俺の学年が勇者として召喚されたが、俺は早速腹黒王族にマークされたようです

イミティ

第61話 牢獄





 コンコン


 『会長、準備が終わりました』
 「───と、どうやら時間のようですね。わかった、入ってくれ」


 俺がハルマンさんに武勇伝を聞かせていると、外から声が聞こえてきた。
 これからがいい所なのに、というのは、やはりお約束なのだろう。とはいえ、武勇伝と言ってもあくまで伝えられる範囲だ。ギルドマスターと戦った話などはしていないし、せいぜいが迷宮の話ぐらいか。


 ハルマンさんが返事をすると、扉が開かれ、ノルンという名の従業員が奴隷を連れて入ってくる。


 「左から順に、人族、人族、ドワーフ、人族、獣人、獣人、人族となっています。全員戦闘経験があり、レベルも40以上と高いです」
 「はい、ありがとうございます」


 従業員さんに一言お礼を言い、俺は奴隷達を見る。
 確かに全員レベルが40以上で、一番高いのは右端の屈強な見た目の人間で68である。


 「……なるほど。ハルマンさん、これで新しい奴隷は全部ですか?」


 言外に、少し不満があると伝えることになるが、俺はこの際気にしなかった。
 俺の生活上、ただの奴隷は別にいらないのだ。度をする際に知識が補完出来るような奴隷や、力を抑えている時の俺と共に戦えるような奴隷でなければいけない。
 後一番大事なのは性格ね。一緒に暮らすことになるし。


 だが、ここにいる人物達は、少し物足りなさを感じた。


 称号を見れば一目瞭然なのだ。ドワーフは酒癖、屈強な人族はあのルサイアの奴隷、他は少し弱く、獣人二人はケモ耳の癖に強面だ。
 ついでに言えば、見た目もそれほど良くない。


 と、めちゃくちゃ失礼で人間としてどうかしている思考をしつつ、俺はハルマンさんにそう尋ねたのだ。


 「一応他にも居るのですが、一人はお得意様である貴族が予約をしていまして、残りの2人は衛生面が悪いので、売りに出してはいません」
 「なるほど……見せてもらうことは可能ですか?」
 「予約されている方はともかく、残りの2人の方は先程も言ったように衛生面が悪いですが……それでも良いですか?」
 「そのぐらいは問題ないです」


 そもそも、衛生面を気にするほど潔癖症ではないし、見るだけなら問題ないと思う。
 それでもハルマンさんがそう聞くのは、多分ここに来る貴族がそういう性格なんだろうなと思う。貴族は『汚らわしい!』とか言いそうなイメージあるし。


 まぁ、俺ってば貴族とはほとんど会ったことないんだけどね。


 「そこまで言うのでしたら、分かりました。ノルン、ここで奴隷を見ていてくれ。私が案内してくる」
 「かしこまりました」
 「ではトウヤ様、こちらへ」


 ハルマンさんに促され、応接室から出る。
 奴隷のいる区画は気配からわかったが、どうやら鍵付きの扉で区切られている様子。


 そこを経由して進むと、これまた地下へと続く階段がある。
 衛生面が悪いというが、地下に閉じこめているのか? この先から結構な気配を感じるのだが。


 「ここは腕や足などに深い傷を負った奴隷などを入れている場所です。傷口から菌が入り、病気になる恐れがあるので、ほかの奴隷とは隔離しています。回復魔法を使える人材が居ないので、自然治癒に任せて、傷が完治した者から元の場所に戻しています」
 「それって、結局病気で衰弱死するんじゃ?」
 「そうです。大体が死んでしまいます。ですが、治癒師に頼むにはあまりにお金がかかるような怪我ばかりですし、だからといって奴隷契約を破棄して放り出す訳にも行きません。応急手当をするにも、ここの従業員ですらここにはは近づきたがりませんし……今の所は、こうするしかありません」


 話をしていると、階段を降り切り、やたら厳重な扉に着く。
 南京錠がかかった扉。ハルマンさんが解錠をして扉を開けると、その途端僅かに開けた扉の隙間から、酷い悪臭が漂ってくる。


 「これはっ」
 「あまり長居されますと気分を悪くしてしまうかもしれません。気をつけてください」


 真顔で、一切動揺せずに僅かな隙間から身を滑らせたハルマンさんに、俺も意を決して続く。


 そうして中へ入ると、そこに広がる光景に、俺は珍しく軽い吐き気を催した。


 「……失礼ながら、なかなか酷い場所ですね、ここは」
 「いえ、私もそう思いますから」


 中は牢獄のようになっており、左右に鉄格子があり、そこからは衰弱した奴隷が姿を覗かせていた。
 奴隷達は、軽い者でも傷口から骨が顔をちらつかせていたり、顔全体が焼けていたりで、酷い者は腕や脚、もしくは両方が欠損していた状態で手当がされた様子もなく、生きているのが不思議な怪我だ。
 咳をしている者も多いことから、少し病気が蔓延しているのもわかる。


 ───なるほど、ハルマンさんが連れてくるのを渋る理由も理解できる。これは客人に見せられたものじゃない。


 それも、ここにいる奴隷は軽く50を超えている。牢屋の数も多く、すぐに確認するのは難しいそうだ。


 「戻りますか?」
 「………いえ、少し見ていきます。もう慣れました〃〃〃〃〃〃〃


 ハルマンさんの硬い声に、五秒ほど間を開けて、俺は答えた。
 無論、強がりなどではない。軽い吐き気は既に消え、臭いはスキルで誤魔化したので、問題は無い。
 嫌悪感がない訳では無いが、目当ての奴隷がいることも考えて、ここを見ることにしたのだ。


 正直、目的に対しての精神的苦痛が強すぎるが、気になったものは仕方ない。


 俺が進むのに合わせて、ハルマンさんもついてくる。これが奴隷商人としてなのか、それとも単純に俺のことを心配しているからなのかはわからないが、俺としては是非も無いので何か言うことは無かった。


 「あ゛ー……あ゛ー……」
 「ぐすっ、いやぁだ……」
 「………」


 耳をすませばそんな声が聞こえてくるが、俺は務めて無視をした。
 意味の無い言葉を発しているのは、この暗く酷い場所のせいで気が触れた者か。はたまた息遣いがそう聞こえるのか。


 助けを求める声は、まだここに来て日が浅い、つまりこの前追加されたばかりの奴隷なのかもしれない。
 こんな場所に入れられたら絶望しかないだろう。ハルマンさんには悪いが、これは酷だ。治療が出来ないなら、さっさと殺すなりなんなりした方が、奴隷にとっても楽な気がする。


 それに、ここにいる奴隷はほとんどがめぼしいスキルも無い、レベル的にも低いものばかりだ。ハルマンさんが運んでいる最中に負った怪我ではなく、恐らくその前だろうな。


 「ハルマンさん、例の2人はどこに?」
 「丁度今見えている左側の部屋です」


 ようやく目的地にたどり着いたようだ。俺は左側の牢獄に目を向ける。
 鉄格子を挟んで、そこには二人の少女が居た。片方の少女が奥の壁に寄りかかるようにして座り、もう片方の少女が、俺の視界からその少女を隠すようにしていた。


 「詳しい背景は分かりませんが、この2人は街道で倒れていところを私が発見しました」
 「奴隷の状態でですか?」
 「えぇ。奴隷商人に連れられていたところで何らかのアクシデントが起きて、置き去りにされたのか、はたまた魔物の囮役にされたのか、とにかく生きているのは奇跡と言えましょう」


 ハルマンさんの話を聞きながら、俺は二人に視線を走らせた。手前の少女は警戒したのか少し後ずさり、奥の少女は俯いたままだ。俺たちに無反応、いや、そもそも聞こえていないのかもしれない。


 「口をきいてくれないので名前すらわからず……恐らく、トラウマになるような何かしらの事があったのでしょうが……」
 「いえ、そこまでのことが分かれば十分です」


 俺はハルマンさんの話を遮った。これ以上聞いてもどうしようもない事だし、推測とはいえ、聞いていて気分のいいものでもない。


 それに、そこら辺は本人に直接聞いた方が、早く済むからな。





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