俺の学年が勇者として召喚されたが、俺は早速腹黒王族にマークされたようです

イミティ

第17話 自らを悪くすることが、一番の精神安定剤





 ミレディを襲っていた蜘蛛の魔物、『シェロプ』は、迷宮の中層、40階層辺りに居たのを覚えている。
 それ故に中堅探索者なら倒せる程度の魔物ではあるが、目の前のシェロプは、俺が知っているものよりも遥かに巨大で、レベルも高かった。


 (80ね……十分高いが、殲滅するだけが目的ならもっと高い、それこそ100レベル以上を出してもいいような気がするが……)


 魔物を出すにも何かしら制限はありそうだと考えつつ、律儀に待っていたシェロプへと近づく。
 実際にはミレディを助ける際に脚を切り落としたため、それに悶絶していただけだろうが。


 『キシャァァァァァ!!』


 シェロプが叫びながら、半分ほど先を失くした脚をワサワサと動かすと、断面がボコボコと泡立ち、生々しい音と共に新たな脚が生えてくる。
 ユニークスキルに本来シェロプには無いはずの[再生]があったので分かってはいたが、再生の仕方はとても気色悪く、見ていて気分のいいものでは無い。


 後ろで見ていた観客ミレディも、その光景に顔を青ざめさせている。


 一度息を吐き、臨戦態勢となったシェロプへ俺は走り寄る。
 その速度は、速いながらも、レベル80の魔物なら十分に捉えられる速度。


 『キシャァッ!!』


 案の定、走る俺にシェロプの再生したての脚が振り下ろされる。
 もちろん俺がそれを予期していない訳がなく、脚が当たる寸前に『転移テレポート』でシェロプの背中側へと転移する。


 「投擲して」


 シェロプと背中合わせの状態。空中で器用に振り返り、その勢いを乗せて『無限収納インベントリ』から取り出した剣を背中に投げつける。


 『ギシャァァァァ!?』


 叫ぶシェロプは、背中から鮮血を撒き散らす。とはいえ、綺麗な赤色ではなく、濁った青色の体液ではあるが。


 「回収っと」


 『転移テレポート』で根元まで刺さった剣の元へ転移し、剣を抜いてまた『転移テレポート』。


 今度はシェロプの頭上に移動し、そこから加速をつけて落下、両手で持った剣をシェロプの頭部に突き刺す。


 『ギシャァァシャァァァ!!??』
 「そして離脱」


 また一段と騒音な悲鳴がまき散らされ、シェロプの脚が忙しなく動きまくる。
 俺は剣から手を離し、空中で転移、一番最初の位置に戻ってくる。


 現れては消え、消えては現れる。連続で転移する俺を外から見ているミレディには、どう見えているだろうか。


 「再生が少し早いな……」


 ボコボコと泡立ち、背中の傷が塞がるのを見て、呟く。それを見越して頭に刺した剣はそのままにしてきたのだが。
 というか、頭に刺してもまだ死なないのか。完全に潰さないとダメかなこれは。
 恐らく[再生]で生命力が高まっているのだと思うが。今までは瞬殺していたから気にならなかったが、普通に戦うと結構厄介なスキルだ。


 「おっと」


 止まっている俺目がけて飛んでくる糸を、空中で消去〃〃する。
 物質ならば、消すのはそう難しいことじゃない。[虚無魔法]あってこそのものではあるが。


 「まぁ、そろそろ終わりで」


 取り敢えず試したいことは試したので、俺はシェロプに手を向ける。


 「『座標固定』」


 途端、シェロプの動きが止まる。時間を停止したのではなく、シェロプの座標そのものを固定したのだ。
 それは何が違うのかと言われれば、時間停止よりは若干難度が低いぐらいのものだ。生物に対しての時間停止は、今のところは俺が使ったことのある魔法の中でも最高難易度だしな。
 そして、時間停止の場合は意識も止まるが、あくまで動きを止めているだけのこれは、意識は等速である。


 気づいたら死んでいると言うよりは、動けない状態で死が近づいている方が、よっぽど良いだろう。さっきのミレディと同じ感じだしね。
 目には目を、歯には歯を、だ。


 「────『氷隆半月』」


 俺は、まるで腰に差した鞘から刀を抜くように、作り出した氷の剣を振り切った。
 いつかに使った氷剣技。『氷隆満月』は全方位だったが、それの前方180度バージョン。


 一瞬で視界全てが白に包まれ、シェロプの身体を氷が覆い、物言わぬ彫像と化す。
 最後に氷の剣をその場で一振すれば、氷は内側から弾け細氷となり、シェロプは魔力の残滓となって、その細氷に混じり消え去った。


 カランカランと、シェロプに刺さっていた剣だけが音を立てて落ち、それ以外の戦闘の形跡が一切無くなる。


 そのキラキラと舞う細氷が光を反射する光景は幻想的。だから氷系の魔法は良く使う。
 終わった後の見栄えが良く、血も出ないしな。


 「さてと……って、あらら」


 クルッと振り返って声をかけようとすれば、背後では眠るように気絶しているミレディが居た。
    魔力に当てられたか、刺激が強かったのか。しかし、そう不安な顔はしていないので、取り敢えず目的は果たせたのだろう。


 ミレディに俺の強さを見せておくという、ひとまずのところは。


 「全く、世話のやける子だ」


 苦笑い気味に言って、俺はミレディを抱える。もちろん、優しくだ。


 俺の予定では、こんなにも早く直接話すはずではなかったのだが、まぁ仕方ない。今回は事が事だからな。


 適切なタイミング〃〃〃〃〃〃〃〃で助けに入り、効果的な〃〃〃〃言葉と行動を取り、信頼出来る実力を見せる。
 助けを求めていない時は助けず、恐怖に耐えかね助けを求めた時に、助けるのだ。
 そこがやはり、一番助けた人を意識するタイミングで、その後の言葉や行動に繋ぎやすくなる。


 俺もミレディを完璧に把握している訳じゃないが、本人よりは把握しているつもりだ。
 ただでさえ魔力を同調させ、接続したことがあるのだ。洞察力に優れていれば、後は簡単に思える。
 それでも長年一緒にいたルナには劣るかもしれないが。


 行動、思考的に人が悪い(というか"悪い人")かもしれないが、今後の関係を良くするなら、これが一番いい。
 ギリギリまで伸ばした方が、今後同じようなことがあった時に、限界まで耐えてくれるようになる。


 見過ごすことは出来ないお人好しだが、助けたあとのことを考える打算的な思考もある。
 俺は善人じゃないって自覚があるぐらいの方が、変に自分に気を使わなくて済む。


 それに、いざとなったらいつでも助けに入れるようにしていたのだから、構わないだろう。結局、助けに入るタイミングの違いだけだ。


 「さて、後はルナ達か」


 ミレディは滞りなく助けたので、残るは3人だけだ。
 ルナともまだ完璧な関係が構築できた訳でもないし。
 俺はミレディを抱えた状態で、予め見つけていた3人の場所へと『転移テレポート』した。






 ◆◇◆




 「───よっと」
 「うきゃぁ!?」


 『転移テレポート』をした途端、俺の後ろにいたルナが、そんな悲鳴を上げてその場に尻もちをつく。


 「る、ルナちゃん!?」
 「大丈夫ですか?」
 「いった~っ。もう何よ、いきな……り……」


 突然目の前に現れたのがなんなのか確認しようとしたルナが、俺の姿を認めてあわあわと震える。
 その後ろにいたクロエちゃんとラウラちゃんも、俺の姿を見て目を見開き、驚いたような顔をする。


 「ご、ご主人様っ!? なんでここに!?」
 「そんなの、大事なルナを助けに来たに決まってるよ」
 「そ、そういうことが聞きたいんじゃなくて! いつの間にってこと!」


 意味合いとしてはわかっていたが、なんとなくからかってみると、怒っているのか恥ずかしがっているのか、赤い顔をして叫ぶ。


 「いや、魔力の反応から三人を見つけて、今魔法で転移してきただけだよ」


 なんでもないようにサラリと告げつつ、俺は三人の身体に視線を走らせた。もちろん、変な意味ではなく。 
 取り敢えず、みんな怪我なんかはないようで。


 それにしても、転移の概念がどこまで普及しているかわからないが、ルナとクロエちゃんには伝わったようだ。魔法に疎いラウラちゃんだけが困惑気味の顔をしている。
 まぁ、クロエちゃんは現役魔法使いだとして、ルナは恐らく前世の知識だろうなと。クロエちゃんが驚いているのは、魔力を察知したことか、俺が転移を使えることか。


 「っと、クロエちゃんにラウラちゃんも、ありがとう。ウチの子〃〃〃〃が世話になった」
 「ちょ、親みたいな台詞言わないでよ!」
 「わ、私は当然のことをしたまでなので……」
 「あ、私は何もしてないので、感謝されるようなことは何も。全部クロエさんですから」
 「それでもだよ。ありがとう」


 ルナがわーきゃーと俺の言葉をかき消すように叫ぶが、俺は既に喋ったあとだ。
 クロエちゃんは相変わらずの謙虚さで……いや、本当に当然のことをしたまでと思ってるのかな。
 ラウラちゃんの方は、事実を言っただけのようだけど、わざわざルナと一緒についてきたことだけでも感謝するべきことだ。
 2人が居なかったら、俺もミレディの方に間に合ったかどうか分からなかったしな。


 「そ、そう言えばミレディは大丈夫なの?」
 「怪我はしてないよ。気絶してるだけ。俺が間に合っていなかったら、今頃どうなっていたか」


 話題を変えるためか、いや、本当に気になったのだろう。俺の腕の中にいるミレディを見て心配そうな顔して駆け寄ってくるが、俺は問題ないことを伝える。


 もし俺が間に合っていなかったら、本当にミレディは死んでいただろう。そうならないように必死に探していたのだが。


 「ご、ゴメンなさい……でも、よかったぁ……」


 さっきまで相当慌てていたのだろうことは、想像がつく。姉妹であるのだから、当然といえば当然か。
 安心したと息を吐くルナは、俺の事を見上げた。


 「その、本当にありがとう、ご主人様。ミレディを助けてくれて」
 「いいって。ミレディはもう俺の身内みたいなものだからね。助けるのは当たり前かな」


 もちろんルナもね、と続けて頭を撫でると、ルナは少し目を見開いて、今度は照れ隠しなどせずに、頬を赤らめて恥ずかしがる。
 その様子に、思わず頬が緩んでしまうのを自覚しつつも、俺はしっかりと自制した。







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