俺の学年が勇者として召喚されたが、俺は早速腹黒王族にマークされたようです

イミティ

第12話 もう一人の奴隷娘





 ◆◇◆






 「すまない二人とも……恨むなら村のみんなではなく、守れなかった私を恨んでくれ」


 そうお父さんに言われ私達は、商人風の男の人に首輪をつけられる。


 「ねぇ、嘘でしょお父さん……ねぇ」
 「ルナ、ミレディ、本当にすまない……」


 お姉ちゃんがすがりつくようにお父さんに聞くけど、お父さんは泣きそうな顔でそう言うだけだ。


 「身売り奴隷2人。金貨6枚になります」
 「……娘二人を奴隷にして得たお金など………」


 ふんだくるように商人からお金を受け取る。その額は、贅沢をしなければ一年以上は軽く暮らせるだろう。


 その後、お父さんは再度こちらに顔を向けて、口だけを少し動かすと、それを最後に背を向けて、村へと戻って行った。


 「そんな……」


 それは私の口から漏れた言葉。今の今までただ呆然としていたが、それでもお父さんの後ろ姿を見て我を取り戻した。


 しかし、もはや自分が駆けることは出来ない。交渉は成立してしまった。


 商人男の人に言われるがまま、馬車へと連れていかれる。その中には、私達と同じような人達が入っていた。
 その何れもが、今の私達と同じように、首輪をしていた。


 「ほら入れ」


 決して優しくはない、乱暴な言葉ともに私達は馬車へと入れられる。


 私にもわかる。既に取引がされた後なのだから、私たちをどう取り扱おうが、それは全てこの人の匙加減に過ぎない。


 つまり、本当に奴隷。私達の立ち位置は、同じ人として扱われなくなった。


 「お姉ちゃん、これからどうなるの……?」
 「……わからない、わからないよ」


 怯えながら聞いても、返ってくる言葉は、いつもと違い弱々しい。
 その姉の反応が、現在の状況が如何に悪いかを物語っていた。


 ───ただ私達は知らない。この後さらなる過酷な状況に追い込まれてしまうことに。




 ◆◇◆






 「ん………」


 深い沼に埋まっていたような意識が、何かの拍子に浮上してきた。


 「うっ……」


 直後、酷い頭痛が襲ってきて、その痛みに顔を顰める。
 幸いにして頭痛はすぐに引いたが、痛みの余韻は残ったままだ。


 それにしても、とても長い時間寝ていたような気がする。というか、そもそも今がどういう状況なのか全く思い出せない。


 モヤがかかった意識で私は辺りを確認した。


 どこか部屋のような場所。私はベッドで寝ていたようだった。
 ここがどこなのか。身体にかかった布団を少し退けようとした時、私は隣に見慣れた姉の姿があることに気がついた。


 その、傷一つない姿を見て、少し違和感を抱く。
 なにか、少し前までのお姉ちゃんはこんな姿ではなかったような気が……。


 「───痛っ!?」


 その違和感の正体を辿ろうとした途端、キーンと、先ほどと似たような頭痛が再び襲ってきた。


 こちらも少しの間ではあったが、それでも決して楽ではない頭痛を二度も味わい、私はそれ以上考えるのをやめた。


 とりあえず姉の姿に対する違和感を、私は頭痛への恐怖から、気にしないことにした。
 代わりにもう一つの気になる人───姉の更に隣にいる人物に目を向けた。


 「綺麗な人……」


 そこにはとても綺麗な女の人が横になっていた。
 同じ性別なのに、思わず見惚れてしまうような、そんな容姿。
 色が薄いというか、透き通るような肌が、その綺麗さをさらに引き立てているように見える。


 しかし、私には全く見覚えがなかった。
 それのせいで、今がどんな状況なのか更に分からなくなり、余計混乱してしまいそうになる。


 知らない場所で、知らない人と一緒に寝ていたとなれば、混乱するのも無理はないと思う。


 「ん~~~っ」
 「っ!?」


 その時、突然部屋に響いた声に、私は慌てて毛布の中へと顔を戻す。
 私は普通に布団から出て部屋を一度見回したというのに、混乱故か、今の今まで私はその人の存在に気づかなかった。気がつくことが出来なかった。
 声が発せられたことで、ようやく部屋に4人目の人物がいることを理解したのだ。


 体が強ばる。緊張が無意識に体を駆け巡った。


 「あぁ、そう言えば」


 ビクッ、と突然のことに体が震えたが、気づいていないのかその人は誰にともなく話しかけた。


 「夜まで帰ってこないから、そのつもりで。なにかあったら帰ってくるけどね」


 本当に、誰に向けて言っているのだろう?
 私は布団の中で困惑するが、勿論今の状態で聞けるわけもない。


 息を止めて、極力動かないようにする。反射的に布団の中に潜ってしまったせいで、出るタイミングを失ってしまった。


 幸いにしてその人はすぐに部屋から出ていった。誰も返事はしていない。ということは、返事を期待していなかったということなのか。


 私は無意識に止まっていた呼吸を、再開させる。無くなった空気を求めて大きな音を立てるが、既に相手は部屋の外に出ているはず。問題ないだろう。


 案の定、布団から顔を出してみれば、声の主の人は居なくなっていた。


 それを確認し、私は隣の姉の体を揺さぶった。


 「お姉ちゃん、お姉ちゃんっ」
 「ぅん……」
 「お姉ちゃんってば」
 「……ん~?」


 三度目の揺さぶりで、寝ていた姉がようやく反応を起こした。
 ゆっくりと身体を起こして『う~ん』と伸びをすると、お姉ちゃんはこちらを向いた。 
 その眠たそうな顔がこちらに向けられ……そして目が見開かれる。


 「ねぇお姉ちゃ───」
 「ミレディ!! 目を覚ましたのね!」


 私が聞くより先に、姉は唐突に私にガバッと抱きついてきた。


 「え、ちょ、お姉ちゃん!?」
 「ミレディ、どこか変なところとかない?」
 「え、特に無いけど」
 「そう、良かった……」


 先ほど頭痛はしたが、それは既に無くなっている。
 とりあえず姉は私を心配していたようで、私がそう返すと、安心したように息を吐く。


 「ところで、お姉ちゃん。ここどこ?」
 「あ、ここはご主人様〃〃〃〃が泊まってる宿よ」
 「……ご主人様?」


 その言葉が、私の思考に引っかかる。
 私が寝ている間に何があったのだろう?


 「うん。昨日夜に出て行ったっきり戻ってきてないみたいだけど……」


 それって、もしかしてさっきの声の人なのだろうか。いや、それよりも。


 「ご主人様って……ねぇ、なんで私達こんな所にいるの? 村のみんなは?」
 「え? ………待って、もしかして覚えてないの?」


 質問した私に、逆に質問を返してくるお姉ちゃん。
 それに、私はなにか忘れているのかと思い、寝る前の出来事を思い出そうとして────


 「痛っ!?」
 「み、ミレディ!?」


 再三襲ってきた頭痛に、思い出すことを中断させられてしまう。
 先ほどよりも強い痛みに、私は悲鳴をあげる。


 「だ、大丈夫?」
 「……うん、平気。ちょっと頭痛がしただけだよ。それよりお姉ちゃん、ご主人様って何? 隣の人は誰? なんでこんな所にいるの?」
 「……本当に、覚えてないのね?」


 その問いに、今度は無理に思い出そうとせず、コクリと私は頷いた。
 またあの頭痛を味わうのは嫌だ。


 「……もしかして」
 「?」


 少し考えて、ふと何かに思い当たったように呟いた姉に困惑すると、お姉ちゃんはなにか考えながら私に簡単に状況を説明した。


 「ミレディ、信じられないかもしれないけど、アタシ達は今、奴隷なの」
 「……え? 奴隷? 奴隷って、あの奴隷?」
 「そうよ。証拠に、ホラ」


 ぱっと首元を指すと、今まで気づかなかったが、確かにそこには首輪があった。
 奴隷が首輪をしているというのは知っていた。私の首にも、姉と同じ首輪がつけられていた。


 だから、自分が奴隷であるという事実の真偽は、決定したも同然であった。


 「な、なんで奴隷なんかに……」
 「それは……私も〃〃分から〃〃〃ない〃〃
 「そんな………」
 「あ、で、でも安心して! ご主人様はとってもいい人だよ!! ……多分」


 奴隷という事実を前に絶望しかけた私をフォローするためか、私にそう言った姉だが、最後の一言のせいで一気に信頼性を失った。


 「ほ、ホントよ! そ、それに、ご主人様は奴隷であるアタシ達にベッドも貸してくれてるんだから!」
 「あ、確かに……」


 そう言われてみれば、私達はベッドで寝ていた。
 奴隷の扱いというのは何となくイメージできる。私のイメージでは、奴隷というのは床で寝ていたりするのが普通な気がする。


 もちろん実際には見た事ないので所詮はイメージでしかないのだが。


 「で、でも、やっぱり怖いよ……」
 「あーうー、そう言われても……後で直接話せばわかるよ、うん」


 勝手に姉はそう自己完結してしまった。余程自信があるようだ。
 それほど優しい人だと姉が思うのは分かるが、今度は何故先ほど『多分』と付け加えたのだろうかとも疑問に思う。


 「とりあえず、ミレディが無事で良かった。アタシ、心配したんだから……」
 「え、えっと……あ、そうだ。私、気絶してたの?」


 何となく本気で心配してくれた姉に照れを覚えて、それを隠すために私はそんなことを聞いてみる。
 もちろん気になったのもある。


 「あーえっと……そんな所ね。少し前にアタシ達は大怪我をして、ミレディはそれで意識がなかったの」
 「お、大怪我って……?」
 「アタシは片腕、ミレディは両脚が無かったんだよ」
 「りょ、両脚……っ」


 パッと自身の脚を見てみるが、そこにはしっかりと私の脚があった。
 お姉ちゃんの腕も、両方とも健在だ。


 「あ、今はもうご主人様が治してくれたから、平気だよ」
 「え? そんな大怪我、治せるの……?」
 「普通は治せないでしょ。でも、ご主人様はいとも簡単に治してくれたの。多分魔法だから、詳しいことはわからないんだけど……とにかく、悪い人じゃないの!」


 どうやら姉は、どうしても、私の『ご主人様』という人に対する悪印象を取り除きたいようだ。
 話をしているだけでわかる。お姉ちゃんは『ご主人様』を、心から信頼している。


 「わ、分かったよ……その、ご主人様は良い人なんだよね?」
 「多分、きっと、恐らく、そうだと思う。うん」
 「ふ、不安だなぁ……」


 にも関わらず、やはりどこか自信なさげに言う姉の姿は、不安を誘うものであった。


 とりあえず、その『ご主人様』という人に実際に会ってみなければわからない。
 私は『ご主人様』に関することは一度保留にして、次に気になってることを聞いた。





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