俺の学年が勇者として召喚されたが、俺は早速腹黒王族にマークされたようです

イミティ

第10話 一難去ってまた一難







 「手の空いてる探索者はすぐに準備を整えるんだ!! 回復魔法が使えるものは治療室!」


 俺がギルドに転移した時には、既にギルドマスターが探索者達に指示をしていた。
 この非日常感に少し胸が騒ぐが、自重する。


 作業を中断させるのもあれだが、一応ギルドマスターに声をかけておくか。


 「ギルドマスター、大変そうですね」
 「トウヤ君! 待ってたよ!」


 予想以上に歓迎された。ギルドマスターの強ばっていた表情が少し和らぐが、それは本当に少しだけだった。


 「状況は?」
 「一度魔物が溢れたけど、弱い魔物達だったから問題なかった。もう避難勧告は済ませて、迷宮前に二次侵攻に備えて探索者を待機させてる」


 先程から出入りが激しいと思ったら、そういうことか。


 「勇者達はどうしました?」
 「勇者は前線に行ってもらってるよ。前半組勇者は、一人重傷者がいて、ギルドの医療室で治療中だ。門真君も治療はしていないけど、魔力枯渇に陥っているから、そこで寝かせてる。夜菜ちゃんは前線で他の勇者と合流したはずだよ」
 「把握しました。とりあえず治療室に通してください。京極君の治療をします」
 「一番君に前線に出てもらいたいんだけど……あ、治療室そこね」
 「ありがとうございます。治療が終われば行きますよ」


 少し諦めたような顔をしただけで、特に渋ることなく、ギルドマスターは治療室を教えてくれた。
 この人は、俺の扱いをわかっていると言うよりは、治療もすぐに終わると理解しているんだろう。
 素直に礼を言って、俺は治療室へと向かうことに。


 『関係者以外立ち入り禁止』と書かれた扉を躊躇なく開き、俺は中へと入る。


 「ちょっ、ここは立ち入り禁止だ!」


 案の定中で怪我人を治療していた人に注意されるが、俺は自身の探索者カードを見せる。


 「第一階級アインス探索者のトウヤだ。勇者の治療をしに来た」
 「あ、アインス探索者……ですが、勇者様は意識不明の重体です。いくらアインス探索者と言えど、治療の心得の有無も分からないのでは……」
 「俺は高レベルの回復魔法を会得している。また、ギルマスからの許可も得ている。嘘だと思うなら今すぐ確認をしてこい」


 当たり前の対応だとは思うが、俺にとっては手間取らせる治癒師に、高圧的に告げる。
 京極君が重体であるのは知っているのだ。だからこそ、今急いでいる。
 明らかに歳上であるとか、そういうのを気にしてはいられない。多少傲慢な言い方でも、通してもらえればそれでいい。
 印象なんて後でいくらでも変えられる。


 幸いにして、治癒師は俺の言ったようにわざわざ確認を取るという動作をせずに、その場で頷いた。


 「……分かりました。ギルドマスターからの許可は得ているものとします」


 無意識に威圧が出ているせいで治癒師が萎縮しているのだが、俺はそれに気づかない。
 それに、今はそれが幸を為したとも言えるのだ。


 ただこういう時に、自身の能力が知れ渡っていないと面倒だ。やはり第一階級アインス探索者という肩書きだけでは、不十分だな。


 勇者───京極君は治療室の一番奥のベッドにおり、治癒師に案内された俺は、彼の容態を見て眉をひそめた。


 「酷いな……」
 「勇者様は複数の毒が含まれた毒液に浴びたようです。被弾したのは右肩だけですが、右半身は恐らく使い物にならなくなっていると……」


 身体の右側の肉がボロボロ、爛れたようになっており、特に酷い右腕は、白い骨が顔を覗かせている。
 相当酷い毒であるのは、見た目でもわかった。


 現在3人の[回復魔法]持ちの治癒師が、魔力の続く限りの、上級魔法である『エクストラヒール』を繰り出している。
 しかし、それでもどうやら毒の進行を遅らせているに過ぎないようだ。


 「クソッ、何故回復しないんだ……」


 回復を行っている治癒師の一人が、悔しそうに呟く。


 普通なら、『エクストラヒール』を3人で何度も使用していれば、完治とまではいかずとも、ある程度の傷を回復できる。
 毒の場合も、『ヒール』や『ハイヒール』ならともかく、『エクストラヒール』ならば大抵は解毒可能なはずだが、現状はそれが出来ていない。


 「どいてくれ。俺がやる」
 「アンタは……」
 「説明している暇はない」


 言葉少なに、俺は今度は意識して威圧を込めて告げる。
 正直いって、他者の魔法があると集中出来ない。俺が行う回復魔法は、魔力に任せた力技ではなく、精密検査をやった上での局所治療であるから。


 「お前らもどいてくれ。俺一人でやる」
 「だが」
 「責任は全部俺が取る」


 残りの二人にも、有無を言わさず告げる。相手側の心境も理解できない訳では無いが、先程も言ったように、邪魔なのだ。
 説得力を持たせるために再度探索者カードを見せ、権力的な意味でも黙らせる。


 「急いで治療を施さないと毒が進行しますよ!?」
 「わかっている」


 急かされながら、京極君の容態を詳しく調べる。
 俺に医学の知識なんぞほとんどないが、それでも回復魔法に関しては熟知しているし、この世界の医療に関する知識はある。


 見た感じでは、肉体が焼け爛れたというのが大きいが、内面的には、魔力の撹乱という症状もある。
 これは、京極君の魔力はもちろん、肉体に作用された魔力も乱す。魔力が乱されれば、魔法を維持していられない。
 恐らく回復魔法の効き目が薄いのはこれのせいだろうな。


 魔力を撹乱するというような症状の例は結構あるらしいが、この撹乱の仕方はその中でも特に強い。相当強い毒であるのは確認するまでもないが、進行も早いのが厄介なところだ。


 一般の魔法師では、魔法を作用させたそばから魔力が拡散するため、体に直接作用する回復魔法の効果を出すのは難しい。


 また、皮膚が焼け爛れていることから、肉体の回復も大変なのだ。現在進行形で進んでいるため、毒の解毒だけに手を回せない。
 先に肉体が死んでは、元も子もないからだ。


 そういった要素が、京極君が回復しない理由である。


 ただ、この中で俺の魔法の障害になるのは、魔力の撹乱だけだ。
 ほかの要素は、時を戻してしまえばどうとでもなる。
 また、魔力の撹乱が酷いとはいえ、それも俺にかかれば、少し手間になる程度。


 症状を完全に理解すれば、後は時間を巻き戻せばいいだけだ。


 (『再生タイムバック』)


 京極君の肉体を、回復用の時空魔法を無詠唱で発動することで、正常な状態まで巻き戻す。
 焼け爛れ、毒に侵され、魔力が撹乱された状態からの再生となると、正常時との差が激しいために、尋常ではない量の魔力と、魔力操作能力が要求されたが、難なくクリアした。


 京極君の身体がぶれると、次の瞬間には、元通り肉体を回復させた京極君の姿があった。


 「な、何が……」


 もちろん、こんなものを見せられれば、他の治癒師も愕然とするだろう。だが今は色々と事態が進んでいる。
 悪いが、一々拾ってはいられない。


 「勇者が意識を戻したらギルドマスターに報告しろ。ただし、ベッドからは動かすな。しばらく安静にするように伝えろ」
 「え? あ、はい!」


 俺の言葉に、先程までは半信半疑だった様子の治癒師が、畏まった態度で返事をした。
 今のが余程驚いたのだろう。俺もこのようにスムーズに話が進んだ方が楽だ。


 歳上相手に高圧的に話すのはいささか疲れるが、仕方ない。
 背に腹は変えられないという事だ。


 とりあえず用は済んだ。この後はもう一度ギルドマスターに会うので、俺は治療室から出ようとする。
 去り際、まるで『え? 治療するわけじゃないの?』的な視線を受けたが、俺は気付かないふりをして黙殺した。







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