俺の学年が勇者として召喚されたが、俺は早速腹黒王族にマークされたようです

イミティ

第25話 自分じゃない誰か

 


 やがて、障壁の外で起きていた爆発が収まる。とはいっても、爆発自体は一瞬で、そのあとの爆風や、恐らく壊れたであろう周囲の瓦礫が飛んでくる二次災害が長かっただけだ。


 気流を操作して、爆発によって舞う粉塵を一箇所に集める。そのままだと魔法を解除すれば再び広がってしまうので、あとはそれを消去〃〃するだけだ。


 「……驚いた、まだ生きてるのか」


 そうして晴れた視界の中、俺は思わず声を漏らした。


 手加減したとはいえ、殺せるようにと調整したはずだが……視線の先には、身体のほとんどを消失させながらも、未だ生きている『魔の申し子ディスガスト・テラー』が居た。


 しかも驚くことに、傷口がボコボコと泡立つのを見るに、まだ再生が効くようだ。魔力は確かに余っているが、それでも半分以上身体が失くなった状態からでも回復できるとは、恐るべき回復力だ。


 『ヴヴ……ヴゥゥ………ゥゥ……』


 『魔の申し子ディスガスト・テラー』が苦しそうに呻く。内臓どころか、顔から肩にかけてまでしか残っていないのだ。痛覚が泣くとも、不快感はあるだろう。
 むしろ逆によくそこまで残っていたとすら思う。俺は完全に死体を消し去る勢いでやったのだが。 


 だが、それは些細なことに過ぎない。


 「今のでダメなら、今度は確実に殺すだけだ」


 これ以上伸ばすのは、俺の魔力的にもキツイ。魔法無しでこいつと戦うのは、恐らくある意味で圧倒してしまうだろう。
 どうしてもパラメータのゴリ押しになるのだから、仕方ないことかもしれないが。


 だから、『種子爆破デトネブラスト』が境界線となった。これで倒れるならそれで終わり、もし倒れないようなら、本気〃〃で殺すことにすると。


 「そうだな……俺が考えうる限りの、最大級の返礼をしよう」


 言葉と共に、長らく封印していた[魔力支配]を解放する。
 その瞬間、今まで感じていた魔力の何かが、明確に変わった。
 何が変わったとはいえない。だが、何かが変わった。それは、魔力の精密操作か、感知か、隠蔽か、それとも更にその奥の、真髄〃〃とも言うべきところか。


 ともかく、今の俺なら『魔の申し子ディスガスト・テラー』のチグハグな魔力を解析して、それに同調させることは容易だった。


 複雑奇怪に、入り乱れ、継ぎ合わされた様々な種類の魔力に、俺は同調させた。
 これで『魔の申し子ディスガスト・テラー』は、もうどんなに頑張ろうと、俺の魔法から逃れることが出来なくなった。
 そして、それは俺の全ての枷を外すことにもなる。


 ────二つ、俺は未だ使用していない属性がある。
 [黒洞魔法]と[次元魔法]だ。


 前者は重力魔法の強化版だと思っていい。ブラックホールに関する強力な属性魔法だが、今回は使わない。


 一方で後者は、時空魔法の強化版であるのには変わらないが、それは本質ではない。
 "次元"。この属性魔法は、恐らく全ての属性の中でも、一番異質だ。
 何もかもを消し去るという[虚無魔法]とは、別の異質さ、異様さ。


 いや、魔法と捉えていいのかすら分からない。


 それが司るのは、『認識』『世界』『概念』。言わば、この世の森羅万象すべて


 魔法によって、それに介入してしまうのだ。それも、文字通り世界規模〃〃〃〃で。


 それを理解したからこそ、俺は今日までこの魔法を封印してきた。
 この魔法は強力であると同時に、人の手に余る。もちろん、俺の手にも。
 いや、もしかしたらそもそも俺ですら使えないのかもしれない。そう思ってしまうほど、この魔法は魔法とはいえ言えないものだった。


 だが、この魔法なら、目の前の存在を一片残らず消すことは造作もない。
 いや、それだけではない。ただ殺すだけなら[虚無魔法]でも、もう一度『種子爆破デトネブラスト』を放つでも構わないのだ。


 それでも俺が[次元魔法]を使うというのは、ひとえに、この魔法の真価を、この目で見ておきたかったからだ。
 丁度目の前に、使うにふさわしい存在がいる。この魔物は、俺の枷を二つも外してくれたのだ。
 そして今、最後の枷を外してくれた。その褒美に、この魔法を見せることが丁度いいと思っただけに過ぎない。


 手のひらをゆっくりと持ち上げ、『魔の申し子ディスガスト・テラー』に向けた。本来なら、こんなことをする必要も無い。わざわざ動作で指向性を持たせるなど、俺には必要のないことだ。
 だが、この魔法に限っていえば、少しでもミスをすれば、取り返しのつかないことになる。それは一個人に収まらないような、大惨事だ。


 細心の注意と、しかし最大級の敬意を乗せた魔法を、俺は放とうとして────突然飛来した槍に、邪魔をされた。
 静かに、活性化した知覚速度を持ってして、俺は余裕を持って避ける。だが、それでも集中力が乱れ、俺は魔力を霧散させるのを余儀なくされた。


 「………お前は、どれだけ俺を邪魔すれば気が済むんだ」


 それは、魔法を放った魔族に向けての言葉。
 抑制されていた怒りが再び明るみになり、感情の制御が効かなくなる一歩手前まで来る。


 魔族は、何か怯えた眼をしていた。それでいて、次には安堵していた。


 怯えに関しては、まだ理解できる。俺の強さは異常だ。この『魔の申し子ディスガスト・テラー』よりも強いとなれば、それより弱い魔族が怯えるのもわかる。


 だが、安堵したのは、分からなかった。今こうして、普通なら立っているのも無理な程に殺気をぶつけているのに、その状態で安堵をしている。
 なにか、『魔の申し子ディスガスト・テラー』を殺されるとそこまでの不都合があるのか。


 それとも……別の要因か。


 なんにせよ、俺の行動を邪魔したことには変わりがない。そして、この魔族相手にそれを許す慈悲など、ありはしない。
 敵討ちは、まだ終わっていないのだから。


 「『神の縛鎖グレイプニル』」


 魔族と『魔の申し子ディスガスト・テラー』を対象に魔法を発動する。
 虚空から幾重もの鎖が出現し、身体を拘束する。その鎖の数は尋常ではなく、たちまち顔以外の全てを覆い尽くしてしまう。


 最上級光魔法『神の縛鎖グレイプニル』。拘束系統の最上位に位置するこの魔法は、動きを止めると共に、捕らえた対象の魔力すら封じる。 
 故に、魔法を発動することは叶わず、そして物理で逃げ出せるわけもない。


 抵抗する素振りを、意外にも魔族は見せなかった。その顔には諦めか、安堵か、絶望か、どれとも取れるような気がして、その実違うようにすら思える。


 その首筋に、剣を突きつける。


 「おい、今から俺が聞くことに答えろ。さもなくば殺す」
 「……」


 魔族は、肯定も否定もしなかった。だが、まぁいい。次の質問で、決まるのだから。


 「お前の名前はなんだ」
 「………」


 殺されることはないと思っているのか、俺の脅しに関わらず、魔族は答えない。
 その態度を前に、その首に、剣を少しだけ突き刺す。


 「っ……」
 「ハッタリではないぞ。答えなければ、殺す」


 首に赤い筋ができ、それが剣を伝ってくる。
 痛みが走ったのか、魔族が少し顔を歪めるが、特に声を上げたりはしなかった。


 「もう一度聞く。お前の名前は?」
 「……ハンスだ。ハンス・ニーバレン」


 魔族は仕方ないとばかりに、呟いた。
 それは、俺が[禁忌眼]で鑑定した内容とおなじ。既に知っているのにも関わらず聞いたのは、こいつが嘘をつく輩か、それとも真実を交えてくる輩かを判別するためだ。
 少なくとも、嘘だけをつき続けるわけではなさそうだ。


 「次の質問だ。お前は魔族だな?」
 「あぁ、そうだ」


 あっさりと認めたために、俺は少し首から剣を離す。それは、魔族に多少なりとも希望を与えるためのものだったが、あまり効果はなさそうに見えた。


 「お前の目的はなんだ。この迷宮で何をしようとしていた?」
 「………」


 魔族は、それには口を噤んだ。
 俺は、一秒、二秒と経って、それでもなお喋らなかった魔族の首に、躊躇い無く剣を突き刺した。


 「グフッ!?」
 「言ったはずだ、ハッタリではないと」


 剣は首を貫通し、魔族が盛大に吐血する。
 もちろん、肉体的に強そうな魔族のことだ。即死はしない。
 だが、これで喋れなくもなった。魔族は、俺の事を憎々しげに見ながらも、特に抵抗をしない。
 ……やはり、何か隠しているな。


 「よし、分かった。そういうことなら、俺にも考えがある」


 俺は『神の縛鎖グレイプニル』の拘束を緩める。とはいっても、少々身体が見えるように、鎖の数を減らしただけだ。
 その様子に、魔族が痛みに耐えながらも、怪訝な顔をした。


 直ぐに周りを気にすることなど出来なくなるだろうに。


 「そうだな……よし、まずは右脚だ」
 「─────っ!?」


 俺は呟いて、魔族の右脚、太腿に剣を突き刺した。
 その痛みに魔族は悲鳴をあげる。それは言葉になっておらず、ただ音が出るだけの、憐れな悲鳴だった。


 剣をそのままにしておき、俺は魔族の首に手を伸ばした。


 「『ヒール』」
 「っ!? き、貴様、何をする!?」


 突然の暴挙に、呆気に取られたように声を上げる魔族。まさか、喉を回復させられるとは思わなかったのだろう。
 もちろん、俺が善意でやるはずなど無い。


 「お前が回答を拒む度に、俺は剣を突き刺す。そしてその度に、何度でも回復させよう。例え四肢がちぎれようと、喉が焼かれようと、意識が無くなろうと、如何なる場合でも元の状態に戻してやる」
 「なっ!? 貴様、悪魔か!!」


 俺の言ったことを理解した魔族が、今度は恐怖に塗れた顔をする。
 今しがた俺がしたのだ、脅しだと捉えることは無理だろう。


 俺の魔法の実力を、この魔族はその目で見てしまっている。故に、俺の言葉に誇張がないことを理解するしかない。


 何度でも傷つけ、その度に治す。人形を壊しては縫い直すように、玩具が壊れたら修理するように。
 俺は、それを実行することを躊躇わない。何故なら、この魔族に対する怒りというのは、それほどの事だからだ。


 ただ殺すだけじゃ、怒りは晴れない。
 殺したら、その時点で解放される。そんな優しい罰を、俺は望んでいない。


 この質問など、ただのついでに過ぎない。得られたらよし、得られくてもよし。その程度だ。
 俺の目的は、この魔族を苦しめることなのだから。


 「答えろ、目的はなんだ」
 「くっ……っ、やめっ」


 答えを渋った瞬間に、魔族の断末魔が響き渡る。
 喉に一回、右腕に一回。喉は十秒ほどで回復させ、右腕の剣はそのまま。


 気づかないうちに、俺は感情の制御を手放していた。
 思考は冷却され、驚くほど高速で回転しているはずなのに、怒りに支配されている自覚はない。
 いや、そもそも俺は何も思考していないし、何もしていない。


 「目的はなんだ」
 「……誰がっ………アアアアァァァア!?」


 今度は目を突き刺し、そして左脹脛を刺した。


 更に魔族の身体に剣が一本追加された。


 脳に貫通しないように、しっかりと制御はしているようだ〃〃〃


 「目的はなんだ」
 「………言うものか…………」


 淡々と、一切の抑揚もなしに告げるのは、俺ではない。
 いや、俺だ。だが、俺じゃない。
 怒りに我を忘れているのではない。自我があるはずなのに、行動しているのが俺ではない。
 思考しているはずなのに、考えているのは俺ではない。


 俺の手の中に新たな剣が出現し、魔族の口を刺し、左手に刺した。
 その一連の動作に、俺は関与していない。


 淡々と行う動作は酷く猟奇的で、しかしそれをどこか痛快に感じている自分がいる。
 顔に表情は浮かんでいない。目に感情は映っていない。


 どこか三人称視点で見ているようにすら感じるが、それすら俺は認識できない。


 新たに魔族の悲鳴が加わる。俺が恐らく〃〃〃再生タイムバック』で魔族の意識を戻したのだろう〃〃〃〃


 「目的はなんだ」


 何度目かの言葉。それは最初から、何も変わっていない。
 最早なんのためにやっているのかも分からない。怒りという感情が、俺を飲み込んでいるのか、それとも俺以外の誰かが動かしているのか。
 動機すらあやふやなまま、しかし俺は止まらない。


 「目的はなんだ」


 俺は一切変化がない口調で、何度目かの問いかけを魔族に行った。




 

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コメント

  • ノベルバユーザー321468

    痛覚が泣くても、は 無くてもですね

    2
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