
 「…………そっか」


 俺は、ただ頷いた。特になにか話すのではなく、その一言だけで。
 その瞬間、またクロエちゃんは、波が来たように、涙を溢れさせる。


 俺に対する想いは本物。だが問題は、クロエちゃんの決意が既に崩れてしまっていることだ。決意がそのままなら、こうも泣き出すことは無かっただろう。


 ………いや、違うな。この2つは不可分の関係だ。切っても切れない。俺に対する好意を抱いてしまった時点で、そしてそれに気づいてしまったのなら、遅かれ早かれこうなっていたのだろう。


 全ては、俺があそこでクロエちゃんと会った時から始まっていて、きっかけは話を聞いたこと。
 やはり、結局俺は、何かしら問題を起こす。そして、巻き込まれる運命のようだ。
 今回も、俺がクロエちゃんを助けたあと、早々に別れていれば、こうはならなかった。その内セミルがクロエちゃんを見つけて、そしてクロエちゃんは、今よりはいい状態で、行けたはずだ。


 「……俺は、クロエちゃんのこと、好きだよ」
 「っ!?」


 ポロッと、俺が吐いた言葉に、クロエちゃんはビクリと過剰に反応した。それは、肯定とも取れるような言葉。
 しかし、俺が吐いた『好き』という言葉の意味は、普通の人とは少し違う。


 「だけど、俺の好きは、どこまで行っても『人間として好き』だとか『友人として好き』なんて言う、友愛の種類なんだ。誰に対しても、どんなに頑張っても、それが恋愛感情に変わることは無い」


 俺は別に、クロエちゃんのことが嫌いなわけじゃない。
 好みじゃないとか、他に好きな人がいるとか、そういう理由があるわけじゃない。


 普通なら、そんな状態でこんな娘に迫られたら、頷いてしまうだろう。客観的に考えて、いや、主観的に考えても、そう思う。


 だが、俺は違う。他に好きな人がいるわけでも無いし、クロエちゃんが好みじゃないという訳でもない。むしろ、好みと言ってもいいだろう。
 にも関わらず、俺の感情は最初から最後まで変わらない。


 性的欲求を感じることはあっても、それが恋に発展することは無い。
 魅力的に感じることはあっても、恋愛には関係ない。
 可愛いと思うことはあっても、それは単純な美醜を述べているだけに過ぎない。


 感情の起伏が乏しいわけでも、恋愛に疎い訳でもない。
 なのに、恋愛感情だけは、浮かんでこない。


 樹達との問題云々のせい、ではない。
 元からこんなだった訳でもないはずだ。


 なのに、まるでその部分だけ消えてしまっているかのように、冷め切っている。
 今だからこそ、客観的に自覚ができる。


 「だから、俺はクロエちゃんの想いには応えられない」
 「っ………」


 それは、まさしく否定。残酷なまでに、どうしようもない真実に、クロエちゃんの表情が歪む。
 弱っている所に更なる追い打ちというのは、酷すぎる仕打ちだろう。


 ────無論、俺はこれで終わりにすることは無かった。理由もなく追い打ちはしない。
 ただ、これは賭けの要素が強い。どっちに転ぶかは、俺でもわからない。
 もちろん、例えこれで折れたとしても、アフターケアはしっかりとするつもりだ。俺は分の悪い賭けはしないし、自身の都合だけで他者を傷つけるつもりもない。


 だが、もし折れないのであれば……その時は…………。


 「………トウヤさんは、わたしのこと、嫌いじゃ、ないんですよね?」
 「そうだよ」


 冷静に、一番感情に変化を与えないような声音で肯定する。俺の言葉一つで気分を変えてしまっては困るのだ。
 クロエちゃんの返答は、先を予測できるものだった。


 「じゃあ……私はこれからも、トウヤさんのことを、好きでいて、いいですか?」
 「……クロエちゃん、それは辛いことだよ」


 茨の道だ、と俺は言外に伝える。当人に打ち明け、拒絶され、それでもなお想うなどというのは、ただ精神を摩耗させるだけだ。
 さらに言えば、妾という最悪の事態すら控えている現状。ただ辛いだけじゃないだろう。


 だが、それでも、この娘は………。


 「はい。でも、わたしは……それでも、トウヤさんが、好きですっ」


 涙を抑えて、これでもかというほどの無理矢理の笑みを浮かべたクロエちゃんは、力強くそう言い切った。


 その表情には、流石の俺も驚きを隠せなくて………。


 俺と同年代、か。セミルは17歳と言っていたが、この精神力は凄いな。
 逆境での持ち堪えが強く、最後の最後で粘ってくれた。


 俺が嘘をつかずに、正直に伝えた上で、かつクロエちゃんはこの道を選んだ。


 「……参った」


 自然と、言葉が口から出ていた。
 確かに、望んだ結果だ。だが、本当に、失笑を禁じ得ないほどに、この結果はおかしなものだ。


 俺は自ら振っておいて、再度その好意がこちらへ向くようにと仕向けた。
 クロエちゃんは、振られてもなお健気にそれを果たした。


 何がしたいのか、と思うだろう。だが俺は、やっぱり嫌われるのは嫌なのだ。


 受け入れないくせに、好意だけは保とうとする。


 そんな、最低な理由で。だけどそれ以外に、もう一つ………。


 「クロエちゃん」
 「はい」
 「……俺の事は、好き?」
 「はい」


 俺の、普段なら自意識過剰どころではないだろう確認に、タイムラグなく、クロエちゃんは即答した。
 その真剣な顔に、俺も覚悟を決めなきゃいけないような気がして。そっと目を覆うように手を拡げて、視界を遮る。
 そう、そんな、まるで全てを投げだしてまで答えるような、何が何でもという決死の覚悟を見せられたら………。


 ─────俺も、簡単には諦められないじゃないか。


 「……俺の負けだな」


 聞こえないように、ポツリと呟く。今回の件、俺は手助けできないと思ってきた。いや、事実普通に考えれば手助けできなかった。
 だが、ここに来て変わった。クロエちゃんの覚悟は、俺のその気持ちを変えたのだ。


 必ず〃〃この問題を解決する。ここまでクロエちゃんに頑張ってもらったんだ、次は俺の番だろう。


 「……っし」


 立ち上がる。もう覚悟は決まったのだ。


 「トウヤ、さん?」


 突然立ち上がった俺を、困惑から見上げるクロエちゃん。目の下にはこの暗闇でも隠しきれない涙の跡があるが、瞳には、既に残ってはいない。


 それが、尚更後押しするようで。


 「クロエちゃん、ありがとう」
 「え? ど、どういう────」


 唐突に俺が礼を言ったことで、更に困惑したクロエちゃんだが、言葉の途中で意識を失ったかのように倒れる。
 無論、俺が眠らせたのだ。身体を支えて、クロエちゃんを背負う。


 これから先は、起きたら終わっているという筋書きが一番いい。
 ちょうどこの後セミルと会うことになっている。そこで、俺は本気になってみようと思う。


 良い意味で活性化した思考を巡らせながら、ふとクロエちゃんに目を向ける。


 それは、今までの俺からしたら、少し考えられないようなこと。だけど、言わずにはいられなかった。
 こうも俺の気持ちを変えたのは、クロエちゃんの力だろう。相も変わらず恋心なんてものは芽生えてこないが、だからこそ、俺は願った。


 「………もし、クロエちゃんがこんな俺を、全てが終〃〃〃〃わった後〃〃〃〃も好きでいてくれるなら────」


 背中で寝ているクロエちゃんに、俺は聞こえていないと知りながら語りかける。




 ─────その時は、どうか俺の『好き』に、真の意味を持たせて欲しい─────




 紡ぐ言葉は、夜風に吹かれて消えていった。









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コメント

  • ゼロ

    主人公こんなやつだった?イラッとする性格してるな。女の子可哀想じゃないか(´∵`)シュン。面白いからいいけど

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