俺の学年が勇者として召喚されたが、俺は早速腹黒王族にマークされたようです

イミティ

第55話 導き出したものが答えとは限らない





 「……すみません。少し取り乱しました」
 「いや、別に」


 俺はすっかり調子を外していた。京極君は俺にそう謝るも、俺は少し心ここに在らずと言った具合だった。


 「さっきはああ言いましたが、俺は別にトウヤさんになにかして欲しいわけじゃないんです。ただ、せめて貴方が、紫希や雫を自主的に連れていく様なことは、しないで欲しいだけで……」
 「そう、かい……まぁ、気持ちはよくわかる。うん、俺も変に君たちの関係を壊したくはないし、そうさせてもらうよ」


 京極君の言葉には、多分に妥協が含まれていた。
 『自主的に』、つまり、俺が連れていくのはダメだが、本人達が自分から言い出した場合、それは止めはしないという事だ。
 それだけで、賞賛に値するほどだ。少なくとも立場が逆だった場合、俺にはそう言うことが出来ないと思う。


 「正直、二人とも十分以上に女性として魅力的ですし、嫉妬も悔しさも湧きますが、相手が貴方では勝ち目が無さそうだ」
 「それは、俺にはわからないことだけど……何を言っても嫌味にしかならないだろうね」
 「良くおわかりで」


 少し発言に刺があるのは、もしかしたら京極君の精一杯の抵抗なのかもしれない。
 腕っ節では敵わず、俺に非は無いから責めることも出来ない。
 結果、精神状態がそこに現れているのだろう。


 「でもさ、京極君にだけ言うと、俺には全くその気がないんだ」
 「ご冗談を。俺が言うのもおかしいですが、あの二人はさっきも言ったように女性としてはとても魅力的ですよ? どこが不満なんですか」
 「不満とか、魅力的じゃないとか、そういうわけじゃないんだ。俺は誰が相手でも、そんな気は全くない」


 それが例え、夜菜ちゃんだろうが飛鳥ちゃんだろうが陽乃ちゃんだろうが。そこにクロエちゃんやラウラちゃんといった、この世界の住人を入れてもいい。
 俺は今、その誰ともそんな関係になるつもりは無い。少なくとも、俺が抱えている不安、問題を取り除くまでは。


 「……トウヤさんが何を考えているのか、俺は聞きません。ですが、頼みますから二人を悲しませるようなことはしないでください」
 「あぁ、それはもちろんだ」
 「それが聞けて安心です」


 京極君は深くは踏み込まず、俺にそう言った。
 それは俺も望んでいるところで、俺としてもこの関係は悪化させたくない。


 全くラグのなかった俺の言葉を信じたのかどうかは定かではないが、京極君は、少なくとも表面上はにこやかに笑ってみせた。


 誰かが傷つく結果というのは、好き好んで求めたくはないのは当たり前だ。消去法の末に残る選択肢、つまりそれしか選べない状況以外では、選ぶことは無いだろう。
 そして求めるのは、誰も傷つかないハッピーエンド。それが幻想という訳じゃなくて、決して手が届かないわけじゃないことを理解している。
 手が届くはずの結末なのだから、それを求めるのだ。誰一人傷つくことなく、なんていう結末。きっと、京極君もそれを求めているはず。


 京極君達のあの関係は、俺と叶恵達の関係とほとんど同じだ。
 ただ何となくで集まっているのではなく、きっと強い信頼関係がある。それこそ、ラノベやアニメに出てくるような、そんな信頼関係が。
 だからこそ、誰かが傷つくのは見たくない。


 そして、そんな関係が壊れる要因の一つを、赤の他人である俺が握ってしまっている可能性・・・があるのだから。そうなってしまった責任も、おそらく俺にある。
 だから俺は、彼らをハッピーエンドに導くために、全員が笑える結末を用意しなくてはならない。


 それをやるために必要なことは単純。二人のあるかも分からない想いに、俺が最後まで気づかなければいいだけなのだから……。


 そうすれば、俺としてもモヤモヤとした心が晴れて万々歳。そのまま期日が過ぎたら別れるだけ。
 御門ちゃんや雫ちゃんは寂しく感じるかもしれないけど、それはそれ。また会える可能性だってあるわけだし、そこら辺を言っておけば問題ないはずなのだ。それならば、寂しくも、頑張れるはずだから。
 京極君も、二人が本格的に悲しむような結果にはならずに済んで良いはずだ。問題の先送りだけど、最前の結末でもあるはず。


 それなのに……心のどこかで、それは違うと否定している俺がいる。
 何が違うのか、具体的なことも述べないで。
 何かがおかしいのだろう。でも、何がいけないのか分からない。
 分からない……。


 「なんだか、思い切って全部話したからか、心がスッキリしました」


 ……どうやら時間切れらしい。結論を出せなかった俺に、京極君がそう行ってきた。
 俺も一旦意識を戻して、京極君との会話に戻る。そう、結論を出せなかった訳じゃなくて、単純に疑問を抱いただけなのだから。
 あれが最善であることは、疑いようもないはず……。


 「それは良かったけど、会って間もない俺に話すにしては、少し重すぎる内容だったんじゃないか?」
 「そう言えばそうですね。でも、言ったじゃないですか。トウヤさんは、初めて会うのにも関わらず、安心するような雰囲気を持っている。こんな話をするのを躊躇わないくらい、異常な程にね」


 俺は、少し疑問に思っていたことを聞いてみた。なんでこのことを、直接俺に話そうと思ったのか。
 俺が当事者だからか。だが、話の内容は結構重く、明かした感情は大きい。会って間もない俺相手に話す内容ではない。


 京極君から返ってきた言葉は、まぁ単純に考えれば、俺が安心させるオーラを放っていてってだけの話だ。
 だけど、『異常な程』という言葉。京極君は冗談めかしていたが、俺は少し薄気味悪さも感じていた。
 あながち、異常と捉えるのも、間違っていない気がするからだ。


 「……さてと、じゃあ俺は先に戻ってますね。言いたことは言えたので……っと、そうだ」


 京極君はそう言いながら宿に戻ろうとすると、そこで何かを思い出したように振り返った。


 「その代わりという訳ではありませんが、俺もトウヤさんに何かあったら、俺にできる範囲でならなんでも協力しますよ」
 「おいおい、そんな簡単に言っていいのかい? 俺が他の人に頼むのって限定的だと思うから、難易度高いかもしれないよ?」
 「結構理不尽なことを言っていた自覚はありますからね。多少の無理は聞きます」


 京極君は苦笑気味に告げる。俺にとってはそこまでではない……と思うのだが、京極君は俺に理不尽なことを言ったと思っているのか。
 まぁ、言われなくても元々そういうつもりではあったし、今更なんだ。だから、京極君が少しの罪悪感に囚われる必要も無いんだけど……。


 そう思いながらも、俺は結局その言葉に頷いた。どちらにせよ、頼むあては多い方がいいのと、京極君も早く借りを返したいだろうと気を使ったのだ。


 「じゃあ、その時は素直に頼らせて貰おうか。必要になるかはわからないけど」
 「あはは、まぁ、トウヤさんが俺に頼ることなんて、よっぽどの事ですしね……じゃ、今度こそ戻ります。またギルドの方で会いましょう」


 爽やかにそう告げた京極君は、俺にそう言って微笑んだ後、宿の中へと戻っていった。
 優男というか、性格がイケメンだなぁと考えているのは、恐らく思考を誤魔化すためなのだろう。


 別に、京極君と俺の抱えている不安が同じだからといって、だからなんだという話なのだが、やはり話されるだけでも、共感できる部分の他に、焦りを覚える。


 俺の方はこのままでいいのか? と。


 「……いや、これは次にアイツらに会うまで保留にしよう」


 少し考え、俺は首を振った。結局今考えたところで結論は出ない。


 不安とは言っても、俺の方は、俺が変なことをしない限りは、そこまで深刻性はない。確かに支障はあるかもしれないが、そんなもの些細なことだ。
 不安は不安であり、杞憂で済む可能性もある。


 そして、その不安を解消させるためには時間が必要で、それには俺一人ではなく、樹達も居なければいけない。
 俺一人で考えても、仕方ないことなんだ……。


 「……素振り、始めるか」


 無理やり思考を中断させた俺は、これ以上考えないように素振りを始める。
 いつもより剣を握る手に力が入るのは、どうしようもない事だ。どんな時でも平成を保てるほど、俺は訓練されていない。


 特にこういった時には、強く影響されてしまう。


 普段より幾分か力強い素振りを始めた俺は、およそ数分でこの思考を綺麗さっぱり忘れさせた。


 

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