俺の学年が勇者として召喚されたが、俺は早速腹黒王族にマークされたようです

イミティ

特別幕間 年越し





 12月31日。大晦日。


 六時半から始まったガキ使(ガキ使いの略)を家でゴロゴロと見る。


 当然そこには俺以外の姿がある。と言っても、今日は叶恵達あいつらではなく、妹二人組な訳だが。


 『(デデ~ン)松ちゃん、アウト~』
 「アハハハ、受けるっ!」


 ハマちゃんがおならをし、それを松ちゃんが指摘するが、とぼけたように振る舞う。
 それに耐えきれずに松ちゃんが笑ってしまい、毎年恒例のような展開が出来上がっていた。


 「あ~喉痛い、喉痛いよ刀哉にぃ」
 「まだ始まったばかりだろうが」


 そう言いつつ、妹の金光かなみの空っぽになったコップに炭酸飲料を注いでいく。別に催促したわけじゃないと思うが、空っぽになってるのだったら入れた方がいい。


 「ほれ」
 「ありがと刀哉にぃ!」


 満面の笑みでお礼を言われれば、悪い気はしない。
 ただ一つ言えるのは、距離が近すぎるということだけだ。


 『はい、ひょっこりはん!(松ちゃん)』
 『………(他)』


 「ひぃ~ダメ、これダメだよ刀哉にぃ!!」
 「分かったからバシバシ叩くな」


 松ちゃんのボケに、まさかの誰も笑わないというシュールな光景が、むしろ笑いを起こす。
 俺も軽く笑ったが、金光はツボに入ったらしい。俺の肩をバンバンと叩く。


 「ところでクーファは笑わないのか?」
 「? 笑ってるよ」


 ふと、笑い声が聞こえない左側へと目を向ければ、もう一人の妹が。
 コテンと首を傾げて答えるさまはとても可愛らしい……と妹に思ってしまう痛さよ。


 ただ、真顔で『笑ってるよ』とはこれ如何に。


 「声を出さないで笑ってるの」
 「何気すごい芸当だなそれ」


 声を一切出さずに笑ってるらしい。
 よく見てみれば、確かに身体を大きく動かしているので、それで耐えているのだろう。


 その度に密着するのは何?


 「別に声出してもいいんだが」
 「やだよ恥ずかしい」


 変なところで照れ屋なやつめ。なのに貴女も距離近すぎですよ。


 「お前ら少し離れてくれ。それに恥ずかしいんじゃないのかクーファは」


 右腕には金光が、左腕にはクーファがピッタリとくっついており、何を隠そう俺が居心地悪い。
 二人とも中学生だし、な。色々とある。


 「兄さんとくっつくことの何が恥ずかしいの?」
 「変なところで気にしないのなお前は」


 しかし、クーファに俺の思いは届かなかったようだ。
 あ、金光には最初から期待してないので、特には言わない。別に嫌な訳では無いのだし。


 「あ~、あ~ダメ笑い死ぬぅ!!」
 「おいバカ揺らすな。零したらどうするんだよ」


 コップを持ってる状態で大きく揺さぶられ危うくなる。もちろん零すなんてことは有り得ない。


 「ヤバっ、お腹痛いってホント」
 「はいはい」


 騒ぐ妹に適当に相槌を打って、寿司へと手を伸ばす。
 うん、美味い。ヤリイカ美味い


 そんな間に、テレビの場面は切り替わって、人気子供タレントによるメンタルカウンセリングへと移行していた。


 『最近体重が……(タナカ)』
 『(ガバッ)良いんです、良いんですよ。タナカさんは頑張ってるじゃないですか』


 突然子供タレントが、悩みを話し始めたタナカへとガバッと飛びつき慰め始めた。
 うーん、こりゃネットの方が荒れそうだなぁ……。


 そんなこと考えていると、金光が腕を引っ張り始めた。


 「刀哉にぃ、あれ『だいしゅきホールド』だよ!?」
 「お前、その言葉は卑猥だぞ」
 「だってだいしゅきホールドだよ!! ほらほら見て!」


 妹は思春期……そうだったなと思いつつ、がっしりとタナカに抱きつく子供タレントを見て騒ぐ金光を宥める。
 年頃の女の子がそんな言葉を使わないで欲しい。


 「だいしゅきホールドって?」
 「別に知らなくてもいい言葉だよ」


 クーファはこんなにも純粋だと言うのに……いやまぁ無垢な質問は中々キツイものがあるが。


 「クーファちゃん、だいしゅきホールドって言うのはね───」
 「無垢なクーファを汚すな金光」


 だいしゅきホールドというのが単なる体勢を意味する俗語ならいいが、残念ながらだいしゅきホールドというのは、言わずもがな、主な用途としては性行為時の体位のことを表す。
 つまり、そういうことなのだ。今回には不適当であるし、そういうことをクーファに教えたくはない。


 ───まぁクーファも普通の女の子相応の知識はあるだろうし、そういう意味では無垢とは言い難いが、性格的に無垢であることに変わりはない。


 『スーパースターって何!?』
 『山ちゃんが捕まったー!』
 『スーパースター階段似合うw』


 「山ちゃんヤバいってホント……あーお腹痛いっ」
 「あ、おい暴れるなテーブルが揺れる」
 「姉さんやめてよ」
 「だって……フフフ」


 お腹を抱えて笑う金光が足をバタバタとするために、密着している俺とテーブルが揺れる。
 さらに俺と密着しているクーファも揺れ、抗議の声が上がるが、金光は笑っているために反応もままならないようだ。


 「あ、風に煽られ……あはは!」
 「ダメっ、ホントに………」
 「全くな……」


 ダメだ。終わらぬ笑いの刺客によって金光は笑いが休まらない。
 クーファもまた、山ちゃんが背中に背負った羽根のせいで、風に煽られ転ぶというのがツボったようで、肩を震わせている。その耐える時の声の出し方が無駄に耳に入る。


 間に挟まれた俺は、笑いたいのもあるのだが、左右にいる妹達のせいで休まらない。


 「なんだか2人共、今日はやたら密着するな」
 「はーヤバいホントマジで……え? ほら、だって年末だし」
 「……兄妹水入らずの年越しもしたいから、兄さんと密着」


 笑いから復帰して2人は答えると、その後また直ぐに笑い出す。


 年末だから、特別な日ということで甘えているのか。ならまぁ強くは言えない。


 そんなこんなで、そろそろ年越しを迎える時間帯だ。


 「友達にしっかりとあけおめの挨拶送らなきゃ」
 「あぁ、俺もやらなきゃな」


 0時ぴったりにRAINに登録されている友人達に『あけおめことよろ』の挨拶を送らなければと、金光の言葉を聞いて思う。


 そしてカウントダウン。ガキ使はまだ終わらないが、23:59を示す電子時計が、まるで急かすように点滅する


 「年越しか。来年はどんな一年になることやら」
 「そりゃもちろん、とにかく楽しい一年だよ」
 「波乱万丈かもしれないよ。兄さんは人気者だし」
 「波乱万丈ね。俺は平穏で平和あればなんでもいいな……こうやってお前らや叶恵達と過ごせれば」
 「あー、こういう時に他の女の人の名前出しちゃいけないんだよ刀哉にぃ。マイナスぅ」
 「お前は俺の彼女か」
 「えへっ」


 悪ノリする金光を軽く小突く。ペロッと舌を出してあざとく上目遣いをする様は、恐らく世界中の男子を刺激するものだろう。


 気づけば俺の脳内カウントは、残り10秒を切っていた。


 俺は最初の瞬間を逃さないよう、話を一度中断させて、時計を凝視する。


 それに合わせて、金光達も時計へと目をやる。残りは5、4、3、2と迫っていき……。


 「「「あけましておめでとう!!」」」


 俺と妹2人は全く同じタイミングでその挨拶をした。


 時計が0:00を指し示し、表記されている日付が1年加算された。
 今までのことは全て『去年』の出来事になり、これからのことが全て『今年』となる。


 挨拶と同時にガバッと左右から抱き着かれるが、俺は怒るでもなく、かといって居心地の悪い思いをすることも無く、2人に心からの笑みを向ける。


 それだけで2人はまた満面の笑みを浮かべてくれる。叶恵達との関係もかけがえのないものだが、この妹2人との関係も、やはり手放せないものだ。


 ブラコン思考2人、そしてシスコン的な思考の俺。だが今はそれで構わない。
 年越し、新しい年を迎えるのだ。遠慮なんていらないだろう。


 「今年もよろしくな、金光、クーファ」
 「もっちろん!」
 「うん、兄さん」


 これは素直に、可愛く愛しい。
 今は2人の行き過ぎた感情も温かく感じることから、今年もそう悪くは無い年になりそうだ。
 所詮予想でしかないが、思うことは大事だ。


 ────良い年を過ごしてくれ。兄の心からの願いだ。


 珍しく俺は照れ臭さを感じつつも、最愛の妹2人に告げた。
 そんな俺の感情を読み取ったのか、2人はいたずらっ子のような笑みを浮かべたが、俺はサッと顔をそむけた。


 ────今年、人生を左右するような体験に遭うことなど、全く知らずに。




  

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