俺の学年が勇者として召喚されたが、俺は早速腹黒王族にマークされたようです

イミティ

第62話 奇跡







 「ハルマンさん、俺が2人を買い取りましょう。幾らですか?」
 「───トウヤ様、失礼かと思いますけど、本気ですか?」
 「誤解のないように言っておきますと、2人を手元に置いておきたい理由があるので。構いませんね?」


 ハルマンさんは少し躊躇ったが、直ぐに観念したようにため息を吐くと、頷いてくた。


 「前に助けて貰ったお礼に奴隷を譲るとの話をしましたね。なのでお金は要りません」


 ハルマンさんの申し出に、今度は俺が了承の意を込めて頷く。
 その話を聞いていたはずの2人は、未だなんの反応も示さない。手前の少女が警戒しているだけだが、俺は気にしなかった。


 「それでは、今からこの方が君たちのご主人様です。異論はありませんね?」
 「……」
 「……」


 この問いにも2人はなんの反応も示さなかった。
 ハルマンさんは気にせず扉を開ける。外へ出るように促しているのだが、それでも2人は動かなかった。
 気になった俺も扉の方に近づいて、そこで初めて気がついた。


 手前の少女で見えなかったが、奥の少女には両膝から先が無かった。これでは立とうにも立てまい。
 そして手前の少女もまた、右腕が無かった。それでよく意識を保っていられるものだと、俺は感心させられる。


 「すみませんトウヤ様、奥の娘は」
 「わかっています。ここは俺が運びましょう」
 「いえ───いや、ではお願いします」


 ハルマンさんは一瞬拒みかけたが、すぐに俺の申し出を受けてくれた。
 俺は牢屋の中へと入る。一層少女からの視線が厳しくなるが、無視をした。


 「ッ!!」


 壁際の少女に手を伸ばした瞬間、横から手を噛みつかれる。恐らくそれぐらいしか対抗手段がなかったのだろうが、随分な真似をするな。ハルマンさんの顔が険しくなるのも無理はない。
 反射的な防衛か、余程警戒しているらしいことを認識させられる。
 勿論、敢えて喰らったという面もあるが。


 「運ぶだけだから」
 「ッ……」


 そんな少女に対し、俺は優しく宥めるでもなく、怒り狂うでもなく、ただ冷静に、淡々と行動目的を告げた。
 ハルマンさんの方にも視線を向けて、介入の必要が無い意図を伝えておく。


 なおも噛み付く少女に、俺は視線で訴える。危害を与えるつもりがないこと、敵対意思のないこと。
 その視線にたじろいだ少女が、俺の手から離れる。それは恐怖からか安心からか、それとも無駄だと悟ったからなのか、俺には分からなかった。


 余程強く噛まれていたらしい手からは若干血が滴り落ちるが、俺は敢えて回復魔法で治療をせずに、そのままにした。
 今ここで回復魔法を使うのはまずいのだ。


 壁に寄りかかる少女を抱き抱える。恐ろしいほどに軽く感じるのは、俺の筋力があるから、という理由だけではないだろう。


 無抵抗の少女を抱えて、俺は視線でもう一人の少女に出るよう促す。選択肢のない少女は促すまでもなくついてきたが、視線は相変わらず厳しい。


 「主従契約の手続きを行います。よろしいですか?」
 「お願いします」


 牢獄を出て、ようやく外に出ると、南京錠を閉めていたハルマンさんからそう言われたので、俺は頷きながらお願いした。


 ハルマンさんが二人の少女の首輪、そこにある穴のような部分に触れる。すると、バチバチと紫色の火花のようなものが散り、次の瞬間、パチッと音を立てて途切れた。
 それに合わせて、片方の少女がビクリと身体を震わすが、ハルマンさんは気にも留めていない。


 「トウヤ様、手をこちらに」


 言われるがまま手を差し出すと、ハルマンさんが若干紫色に光る指で俺の手の甲に何かを書いた。
 『主』という字だろうか? そんな感じに指を這わせた後、今度は少女二人の額に指を這わせた。
 そちらは恐らく『隷』だろう。複雑なのでわかりにくいが、恐らくそれだ。


 俺が『主』で、二人が『奴隷』。そういう契約を結んだのだろう。


 「……これで契約は完了です。他者の[隷属術]が施されていたので上書きに少々手こずりましたが、どうにか行きましたね。私より練度の低い術者だったようです」
 「あぁ、そう言えば元は違うところの奴隷でしたか」


 奴隷にするには『奴隷の首輪』があればいいだけじゃないのか。ハルマンさんが言うに、[隷属術]という特殊なスキルだか何だかが必要なようだ。
 流石はハルマン紹介の会長、どうやら奴隷商人としの腕も高いらしい。


 「とりあえず、これでこの2人はトウヤ様のになりました。トウヤ様が魔力を込めて奴隷に命令することで、奴隷はその命令に逆らうことが出来なくなります。正確に言えば、逆らうと激痛が走る、という意味ですが」
 「分かりました。その、何から何までありがとうございます」
 「いえいえ、これも商人の務めの内です。一応、他の貴族が予約されていった奴隷も見ていきますか?」
 「いえ、それはやめておきます。色々とやらなければいけないことが出来たので」


 俺はそう言いながら、2人の少女に目を向けた。
 ハルマンさんが何かに気づいたような顔をし、俺は少しの罪悪感に囚われるが、結局ハルマンさんが何か言うことは無かった。


 「それでは、また新しい奴隷が入りましたら、その時はいらっしゃってください。あいにくご連絡は出来ませんが」
 「はい。勘で来ますから問題ないですよ」
 「そうですか」


 普通なら笑い飛ばすところだろうが、ハルマンさんはまるで疑う様子もなく頷いた。俺だって毎回勘が当たるかどうか分からないが、まぁ当たる方ではあるからな。


 ハルマンさんに別れを告げて、俺は奴隷2人を伴って店からでた。
 裏手の方に奴隷商店があるのは、こういう時に見られないようにするためなのだろう。実際今はすごく助かっていた。


 だが、結局表に出なきゃ行けないことには変わりないんだよなぁ……。
 いや、少しずるいけど行けるか?


 「少し目を瞑ってて」
 「……」


 俺の言葉に怪訝な顔をした少女は、しかし言われるがまま目を瞑る。
 腕に抱いている少女の方は言われるまでもなく既に目を閉じていた。反応したのかたまたまなのかは分からないが、ともかく目を閉じてくれたのは好都合だった。


 (『複数転移テレポート』)


 無詠唱で、俺と2人を対象にした『転移テレポート』を発動させる。
 目を瞑らせたのは、景色の移り変わりが、慣れない人だと酔ってしまう可能性を危惧したからだ。
 一瞬のうちに景色が変わり、屋外から屋内へと移動した。


 「よし、いいぞ」
 「……ッ!?」


 ビクッ、と目を開けた少女が驚きに身体を震わす。割と臆病な性格なのか、警戒しているのとギャップがあって微笑ましいこともないが、俺の顔は俄然緩まなかった。


 「さて、驚いただろうけど、ここはこの街のある宿屋の、俺が借りている部屋だ。転移の魔法で来た」


 俺が移動した先は『泊まり木』の宿。幸いにしてラウラちゃんは居なかったようで、余計な面倒事を増やさずにすんだ。
 俺の言葉に、未だ驚愕から抜けきれていない少女。転移の魔法の難易度がどの程度だか知らないが、魔法の構成と[時空魔法]という点から、少なくとも簡単ではないことは予測できる。


 それも視界外に、複数人同時に。


 まぁ、この娘が魔法に精通していればの話だけど。


 「ところで、君は喋れるのか?」


 ふと、ずっと思っていたことを聞いてみた。先程から一言も喋らない少女は、キツい視線を浴びせながら俺の言葉に首を横に振って、顔を上げて喉元を見せてきた。


 「なるほど、喉を怪我してるのか……」


 そこには火傷のような痕。喉だけを火傷するなど、一体何があったのか。とりあえず痛々しいその怪我を見ているのは心に来たので、直ぐに顔を下げさせた。
 にしても、本当に酷い怪我だ。目を逸らしたくなるほどに。


 「……よし。君、その怪我を治して欲しい?」
 「っ!?」


 俺の言葉に、ハッとして顔を上げると、少女はコクコクと頷いた。


 「俺は高度な快復〃〃魔法が使える。それで君の怪我を治してあげる」
 「……」


 今度は、なんと少女は横に首を振った。まさか治療を拒むのかと思いきや、少女は俺の腕の中にいる、両脚の無い少女を指さした。


 「……自分はいいから、この娘を先に回復しろって?」
 「……」


 今度は縦に頷いた。この期に及んで自分よりも他人を優先できる余裕があるらしい。
 勿論褒めているのであって、感心している。俺だったら自分を優先するだろうし、今はともかく、少し前の俺だったらその怪我の状態で意識を保っていられるとも思えない。
 良くて、俺の腕の中にいる少女のように、生きてはいるが反応しないと言った、心神喪失状態だっただろう。


 それだけ関わりが深いのだろう、この2人は。まぁ、聞くまでもなくわかっていることだが。


 まぁ、俺としては2人共同時に回復させる予定だったので、順番も何も無いのだが。
 奴隷である以上、情報の漏れは気にしなくていいし、俺はこの2人の前では実力を隠すつもりはなかった。


 「安心して、元々2人共同時に回復させるつもりだった。ただ、完全に治るかどうかまでは保証できない。構わないね?」
 「……」


 次の返答には、少し間があった。そりゃ、体の一部が無くなっている状態だ。俺もそんな状態の治療は、他人の体では〃〃〃〃〃〃初めてだ。確実にできるかどうか分からない。


 それでもこの娘は頷いた。別に失敗したらもっと酷くなるなんてことは無いはずだから、そこまで意を決さなくてもいいのだが、それを言っては野暮だろうか。


 「よし、じゃあまた目を瞑ってて。少し眩しいから」
 「………」


 眩しい、という部分に少し怪訝な反応を示したが、少女は目を閉じた。
 腕の中の少女らベッドに寝かせて、自然体の状態であることを確認してから、俺は準備に入るためにステータスの封印を一部解除した。


 【知力】と【魔力】を半分程度まで解放して、俺は魔法を発動する前段階に移る。


 「ふぅ……」


 息を吐いた途端、俺の体からとめどなく溢れる魔力が、奔流となり2人に流れ込む。
 ただ魔力を送り込む訳では無い。俺の十八番である、魔力の同調。それを2人分同時に行い、暴れる二種類の魔力を完全に制御して流し込む。


 身体全体に行き渡らせたところで意味は無い。必要なのは、再生〃〃させる箇所だけだ。


 頭の中に、俺が同調させた魔力を通して、2人の様々な情報が流れ込んでくる。


 魔力には個人の情報が含まれる。それは既に知っていたことだ。
 体内に眠る魔力が、自身の情報を記憶していたところで何ら不思議ではない。そして、魔力の操作、感知能力が高い俺が、それを解析できるのも必然だ。


 今回はその内の、身体的情報を利用して、2人の完全な状態の肉体を分析、再構築〃〃〃する。


 喉の火傷はともかく、腕や脚の欠損は傷口を塞ぐといった次元ではない。無いものを作り出さなければならないのだ。
 それも、今会ったばかりの他人の身体だ。情報を読み取るという過程が必要であり、通常の回復魔法と手順が異なるのは当たり前のことである。


 方や両脚の欠損に、方や腕の欠損と喉の火傷。


 怪我をしてから時間が経過すればするほど、再生は難しくなる。ただそれは、"不可能になる"という意味ではなく、あくまで"身体の情報を読み取るのに時間がかかる"というだけだ。


 2人の欠損は、約7日前のもの。一方で喉の火傷は12日前のものだった。
 どちらがより簡単か。先程の言葉に当てはめるなら後者だが、この場合では喉の方が難度は低かった───あくまで相対的に見て、だが。


 過去に遡って、無から有を作り出すという荒業よりも、単純に細胞の状態を正常なものに巻き戻すだけの作業の方が何倍も楽なのである。
 それに、喉の火傷ならば、損傷の程度で違いはあれど、[快復魔法]ではなく[回復魔法]で十分治療できる範囲だ。上位互換で失敗するわけがない。


 一方で部位の欠損は、切り離された腕や脚がこの場にあれば、熟練の治癒師なら恐らく接合することが可能だ。
 だが、この場にない場合、[回復魔法]では細胞の壊死を防ぐのが精一杯で、再生は出来ない。
 再生は[快復魔法]の領域だと、俺は認識している。


 怪我を治す[回復魔法]と、肉体を完全な状態に戻す[快復魔法]では根本的に異なる。魔法がいくらイメージで代替出来るとはいえ、属性の概念を超えて影響を及ぼすことは不可能だ。
 つまり、この世界で失った腕や脚の再生が可能なのは、俺のようにスキルを進化させた者のみということになる。
 それに加えて、7日の遅延だ。魔力操作に長け、魔力同調という反則技が使え、頭に流れてくる情報を処理できる俺だからこそ出来ると言ってもいい。




 魔力から読みとった情報を元に、脳内で2人の身体のイメージをつくりあげ、それを魔法として送り出し、失った部位の再生へと移る。
 一歩でも間違えれば魔法の構成は破棄され、一からやり直しだ。


 喉の火傷はすぐに治すことが出来た。だから後は、2人の欠損箇所を再生させるだけ───






 ───その再生作業は高速化された思考の中のことであって、実際の時間は5秒にも満たなかった。
 今のところ最高難度の、しかも初めて使用する魔法だが、この俺が魔法に関しては失敗する訳もなく───


 「───『再生の祝福プファル・リミュエール』」


 魔法名を告げた途端、室内を神々しい光が満たす。
 それは、魔法の成功の合図。2人の身体が、その中で穏やかな光に包まれたかと思うと───




 ───俺の視界には、怪我どころか身体の汚れすら綺麗に取り除かれた、五体満足の2人の少女が映っていた。


 
    


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