俺の学年が勇者として召喚されたが、俺は早速腹黒王族にマークされたようです

イミティ

第22話 仇敵





 「クソッ! 何故魔物が沸かないんだ!」


 苛立ちから悪態をつくその人物は、薄暗い部屋に一人居た。


 吊り上がった目に、浅黒い肌、そして頭部から突き出る二本の鋭い角。
 その容姿が、彼が人族ではないこと表していた。


 部屋の中央には、紫色に光り、表面に蔦のようなものを這わせた球体が浮かんでおり、その周りには、青白く光るパネルのようなものが複数浮かんでいる。


 ここは『原初の迷宮アルファメイズ』と呼ばれる迷宮の最下層。ダンジョンコアが鎮座する、文字通り最奥の部屋だ。


 ダンジョンコアの周りに浮かぶ複数のパネルから、この迷宮内を監視することが可能だ。
 そして、今現在そのパネルの一つに映っている存在を、男は忌々しげに見つめた。


 「全てコイツのせいだっ。忌々しい勇者め……」


 最上級魔法を易々と行使し、その後何故か魔物が沸かなくなっていく。
 そんな存在のせいで、男の計画していた予定は全てが狂った。いや、狂ったと言うなら、画面に映る規格外の存在がこの迷宮にやってきた時点からだろう。


 勇者というのは理解出来た。黒髪でも茶髪でもないが、この存在が普通なわけがない。何らかの、それこそ能力アビリティや魔法で姿を偽装しているのだろう。
 他の勇者とは一線を駕す力。本来なら今すぐにでも始末したいのだが、完全な〃〃〃ダンジョン〃〃〃〃〃マスター〃〃〃〃ではない〃〃〃〃男では、迷宮の力でこの勇者を殺すことは不可能だった。


 準備が整ったから早速とばかりに計画を始動したのに、第一段階では勇者を一人も捕まえられず、第二段階である現在でも、未だ地上の勇者を一人も捕まえることが出来ていない。


 蓋を開けてみれば、男の計画は何一つ予定通り行っていない。確実に溜まると踏んでいた死者は、上の騒動を経ても二桁後半にも及ばないのだ。
 そして、その原因が全てこの勇者にあるのは想像に難くない。異常な行動力、魔力、戦闘技能。それらのせいで、溜めてきた魔物はほとんど吐き出してしまった。


 今回はハイリスクなことをしたにもかかわらず、一切のリターンを得ることが出来なかったと言える。


 「あの勇者共も、捕えるのではなく始末にしておけばまだ……」
 「勇者が、なんだって?」


 室内に響く、自分のものでは無い誰かの声。
 それが耳に届く前に、男は半ば反射的に『炎燃拡散フレイムボム』を放っていた。


 その反応速度は、人族と比べれば、間違いなくトップクラスの速度だっただろう。
 『炎燃拡散フレイムボム』はしっかりとこの部屋に現れた謎の存在に向けて放たれた。


 だが、その小さな太陽は、突如として消え去る。


 「なにっ!?」


 男は驚愕の声を上げ、その存在を見据える。魔法を解除した覚えはない。つまり、魔法を消したのは目の前の存在である。


 そしてしっかりとその容姿を目に入れた時、再度男は驚愕した。


 「この程度の魔法で反撃か……俺を舐めるのも程々にしろよ?」


 耳を突き刺す、冷たい声。男はその姿を目に入れた瞬間、無意識のうちに自身が硬直していたことを知った。


 「貴様は……!?」


 掠れるような声が、口からこぼれる。何故なら、目の前の存在は、先程まで男が警戒し、憎悪にも似た感情を抱いていた人物だったのだから。




 
 ◆◇◆






 俺は比較的冷静になっている思考で、目の前の男の存在を把握していた。
 薄暗いこの場所ではわかりにくいが、浅黒い肌と、頭から生えている角。そして、隠しきれんばかりの魔力。
 その魔力総量は、俺には及ばずとも、ギルドマスターは超えているだろう。


 その特徴を持った存在を、俺は以前ギルドマスターから魔王についての話を聞いた時に、同時に教えて貰っていた。


 「魔族〃〃のような存在が、こんな所に何の用だ」
 「貴様、俺達のことを知って……!?」


 その分かりやすい、情けない反応に、俺は冷めた目を向ける。


 魔族という存在は、名前は聞いたことはあっても、この世界にいる可能性は低いと見ていた。
 何故なら、俺が今まで読んだ書物のどこにも、その存在を明示するものはなかったのだから。


 『魔族は人間なんかよりも……いや、こっちの種族よりも遥かに強い。以前あった魔族は比較的温厚というか、戦いこそすれ、私が殺されることは無かったけど……当時は今より弱かったとはいえ、手も足も出なかったよ』


 ギルドマスターは俺にそう語ったが、目の前の魔族が、ギルドマスターが手も足も出ないような相手には見えない。
 俺の言葉に動揺するし、そう強いようにも見えない。そう考えたら、フツフツと、一度は収まっていた怒りが、再度湧き上がってくる。


 こんな男に、俺は今まで振り回されていたのかと。
 こんな男に、俺の知り合いが傷つけられたのかと。


 「『転移テレポート』ッ!」


 俺が様子を見ていたのを好機と見たのか、魔族は『転移テレポート』で場所を移動した。
 逃げたのではないだろう。奴はどうやら、この階層にある広い空間に転移したようだった。


 (魔法名を呟かなければ魔法を発動できないのか、それともカモフラージュか……)


 『転移テレポート』は座標の指定が精密でなければならないため、感覚頼りの魔法の中では高難易度だ。
 確かにギルドマスターでも無詠唱では出来ない。いや、恐らくできるだろうが、座標の指定が曖昧になる。


 それでも、魔族ならばという一種の願望めいたものが俺の中にはあった……どうやら俺は外れの魔族らしいと、せめてもの慰めを自分に言い聞かせる。
 カムフラージュであるのならば朗報だ。長い時間粘ってくれた方が、俺の成果も大きい。


 「取り敢えずは、乗るか」


 罠であることは目に見えている。魔族の他にもうひとつ、これまた魔力もさることながら、気配が強い存在がいる。
 しかし俺は、臆さず、いやむしろ進んでそれに乗ることにした。


 興が乗ったなどという可愛らしいものじゃない────むしろ、その逆だ。


 転移した先では、案の定魔族がニヤニヤとした笑みで立っていた。


 「ノコノコと着いてきたな? 愚か者め」


 早速罵倒が投げかけられるが、俺は気にもとめない。今は、怒りは抑制されている。
 代わりに俺は、魔族のそばにいるもう一体の存在に目を向ける。


 魔物、だろう。少なくとも、俺は見たことなかったし、本で読んだ知識の中に、目の前の魔物に当てはまる特徴を持った魔物はいなかった。


 見るからに異質な姿に魔力。内包された魔力量は、それこそ俺の最大量に匹敵するのではないか。
 普通の魔物ではないことは、日の目を見るより明らか。かといって、迷宮の魔物でもないだろう。迷宮の魔物は、魔力となって迷宮に再循環されるため、基礎となっている魔力が全ての魔物で統一されているのだ。
 となれば、この魔物を用意したのは……。


 「こいつは『魔の申し子ディスガスト・テラー』。見て分かると思うが、ただの魔物じゃない。本来なら使用は禁止だが……お前は危険だからな、こいつを使わせてもらうぞ」


 なるほど、あの魔族は、どうやら彼我の力量差を測れる程度には能があるようだ。その行動と、敵の強さを認める部分は、そう悪くは無い。
 そして、魔族の言葉で確信した。やはりこの『魔の申し子ディスガスト・テラー』という魔物は、魔族が作りあげた、言わば"人工的な魔物"。


 「こいつの制御は俺でも難しいからな。俺は遠くに離れさせてもらうとしよう」


 既に勝った気でいるのか、魔族はそう言って壁際まで後退する。だが、言っでいることは事実なのだろう。今にでも『魔の申し子ディスガスト・テラー』は飛びかかってきそうだが、ギリギリのところで留まっている。
 それに、この魔物は恐らく、俺が戦ってきた中でも、比べ物にならないほど強い。魔族が強気になるのもわかる。


 『ヴヴヴゥゥゥゥ………』


 低く、重い、臓腑を揺らすような、おぞましい呻き声が空間を満たす。


 『魔の申し子ディスガスト・テラー』は、妙に光沢のある漆黒の肌に、身体に対して異様に長い両手両脚を持った、2メートル程の人型の魔物だ。


 尻に当たる部分には、幾本もの尻尾のようなものが伸び、それらはピクピクと不規則に蠢いている。
 胴体は細長く、人間であればガリガリと表現できるような体型だ。
 顔のような部分には、目としての機能があるのかわからない、肌とは対照的な真っ白な眼球に、三日月のような形状を描く、弧状の口。その奥からは、濁った色の不揃いな牙が顔を覗かせていた。
 そして、チラリと見えた背中には、肩甲骨が変化したような、二つの突起。


 俺が今まで見てきた魔物は、良くも悪くも、イメージしやすいものだった。
 ゴブリンにオーク、オーガ、コボルト。それ以外の魔物も、綺麗と言うとおかしいが、疑問を抱かないような見た目だった。


 だが、コイツは違う。明らかに生物として異質だ。魔物という意味では、最も"魔"に近い存在かもしれない。
 それが、魔族が作り出した魔物であると裏付けしてくれていた。


 同時に、ここにいる魔族が作りだした訳では無いことも。


 「さて、後はたっぷりこいつと遊んでくれ」


 魔族は嗜虐的な笑みと共に俺に言うと、何か紋章のようなものが浮かぶ右手を『闇の申し子ディスガスト・テラー』へと翳す。


 「さぁ『魔の申し子ディスガスト・テラー』……"存分にやれ"」


 魔族の右手の紋章が光を放ち、その瞬間『魔の申し子ディスガスト・テラー』が弾かれたように飛び出す。


 ────丁度いい。メインディッシュの前に、前菜準備運動と行くか。




 
 

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