俺の学年が勇者として召喚されたが、俺は早速腹黒王族にマークされたようです

イミティ

第23話 魔の申し子《ディスガスト・テラー》





 魔族の声と、紋章の光。恐らく『魔の申し子ディスガスト・テラー』を縛っていた拘束が解け、俺へと迫る。
 一足かけるごとに背後に衝撃波が生じるほどの勢いで来る魔物の速度は、完全に予想を上回っており、俺の反応が一瞬遅れる。


 「───チィッ!」


 舌打ち一つ。長い腕が薙ぎ払われ、それを瞬間的な判断で上体を反らして躱し、体勢を整えながら、お返しにと剣を振り上げる。
 今の一瞬で、俺は相手の力量を見誤っていたことを悟った。故に、ギアを一つ入れる。


 何ら抵抗もなく剣が腕を斬り落として、一足で数十メートル後退する。


 普通なら、今の攻防で回避だけでなく反撃まで加えることが出来たのは褒められることだろう。だが、今回は違う。


 『ヲヴヴヴゥゥゥゥ……』
 「やっぱり、か……」


 傷口がボコボコと沸騰するように泡立ちながら、斬り落とした筈の腕が直ぐに再生される。
 その時間、僅か1秒。驚くべき再生速度だ。故に、反撃など大した一撃にはならなかった。


 「そうそう、『魔の申し子ディスガスト・テラー』は強力な再生能力を持っている。例え身体が半分消されようと、即時再生が可能────」


 状況が逆転したと思ったのか、『エアボイス』まで使って愉快げに語る魔族を、俺は思考から除外する。
 予想はしていたことだ。今回溢れ出た魔物、その中には数体、本来持って居ないはずの[再生]を持っている個体がいた。
 恐らくこの魔族が仕込んだのだろうが、そうなれば警戒もする。[再生]は魔力を使用するが、俺と同レベルの魔力を保持しているのであれば、長期戦は必須だ。


 「なんともまあ……」


 『魔の申し子ディスガスト・テラー』が唸り声を出すと、複数の尾が高速で射出される。
 伸縮機能でもあるのか、うねりながら、数十メートル離れた俺の元まで伸びる尾に、後ろへ下がりながらながら剣を振るう。
 [魔刀]によって強化されている剣は、いとも容易く尾を斬り捨てていくが、その断面から更に2つに分かれて再生するのが見える。


 「っ!? 分裂するのか!」


 再生のみならず、分裂能力まであるとは、厄介な。


 俺が跳躍した瞬間、足下の地面を貫通して尾が突き刺さる。俺が後退する速度よりも、尾の速度の方が早いため、空中に逃げざるを得ないのだ。
 突き刺さった尾は地面との接触面から分裂し、速度はむしろバウンドしたように上乗せされ、俺へと一気に迫る。
 それに何度目かの驚愕こそすれ、流石にこの程度ではやられてやらない。


 思考を一時的に加速させる。あまり多用しないのは、この加速があくまでスキルのものであり、俺本来の力ではないからだ。思考力を鍛えるならば、スキルの力は使わない方がいい。
 その加速させた思考の中で、瞬時にこの場に最適の魔法を作りあげる。既存の魔法でも対抗できなくはないが、新しい魔法を作るというのは、それだけこれから先の選択の幅を広げることでもあるのだ。


 「お返しだ。『事象の複製リプロダクション』」


 そうして作り上げた魔法を使用しながら、剣を一度振るう。剣の範囲にある尾が斬られるが、それだけでは他の尾が俺を刺し貫くだろう。
 しかしその瞬間、全ての尾が、数十メートル離れているはずの根元から切断される。


 「なっ!?」


 声を出したのは魔族だ。剣が届くはずがないのに尾が斬られたという事実に、驚きを隠せないでいた。


 『事象の複製リプロダクション』。事象を魔法で読み取り、それを任意の場所に結果として出現させる。
 既に起きたこととして出現するため、防御は無意味。魔法が発動しないようにするしかないというぶっ壊れ技だ。
 以前アルラウネの蔦を全て切り落としたことがあるが、あれを参考にして作った魔法である。
 オリジナル魔法かつ[時空魔法]に属するもののため、消費魔力量は相変わらずだが、回復量で相殺できる範囲だ。


 斬られた尾はもちろんすぐに再生してしまうが、俺が地面に着くまでの時間は十分に稼いだ。
 その結果として、尾の数はきっちりと倍になってしまったが。根元から切り落としてもダメかと落胆はするが、あれ以上増えることは無いだろう。


 『ヴヴヴゥゥゥゥ……』


 心無しか怒気を孕んだように聞こえる呻き声は、俺が尾を切断したからか。
 同様に、魔族の驚いたような顔は消えず、俺への警戒度を上げる要因になったようだ。
 だが、アイツが幾ら警戒したところで、[禁忌眼]によって手の内は知れている。俺になにかすることは出来ない。
 例え何かしても、俺が遅れをとることはないだろう。


 戦況は有利。そう思えたが、次の光景には、またしても俺が驚くこととなった。


 「っ、『絶対零度アブソリュートゼロ』か!」


 周囲が一瞬にして凍結し、空間が凍りつく。
 俺は跳躍して氷の影響下から離れ、空中で『アイスレジスト』と『ブレイズ』の魔法をかけて、氷に飲み込まれないようにする。


 最上級魔法を瞬時に発動して見せた『魔の申し子ディスガスト・テラー』は、更にそこに数多の氷柱を出現させた。
 縦横無尽に数多の氷柱が乱立する。『氷柱群アイスピラーズ』の魔法だろうが、二種類の魔法を使う鮮やかな手際は、以前大群の魔物と戦った時にいた『焼死地獄インフェルノ』を放った魔物よりも、早く、的確だ。


 その圧倒的な魔法構築速度に、俺は目を見開く。


 この空間は円形で、半径は数百メートル。天井を見れば、ここは他の階層と当たらないようになっているのか、数十メートルと、とても広大な場所だ。
 氷柱ひとつとっても半径は数メートルあり、この場所には、それが乱雑に交差する氷の立体フィールドが完成していた。


 『魔の申し子ディスガスト・テラー』がその場で跳躍し、幾重にも重なる氷柱の一つに自身の尾を突き刺すことで、宙にぶら下がる。
 逆さになった弧状の口と白い目が、まるで挑発するように俺へと向けられ、俺は驚いていた自身を落ち着かせ、代わりに好戦的な笑みを浮かべた。


 「ようは、三次元的な戦闘がお望みか」


 このフィールドでは、高さという軸が追加される。敵の強さの関係上、俺は今までそんな戦闘を経験してこなかった。
 なるほど、確かに準備運動には良いな。


 グッと足に力を込めて、こちらも跳躍する。それだけで、およそ20メートルほど上へと跳んだ。
 しかし結果として、俺は『魔の申し子ディスガスト・テラー』よりも低い場所の氷柱の上に立つが、これは跳躍力が足りなかったのではなく、俺が調整したからだ。


 「来いよ。お前のフィールドに乗ってやる」
 『ヲウウヴヴゥゥゥゥ!』


 指をクイっと曲げて俺の方から挑発すると、『魔の申し子ディスガスト・テラー』は、侮辱されたと思ったのか、今度は確実に怒りを込めて唸った。
 それと同時に、魔物の周囲に禍々しい玉が次々と出現する。


 それは、一見闇魔法の初級に分類され、闇を模した黒色の玉を作り出す『ダークボール』かと思われたが、そこに内包される魔力はそれとは桁違いであり、またあそこまで禍々しくはないという点からも、それは違う魔法であることを伝えていた。
 しかし、既存の魔法でもない。俺が知っている闇魔法ではないようだ。


 高速でその玉が俺に向かってくる。しかし、それは突然動きを緩めたかと思うと、再び速まる。
 緩急をつけて感覚を狂わせるという算段なのだろう。球体が当たる前に俺は違う氷柱へと飛び移るが、突然速度が速まる玉に、危うく当たりそうになる。
 空中で風を操作し、紙一重で避ける。重心を動かすことは造作もないが、ヒヤリとしたのは言うまでもない。


 込められた魔力はざっと見て一つ一つが最上級魔法並。この魔物特有なのか、それとも魔族側に伝わっている魔法なのか。
 本当なら魔力から解析したいところだが、如何せん『魔の申し子ディスガスト・テラー』の魔力はチグハグで異質すぎる。流石の俺も、正常でない魔力に合わせるのは初めてのことで、如何せんすぐにはいかない。


 だが、魔法を鑑定できる[禁忌眼]は使えない。これは相手の手の内が全てわかってしまう、反則のようなものだ。
 それに慣れてしまうというのは、つまり未知の相手と戦うことに鈍くなってしまうことである。


 俺はそれを望まない。故に、理由がない限り、俺は[禁忌眼]を使わないのだ。


 魔族の場合は、感情面と、逃がす訳には行かないというのと、アイツとは対等な戦いを演じるつもりすらないため、早々に全てを見抜いてしまっただけに過ぎない。


 我ながら面倒くさい生き方だとは思う。だが、己に課したルールはそう簡単に破れない。自分の意思で破れてしまったら、ルールにならないからだ。


 闇の残滓とも言うべき、黒い粉を飛び散らしながら距離を詰めてくるその魔法は、俺がギリギリで避けたため、一つが氷柱に当たる。
 その途端、当たった箇所から、氷柱が黒く染まっていく。まるで侵食するかのように、だんだんとその色が変わっていくのだ。
 そして、そこがポロポロと朽ちていく。まるで腐食したようだ。


 純粋な攻撃力と言うよりは、そっちの方が厄介だ。


 「『聖なる光シャイニングハーツ』」


 危機感に煽られ、俺は器用に空中で反転しながら、その魔法を使った。
 空から───いや、天井から広範囲に光が降り注ぐ。それらは実体こそ持たないが、その光にはれっきとした攻撃能力が備わっている。


 闇と相克の関係にある光。俺が狙った通り、球体はその光に触れた途端、飲み込まれるように消えていった。


 だが、俺の使う『聖なる光シャイニングハーツ』でなければ、恐らく難しかっただろう。それほどまでに、あの球体の魔法は構成が固く、内包する魔力量が多い。
 最上級魔法であるのは疑いようもないな。


 魔法に意識を取られたからか、飛び移ろうとした氷柱の上に行くには少し高さが足りなかったため、代わりに側面に勢いよく指を突き刺して、俺はぶら下がる。
 魔法を使っていた『魔の申し子ディスガスト・テラー』は未だ場所を動いておらず、余裕が伺える。


 ────余裕なのはこっちもなんだが、このなりじゃ言えないな。


 腕に力を入れて体を持ち上げ、氷柱の上に乗り上げる。高さ的には未だ俺の方が下。射線も通っているため、不利ではある。


 そして、それを狙っていたかのように、魔物の口がパックリと開かれる。顔半分を覆うほど開かれた口は、肌の色とは違う、光を吸収してしまうような、底なしの黒を見せる。


 濁った、不揃いの牙だけが覗くその口に、急激に魔力が集められる。それは口一杯に溜め込まれ、次の瞬間には一度閉じ、口内で集めた魔力を圧縮すると────カパッと開いた口から、黒と白の混じる光線のようなものを繰り出してきた。


 「『次元の壁ディメンションウォール』」


 その時には既に、俺は魔法で防御していた。
 空間を歪めて作った障壁と、属性を伴わない、言わば魔力による『破壊光線』がぶつかる。


 しかし俺は、眉を顰めた。拮抗はわずか一瞬で、次の瞬間には、俺の〃〃障壁が砕け散ったのだ。


 「チッ! 魔力のゴリ押しかよ!」


 光線に込められた魔力量の多さに叫びながらも、俺は『次元の壁ディメンションウォール』を更に重ねがけした。
 今度はより強固に、かつ魔力も多く込めた。強化された障壁は光線とぶつかり合い、しかしそれでもわずかな時間でも砕け散る。


 今のは俺も、ギルドマスターと戦った時ぐらいには力を緩めていた。それでも無理だとは……。


 スローモーションで近づいてくる光線は、そのまま何もしなければ、俺を穿つ。


 未だ認識が甘かったようだ。まさか、ここまで強いとは思わなかった。


 だからこそ俺は、今度は一切の手加減なしで、『次元の壁ディメンションウォール』を発動した。


 二度の拮抗で威力が落ちていた光線は、最後の『次元の壁ディメンションウォール』に当たると、今度は打ち負け、その場で爆発を起こした。
 もちろん、『次元の壁ディメンションウォール』を超えてくることは無い。過剰に込められた魔力が暴発を起こしたのだろう。


 威力が落ちていたとはいえ、俺の『次元の壁ディメンションウォール』は、その爆発を受けても傷一つなく、あのまま数十秒経っていようと、耐えることが出来ていただろう。


 魔法で手加減をしないというのは、久しぶりだ。いつもどこかで抱いていた、全力を出せないもどかしさを少しは軽減してくれる。
 もちろん、真の意味〃〃〃〃で考えれば未だ本気は出ていないし、今もまだこの戦闘を余興程度にしか捉えていない。


 それでも、今の状態で真面目にならなきゃいけない程度には相手が強いことに、俺は少しの高揚感を覚えていた。









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