俺の学年が勇者として召喚されたが、俺は早速腹黒王族にマークされたようです

イミティ

第19話 勇者はようやく動き出す 前編





 街中にどれだけ人が残っていて、どれだけ魔物がいるのか。
 魔物の人の魔力は根本的に違うため、それを見分けることは容易い。


 だが、魔力が入り乱れているせいで、その違いをハッキリと把握することが出来ない。霧で視界が塞がれているような状態だ。
 故に、迷宮でやったように、一気に魔物を潰すことが出来ない。誤って人を殺してしまうかもしれないから。


 魔力の反応自体は掴めるが、その魔力が人間のものなのか、魔物のものなのか、一目では見分けられず、多少詳細に調べなければならない。
 個人個人を調べるほど時間はかからないが、それでも万全を期すと、数が数だけにそれ相応の時間はかかるだろう。
 だがそんなことをしている時間は、今はない……。


 ここはギルドマスターの要望通り、一気に迷宮入口まで行くとするか。
 視界に入ってれば、魔物を倒すことなんて造作もないことだしな。






 ◆◇◆






 「このっ!!」


 もう数え切れないほどの魔物を倒し、一旦私は大きく深呼吸をする。
 立ち込める血の臭いには慣れたけど、やはり顔を顰めずにはいられない。


 「っ、まだ来るって、キリがないったら!」


 無尽蔵に湧き出る魔物は、迷宮からだけでなく、突然近くに出現することもある。
 そのせいで、私達はバラバラになることを余儀なくされて、今は私一人。
 戦ってる音はあちこちから聞こえてくるから、距離自体はそう離れていない。だけど、魔物が私を行かせてくれはしない。


 新たに出現した魔物は4体。一度に複数現れるから、更に厄介だ。


 私は剣を握る手に力を込める。


 「やぁっ!」


 背の高いゴブリンのような魔物に向かって走り、魔物が手に持った武器で攻撃してくるのを紙一重でかわす。


 「『炎槍ファイアランス』ッ!」


 出来た隙を使い、左手の中に炎の槍を作り出して、それを魔物のお腹に突き刺し、直ぐに離脱。
 魔物は残してきた槍の小規模な爆発によって、内側から弾け飛んだ。


 その様子に気持ち悪くなるが、動きはとめないで次の狼のような魔物へと向かう。


 「ッ!」


 私は無詠唱で『炎燃拡散フレイムボム』を放った。
 それは、今まさに動き出そうとしていた、別の狼の魔物に向かい、当たる寸前で爆発する。
 倒せたかどうかはわからないけど、私は無視する形で、魔物へと肉迫して剣を振り抜く。


 分かりやすい剣筋は軽やかな動きで避けられる。しかし、私はすかさず無詠唱で『落雷エレクトリック』を放つことで、魔物を穿った。
 一瞬で魔物は焼け、焦げたような臭いが血の臭いに混じって立ち込める。


 「っ、最後!」


 度重なる戦闘で鈍くなる意識の中、今見える範囲での最後の魔物に向かって、私は手を向けた。


 「『十字爆発クロスプロージョン』ッ!」


 魔物の目の前に閃光が生まれ、大きな爆発を起こす。


 熱風が頬に叩きつけられるけど、代わりに魔物を倒すことに成功し、死体は全部が魔力となり、消えていく。


 「っ、はぁ~……あとどれだけやればいいの」


 魔力は既に半分を下回ってる。もう無詠唱では魔法を使えないだろう。魔力を節約しなければならない。
 今のうちに休憩をするか移動をするか……いや、移動しても、結局はほかの場所に魔物がわくし、ここに沸く魔物が他の人の所に行ってしまうだけだ。


 今は休憩して、少しでも魔力を回復させる。


 「────とは言っても、待ってくれないか」


 しかし魔物は、こちらの意図を読み取ってはくれない。
 ろくに回復する時間もなく、新たな魔物が6体沸く。


 先程よりも多い魔物。フラフラとしながらも、私は重くなった腕で、剣を構える。


 正直、このまま戦い続けていてどうなるのか、とは思う。魔物が無限に沸いてくるとなれば、それこそ焼け石に水だ。
 体だって、致命傷こそ負ってないけど、細かな傷がいくつもある。体力も魔力も切れそう。


 でも、それでも、私は戦う。無駄になるなんて思わない。


 (トウヤ君が来るまで、少しでも時間を稼ぐ!)


 私が一番信頼できる人。幹や雫達とは違う、まだ知り合ったばかりだけど、それでも、今私が、一番信頼出来る人、頼れる人だ。
 きっとそうすれば、この状況も────


 (だからトウヤ君、早く来てっ!)


 そう希望を頼りに、私が魔物に向けて走り出そとうした瞬間のことだ。


 私の横に、誰かが降り立った気がした。


 「え?」


 私がそれを確認しようとしたその時には、既にその人は魔物に肉薄していて。
 目にも止まらぬ、それこそ、私じゃ全く捉えることが出来ない動きで、6体の魔物を一瞬で斬り伏せた。


 魔物が地面に倒れる音が、同時に響く。それは、倒すのが同時であったということだ。


 サッと剣を振って血振りをするその人は、マジマジと見るまでもない。


 今しがた、私が心の中で呼んだ人が、まるでタイミングを合わせたかのように、私の前に現れたのだ。


 「────やぁ御門さん。獲物を横取りしちゃったけど、良かったかな?」
 「トウヤ、君……」


 ケロッと、今の状況には場違いなほど軽い口調で、トウヤ君は私に笑った。


 いや、分かってる。多分これは皮肉だ。私がもう疲れ切っていることを理解していて、言ってる。


 それでも……今の状況がなんでもないかのように振る舞うその雰囲気は、とても安心できるもので。
 現に、魔物を一瞬で倒してみせたことからも、信頼できて。


 なにより、願った瞬間に来るなんていう、運命のようなものすらも感じてしまう現状。
 トウヤ君がこのタイミングで助けに来てくれたという事実が、なによりも大きく私の心に響く。


 (こんなの、ドキドキせずにいられるわけありません、トウヤ君…………)


 「御門さん? 大丈夫?」
 「は、ひゃいっ!」


 気づけばトウヤ君は私のすぐ側まで来ていて、怪訝な顔をしていた。
 急すぎることに、思わず声が上ずる。変な声が出てしまい、恥ずかしさで一気に顔が熱くなる。


 しかし、トウヤ君は私の顔をマジマジと見る。それがまた恥ずかしくて、まるで沸騰するかのように熱い。


 「うん、少し顔が赤いな……もしかして体調悪い?」
 「あ、これは、ち、違くてですねっ、その……!?」


 トウヤ君はそう言って、私の言葉に構わず、額に手を当ててくる。
 ヒンヤリとした手の感触。また顔が近くなって、なんというか、トウヤ君の普段と違う感じにあわあわと私は思考が真っ白になりかけ、心臓が早鐘を打つ。


 いつも〃〃〃なら、からかいの1つぐらいあるだろう。『もしかして恥ずかしいの?』なんて、冗談混じりに言ってきたと思う。
 意地悪にこういうことをしてきてもおかしくはない。全部を見透かしているような顔で、多分私で遊んだだろう。


 だけど、今は違う。からかわれているわけでもなく、真剣に心配してくれているようだった。


 だからこそ、それがまた、キュンと来てしまって。私はあるはずもない熱を持ったような気がした。
 心配するようにのぞき込むトウヤ君の顔から、目が離せない。


 「……うん、熱は無いみたいだね」


 息が止まってしまいそうな時間。しかし、それは実際ほんの数秒でしかなく、トウヤ君はスッと身を引くと、心配そうな顔を取り払った。


 その、こちらの気持ちに全く気づいていない仕草が、もどかしい。少しは意識をして欲しいとも思う。
 普段はどこか鋭いのに、肝心なところで、分かってくれていないような、鈍いところがある。


 「さて、俺はさっさと魔物を倒してこなきゃ行けないから、御門さんは他のみんなと合流して。わかった?」


 そんな私の気持ちを知ってか知らずか、トウヤ君はそう言って、私に同意を求めてくる。
 そんな、今会ったばかりなのに、すぐにまた移動してしまうようなところが、意地悪なのだ。
 それも、トウヤ君だって意識していない、無意識の意地悪……私は少し不満顔になりながらも、それを悟られないようにしつつ、頷いた。


 「分かりました」
 「うん、わかってくれて何より」


 そしてトウヤ君は、私が同意すると、極自然な動作で私の頭を撫でてきた。 
 その唐突な行為に、私は一秒、二秒と意識が飛んで………。


 「っ!? と、ととと、トウヤ君っ?」


 意識が戻った途端、私は言葉を詰まらせながら、困惑する。
 そして、異常に恥ずかしいというか、トウヤ君はあまりそんな感じはしないけど、一歳年上なだけの、ほぼ同年代と言ってもいいほどだ。


 そんな相手から、まるで子供のよう───確かに年齢的にはまだ子供であるのだが───に頭を撫でられ、とても恥ずかしくなる。
 何より、それを気持ちいいと感じてしまう私が、もう耐えられない。


 「うん? あ、ゴメンゴメン、つい無意識で……」


 私の反応にそう返すトウヤ君は、本当に無意識だったのか、慌てて手を離した。その顔には、どこかバツの悪さが浮かんでいる。


 「い、いえ。別に嫌というわけじゃないので……」


 私は少しあざといかなと思いながらも、素直に言う。
 だけど、トウヤ君は困ったように笑って、もう一度少しだけ私の頭を撫でた。


 「ふぁっ……」
 「よし、じゃあ行ってくるよ」


 そのなんとも言えない心地良さに、一瞬思考が浮きそうになり、すぐにトウヤ君の声で現実に戻される。


 その焦らすような感じは、トウヤ君の性格は、まさに小悪魔とも言うべきだ。女子の私が男子のトウヤ君にそう表現するのは適切じゃないかもしれないけど、それが一番あってる。
 じれったいが、しかしトウヤ君に直接何か言えるわけもない。


 まるでこれ以上なにか喋るのは無理だと言わんばかりに、トウヤ君は移動してしまう。


 私は、言いようのないもどかしさを抱えながらも、トウヤ君に言われた通り、みんなと合流するしかなかった。


 

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