俺の学年が勇者として召喚されたが、俺は早速腹黒王族にマークされたようです

イミティ

第21話 勇者はようやく動き出す 後編





 敬語を取り払ったのは、相手を指摘しやすくするためだ。
 また、同じ立場であることも理由の一つである。しかし何よりも、これが相手の身に関わることでもあるからだろう。


 「相手が再生系のスキルを持ってるかもしれないという可能性は捨ててはダメだ。せめて死んだかどうかを確認しろ」


 そうして俺は、視線をずらす。


 「そこのアンタもだ。コイツがガッツポーズをしたから気を緩めるのも分かるが、生死を確認しろ。魔法があれば、コイツが攻撃する時間はあった」
 「あ、は、はい。ゴメンなさい」


 なんだか違和感を感じるほど饒舌に喋ると、魔法使いの女性は混乱しているのか、素直に頷いてしまった。
 ……いや、反発を期待していたわけじゃないのだが、肩透かしを食らう。


 「アンタも次からは気をつけろ」
 「あ、いや、だがよぉ、『ガルムシャルあの魔物』は再生のスキルなんか持ってないはずだぜ」
 「あぁそうだな。だが持っていた。今回はスタンピードだし、普通の魔物と違う可能性も入れておけ」
 「そ、そうか。スマン、次から気をつける」


 そして男の方も、一度は反論したが、俺の話を聞くと驚くほど簡単に指摘を認めた。
 それから数秒、この雰囲気の中、俺は待っていると。


 「ってか、お前誰だよ!!」
 「……アンタねぇ」


 男が今更すぎるほどの反応をし、女性が呆れたようにため息を吐く。


 「というかレイザス、相手は助けてくれた相手よ? 失礼過ぎない?」
 「それは、その……悪かった」


 男、レイザスは、女性に言われたからか、俺に頭を下げる。その対応に、俺も少し態度を軟化させる。
 とはいっても、元々敵意も何も抱いていなかったが。ただ、気さくな人物ではあるようだ。思っていたのとは違うな。


 ……いや、もともと探索者も冒険者もこういうものか。助けたヤツらも、例外なく、そして驚くほど俺の事を称賛していたし。


 「いや、構わない。というか、俺の方も初対面の相手にいきなり指摘するとか、少し失礼だったな」
 「いえ、それは私たちに落ち度があったのよ。基本的なところなのに、すっかり慢心してたわ」
 「……あぁ。正直、お前が助けに入ってくれなかったら、死にはしないまでも、支障が出るような怪我をしていたはずだ……恩に着るぜ」


 やはり思ったよりも良い人達だ。俺は敢えて硬くしていた表情を少しほぐす。
 [禁忌眼]でステータスを覗いた時に、この2人が第一階級アインス探索者であることを知った。故に、相手がレベル100を超えている魔物だったが、どう戦うのか見物していたのだ。


 結果は、詰めが甘かったが。しかし実力はしっかりとある。最後の対応を誤っただけで、それ以外では一切の被弾なく瀕死まで持っていったのだから。


 そんなこと考えていると、レイザスは俺のことを指さした。


 「それよりもだ! お前、さっきの動きはなんだ? この俺が、全く見えなかったぞ」
 「そう言えば、そうね。確かに貴方の動きは全く見えなかったわ。魔法が使われた感じもしなかったし……」


 2人は俺の超人的な速度が気になったらしい。


 「まぁ、脚力とかには自信があってな。実は俺も第一階級アインス探索者なんだ」
 「お前も第一階級アインスなのか? にしては見たことねぇが……」


 レイザスは気になるのか、俺を見てうーんと唸っているが、まあ分かるわけないだろ。つい一週間ぐらい前になったばかりだし。


 「それより、さっさと移動した方がいいんじゃないのか? また新しい魔物が出るぞ」
 「おっといけねぇ! おいナミア!」
 「わかってるわよ。えっと……」
 「俺はトウヤだ」
 「そう。トウヤ、さっきは助かったわ、ありがとう」


 女性、ナミアが俺の顔を見てきたので名前を答えると、そう言ってお礼をしてきた。
 俺は構わないと軽く告げて、レイザスを見る。


 「んあ? なんだ?」
 「いや、さっきみたいに抜けるなよと思って」
 「はっ! 心配されるほど馬鹿じゃねぇ。そっちこそ、さっきは驚いたが、気ぃ抜いてやられんなよ?」
 「お互い様か」


 負け惜しみにも聞こえるその言葉を俺は軽く流して、ヒラヒラと手を振り建物の屋根の上へと跳躍する。
 下からレイザスが見上げてくるが、俺はもう用は済んだとばかりに無視をして走り出す。さっさと移動してくれってんだ。


 俺が目指すはとりあえず中心、迷宮だな。


 本来なら倒したところでどんどん沸いてくるだろうが、魔物が沸く理由は魔力によるところがある。
 迷宮内の魔力と同じものが、今この街にも満ちている。それで魔物が地上に直接沸いているのだろう。


 何故こんなにも大量発生しているかは知らないが、魔力と言うなら話は簡単だ。
 その魔力と同調させ、魔物が沸かないように、同調させた俺の魔力に置き換えていくのだ。


 通常の魔力では重なってしまうため、なんの意味もなさないが、同調させれば話は別。それでどうにか魔物が沸かないようにしている。


 完璧ではないが、中心部以外の魔物の沸き率はほぼないと見ていい。


 だから俺は、助けるだけ助けてどんどん場所を移動していくのだ。そうでなければ、御門ちゃんを一人で行かせたりもしないしな。


 「っし、見えてきた」


 迷宮前はやはり魔物だらけ。先程までのところはまだ入り込む余地があったが、この場所は魔物も強いせいか、探索者達が全く進めていないようだ。
 中には突出して魔物を倒すような猛者もいるが、それでも殲滅よりも、迷宮から出てくる魔物の数の方が多い。


 だが、魔物が集まってくれているのなら好都合。


 「さて、まずは『魔磁力モンスタープル』」


 迷宮から押し寄せる魔物、そしてそれをどうにか押し返そうと奮闘する探索者達。
 俺はそれらを上から見下ろしつつ、空中に青色の輪郭を持つ黒の玉をつくりあげた。


 ついでに、敢えてわかりやすいように、魔力が入り乱れるこの場所で、俺は莫大な魔力を放出してみせる。


 ただでさえ今は街の魔力を置きかえている。常に尋常じゃない魔力が消費されて、流石の俺も回復が間に合わない状況だ。


 それでも俺は敢えて自身の力を誇示するように、魔力を出し、存在を示す。


 「なんだ!?」


 誰かが魔力を察知し、叫ぶ。そして、魔力の放出源である俺の方を見て、周りもつられて俺を見上げる。


 不思議な光景だろうな。膨大な魔力を放つ俺に、その前にある奇妙な青と黒の混じった玉。
 明らかにこれから何かをするという光景に探索者はついつい武器を止め、魔物も魔力につられて動きを止める。


 そして数秒後、空中に浮かぶ玉に吸われるように魔物が重力に逆らい始める。


 「おわぁ!?」
 「くっそなんなんだよ!!」


 ここにいるのは全員が、さっきまで助けていたヤツらよりも更に高いランクを持つ冒険者が探索者。しかしそれでも、目の前の光景には驚きを示さざるを得ない。
 だが、誰も逃げようとしないのは、恐らく俺が何をするのか気になるのだろう。流石に玉の真下は危険と見たのか誰もいないが、逃げる者もいない。


 まぁそれは俺にとっては朗報だ。知名度が予想よりも上がるかもしれないが、学生並みに、承認欲求を満たすためだと思えばいい。
 誰かに認められたいと思うのは、抗いがたいことだしな。この先その衝動から変な行動を起こさないように、ここでそれを満たしておくのもいいだろう。


 「さて、『大雷轟ギガボルト』は使ったからな……なら、『断罪の雨コンヴィクション』」


 使用するは、珍しい光魔法。
 魔物達は『魔磁力モンスタープル』によって、青黒の玉を中心として空中で固まり、巨大な球体となっているが、その更に上空に、その魔物達を飲み込むほどの大きさの光の輪が出現する。


 「な、なんだありゃ……」


 それは魔物の球体に対してか、それとも光の輪に対してか。
 零れた言葉が、驚愕というのをこれ以上ないほど伝えてくる。光魔法の担い手はなんだかんだ言って少ない方のため、最上級光魔法を知っているものは、余りいない。


 そして、俺は指をパチンと一度鳴らした。それは魔法発動の合図だ。


 魔力を流した途端、数え切れないほどの光の雨が、その輪から魔物達へと降り注ぐ。


 『GAAAAAAA!!?』
 『RRRRRRR!!??』
 『ギシャアァァァァァァ!?』


 光の雨は魔物達を意図も容易く貫通し、その身体の至る所に穴を開けていく。
 魔法の効果だけを見れば、以前門真君がグラに使った『ライトシャワー』という魔法が似ているだろう。


 しかし、それは上級光魔法であるのに対し、こちらは最上級だ。規模も、光の数も、射出速度も、威力も、その比ではない。


 最上級光魔法『断罪の雨コンヴィクション』。光の雨で敵を無慈悲に殺すこの魔法は、断罪とも言うべきものだ。


 魔物を貫通していく光の雨は、地面に当たると消え去る。予め地面に着いた途端効果が切れるように設定しておいたのだ。
 でなければ、今頃この街の下にある迷宮の所まで地面をえぐっていた所だろう。


 「────よし、そろそろいいか」


 腕を一度、意味もなく振るうと、『魔磁力モンスタープル』と『断罪の雨コンヴィクション』の魔法が消え去る。
 穴だらけとなった魔物達が、『魔磁力モンスタープル』が消えたことでドサドサと地面に落ちていき、例外なく魔力となって消えていく。


 「「「ウオオオオォォォォォ!!!」」」


 その、魔物が消える瞬間を待ち望んでいた探索者達は、俺が次のアクションを起こすよりも早く、怒号をあげる。


 歓声めいた感じになっているのは、ここが最前線で、高ランク達の集まりだからだろう。
 次の魔物が沸かないということは、これにて一件落着。そう捉えてもおかしくはない。


 ここはひとつ、俺も裏付けておこう。


 「聞け!! これで魔物は全て倒した。スタンピードは終わった! お前ら、よく頑張ってくれた!」


 俺が誰か、ほとんどのものは知らないだろう。だが、俺はこの瞬間、話術系統のスキルの封印を解いていた。
 それの成果もあってか、誰ともしれぬ俺の言葉に、またしても大歓声が鳴り響く。いや、もしかしたら目の前で実力を見せ付けたこともあるかもしれない。


 どちらにせよ、ここにいるほとんどは俺の言葉を信じ、口々に健闘を讃えあっている。


 ここに来る前に、全ての戦線で魔物を倒し、魔物が沸かないよう街の魔力を俺のものに置換してきた。


 実質、この異常事態は一時的とはいえ終わりを告げたようなものだ。ここにいるヤツらの喜びは、そう見当違いなものでもない。


 「な、なんだこりゃっ!? って、トウヤ!?」
 「偶然……という訳でもないわね」


 すると、人の並をかき分けてきたのは、つい先程別れたばかりのレイザスとナミアだった。


 「遅かったな2人とも、もう終わってるぞ」
 「ここにはやべぇぐらい魔物がいたはずだが……まさか、お前がやったのか?」
 「まぁな」


 とぼけても無駄だろう。話を聞けばすぐにわかるのだから。


 「魔物は全部倒した。そして、さっきから魔物が地上に沸かなくなったし、迷宮からも魔物が出なくなっている。ようは、今回の異常事態は終わったようだ」
 「だからこんなに皆騒いでいるのね……」


 周りの騒ぎように納得がいったナミアは、なるほどと頷く。


 途端、ガバッと、周りのヤツらに何かを聞きに行っていたレイザスが、俺の肩に腕を回してくる。
 もちろん、その巨体が勢いよく来ようと、重心がぶれることは無い。その程度には、俺も筋力がある。パラメータではなく、肉体の方のな。


 「ガハハッ! なんだよお前、やっぱめちゃくちゃすげぇじゃんか! 名前はやっぱり聞いたことないが、さっきあいつらから聞いたら、お前勇者の教育係やってんだってか? 道理で強いわけだ!」
 「元々隠してたつもりは無いが……お前らは迷宮に潜ってたんだろう? なら知らないのも無理はない。俺はその頃抜擢されたからな」


 第一階級アインス探索者は、門真君達が初めてギルドに来た時点で、俺以外ほば全員出払っていた。
 何日も連続で潜っていたらしいが、こいつもその一人だろう。


 「んな水くせぇこと言うなって。なぁお前、俺とナミアと組まないか? お前なら大歓迎だぞ!」
 「ちょっとレイザス! 勝手に話を進めないで!」
 「なんだよナミア、不満か?」
 「いや、そもそも俺は断らせてもらうからな」


 ナミアの反応を待たずに、俺はレイザスに断りを入れる。
 断られるとは思っていなかったのか、レイザスは一瞬面食らっ顔をすると、次の瞬間には不貞腐れたような表情に変えた。


 「んだよノリわりぃな。言っとくが俺たちだって強いぞ? 第一階級アインスって肩書きだけじゃなく、冒険者ランクもSSだしな!」
 「わかってる。だが、俺はもう少ししたら国外に移動するからな。組んだところですぐに解消となるのはこちらとしても望むものじゃないからな」


 そもそも、俺の実力的に2人ではついて乗れない。それこそ、最低でもギルドマスタークラスの実力が無ければ。


 「チッ、そういうことならまぁ、仕方ないが……」
 「そうね。私も別に組むこと自体は構わなかったのだけど、トウヤがそう言うのなら仕方ないわ」


 ナミアも俺の実力があれば即戦力になることは理解しているはずで、残念そうな顔をする。罪悪感が多少わき出て来るが、俺はそれを無視した。


 「誘ってくれたのにスマンな。だが、まぁ機会があれば、いつかパーティーを組んでもいいかもしれない」
 「そいつぁ嬉しいが、まぁ程々の期待にしておくぜ」


 その、本心とも慰めとも取れない俺の言葉を、レイザスも適当に受け流した。確約なんてできるはずもないからだ。


 「ところでお前らはこの後どうするんだ?」
 「あ? 俺とナミアは取り敢えずギルドに戻るつもりだが……」
 「そうか。まだ完全に終わったか分からないから、一応気をゆるめるなよ?」
 「わぁってるって。ナミアじゃあるまいし……」
 「レイザスぅ、なんか言った?」
 「なんでもねぇよ!」


 仲がいい2人だなと、俺は少し遠い目で見る。良く考えれば、ここに来てから、俺と対等の奴は一人もいなかった。
 年齢的な意味でも、立場的な意味でも。なんだかんだ言って、会ったばかりのこの2人は、俺と立場が一番近いのかもしれない。


 「……よし」


 仲睦まじく言い争う2人を背に、俺はそっとその場を離れる。
 外野が口出すすべきことじゃない。だからこそ、俺も俺の事をしに行く。


 そう……まだ、別に終わったわけじゃないのだ。俺のこの煮え切らない思いは、まだ晴らされていない。
 門真君と夜菜ちゃんを初めとした勇者達、そしてミレディにルナ、ラウラちゃんにクロエちゃん。
 俺の知り合いでいえば、彼らが危険な目にあっていた。それも、俺が助けに入らなければ既に手遅れになっていたほどだ。






 ────そんなことをされて、黙っていられるはずがない。






 事態を収束させるために冷静になっていた思考が、感情的に、直情的になっていく。
 ここから先は、俺の個人的な感情による行動だ。故に、歯止めもなく、ただ俺がしたいようにするだけ。
 見栄えや他人からの印象、そんなことを気にするところではない。


 俺はギルドマスターの魔力を探し出し、そこに一方的に『エアボイス』の魔法で、言葉を届ける。


 恐らく慌ただしく返ってくるはずの返事は聞かず、魔力を隠蔽した俺は、魔法で入口を塞いでいた迷宮の中へと向かう。
 入口にかけられた『次元の壁ディメンションウォール』。その先には、魔物がひしめいていた。


 迷宮から魔物が出てこなくなったのは、単純に俺が抑えていただけの話だ。何度も言うように、まだこの異常事態は終わりを告げていない。


 そして、その魔法を解いた途端、無理矢理押し込められていた魔物が、敵対者である俺に向かって一斉に牙を向く。今の今まで俺が魔法で封じていなければ、外はまた戦場となっていただろう。


 魔物の怒りを孕んだ雄叫びが、響く。


 「『絶対零度アブソリュートゼロ』」


 俺が魔法を発動するのと、魔物が俺に攻撃を仕掛けたのは同時だった。
 踏み出した足先を起点として発動する『絶対零度アブソリュートゼロ』は、瞬く間に銀世界を作りあげる。


 この階層を埋め尽くすほどの魔物、その全ては凍りつき、幾百の氷の彫像を作り、魔力の残滓となって消えていく。
 『絶対零度アブソリュートゼロ』でこの階層の魔力を置き換えた俺は、悠然とした歩みで歩き始めた。


 ────そう、今の俺の目的はただ一つ。


 『転移テレポート』ができる、最大範囲を把握して、俺は最短距離で真下〃〃へと飛んでいく。


 迷宮に入る前にギルドマスターに送った言葉を、俺は脳内で一度反芻した。






 『────今から、迷宮を攻略してきます。吉報を待っていてください』








 
    


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