俺の学年が勇者として召喚されたが、俺は早速腹黒王族にマークされたようです

イミティ

第54話 京極塗々木の心配





 スラムから出た途端聞こえてきた喧騒。やはり同じ街でもここまで差があると、なにか別の場所なのではないかと思ってしまう。
 ようやく泊まり木の宿に帰ってきた時は、あそこにいたらそのうち気が病みそうだと思ったほどだ。それほどまでに、あそことここは差があった。


 今は割と深夜に近い時間帯のはずだが、今日はいつにも増して食堂の方から声が漏れている。クロエちゃんが従業員をやった影響だろうか。
 いつもならこの時間帯はどちらかと言えば静かな時なんですけどね。まぁたまには良いのか。


 宿に入ると、いつものような挨拶はなく、どうやら食堂の方に出ているようだ。
 俺もラウラちゃんやクロエちゃんの声が聞けなかったのは残念だが、声をかけるのもはばかられるので、今はやめておく。


 そのまま2階へと移動し、俺の借りている部屋へと入る。今日はこのままさっさと寝てしまおう。


 扉を解錠して中へと入る。すると、そこには既に先客がいた。
 まぁ、居るとしたらクロエちゃんしかいないのだが。


 いや、まぁ可能性としてはあるかもなとは思っていたが、どうやら疲れて寝てしまった様子。俺の予想、慣れない労働をした結果疲れてしまい、見かねたラウラちゃんかその辺が先に上がらせたという所だろうか。
 ラウラちゃんとかなら、この部屋の合鍵を持っていても不思議ではないしな。


 「……そういえば、あの男が本当にセミルだったとすると、クロエちゃんは王女になるんだよな……」


 今更ながら、クロエちゃんは貴族かもなんて言っていた俺を殴ってやりたい。もしそうなら王族だよコンチクショウ!
 王女と言うと、ルサイアの性格最悪な腹黒王女しか思いつかんが、クロエちゃんと比べるとまさに天と地の差があるな。
 それを言うならスラムを出歩く王様もどうかと思うが。やっぱ異世界に一人はパワフルな王族が居なきゃだよなぁ。


 まぁ一番ヤバいのは、一国の王女様と同じ部屋に二人きりでいるというのが凄く危ないのだが、手を出さなければ問題ないだろう。
 体面的なことはこの際棚に上げましょう。


 正直、流石に今日はベッドで寝たいところだ。いや、床でも寝れないことは無いが、ベッドがあるなら使いたい。


 「……まぁ、大丈夫か。寝れるだろう」


 昨日なら絶対に床か椅子で眠っただろうが、今の俺はベッドで寝ることにした。
 同年代、しかも恐らく王女である女の子と同じベッドで寝るなどどうかと思うが、年下だと思えば全然問題ないし、この部屋を借りているのは俺だしな。うん。
 性的に見るのならともかく、妹とかそんな感じで見れば、特に背徳感なんかも襲ってこないし、なにより今の俺は思考状態が普段より落ち着いている。
 落ち着いていると言うより、おかしくなっていると表現しても良かったかもしれないが。


 俺はクロエちゃんに背中を向けてベッドに入る。布団は取り敢えずクロエちゃんの方にかけておいて、俺はなにも無しで。
 同じ布団はいくら何でもダメだと思ったからだ。


 正直自分でもそこらへんの境界がよく分からないが、それは気分次第の事なので放っておく。
 元々意見や思考が変わりやすい質であるし、気にしたところで仕方ないのだ。


 目を閉じて、俺はスっと意識を奥へと沈みこませた。
 眠気を感じないと言っても、精神的なもので疲れていたのかもしれない。


 俺は数秒後には、深い眠りについていた。








 ◆◇◆






 朝、目が覚めた時、俺は何か柔らかいものに包まれていた。
 それを何か確認する前に完璧に意識が覚醒した俺は、半ば反射的に『転移テレポート』を発動させていた。


 俺はベッドから消え、代わりに部屋の隅の方で、立った状態で転移していた。
 そこで俺は、ようやく状況を確認するためにベッドを見た。


 「……うん、俺の判断は正しかった」


 そこにはまぁなんと言うか、服を乱れさせ、俺が寝ていたであろう場所に侵入してきているクロエちゃんが。
 そこに俺が居たことを考えると、先の柔らかいものが何か、言わずとも知れるような物に違いない。


 ───俺よ、本当に転移したのが正しかったのか?


 そんな思考が脳裏を過ぎり、少し後悔が浮かんでくるが、いやしかしと首を振る。
 相手の立場は最早貴族ではなく王族! つまり、俺の判断は間違いではなかった!
 だから、この浮かんでくる後悔も、本来筋違いのはずなんだァ!!


 「……ふぅ……ん……」
 「……起きる前に逃げよ」


 もしクロエちゃんが起きたタイミングで俺が居れば、やはり少しはクロエちゃんも考えてしまうはずだ。
 誤解とはいえ、一国の王女にそんな誤解をさせてしまうのは割と危ない気がするので、そそくさと俺は部屋から退散する。


 身分のいい女の子は、やはり寝相もよくあるべきだと思いますっ!!


 そんなことを、俺は思ったのであった。




 場所を移して、庭へとゴー。
 朝の日課は日に日に凄くなって行く。昨日は別格だったけどね!
 素振りから架空の敵とのイメージ戦闘。何気にこの時が一番激しい動きをしていると言っても過言ではない。


 俺より強い相手が思い浮かばないのは、自分でもどうかと思ってるけど。


 「ハロハロー」
 「あ、トウヤさん、どもです。ところで、さっきの挨拶はなんですかね?」
 「気にしないでくれ」


 今日の先客は京極君であった。気配から分かっていたので変な挨拶で入ったが、真面目に聞かれたので俺はそっと逸らした。


 「君も朝練みたいなやつ?」
 「まぁそんなところです。トウヤさんの方も?」
 「まあね。剣を振らないと体が鈍るからね」


 京極君にそんなことを言いつつ、『無限収納インベントリ』を誤魔化し詠唱破棄で発動して、剣を取り出す。


 「相変わらず見事な手際ですね……」
 「魔法のこと? まあこの位はさ。勇者担当になるくらいだしねぇ」
 「それでも、その強さは異常ですけどね」


 言外に、『あなたの正体は分かってる』という意味が含まれているように聞こえるのは気のせいか。京極君って、少し裏がありそうなんだよなぁ。


 「……トウヤさん、真面目な話、良いですか?」
 「おっと。『消音領域サイレントフィールド』が必要かな?」


 何となく雰囲気から察した俺は、そう提案する。
 話を切り出すこと自体は止めはしないからね。俺が答えるかどうかは、別だけど。


 だけど、予想に反して京極君は首を振った。


 「そちらの方ではないので、それは必要ありませんよ」


 そちらの方、という言い方からしてもうアレなんだがそれは置いといて。
 はて、『消音領域サイレントフィールド』が要らないような大事な話なんてあったかな?


 「そんな話、あったかな」
 「紫希についてですよ」


 おやおやまぁまぁ……
 お願いだから帰らせてくれない? ねぇ。あ、ダメ。


 流石にこれは予想していなかったので、俺は目元に手を当てて、天を仰いだ。


 「あぁー、それかぁ……」
 「その反応から察するに、心当たりはあるんですね?」


 俺の態度に、京極君が食いついてきた。
 正直言ってあまり俺の好ましくない展開へと進んでいる気がする。


 「京極君は、何が言いたいんだい?」
 「紫希は……いえ、雫もですね。二人ともトウヤさんのことが気になっているようだ」


 そうストレートに言われると聞いてるこっちとしては悶え死にするような気分だが、京極君は至って真面目に話していた。


 「長い付き合いの友人が、知り合ったばかりの男に惹かれてしまうのは……仕方ないとわかっていても、少々気分が悪くてですね」
 「……なるほどね。それで俺に今後二人には近づくなと言いたいのかな?」
 「いやいや、そんな理不尽なことは俺は言いませんよ」


 俺が京極君の意図を読んで先回りしてそう聞くと、京極君は笑いながらまた首を振った。
 恥ずかしい、自信満々に言った自分が恥ずかしい!


 「ただ、なんで二人が貴方に惹かれたのかなって、単純に気になったんです。自分で言うのはなんですけど、俺だって容姿に関しては自信ありますしね」
 「そうだと思うよ。実際君はイケメンだしね」


 高身長イケメン。門真君とは少し違うが、気遣いもできる。恐らくモテるだろう。
 男としての偏差値高いよなぁホント。


 「そう躊躇い無く男から言われても、存外悪い気はしませんね。いえ、トウヤさんだからこそですか」
 「それは危ない兆候だから早いとこ直した方がいいよ!」
 「すみません、話を戻しますね」


 俺のボケは、見事にスルーされた。


 「紫希は色々と初心ですが、その分ガードが硬い。少なくとも、誰かのことを恋愛的な意味で好きだというのは無かったはずです」


 その話は飛鳥ちゃんから少し聞いたな。
 手を握るとかもまともにやった事がなくて、ああやって接触したのは俺が初めてだって。
 嬉しいような嬉しくないような気分だよ。


 「雫の方は、結構周りに無関心で、今でこそ話しますが前は全然でしたからね。こっちの方がある意味でガードは硬いと思いますが……」


 雫ちゃんは確かにぼーっとしてるイメージはあるな。周りに無関心で、男に興味とかなさそうだ。
 でも夢見がちだし、あくまでイメージなのだろう。リアルに関心がないだけか。


 「そんな二人が揃いも揃って貴方のことを気にしている……ここはファンタジーです。もしかして、何でもありのトウヤさんが二人になにか、催眠とかしたのかなと、最初はそう思ったのですよ」
 「悪いけど、俺はそんなことしてないよ」


 俺がやんわりと事実を否定すると、京極君は自嘲気味に笑いながら口を開いた。


 「えぇ、それはよく分かっています。貴方はそんなことをするような人ではない。この少しの間だけでも、それが嫌という程実感できる。貴方はとても良い人だ」
 「実際に俺が良い人かどうかは置いておいて……それだと、答えが見えないんだけど」
 「簡単です。二人は貴方の単純な魅力に惹かれた。俺にも幹にも、学にも夜兎にもないような、貴方の魅力に」


 魅力魅力と、俺はそんなに魅力的な男ではないんだがな。
 しかも男に魅力的ってあまり使わないイメージだし、ツッコミ入れていいかな。


 そう、シリアスを誤魔化すために内心ボケてみるが、実際にそんなことはもちろん言わない。
 俺だって、今の雰囲気が真面目なことぐらいわかっている。だが、俺にはそれが嫌なのだ。
 また、好ましくない方向に話が進みそうで。


 「まぁ、よく考えてみれば色々と要因はあるわけです。年上であることや、その圧倒的なまでの強さ、初めて会ったにも関わらず、何となく安心する雰囲気……他にも金髪碧眼とか、そんなものもある訳ですが」
 「俺を過大評価しているな。言っとくけど、俺はそんな人じゃないから」


 人殺しをしたことがあるのが、一番の証拠だろう。


 だけど、これにも京極君は首を振った。


 「自分からそうやって言う人は、つまり自覚ができているということです。そして、それを外に出さないということは、自制もしっかり出来ている……これだけで、十分信頼には値するでしょう」
 「それこそ……いや、これ以上は終わらない議論になりそうだから、やめておくよ」


 俺には俺の意見があり、京極君にも彼なりの意見があるのだから、食い違うことは必然だ。
 今は議論したいわけじゃないのだから、無駄なことは言わないでおく。


 「ただ、それでもやはり、嫉妬が湧いてしまうのですよ。幹達ならばともかく、会って間もない貴方では」
 「………」


 つまり、理屈ではわかっているが、精神の方が折り合いついてないみたいな感じか。


 原因は俺。だけど、二人が俺の事を気になりだした理由としては、御門ちゃんの方はあの過激的な接触からの一時の気の迷い・・・・
 そして、雫ちゃんは小説に出てきた登場人物と俺を重ね合わせているからだ。まぁ、こちらは俺も意図的に努力した面はあるが、あれは不可抗力だろう。


 つまり、魅力的だとかどうとかではなく、行動の話だ。ただ、それだけに違いない。
 いや、それを言うなら、本人達が本当に俺に好意を持っているのかすら実際のところ確証はないのだ。本人から聞いた訳でもないし、俺は少し自意識過剰なところがあるから、当てにならない。
 飛鳥ちゃんなんかの言葉は確かに信用できるけど、結局のところどれも確証はない。


 でも、それを京極君に話したところで、恐らくなんにもならないはずだ。理屈で理解できないと言っているからだ。
 なら、俺が彼に語るべきはなんだ?


 無言を貫く俺に、京極君は話を続けるために口を開いた。


 いや、俺はここで何かしら喋り、話を遮るべきだったのかもしれない。


 「俺は思うのですよ。この関係を続けていたいって。十人全員が揃って、こっちで勇者になっても、みんなで協力しながら生き抜いて、楽しく生活していたい……そこから誰か一人でも抜けるのは、嫌なんです」
 「ッ!?」


 自然と顔がこわばるのが自覚出来た。これは、俺が嫌だとか、そう思ってる時に出る症状だ。


 京極君が打ち解けたのは、関係の維持だ。京極君達10人全員でいつまでも過ごしたいということ。
 そして、もし御門ちゃんや雫ちゃんが俺に着いてくるのならば、そこから二人は居なくなり、関係は維持できなくなる。
 少なくとも、現在の関係では無くなってしまう。


 ───その苦悩は、今まさに俺が心のどこかで不安に思い、俺がずっと悩んでいることであり、共感できてしまうことだった。




 

「俺の学年が勇者として召喚されたが、俺は早速腹黒王族にマークされたようです」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く