俺の学年が勇者として召喚されたが、俺は早速腹黒王族にマークされたようです

イミティ

幕間 現状維持





 「……気配りが上手いわね、刀哉君」
 「気づいたか?」
 「ええ。まあね」


 樹と叶恵が移動して二人っきりになれば、美咲にはバレていたようで、呆れたような口調で言われてしまった


 「叶恵に効果的な言葉を選んだり、それをあたかも樹君が最初に思いついたように話を振るのは、とてもできるような事じゃないわ。相変わらず、コミュニケーション能力が高いのね」
 「やめてくれよ。コミュ力なら拓磨の方が高いってーの」
 「拓磨も確かに話が上手だけど、良くも悪くもリーダーとしてじゃない。纏めるのは上手くても、個人に対してあんなふうに気を配るのは難しいわ」


 ……まぁ、ごもっともで。拓磨がいくらクラスの中心人物でも、アイツがこういう場面で俺と同じように出来るかと聞かれれば、多分難しいだろうしな。
 これは恐らく客観的な事実だ。


 「でも、少し酷じゃないかしら」
 「……何がだ?」


 複雑な表情でそう言う美咲に、俺は一拍遅れて聞き返す。雰囲気が変わったことを悟ったからだ。


 「刀哉君なら、叶恵が樹君を恋愛対象として見ていないのは分かってるでしょ? 多分それは、並大抵のことじゃ変わらないわ」
 「……そうだな。確かに叶恵は樹の事を仲のいい友達としか見ていない。普通ならそれで構わないが、樹はそうじゃないし、多分優しくされた程度じゃ、叶恵は樹を恋愛対象としては見れないだろうな」
 「そうよ。本当に、それこそ命の恩人とか、人生の悩みを解決するとか、そういうぐらいの事をしないと無理だと思うのよ」


 確かに、それを考えると、樹に要らない幻想を見させるのは酷なのかもしれない。
 だが、友人の恋の悩みは極力聞いてあげたいという思いも、俺にはある。
 そして、美咲はそんな俺の思いもわかっている様子だった。


 「刀哉君が樹君を応援してあげたい気持ちは分かるわ。友達だし、助けてあげたい気持ちもわかる。だけどね、刀哉君……貴方、本当は全部わかってるんじゃないの?」
 「っ!?」


 美咲の核心をついた言葉に、俺は咄嗟に言葉を発することが出来なかった。
 「全部ってなんだ?」と聞くことも、「何もわからない」とシラを切ることも、俺にはできなかったのだ。
 表情が勝手に強ばるのが分かる。つまり、俺はその先のことをあまり聞きたくないと思っているのだろう。
 逆に言えば、次に言われる言葉を理解していたとも言える。


 「いえ、刀哉君なら気づいてるはず。人一倍洞察力が優れたあなたが、気づかないはずないもの」
 「何の話だよ、俺は別に───」
 「なんて知らないって? 私も拓磨も、学校にいる刀哉君の知り合い殆どが気づいてるのよ? 貴方が気づかないはずないわ」


 息が詰まる。思考が、狭まっていくのを感じる。
 だが美咲は、とてもではないが逃がしてくれるようには見えなくて、同時に、何故今になってという疑問が湧いてくる。


 「そろそろ鈍感な男の子を演じるのは止めたら? いつまで自分を誤魔化し続けるのよ」
 「誤魔化してなんか……いないさ」
 「誤魔化してるわよ。それがわかる程度の付き合いはしてきたもの」


 美咲の言葉は誤解だ。俺は一切誤魔化していない。
 だが、美咲はそれを確信しているようで、俺に逃げの口実を与えてはくれなかった。


 「樹君は盲目よ。叶恵はあなた〃〃〃好き〃〃だということに、あれだけ近くにいても気づかないんだもの。誰だって気づくはずなのに」
 「……」
 「いえ、もしかしたら気づきたくないだけなのかもしれない。だって叶恵の好意の表現は、明らかに貴方にだけは過剰なものなのよ?」
 「いや、そんなことは……」
 「幼馴染みなんでしょ? そのくらい考えるまでもなく気づいてるはず。なら、結末もわかるはずよ。叶恵は簡単には樹君を恋愛対象としては見ることは出来ず、それに加えて貴方のことが好き。その状態で樹君が告白しても、叶恵はきっと……」


 樹の想いに、応えることが出来ない。
 それは至極当然の結論で、疑う余地もない事実だろう。


 「樹君がその時どうなるのか、私には分からないわ。ショックで立ち直れなくなるのか、別の誰かをすぐに見つけるのか、ショックを隠して今まで通りの関係を続けるのか……でも、どれにせよ、心に深い傷を負うことに違いない」
 「それは……分かってるが」
 「なら、何で未だに樹君を手助けしているの? もしかしたら樹君は、一生立ち直れなくなるかもしれないのよ?」


 確かに、樹は叶恵を好きで、その想いは割と大きいはずだ。
 高校生の軽い失恋ならいい。だが、俺達の場合は違う。かれこれ数年は、この関係を続けているのだから。
 樹と叶恵の距離は近い。なんせ、女友達の中でも特に仲が良い方だ。
 だからこそ、失敗した時の代償が大きい。


 「貴方は、今の関係を維持したいからそんなことをしている。でも、それは難しいことよ。遅かれ早かれ、樹君は壁にぶつかる。その時、貴方はどうするの?」
 「……」
 「……分かった、質問を変えるわね。じゃあ貴方は、叶恵をどう思っているの?」
 「俺が、叶恵をどう思ってるか……?」


 美咲の質問に、視界がグラッと歪む。
 いや、実際にはなんとも無い。ただの錯覚だ。驚いたからそう思っただけ。
 だが……何故この質問に驚く必要があるのか。この質問には、それほどの意味が込められているのか。
 少なくとも、軽く答えてはいけないだろう。いいはずが無い。そンなのすぐに理解できる。


 そう、分かっていたのに……


 「俺は………俺は、今の関係を維持したい。だから一番の理想は、叶恵が樹のことを好きになって、晴れて両思いになることなんだよ。今の関係を維持できて、誰も損〃〃〃をしない〃〃〃〃最高の〃〃〃結果〃〃だ」


 なのに、なのに俺は……上辺だけの言葉を重ねてしまった。怖くなって、本音を告げることは出来なかった。


 いや、本音だ。あぁ本音のはずだ。


 これが俺の本音で本心。嘘偽りない気持ちで、客観的に見ての最善策のはずなのだ。
 他の解決策より、全然いい。


 「…………そう。刀哉君がそう言うなら、今は〃〃私も何も言わないわ。確かに、それは一つの解決策として有り得るから」


 美咲の顔から、俺は自然と目をそらす。そこにどんな感情が浮かんでいるのか、見たくなかった。
 もしそこに、落胆や軽蔑、失望といった感情があったのなら、そしてそれに俺が気づいてしまったのなら、今の関係を維持できるとは、到底思えなかったからだ。


 「……さっ、さっきまでの話は忘れて、水着を選びましょ」


 数秒後、途端に美咲は雰囲気を一転させて、にこやかな笑みを俺に向けてきた。
 そこには先程までの空気は全く残っていない。 


 「………そうだな。ゆっくりと付き合うよ」
 「そう? じゃあ色々と聞こうかしら。さっきの叶恵に言ったようなセリフを期待してるわ」
 「任せろって」


 だから俺も関係を維持するため、また言葉を一つ一つ選んで、紡ぎ、表情を作る。
 それは自然に出来ることで、いつもやっている事だ。何一つ意識することなく、無意識で出来る。




 ───そう、本当はこんな話をする前からわかっていたのだ。
 今やっていることが最終的に樹にとって酷な結果になる可能性があることだって、叶恵が俺をどう思っているのかということだって。
 それだけじゃない。今隣にいる美咲や、ここにはいない拓磨についても、俺は分かってしまっているのだ。


 感情の変化に敏感なせいで、分からなくていい事まで分かってしまっている。
 それは、俺の長所で短所。自覚できる欠点。


 それを克服する方法は簡単だ。鈍感で、気づかなければいい。
 好きな時に鋭くなって、好きな時に鈍くなればいい。都合のいい存在。


 少なくとも、俺が心の底からそれを認めない限りは、そして、誰も追求をしない限りは、それが表面化することは無い。
 その間は、まだ、この楽しい関係を続けていられると、俺は信じているのだ。


 だから俺は、全て分からないことにする。気付かないことにして、思考の奥底で、俺にとっての最善の方法を模索する。


 ───それは、俺の心を押しつぶす行為じゃない。俺は今の関係を維持したいのだから、それのための方法は、全て、俺の本心である、はずなのだ。





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