俺の学年が勇者として召喚されたが、俺は早速腹黒王族にマークされたようです

イミティ

第6章第1話 予兆





 「あ、トウヤさん」
 「おはよう雫さん」


 別に当たり前だとは思っていないが、素振りをしに来たら、雫ちゃんが居た。
 ローテーションで使っているのだろうか。毎回誰かしらがいる気がするが、俺も少し期待してのことなのでツッコミを入れることは無い。


 「どうした、の?」
 「素振りをするのが日課なんだ。毎日ここを使わせてもらってね」
 「そうなの」


 一瞬ぎこちなさがあったが、あれか、そういえば敬語じゃなくて普通に喋るとかなんとか言ってたな。
 今思えば、あの時の『一歩リード』という言葉は、そういう意味だったのかもしれないと、俺は白々しく〃〃〃〃考えた。
 もちろん、確証など持ってないし、あくまで他人京極君から聞いただけなので、自意識過剰じゃないと思う。


 「雫さんも何かやってたの?」
 「私は、コレ」


 俺が聞くと、雫ちゃんが言う。コレ、というのが、手に持っている短剣による練習だというのは、聞かずともわかる。


 「雫さん、短剣も使うんだ」
 「うん。あまり得意じゃないけど、もしものための防衛手段」


 照れているのか、少し俯きがちに頷く。
 別に『短剣も使うんだ』という言葉に照れる要素は無いはずだが……『二つの武器を使えるなんてすごいね』という意味に捉えたのか。
 もしそうなら照れるのも理解できる。問題は、俺はそんなつもりで言った訳では無いということなのだが、それを伝えるのは薮蛇だとも理解していた。


 「まぁ、近遠両方共に対応出来れば強いからね。怠らないようにだよ」
 「うん。わかってる」


 満遍なくというのは器用貧乏になってしまいがちだが、あくまで遠距離攻撃をメインに、サブとして近距離を鍛えるのは十分効率的だと思う。


 「それにしても短剣か……今度俺も使ってみるかな」
 「トウヤさん、短剣は使わないの?」
 「普段メインは剣だからね。使ったことないなぁ」


 雫ちゃんが疑問の声を上げたのは、前に剣、槍、大剣と3種の武器を使ったから、他の武器も使えると思ったのだろうか。
 まぁそもそも武器を変える必要が無いからな。他の武器を使う必要性が、相手を動揺させること以外にないのだ。
 短剣ならば手数の多さと攻撃の出が速いのが特徴として挙げられるだろうが、生憎俺はその点で困ったことは無い。
 一撃の重さはパラメータ次第だし、遠距離は魔法で十分対応できるし、リーチの長さも魔法で同様。


 「トウヤさんなら、どんな武器でも、使えると思ってた」
 「あながち間違いではないけど、使ってみないことにはわからないな」


 黒澤君と試合した時は大剣を使ったけど、あれも初めてだったしな。
 [剣術]と通じるところがあったのもあるだろうが、大剣も普通に使うことが出来ていた。


 とはいえ、大剣は周りをなぎ倒すような豪快な一撃が魅力の武器だ。
 俺はあの時、黒澤君の攻撃を受け流すためだけに使っていたし、使いこなせていた訳では無いだろう。


 「そうなんだ。……あっ、そろそろ戻らないと」
 「ん? もういいの?」
 「陽乃起こさなきゃだから。私が起こさないと、起きてこない」


 あぁ、陽乃ちゃん朝弱いのか。
 苦笑いを向けると、恥ずかしそうに視線を逸らす。身内だから恥ずかしいのかもしれないが、別にそんなのを気にする人ってあまりいないと思う。
 萌え要素の一部と捉えてしまう俺は、生粋のオタクなんだろう。


 「それじゃ、ばいばい」
 「またね」


 小さく手を振る雫ちゃんに俺も振り返すと、雫ちゃんは何度かこちらを振り返りながら宿内へと戻って行った。


 京極君との話以来、意識しているところがある。近づき過ぎない、適度な距離を保とうとしている。
 何となく、どこかで一歩引いてしまっているのだが、これは良いことなのか。未だ疑問に思うのは、なにか引っかかりがあるから?


 分からない。分からないから、取り敢えず素振りで気分を晴らそう。




 ◆◇◆






 ルナ、ミレディ、クロエちゃんに、雫ちゃんや御門ちゃん……この5人の問題を抱えている俺だが、結構持て余し気味だ。
 どれもこれもなし崩し的に俺の近くにいるが、どうも問題を放置していると落ち着かない。


 ルナとミレディは、まぁ最初の目標としては、信頼関係を深めることだろう。この2人は俺と共に行動してもらうつもりなので、深い信頼が必要となる。
 それに加えて、もしものために鍛えておくのも必要だ。近接はともかく、魔法なら才能さえあれば直ぐに上達すると思うので、試してみる価値はあるだろう。


 クロエちゃんは結構ヤバめの爆弾だ。扱い方を間違えれば、厄介事が降りかかる。
 問題という問題ではない。匿っているのは、俺というより宿の方だし、しかしラウラちゃんがクロエちゃんの正体に気づいた様子はない。
 同じ部屋にいるという懸念はあるが、俺が手を出さないのと、この事実が第三者にバレなければ特に問題は無い。
 だからといって、放置していい訳でもないだろう。知らない仲ではないし、今でこそ宿屋で働いているが、そのうち絶対あの王様が何かしてくる。
 そうでなくても、ラウラちゃんにこれ以上迷惑をかける訳にも行かないしなぁ。巻き込まれるのはゴメンだから、先に手を打っておくのは必要かもしれない。
 一応、事情を聞く覚悟をしておくか。


 雫ちゃんと御門ちゃんは、はっきりとしていないが故に、対応がしにくい。
 どちらも俺に好意を抱いているのは間違いないが、それが恋愛感情なのか、俺は確かめていない。
 ……敢えて分からないふりをしているかどうかは、自問しない。
 とはいえ、ここでは2人が俺の事を好きであると仮定し、その場合で京極君は2人が傷つかない結果を求めた。
 そして、俺は今のところそういうつもりは全くないため、最終的になあなあで別れるのが最善であると思われる。
 ただ、これらは全て『可能性』の話であり、確証がないために動きにくいのだ。
 2人が俺の事を好きでないと分かれば、俺は気にせず2人と喋れる。好きだと分かってしまったら、期待させないように一歩引くことが出来る。
 だが、どちらも分からないから、中途半端になっているのだ。


 こうして考えると、人間関係的な問題に俺は弱いように感じる。
 問題を解決する前に新しい問題を呼び込んでいるというか。ルナとミレディは時間が解決してくれそうだが、他はそうでも無い。


 ただでさえルサイアの件に、魔王なんかのこともあるのだ。俺がとんだトラブルメーカーであると自覚できるな。


 急にこんなことを考え始めたことに、特に理由はない。
 ただ、少し胸騒ぎがしたから、それを紛らわすために現状整理をしただけに過ぎない。


 何故胸騒ぎがしたのか、確証は得られないまでも、ある程度の予感はついた。


 「おはようございます、受付嬢さん」
 「あ、トウヤさん。おはようございます。ギルドマスターがお呼びでしたよ? 部屋に来るようにと」


 ギルドへ行くと、受付嬢さんからそんなことを言われた。
 ギルドマスターあの人が俺を呼ぶなんて、しょうもないことか、ろくでもないことのどちらかしかない。


 とはいえ、受付嬢さんに嫌な顔をする訳にはいかない。前回の反省を活かして、俺は微笑を浮かべた。


 「了解です。早速行ってきますね」
 「はい。いつもすみません、トウヤさん」
 「いえいえ、受付嬢さんのせいじゃありませんから」


 単に俺がギルドマスターに何となく苦手意識を持っているだけですよ。


 とまぁ、多分俺の胸騒ぎは、ギルドマスターに呼ばれることを何となく予感していたからなんだろう。


 相変わらず、好意と敵意、悪意が入り交じってる視線を向けてくるくせに誰も話しかけてこないが、それを無視して2階へとかけ登る。
 ギルド内に俺、知り合いほとんど居ないなぁと今更ながら思う。少しは探索者と知り合いになってもいいと思うのだが。


 冒険者ギルドでは積極的に話しかけていこうかなと考えつつ、見慣れた気がするギルドマスターの部屋の扉を開けた。


 「入る時はノック!! って、なんだ君か」


 そのまま入ったら凄い怒鳴られたが、ギルドマスターは俺の姿を認めると、すぐにその鉾を収めた。


 「君、一応言っておくけど、立場的には私の方が上なんだから、入る時ぐらいノックはしてくれよ」
 「いや、俺とギルドマスターの仲なんで、別に構わないじゃないですか」
 「仲が良いからって、礼儀を疎かにするものじゃないよ」
 「どの口が言うんですか。初対面の時に剣を投げつけてきたのは貴女でしょうが」
 「それは悪かったって」


 誠意が全く感じられないが、これ以上は不毛な争いだ。
 俺は自身を律し、一度深呼吸をするような仕草をしてから、改めてギルドマスターの正面に立った。


 「それで? 受付嬢さんから俺を呼んでるって聞いたので来たんですが、何か用ですか?」
 「あ、そうだった。ちょっとコレ見てよ」


 忘れていたのか、俺の言葉にハッとしたギルドマスターは、机の下で何やらゴソゴソとすると、魔物の絵が描かれた一枚の紙を取り出した。


 「これは……一角獣モノケロスですよね? 確か42から45層、66層、91から94層辺りに居たと思いますが」
 「……よく場所を覚えてるね、どんな記憶力してるんだか……というか、まさか迷宮に出る魔物全て把握してるの?」
 「さて、どうでしょうね」
 「…………君のことだから、そう言われると本当にそう思えてくるんだけど」


 [完全記憶]があるから、一度見たことがあれば覚えているな。
 階層についても、記憶の時系列を順々に辿っていけばすぐにわかる。[完全記憶]のヤバさが身に染みるな。


 ちなみにモノケロスは、ユニコーンと言うべきか、そんな感じの魔物だ。額に鋭利な角を生やした馬。
 厳密にはユニコーンは別にちゃんと居るので、モノケロスとユニコーンは同種ではない。モノケロスの上位種がユニコーンである。


 「それで、こいつがどうかしたんですか?」
 「いや、実は昨日第八階級アハトの探索者が、10階層辺りでこいつを発見したらしくてね。本来の生息階層じゃないにも関わらず居るらしいんだ」
 「下層から来たんですかね? ない訳では無いんでしょう?」


 確か、下層の魔物が増えてくると、段々階層を移動して来るからみたいな感じで、俺は間引きを頼まれていたはずだ。


 「そうなんだけど、それだけじゃないんだよねぇ。そんな感じの目撃情報や被害情報が多数入ってきてて、更に迷宮内を彷徨く魔物の数が増え、一体一体が強くなっているらしいんだ」
 「なんですか、そんな急に色々と入ってくるなんて」
 「スタンピードでも起こるのかなぁって感じで、ちょっと君に頼みたいんだよね。下層から魔物が来ただけならまだしも、強くなるってなると……」
 「魔物の調査をしてくればいいんですか?」
 「いや、どっちかっていうと殲滅。調査したところで結局異常なことに変わりはないんだし、なら君に任せて一気に殲滅してもらおうと。そっちの方が楽だしね」


 間違っていないのだが、それは俺の労力が増えるだけじゃないだろうか?
 だが迷宮の魔物が強くなっているというのは少し気になるので、俺は一応顔で不満を表しながらも、頷いた。


 「勇者の方はどうするんですか?」
 「君の使い魔がいただろう? その子に任せておけばいいじゃないか」
 「訓練の方ですよ。元々迷宮に行く方は心配していません」
 「そうかい。訓練の方は別に各自で勝手にやるだろう。勇者はそういう意欲が高そうだし、サボることもないだろうしね」


 それは多分力がつくことに快楽を感じてるだけだと思うが……誰しもそんなものか。


 「そういうことで、お仕事よろしくっ。報酬はお金でいい?」
 「正直金には困ってないですね。いくらでも集まるんで。代わりに休暇とか貰えないですか?」
 「勇者関連の任務に休暇は無理」
 「ですよねー。まぁ、取り敢えずお金を貰っておきます」


 なんか良いように使われている気がしないでもない。しかし、別にそこまで不快に感じている訳でもないのが、また複雑だ。


 「じゃ、取り敢えず殲滅してきます。なにか分かったら報告しますね」
 「はいはーい。吉報を待ってるよ」


 一礼して、俺は部屋を退出する。
 迷宮から魔物が溢れるということがたまにあるらしいが、もしかしてそれの前兆なのだろうか。
 また問題事か、と頭を抱えたくなるが、力でどうにかなる問題なのでまだマシか。


 ───力でどうにかならない問題の方が、よっぽど厄介で、大変だからな。



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