俺の学年が勇者として召喚されたが、俺は早速腹黒王族にマークされたようです

イミティ

第50話 奴との再戦







 「フッ!」


 息を吐きながら、俺は目の前の魔物に向かって駆け出す。
 ギルドマスターと戦った時よりも圧倒的に低いパラメータだが、俺は何の違和感も感じていなかった。
 [完全記憶]と[瞬間連想]の応用で、このパラメータ状態の時の感覚を思い出していたからだ。
 本来の使い方とは全然違う気はするが、地味にチートだと思うのは俺だけか。[完全記憶]って、体の感覚まで覚えていられるから便利だ。


 とは言え、目の前の魔物のレベルは軽く100を超えている。ステータス的には俺より圧倒的に上だ。
 しかも魔物はアークゴブリンと来た。言わずもがな、ゴブリンの上位種であるのだが、その見た目は筋肉ムキムキの2m程の身長という、なかなか屈強なものだった。


 確か、冒険者ランクで例えるとBランク~Aランク相当のはずだ。迷宮ではレベルが違うのでその限りではないが。


 駆け出した俺を見て、アークゴブリンはその剛腕というに相応しい腕で薙ぎ払いをする。その速度は今のパラメータじゃ普通は避けられないだろうが、予期していれば別だ。
 腕が振られると同時に、紙一重で屈んで躱し、無詠唱で『アイシクルソード』を手の中に作り出してアークゴブリンの膝を切り裂く。


 『グギャァァ!?』
 「鳴き声は基本ゴブリンか」


 低く唸るような感じだが、文字で表すときっと変わらないだろうというような鳴き声。


 本来アークゴブリンの皮膚はとても硬いはずだが、俺の魔法の前には無意味。普通に剣を使うよりは、俺が魔法で作った剣の方が全然強いんだよなぁ。主に強度と切れ味が。
 流石に特殊な効果なんかは付けられないが、『アイシクルソード』ならば、斬った箇所を瞬時に凍結させることが出来るという、氷特有の効果なら得られる。


 そして、それはとても有効なものだ。


 膝から血が吹き飛ぶこともなく、その部分を凍らせたアークゴブリンは、痛みに耐えようと必死にもがいている。
 凍っているために上手く動かせず、立ち上がることが出来ないようだ。


 そんなアークゴブリンに追い打ちとばかりに再度斬りつける。今度は右腕だ。


 『ギャァァァ!!?』
 「まだ終わらんよ」


 左腕も斬れば、これで両腕両脚の主要箇所は凍らせたことになる。
 躊躇いなく俺は左腕を斬りつけ、一気に魔力を流し込む。


 『ガアアアッ───』


 凍傷の痛みからか声を上げたアークゴブリンは、数秒後に突然悲鳴を止めた。
 というのも、魔力を込めたために一瞬で体を分厚い氷に覆われたからだ。


 「……グラ、処理に困ったからこれをやろう。食えるか?」
 『プルプル』


 俺が氷漬けにされたアークゴブリンを指しながらグラに聞くと、まるで『みていろ!』と言わんばかりに悠然とした態度で進んでいく。
 すると、グラは氷など意にも介さず、自身の体を大きくして、2mはあるだろうアークゴブリンを丸呑みにした。
 グラにとっては、あの氷では、冷えた食べ物程度の認識なのかもしれないな。


 なお、呑み込んだ後の消化は一瞬であり、次の瞬間には体の中にあるはずのアークゴブリンは消え去っていた……。


 「流石は〔暴食〕と言うべきか」


 大食い大会に出場させたら間違いなく1位を取ってきそうだなと、俺は笑った。




 ◆◇◆




 それでも、そろそろ俺は危険を感じていた。
 というのも、150層を越えてから、敵の強さが跳ね上がっているからだ。
 いや、強さだけではない。出現する魔物自体が、明らかに異様なのだ。


 魔法を使えば別だが、魔法に頼りきったら、魔法が効かない相手が出てきた時にアウトだと思って、俺は今現在、特異剣を装備して戦っているのだが。


 155階層。目の前の存在に、俺は驚きの声をあげた。


 「何でお前がここにいるんだっつーの」


 そこに居たのは、以前俺が剣術勝負では負けてしまった『阿修羅』であった。
 三面六臂の巨体はまさに圧巻。
 そう。ラスボスのダンジョンのところで、今まで戦ってきたボスがザコ敵として出現するみたいな感じだ。今回はボス仕様のままだろうが。


 『………』


 あの甲高い声を上げることすらなく、阿修羅はこちらの存在を認めると、ゆっくりと剣を構えながら距離を詰めてきた。
 まるで、警戒しているような、俺を知っているような雰囲気だ。まさかとは思うが、こいつ、あの阿修羅じゃあるまいな?


 そんな有り得ないような可能性が脳裏を過ぎるが、今はそんなことに構っている暇ない。


 あの時はまだ過負荷の指輪が無かったためにパラメータもスキルも全力状態だった。
 だが今は封印中だ。それでいて相手は強化されている……。


 まぁ、丁度いいハンデだろう。


 俺も、応えるように剣を構える。『無限収納インベントリ』から取り出した剣を左手で掴み、すり足で近づく。
 思考は一気に戦闘モード。脳の奥が絶対零度が如く冷たくなり、身体は逆に熱を帯びている。


 「………」
 『………』


 明らかに普通の戦闘ではない。ただ見つけたから殺す、そういったありふれた戦闘ではないのだ。
 こいつは、こいつとは何か、分かり合える気がするのだ。
 あの時はボスとして相対したが、今は違う。奴は、正々堂々戦おうとしているのだ。
 ここで会ったが100年目、まさにそんな台詞がピッタリだ。
 魔物だろうが人外だろうが、この際関係ない。今この瞬間、俺はリベンジマッチを望み、奴もそれを望んでいるのだから。


 彼我の距離が8mとなる。剣の長さや体格のせいで、間合いは相手の方が広い。だが、その分体に近いところは無防備になりやすいのだ。
 つまり、内側に入れば俺が有利だ。


 「…………ッ!!」


 残り5m程になった瞬間、俺は駆け出した。
 全力で地面を蹴り、体の捻りも加えた、パラメータの限界を超えたスピードだ。
 スキルは一切使っていない。正真正銘、俺の素の身体能力と運動神経のみで戦うのだ。


 『────ッ!!』


 阿修羅が俺の動きに合わせて、高速で剣を振るう。左右から2本、更に時間差で右から1本来る。
 瞬時に判断した俺は、左右の剣で、相手の剣2本の軌道を上に逸らす。
 俺の頭上で、ガキンッ!! と阿修羅の剣どうしがぶつかる。


 もう1本の剣を、倒れ込み地面ギリギリを移動することで避け、阿修羅の懐に入り込む。


 完全に無防備。後から来た残りの剣が、懐に入った俺を背後から襲おうとするが、もう遅い。
 俺は手に持った剣を横薙ぎに振るった。


 『ッ!!』


 だが、俺の予想を裏切って、阿修羅はその巨体に似合わぬ俊敏さでバックステップをし、距離をとった。
 と同時に、俺の背後にあった阿修羅の剣が、阿修羅の移動に合わせて思いっきり襲いかかってくる。


 「っぶね!!」


 慌ててスライディングで避けると、今度は阿修羅は走りながら再び距離を詰めてきた。


 「あの時はあんまり動かなかったってのによ!」


 完全に、阿修羅というのはその場から動かず剣を振るうだけの存在という固定観念があった。危ない危ない。
 阿修羅は俺に近づき、何十連続もの高速突きを入れてくるが、俺はそれを全て見切って、自身の反射神経と動体視力に任せて避ける。


 「ハァ!!」


 最小限の動きで攻撃を避け切った俺は、今度こそ懐へと踏み込み、予備動作の少ない突きをその腹へと入れる。


 ガンッ!!


 「またかよっ!」


 またしても予想を裏切って、俺の攻撃は届かなかった。というのも、剣がやつの腹筋に力負けしたのだ。
 武器が弱い問題。この迷宮では何度も味わった。
 ここまで来ると伝説級レジェンドの武器なんかも出てくるはずだが、生憎まだ見つけていない。基本的にそれ以外の指輪やそういったものが出てくるからだ。
 結果、俺の動きは隙に繋がり、阿修羅の攻撃が俺へと入る。


 「──チィッ!!」


 そのギリギリで剣での受け流しがどうにか間に合い、俺は阿修羅の剣を跳ね除け、通路の壁に向かって走る。


 『────!!』


 背後から襲いかかってくる攻撃を、半ば気配だけで避け、壁にたどり着いたらそのまま垂直に壁を登る。
 新たな追撃が来る前に、壁を蹴ってふわりと舞いつつ、今度は天井に脚がついた瞬間、一気に力を込めて身体を発射する。


 「兜割り!!」


 いつぞや使用した、頭上から一気に襲いかかる技。阿修羅の脳天目掛けて攻撃するも、それは寸前で防がれる。


 「今回は、二連だ!!」


 防御に出てきた剣を、某進撃のアニメの兵長のような高速回転で巻き込む。
 結果、阿修羅の剣を弾き飛ばし、一時的にがら空き取った頭部に、もう片方の剣で全体重を乗せた攻撃を加える。


 『──────ッッ!!??』
 「チッ、浅い!」


 剣は頭部に刺さったものの、それはほんの数センチ。倒すまでには至らず、俺は一時離脱をした。


 阿修羅が頭から微量の血を流しながらこちらを睨む。体に浮き出た血管が弾けるほど筋肉が膨張するのは、何かのスキルなのか。


 「シッ!!」


 恐れることなく突っ込む俺に、阿修羅も剣で対応する。
 恐ろしいほど力強い攻撃は、流石に受けたらヤバそうだと理解する。


 代わりに、横薙ぎに振られた剣の上にジャンプで飛び乗り、完全に振り切られ、阿修羅の頭上まで持ち上げられたところで再び攻撃を入れる。
 今度は[魔刀]によって、武器の切れ味を上昇させてからだ!


 「セイヤッ!!」
 『─────ッ』


 阿修羅は、ささやかな抵抗とばかりに、避けようと身体を動かした。
 空中のために移動ができなくなっていた俺は、阿修羅の頭ではなく、肩から脇腹にかけてを切り裂くこととなったが、あまり差異は無かった。


 『────ッ!!??』


 甲高い悲鳴が響く。金属音ともとれるその声が、阿修羅の痛みを物語っていた。
 地面に降りた俺は、剣に付いた血を払う。孤を描くようにして血が地面に飛び、俺は一歩下がった。


 そうすればやがて、パックリと斜めに裂かれた身体から大量の血が溢れ出し、阿修羅はその場に背中から倒れた。


 その間、俺はただ見守っていた。じきに死ぬ相手なのだし、俺が攻撃しようがしまいが、関係なかったからだ。


 『─────』


 背中から倒れた阿修羅は、仰向けになりながら、なにか声を発した。
 それがなんなのかは分からなかったが、先程までの甲高い声とは違い、低く重苦しい声に変わっていたことから、何かしらを訴えようとしたのか。


 移動して、顔が見える位置に行くと、阿修羅は俺に気づいたのか、顔をこちらに向けた。
 何の邪気も感じられない。まっすぐとこちらを見る目には、俺に対する尊敬や畏怖が見て取れた。
 ゴブリンやオーク、その他の魔物達のように、ただ侵入者を倒すという意思ではなく、純粋に1人の存在として、こいつは俺のことを認識しているようだった。


 「……フッ。強くなって、また出直してきな。挑戦はいつでも受ける」


 知らず知らずの内に、気づけば俺はそんなことを阿修羅に向かって呟いていた。
 別に深い意味はなく、俺も考えて言ったわけでなかったが、何故か阿修羅は頷いたような仕草を見せ、その後、ゆっくりと目を閉じた。



「俺の学年が勇者として召喚されたが、俺は早速腹黒王族にマークされたようです」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く