俺の学年が勇者として召喚されたが、俺は早速腹黒王族にマークされたようです

イミティ

第57話 ドーピング





 訓練は軌道に乗ったと言っていいだろう。


 散歩で時間を潰し、ギルドへとやってきた門真君達。今回は自分で依頼を選ばせることにして、グラを連れて前半組はまた迷宮へと向かう。


 後半組はまぁ俺と訓練だが、やることは昨日とあまり変わり映えがない。


 強いて言うなら、今度こそ飛鳥ちゃんに、雫ちゃん達と同じような魔法の訓練を施してあげるぐらいだ。それ以外は昨日と変わらん。
 魔法のイメージの植え付けと、何やかんやだ。


 「それじゃ、早速やっていこうか」
 「はい。よろしくお願いします」


 俺が飛鳥ちゃんに訓練の開始を促すと、飛鳥ちゃんは深々と頭を下げた。
 さて、純魔法使いに同じような訓練をしたらどうなるのか……私、気になります!




 ◆◇◆






 まぁ、私気になりますと言ったのは確かに俺なんだが……。


 「ッ!!」


 飛鳥ちゃんが詠唱もせずに、つまり無詠唱で魔法を発動すると、その途端視界内の地面が一瞬にして凍りつき、氷特有の心地良い音を響かせながら現れるは、たくさんの氷山
 一つ一つの氷山の高さは優に5メートルを超えており、横幅も地面と接している部分は、高さと同じほどある。


 と思いきや、突如全ての氷山の内側が煌々と光を放ち始め───爆発した。
 爆発、と言っても、攻撃的な爆発ではない。もっと静かで、氷を瞬時に溶かすような熱を伴った、綺麗なものだ。


 氷山はパァンと弾けると、キラキラと礫が舞う。一つ一つは微細なもので、一度上へと打ち上げられると、ゆっくりと地上へと舞い降りる。


 使用した魔法は『凍結領域フローズンフィールド』『零度拡散フリーズボム』『煌熱シリルレイス』……合計で18の魔法という。
 うん、雫ちゃんとかよりヤバいよねぇ。なんとなくの期待はあったけど、本当になるとは思わなかった。


 「凄いです、急にこんなに上達するなんて……」
 「うん、俺も驚いてるから」


 半ば荒業みたいなものなんだが、それでもこう上達するのは何故か。


 「昨日、雫ちゃんや紫希ちゃんが魔法が信じられないくらい上手くなったから……これの事だったんですね」
 「うーん、俺としてはちょっと釈然としないんだけど……まぁ、これ以上先は自主練の域だし、一夕一朝には無理だからね」
 「はい、分かっています」


 俺が言うまでもなく分かってるだろうが、一応。案の定既に理解している返答が来るが、まぁ念の為だし。


 「そう言えば、トウヤさんはどうやって魔法がそんなに上手くなったんですか?」


 さて次は誰の場所に行こうかと考えた時、飛鳥ちゃんがそんなことを聞いてきた。
 いや、とても答えにくい質問だね!


 「急にどうしたの?」
 「いえ、トウヤさんって私達と同じぐらいの年齢なのに、比べ物にならないくらい凄い魔法が上手だから、気になったんです」
 「あー、それはね……」


 ……もしかしてだけど、飛鳥ちゃんは俺の事が勇者だってわかってないパターンか? それとも敢えて言ってる?
 どちらにせよ、これをそのまま捉えて回答すると、ちょっとな……。


 「あの、嫌なら別に答えて頂かなくても……」
 「あぁいや、嫌とかじゃなくてさ……普通に訓練して、レベルを上げたからじゃないかな。特別なことはしてない気がするし」
 「そう……なんですか?」


 そうなんですよ。この世界に来て特に凄い訓練なんてしてないからな。
 逆立ちしながら魔法を発動したりとかはあったけど、あれはなんか違うだろう。


 俺の答えに満足したのかしてないのか複雑な表情を浮かべながらも、飛鳥ちゃんは頷いた。


 こう、本当に凄い訓練をしてたり、とてつもなく長く厳しい鍛錬を重ねてたとかなら自信を持って教えられるのだが……まずこの世界に来てから僅か一ヶ月半で、苦労したのかと聞かれれば人並み程度しか苦労していない。


 パラメータとスキルの封印を行って、多少は苦労するようにしているが、それだってユニークスキルの[完全記憶]の効果が大きいため、相殺されている。
 もし[完全記憶]が無くなった場合、俺は実力がどこまで下がるのか想像ができない。


 そんな自覚があるからこそ、弱々しくそう伝えることしか出来ないんだよなぁ。


 「っと、んじゃま後は自主練頑張って。何度も同じ魔法を使えば、必然的にその魔法がイメージしやすくなって、威力も上がると思うから。そしたら後は迷宮でレベルアップ、戦力強化だね」
 「あ、はい、分かりました。ご指導のほど、ありがとうございました、トウヤさん」
 「いいよいいよ」


 礼儀正しい飛鳥ちゃんが頭を下げるが、俺は顔の前で手を振って気にするなという意図を伝える。
 劇的に魔法が上手くなっても、あくまでそれは自分の才能の範囲内でのみだからな。勇者だからこそ、飛鳥ちゃんだからこそのあの成長だ。


 俺は話が終わったのを見計らって、飛鳥ちゃんに一度休憩するように言い含めてから、離れる。
 いくら魔力を回復させているとはいえ、所詮荒業であるし、精神的な疲労はどうしても残る。だから、肉体的に疲れていなくても休ませなくては行けないのだ。


 おっ、今の俺って結構指導してる感じが出てないか?


 なんてことを内心苦笑いと共に浮かべつつ、今度は野村君の元へと向かう。
 我ながら勤勉だとは思うが、任された仕事はやり遂げなくてはという使命感はある。楽ができるならそれに越したことはないけどね。


 「うぃー、野村君の番ですよっと」
 「うっす! よろしくお願いしますっ!」


 突然来た俺に、動揺もなく返事をしたのは、俺の気配をなんとなく感じとっていたからか。
 体育会系と称するに相応しい返事を受け取った俺は、野村君が既に構えているのを見て『気が早いな』と。


 だが俺としても、悪くない。少し喋って鍛錬にというのは、言葉が少なくて楽なのだ。
 まぁ、喋るのが苦痛という訳でもないが。


 「じゃあ、手加減はするけど本気で行くよ」
 「望むところっす!」


 俺の言葉に、怖気付くことなく、むしろ戦意を奮い立たせて返事をする野村君は、パッと見はボクシングだが、昨日とは少し違う構えを見せてくる。


 昨日の言葉がどれほど効いたかはわからないが、少なくとも変化は起きたようだと、内心ホッとする。


 そして、俺も手加減しつつ全力を尽くす。スキルも無し、バラメータもこれでもかと言うほど下げ、致命傷となる攻撃は行わないが、それを除けば全力で行く。


 ハンデにハンデを重ねてるけど、必要な処置だろう。決して慢心しているわけじゃないはずだ。


 試合の合図は特になかったが、野村君が距離を詰めてきたことが、合図の代わりとなった。


 ここから先は、ただ相手をするのではなく、野村君を矯正しつつ、様々な方法で対応しなくてはならない。


 俺は『無限収納インベントリ』を詠唱破棄で発動させ、その手の中に剣を出現させる。
 完全に無手でくると、先入観から思い込んでいたであろう野村君の目に動揺が浮かぶが、流石は脳筋系というか。
 それでもお構いなしに突撃してきた野村君に、俺は心の中で『度胸はよし』と何となく評価をしつつ、俺も同じように距離を詰めた。




   


「俺の学年が勇者として召喚されたが、俺は早速腹黒王族にマークされたようです」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く